チラシの裏~弐位のゲーム日記
社会人ゲーマーの弐位のゲームと仕事とブログペットのことをつづった日記

 今日の428 ~封鎖された渋谷で~はどうかな?


 御法川編 11:00


 渋谷へと向かう国道246号をスーパーカブ90が爆走していた。


 TIPS:スーパーカブ90


 新聞配達や郵便配達に使われ、街中でよくみかれる排気量85㏄のホンダ製のバイク。
 個人で所有している愛好家も多い。ハンドルやマフラーといったパーツの換装、ボディカラーの塗り替えなどを施し、もはや一見してスーパーカブとは思えないほどおしゃれに様変わりしたものも存在する。


 「ちくしょう!死ぬんじゃねぇぞ!」
 御法川実は叫びながらハンドルを切る。
 交差点の信号が赤へと変わったため、仕方なくブレーキをかける。
 目の前の信号が青になると同時に、御法川はアクセルを全開にしたが、エンジンが止まった。
 いくらキックしても一向にエンジンはかからない。
 バイクを置いて走り出そうとしたとき、目の前でタクシーから客が降りたので、御法川は入れ替わりでタクシーに乗り込んだ。
 「とりあえず渋谷駅まで!細かい場所は後で指示する。10分で行ってくれ!」
 「いやー、ここからだと10分はちょっと・・・」
 「なら15分だ。もうこれ以上は譲れないぜ。」
 「道路の混み具合にもよるからねえ・・・」
 御法川は料金メーターの上にある運転手の証明写真を見た。
 名前は君塚八郎。無骨そうな中年男性だ。
 「君塚さん。あんたはこの俺が選んだ男だ。やれるさ」
 「わかりました。やってみましょう。」
 君塚は小さな溜息をつくと、タクシーを勢いよく発車させた。


 そもそもの始まりは20分前のことであった。
 御法川が自宅でインタビュー記事をまとめていたときである。
 ヘブン出版の社長である頭山照雄からの電話があった。


 TIPS:ヘブン出版


 硬派なフィクション本とスキャンダラスなゴシップという両極端な出版物を発行している。社長の頭山自ら執筆した「無敵のジャーナリスト」は日本ノンフィクション大賞の候補となったことがある。


 「仕事だったら間に合っているぜ」
 「いや、仕事のことじゃない・・・」
 「今、原稿を書いて忙しんだけどな」
 「そうじゃ、よかったな。フリーのライターは忙しくてなんぼだ。」
 「そっちも随分売れたって聞いたぜ、今月の噂の大将。」


 TIPS:噂の大将


 芸能人や政治家の恥部をメインに扱った雑誌。ほとんどの記事が出まかせだったりすが、100分の1ぐらいの確率でとんでもないスクープが載ったりするので目が離せない。


 月刊誌「噂の大将」はヘブン出版の看板雑誌だった。 
 たまにスクープ記事でバカ売れすることもあったが、基本的には少ない発行部数で低空飛行を続けていた。
 しかし今月号はおまけのスクラッチカードが好評で10万部が完売したらしい。
 「あたりが5つ揃えば10万円だっけ?」
 電話の向こうから妙な声が聞こえてきた。なんだか嗚咽のようにも聞こえる。
 「今、どこにいるんだ?」
 「会社だ・・・あうぅ・・・」
 「何があったんだ?」
 「・・・あぅ・・・」
 「あぅじゃわからん。もういい、切るぞ!」
 「もう死ぬしかないんだ・・・」


 タクシーが前につんのめるようにして急ブレーキをかけた。
 「危ないですよ」
 君塚が窓から首を出して叫んだ。
 見れば車の真ん前に立ちふさがっている男がいる。
 男が突然後部座席のドアにしがみつき、「すみません、乗せてください!」と図々しいことを言ってきた。
 「駄目だ」
 「無理を言っていることはよくわかってます。でも、今、大変なことになっていて・・・」
 「大変なこと?」
 「はい、人生の一大事なんです。お願いします!」
 「あいにくだが、こっちのほうが間違いなく一大事だ」
 「じゃあ相乗りさせてください。お金は全額支払います。ぼくの未来がかかっているんです。」
 「こっちにも未来がかかっている。おまけに人命もだ。それでも譲れというのか?」
 「わかりました。すみませんでした」
 男はあきらめてすごすごと去っていった。


 時計を見ると、今での5分ロスしている。
 タクシーは再び急発進して、一気に加速した。
 雑居ビルの中に入ると、エレベーターを使わずに階段を駆け上がった。
 ヘブン出版はこのビルの3かいと階を借りている。
 頭山は「噂の大将」編集部のある4階にいるに違いない。
 編集部のドアを開こうとすると、鍵がかかっていた。
 「頭山さん!」
 いくら読んでも返事がないので、思い切ってドアを蹴破った。
 「遅かったか・・・」
 もう少し早くたどり着けていれば・・・


 BAD END No.13 5分のロス


 ヘブン出版社に急行するも、時すでに遅し。あと5分早く着いていれば・・・御法川の到着を遅らせたのは、言うまでもなく加納である。なぜ加納がタクシーに乗ろうとしていたのかは、加納の11:10で明らかになる。

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 今日の428 ~封鎖された渋谷で~はどうかな?


 タマ編 11:00


 今日のバイト代が絶対に必要で、ネコの着ぐるみのバイトをしている乙女のタマは、ダイエット飲料のバーニンング・ハンマーの試供品を配っていた。


 TIPS:試供品


 化粧品や薬品の品質・効果をためしてもうらうために、企業が無料で配布する完成済みの商品のこと。一般的にはお試しやサンプルと呼ばれたりする。街頭で無料配布する以外に、店で販売する商品に別の商品の試供品を付けることもある。商品を買わずに試供品だけを持ち去る行為は犯罪なので、してはいけません。


 「痩せる、痩せる、飲むだけで、ゲキヤセ間違いないでーす!」
 自分でも胡散臭いと思いながら、声をかけるタマ。


 TIPS:胡散臭い


 怪しかったり疑わしかったりすること。ついでに言うと「胡散」は何百年前にはハイになる成分が入っていて、当時のぺるしゃではこれがいろんな料理に使われていたようだ。


 目の前を二人の男が通り過ぎようとしている。


 A:左のサラリーマンに押し付けた


 B:右の薄汚い格好の男に押し付けた


 男は目を逸らして、ポケットに試供品を突っ込んで去っていった。
 もう一人のバイトのニワトリは、「本日午後1時より、野金ビルにて即売会を行います」を言いながら、意外と手渡しに成功していた。
 時計を見ると11時過ぎ。即売会の会場に移動する準備をしなければならない。
 「そんなに余ったの?」と女性の声のニワトリが声を掛けてきた。
 「あんたさぁ、ちゃんと相手を見てる?女の子グループとか、ヒマそうなおばさんとか、そういうとこ狙っていかないと。しょうがないなぁ、余ったの全部、私によこしなさい。配り切れなかったのバレないように、残ったの全部飲んでいてあげる。」
 「すみません、助かります」と言いながら、深々と頭を下げるタマ。


 ニワトリとタマは、センター街にある野金ビルへと向かった。


 TIPS:野金ビル


 渋谷区宇田川町の商店街、渋谷センター街にある雑居ビルのこと。ダイエット食品の即売会の他に、外資系の警備会社日本セルコム、IT業界の老舗渋谷オンネット(SON)、ゲーム開発会社心大交易社、月刊誌カガクの逆襲を発行する逆襲研究者など、いろんなテナントが入っている。


 午後からはダイエット飲料バーニング・ハンマーの即売会が行われる。
 このアルバイトは日給1万円だが、即売会でバーニング・ハンマーが100個以上売れれば、さらに1万円上乗せという約束になっている。
 そのためには絶対に100個売るしかない。私はすぐにでも2万円必要だった。


 古ぼけた雑居ビルの一室がバーニング・ハンマーの即売会場だった。
 すでに椅子が50席ほど並べてある。
 客席の先方にステージが作られており、タマはここでバーニング・ハンマーを試飲し、効果を説明するのだ。
 タマとニワトリはお弁当が置いてある控室へと向かった。
 ニワトリの背中のファスナーを下ろすと、中からまるまるとした卵のような女の火とが出てきた。
 タマも、ファスナーを下ろしてもらおうと女性に頼むが、ファスナーが壊れていて脱げない・・・
 女性は、大杉知里子、通称チリと名乗った。
 チリは、タマがお弁当を食べれらないことに気付き、自分が食べてあげる、と言い出して、食べ始めた。


 タマは、背中のファスナーが壊れていても、頭の被り物を脱げるのでは?と思い立つ。


 A:思い切り被り物を両手で引っ張った


 B:激しく頭を前後に揺さぶった


 C:チリに頭の分をはずしてもらうよう頼んだ


 いくら引っ張っても取れない。
 どこかにぶつけたようで、後頭部に鈍い痛みを感じた。
 チリは、体の部分とくっついているから頭を取れない、と告げた。
 チリは、自分の持っていたストロー付きのペットボトルにお茶を注いでくれて、タマに手渡した。
 タマはそれでお茶を飲むことができ、生き返った心地に浸る。
 チリは、自作のプロテインジュースを入れていた、と話す。


 TIPS:プロテイン


 Protein。タンパク質という意味だが、日本ではタンパク質を主成分とし、ビタミンやミネラルを加えた粉末状の栄養補助食品を指すことが多い。牛乳などに溶かして飲む。食事の代わりにコップ1杯飲むのがプロテインダイエット。お茶の代わりに飲んでいたら基本的に太ってしまう。


 チリは、「いろいろ試しているけど、今のところはダイエットにはプロテインが一番ね。だけどこれは、インチキ商品ね」と、バーニング・ハンマーに目をやりながら言った。
 「身体の脂肪は運動で燃焼されるの」


 TIPS:燃焼


 脂肪燃焼には、ゆっくりした速度であまり力を使わない有酸素運動が適している。20分ほど運動を続けていると、血中の糖分が燃焼し、脳から脂肪を血中に送り込む指令がでる。それで脂肪は燃焼する。ゼエゼエと息が切れるような無酸素運動では効果がない。


 「だから、食べながら痩せるなんてありえないのよ。だけど仕事は仕事だから、どんなインチキ商品でも、売れって言われたら売るけどね」


 「待ってください!必ず返しますから!」
 突然、悲鳴のような声がドアの外から聞こえてきた。
 間違いなく雇い主である柳下純一の声だった。
 チリと並んでドアを開け、外の様子を覗き見ると、ガラの悪い男2人の前で、柳下が土下座をしていた。
 「もう少し待ってください。これ売れたら返しますから」
 柳下の手元にあるのはバーニング・ハンマーだった。
 どう見ても借金取りと債務者のやり取りだった。


 TIPS:債務者


 一定の給付行為を他社(債権者)に行わなければならない義務を負った人のこと。ふつうは借金を背負った人間に対して使用される。


 襟首を掴まれた柳下が床を引きずられていく。
 残されたチリはすでに荷物を片付け始めていた。
 「じゃあね、お疲れ様」と言って、チリはそそくさと会場から去っていった。
 誰もいない会場に一人残されたタマは、途方にくれるばかりだった。


 BAD END No.11 バイト終了


 会場に突然やってきた借金取りたちが、社長の柳下を連れ去ってしまい、バイト代がもらえなくなってしまった。少し前の時間、誰かが借金取りたちに即売会場である野金ビルの場所を教えなければ、柳下が捕まることもなかったかもしれない。ある人物の11:15の行動を変えてみよう。

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 今日の428 ~封鎖された渋谷で~はどうかな?


 亜智編 11:00


 杖の男は、拳銃をまっすぐひとみへと向けた。
 「ストップ」
 ひとみと銃口を結ぶ直線上に亜智は割って入った。
 「ナニモンだよ、あんた」
 亜智の問いに男は言葉を返さない。
 「ひとみ、コイツ、知っているヤツか?」
 「いえ」
 間近で見る男の顔は、亜智にも見覚えのないものだった。
 「目的はなんだ?」
 男は小さく息を吐くと、銃口を亜智へと向けた。
 その鬼気迫る目つきを見れば、相手が本気で撃とうとしていることはわかる。
 思わず後ずさると、足元に転がっていたビール瓶がコトリと小さく音を立てた。
 このままでは間違いなく撃たれてしまう。
 ほんの少しでいい。相手のペースを乱し、わずかなスキを生み出せれば・・・
 「撃ってみるよ!」
 あえて挑発するように声を荒げて、自分から一歩、男の方へと踏み出した。


 一瞬、男が自分の懐に気を取られた。
 どうやら男の携帯電話が着信したようだ。


 A:拳銃を奪おうと杖の男に飛びついた


 B:ビール瓶を拾って殴りかかった


 C:ひとみを連れて逃げ出した


 そのスキをついて、亜智は拳銃を奪おうと杖の男に飛びついた。
 男の手を両手でつかんで地面に打ち付ける。
 しかし、杖の男は銃をしっかりと握ったまま、予想以上に強い力で亜智を押しのけようとする。
 男の形相からは執念のようなものが感じられた。
 「ひとみ、今のうちに逃げろ!!」
 亜智が叫んでもひとみは固まったまま動かない。
 「早く!!」
 我に返ったようにひとみがドアのほうへ駆けていく。
 杖の男がいつのまにかビール瓶を手にしていた。
 亜智の左耳にビール瓶が打ちつけられた。
 気を失いそうになるところを、それでも必死に堪えた。
 男の鼻っ柱に思い切り頭突きをかました。
 一撃で男はぐったりとのびた。
 同時に亜智の体からも力が抜けていった。


 BAD END No.09 杖の男に殴られる


 拳銃を奪おうと杖の男に飛び掛かった亜智。しかし、杖の男の反撃を食らい、気を失ってしまった。
 どうやらこの場を切り抜けるには、別の方法がよかったらしい。
 もう一度、行動を選び直してみよう。

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 今日の428 ~封鎖された渋谷で~はどうかな?


 加納編 11:00


 バイクの男を追ったのが、結果的に判断ミスだった。
 再び歩道橋を駆け上がったときには、アタッシュケースを投げ捨てた犯人の背中は遠くになっていた。


 「指揮車両から各捜査員、バイクの男は宮下公園で、また別の外国人にアタッシュケースを手渡した。バイクの男は、その後、バイクを乗り捨てて逃亡。乗り捨てたバイクはナンバープレートから盗難車と判明。犯人の身元を特定するものは今のところ出てきていない。アタッシュケースを持った外国人は、道玄坂を徒歩で移動中。追跡班の監視下にある。」


 TIPS:盗難車


 警察の通信システムは高度な整備が行われており、デジタル移動無線方式を採用したパトカー照会指令システム(PAT)を使用すれば、警察庁のコンピュータへ直接アクセスし、指名手配犯は盗難車のデータをすぐに照会することができる。


 「渋谷に土地勘のある外国人犯罪グループも当たっている。各捜査員は、道玄坂の現場へ。ただし、身柄は確保せず犯人は泳がせろ。
 最後に俺のポリシーをみんなに伝えておく。俺は何があってもお前たちを信用する。だから、期待に応えてくれ。以上だ。」
 久瀬の指令を聞いた加納は、道玄坂へ向かった。


 内ポケットに入れていた携帯が鳴りだした。留美からで、加納は電話に出た。
 「ごめんさない。今、仕事中?」
 「うん、まあ。急用?」
 「うん、今、渋谷にいるんだけど、実はね、急にお父さんが長野から出てきたの。」


 留美の父親である静夫に、二人の結婚は反対されており、何度、加納が家を訪ねても、静夫は会ってさえくれなかった。


 「でね、どういう風の吹き回しか、慎也さんに会わせろって。」
 「うえぇぇぇ!!!」
 思わず大声を出してしまった。
 「仕事中って言ってるんだけど、来るまで待つって。ごめんさない、勝手なお父さんで。」
 「わかった。とりあえず、またあとで連絡する。」
 「ごめんね、駅前のロートレックって喫茶店にいるから。」
 そういうと留美は電話を切った。
 事件を追うだけでもいっぱいいっぱいなのに、まして静夫が自分を待っていると思うと、いやがうえにも焦りが募った。


 道玄坂で犯人の姿を探しつつも、まだ留美のことが頭から離れなかった。
 留美との結婚を認めてもらうには、この千載一遇のチャンスを逃したくはなかった。


 TIPS:千載一遇


 「せんざいいちぐう」と読む。
 千年に一度しかないぐらいの、またとない機会のこと。
 千載の載とは年を意味する言葉である。


 これだけたくさんの刑事が犯人を追っているのだ。15分くらいなら静夫のところに顔を出しても問題ないような・・・


 A:今のうちに留美と静夫に会いに行っておこう。


 B:いやいや、今は刑事としての仕事を全うせねば。


 ちょうどタクシーが通りかかったので、加納はタクシーの前に出て手を挙げた。
 「危ないですよ!」
 停車してタクシーの窓から運転手が顔を突き出して大声を上げた。
 見ると、すでに客がひとり乗っている。
 加納は後部座席のドアにしがみついて、「すみません、乗せてください!」と無理を承知で頼んでみた。
 「駄目だ」と、ふてぶてしい態度の男が素っ気なく答えた。
 「無理を言っていることはよくわかってます。でも、今、大変なことになっていて・・・」
 「大変なこと?」
 「はい、人生の一大事なんです、お願いします!」
 「おあいにくだが、こっちのほうが間違いなく一大事だ。」
 「じゃあ相乗りさせてください。お金は全額支払います。ぼくの未来がかかっているんです。」
 「こっちも未来がかかっている。おまけに人命もだ。それでも譲れというのか?」
 「わかりました。すみませんでした。」
 仕方なくあきらめることにした。
 タクシーはそのまま走り去ってしまった。
 ほかのタクシーを探そうと辺りを見回すと、アタッシュケースを持っている外国人が見えた。
 加納はその外国人を追いかけた。


 加納が尾行していると、外国人は細い脇道へと入った。
 また、渋谷駅方面に戻り始めたのである。
 加納は無線で久瀬に連絡をすると、久瀬は、「そのまま泳がせろ」と言った。
 すると、別の外国人にアタッシュケースが受け渡される。


 TIPS:無線


 警察無線は傍受を難しくするためデジタル方式を採用している。
 いくつかの切り替えチャンネルがあり、基本的は「地域系」、別の地域のパトカーと連絡を取る「共通系」、警察署ごとに割り当てられた「署轄系」、機動隊が使用する「部隊活動系」などを状況によって使い分けている。
 通常の周波数とは別の「誘拐専用無線チャンネル」もある。


 アタッシュケースを持った方を尾行しているうち、とうとう渋谷の駅前まで戻ってきてしまった。
 留美と静夫は一緒に駅前の喫茶店で待っているはずだ。
 喫茶店の名前は、ロートレックだった。


 TIPS:ロートレック


 柿沼涼子という大学生がウェイトレスとして働いている喫茶店の名前。
 19世紀に活躍したフランスの画家アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックからこの名前が付けられた。画家ロートレックは、ポスターや本の挿絵・表紙を多く描き、それを芸術まで高めたと評価されている。


 ガラス窓超しに店内が見える喫茶店があった。
 ロートレックという看板が出ている。
 外国人は交差点で信号待ちをしている。
 今がチャンスと店内を覗いてみた。
 すぐに留美の後姿を発見した。
 その向かいに座っているのが父親の静夫なのだろう。
 今は長野で無農薬野菜を作っているが、静夫は2年前までは警視庁捜査一課の刑事だった。
 留美は刑事である静夫を尊敬し、父親のことを話すときはいつも誇らしげだった。
 だったら、警察官になれば、留美が喜ぶかもしれない。
 加納が警察官を志望したのは、そんな単純な動機だった。


 TIPS:警視庁捜査一課


 警視庁刑事部に属する、東京都内の殺人・誘拐・放火などの捜査を行う部署。特に優秀な警察官が配置されており、各地の捜査本部に出動して捜査にあたるため。経験と能力はずば抜けている。捜査一課長は代々ノンキャリアが就任し、現場と組織運営に通じた人材でないと務まらないと言われている。


 静夫は留美が大学を卒業すると、あっさりと刑事を辞めてしまった。
 退職の理由は留美も知らないようだった。
 留美との結婚を認めてもらおうと、加納は何度か長野の家を訪れたが、返ってきた言葉は「警察官に娘はやれん」の一点張り。
 いつも門前払いで顔すら見てもらえなかった。
 加納は背伸びをして店の奥を覗いてみた。
 留美の前に、不機嫌そうな顔をした男性が座っている。
 なんだ、あの強面は!


 外国人はJR渋谷駅に入ると、券売機の前に立った。
 電車に乗るつもりのようだ。
 「犯人は電車を使用する模様」と加納は無線で久瀬に伝えた。
 「そのまま尾行を続けろ」
 久瀬は犯人を泳がせるつもりだ。
 「トカゲも追跡の準備。犯人が降りた駅で捜査網を敷き直す。」


 TIPS:トカゲ


 誘拐事件のなどで犯人追跡を目的に配備されるバイク部隊のこと。


 外国人は券売機で切符を買うと改札口を通った。
 どこの駅まで買ったかは確認できなかったが、山手線の外回りに乗るつもりのようだ。
 事前に支給されたプリペイドカードで加納も改札口を通る。


 TIPS:プリペイドカード


 ドラマのように警察手帳を見せればどこでもフリーパスというわけにはいかない。犯人に気付かれてしまう危険があるからだ。そこであらかじめプリペイドカードが支給されることもある。


 外国人は、あたりを警戒する様子もなく、悠然とした足取りで階段を上っていき、慌てて加納も追いかける。
 外国人はホームの一番端で立ち止まり、そこで電車が来るのを待った。
 電車がホームに入ってきたので、外国人は軽く周囲を見渡してから電車に乗り込み、その動きに合わせて加納も電車に乗った。


 車内を見渡すと本庁の捜査員たちも電車に乗っている。
 外国人は運転席の後ろに立ち、呑気そうに外の風景を眺めていた。
 「こっちは順調です、何も心配はいりません」
 派手なネクタイをした男が、携帯電話で話をしながら加納の横を通り過ぎた。
 もう片方の手には外国人が持っているのと同じアタッシュケースを携えている。
 男は運転席のほうへ歩いていき、外国人の隣に立った。
 電話での会話に耳を傾ける。
 「225ページ、すべて校了済みですよ」
 225・・・それは警察用語で誘拐のことだ。


 TIPS:225


 刑法224条では、「営利目的等略取及び誘拐」と「身の代金目的略取等」を規定している。よって、誘拐のことを隠語的に「225」と言うことがある。


 加納は注意深く男の動向を見守った。
 ところが男は外国人と接触することなく、すぐにこちらに戻ってきた。
 すれ違うとき、加納はちらりと男の顔を確認した。


 A:威嚇するように相手を睨みつけた


 B:さりげなく目を逸らした


 男は携帯電話をパチンと閉じた。
 「電車の中では電話しない、これ、社会の常識。」
 キザな笑みを浮かべて元いた車両のほうへ去っていった。


 「目が鋭すぎだ。もっと周りに溶け込め。」
 隣にいた妙な格好の男に耳打ちされた。笹山だ。
 いつの間にか服を着替えている。
 険しい表情とオタク風の変装の取り合わせは、どう見てもミスマッチだった。
 これまで何度も笹山の変装を見てきた。
 どこでそんな衣装を調達してくるのかと、最初は面白がって相手をしていたのだが、近ごろは面倒になってきて特に触れないようにしている。


 TIPS:笹山の変装


 むしろスーツを着ているほうが稀。
 署内でスーツ姿の笹山が歩いていても、本人と気づかれないことがよくある。


 笹山は懐から小瓶を取り出し、加納に渡すと、笹山は隣に車両に姿を消した。
 徹夜明けで何も食べていないので、差し入れはありがたかった。
 しかし、やけに薄味だ。ほとんど味がない。
 加納はぐいっと一気に飲み干した。
 そのとき、かーっと急激に頭に血が上ってきた。
 体中、内臓から焼けるように熱い。
 猛烈に辛い。
 体中、内臓から焼けるように辛い。
 むしろ痛い。
 体中、内臓から痺れるように痛い。
 額に脂汗が滲み、全身からも大量に汗が噴き出す。
 意識が遠ざかる。
 笹山さん、こんなものを一体どこで・・・
 加納は気絶した。


 BAD END No.08 俺の気持ち


 山手線の車内で犯人を見張る加納は、笹山からの差し入れの飲み物を飲んで気絶してしまった。その飲み物は、何を隠そう「バーニング・ハンマー」の試供品である。笹山に悪気はない。ただ、着ぐるみのあの人物から試供品を手渡されただけなのだから・・・

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 今日の428 ~封鎖された渋谷で~はどうかな?


 亜智 10:35 女の子の手を引いて・・・


 :とにかく交番だ!


 B:ひとまず逃げるんだ。


 女の子の手をとって、駅前の交番へと向かったが、交番の中は空っぽだった。
 後ろを振り返ると、鬼の形相をした杖の男が追いかけてくる。


 山手線のガード下をくぐり、路地裏へ。


 加納 10:35 外国人を追跡


 外国人は細い路地に逃げ込んだが、入り組んだ路地を迷うことなく走り抜ける。
 大きな通りに出ると、今度は歩道橋を駆け上がり、加納の方を向いて立ち止まった。
 身長190センチ前後、年齢30代、髪の色ダークブラウン、全身黒の着衣。
 外国人はアタッシュケースを下の道路に投げ捨てた。
 あわてて加納が歩道橋の下を覗くと、道路にはバイクの男が待っていた。
 加納は必死で歩道橋を駆け下りたが、タッチの差でバイクは代々木方面に発進してしまった。
 加納が歩道橋を見上げると、アタッシュケースを投げ捨てた外国人も逃げていく。
 「身代金が別の男に渡しました!バイクで代々木方面へ逃走中!」
 久瀬に怒鳴るように報告すると、加納はその場にしゃがみこんだ。


 TO BE CONTINUED


 トロフィー:10時クリア!をゲット!


  加納    亜智   
 10:30    追う?追わない?     女の子に近づく?   
 A:追う   B:交差点に戻る   A:女の子に近づく   B:ゴミを捨てる  
 加納:BAD END No.02 犯人を見失う  亜智:BAD END No.06 妙な男と口論になる  加納:BAD END No.01 さらば渋谷署  亜智:BAD END No.05 警察に逮捕される
  10:35
    
                 ナニゴトか?   
 A:女の子に話しかける    B:ゴミを拾い続ける 
 加納:BAD END No.04 外国人に撃たれる  亜智:BAD END No.07 ゴミ拾いを続ける
 女の子の手を引いて・・・   
 A:交番だ   B:逃げるんだ
 加納:BAD END No.03 カラス……?

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 今日の428 ~封鎖された渋谷で~はどうかな?

 加納 10:30 追う?追わない?


 A:このまま泳がせるのはリスクが高すぎる。
 追って捕まえるしかない!


 B:いや、追跡はほかの捜査員に任せて、自分は別のことをやるべきだ。


 亜智 10:35 ナニゴトだ?


 A:なにやら物騒な雰囲気がする。
 話しかけて事情で聞いてみよう。


 B:どうせ映画かドラマのロケだろう。気にすることはない。


 そう思ったとき、今度はくたびれた背広姿の中年男性がゆっくりと近づいてきた。
 足がわるいのだろうか杖を使って歩いている。
 杖の男が懐から、拳銃を取り出した。


 杖の男は、拳銃を握った右手を女の子に向けて伸ばしたが、女の子は杖の男に気付いた。
 とっさに亜智の体が動き、勢いよく駆け出し、杖の男に思い切りタックルを入れると、杖の男は地面に倒れこんだ。
 男はすぐに拳銃を構え直し、起き上がってくる。
 「来い!」
 青ざめている女の子の腕を強引に引っ張った。


  A:とにかく交番だ!


 :ひとまず逃げるんだ。


 後ろを振り返りもせず、山手線のガード下をくぐり抜ける。
 通りかかった公園のゴミ捨て場にゴミを捨てて、再び走り出す。
 「待て!」
 ふいに背後から声が聞こえた。
 亜智が驚きながら振り返ると、見知らぬ若い男が追ってきていた。
 女の子足ではいずれ追いつかれるだろう、と判断した亜智は足を止め、女の子を後ろにかばいながら若い男に向き直った。
 「とにかく彼女を離せ」
 若い男は女の子を知っているようだったが、女の子は困惑した様子で首を横に振った。
 その時、目の前の男の頭に何かが降ってきた。
 男はくるりと目玉を回して、地面に倒れこんだ。
 その向こうには、さっきホスト風の男たちに絡まれていた女の子が立っていた。
 倒れた男の近くに、やたら分厚い本が落ちている。
 「危ないと思って、つい投げちゃったんですけど」
 「ありがとう、すげぇ助かった」
 「いえ、助けてもらったお礼ですから」
 「あんたもこいつが起きる前に逃げたほうがいいぜ」
 亜智はずっしりと重たい本を拾って女の子に渡すと、その場を離れた。


 しばらく行くと、数十メートル先に杖の男の姿をちらりと見えた。
 とっさにすぐそばの路地裏に入り、ビルとビルの間を塞いであった木の板を蹴り破った。
 杖の男も裏路地に入ってきてしまった。
 「俺は遠藤亜智、22歳。女の子がヘンな男に追われていたら迷わず助ける。理屈じゃねぇ、本能だ!」と亜智は真剣な顔で女の子を見つめると、女の子は小さくうなづいた。
 追いかけてこられないように、亜智はそばに積んであったビールケースの山を倒した。
 ビールケースの隙間から杖の男が悔しそうな顔を覗かせている。


 ビルの隙間を通り抜けて細い路地に出ると、小さなスナックが何軒も並んでいた。
 「ここでしばらく様子見だな」
 古ぼけたスナックの前に立つと女の子を手招いた。
 入り口付近のスイッチを押すと、安っぽいシャンデリア風の照明が二人を照らした。
 「ここ、知り合いのやってた店でさ、もう潰れてっから安全かなって思って・・・」
 必死に言い訳すると女の子は小さく笑った。
 「改めて、俺は遠藤亜智、亜智って呼んでくれ」
 「大沢ひとみです。私もひとみで・・・」
 「とりあえず聞かせてくれよ、いったい何がどうなっているんだ?なるべく、わかりやすく頼むわ。あんま頭よくねーから、難しい話ってダメなんだわ」
 「昨夜、姉が誘拐されたんです。犯人は身代金の引き渡しに私を指名してきました。引き渡しの時間は午前10時、場所は渋谷のハチ公前。約束の時間に、外国の男性が身代金の入ったアタッシュケースを取り来ましたが、そのあと、杖の人が現れて、私に銃を向けて・・・」


 TIPS:ついていけなくなった


 そんな時は↑を押してください、これまで読み進めたところまで読み戻すことができます。
 すでに読んだところをサクっと読み飛ばしたいときは、↓をおします。


 「ドッキリとかじゃないよな?」
 「本当の話です」
 「ちなみに身代金っていくら?」
 「5000万円です」
 「誘拐事件って聞いてわかったぞ。交差点であの外国人を追っかけていたのは張り込んでた刑事だったんだな?ちょっと待てよ、誘拐犯はアタッシュケースを持って逃げたわけだろ>じゃあ、手ぶらのひとみを追ってきたあの杖のヤツはなんなんだ?」
 「わかりません・・・」
 「早いとこ警察に駆け込んだ方が」
 「それはダメなんです、警察には相談できないんです。」
 そういってひとみは席を立った。
 「ありがとうございました。私、行きますね。これ以上、ご迷惑はかけられません。」
 ひとみがドアを開けた途端、二人は言葉を失った。
 目の前に杖の男が拳銃を構えて立っていたのである。


 TO BE CONTINUED


 亜智の10時の物語はこれで終了だが、加納に物語がBAD ENDになってしまう状態です。
 亜智の10:35に戻り、選択肢を操作して、加納の運命を変えてあげてください。

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 今日の428 ~封鎖された渋谷で~はどうかな?


 亜智 10:35 ナニゴトだ?


 A:なにやら物騒な雰囲気がする。
 話しかけて事情で聞いてみよう。


 B:どうせ映画かドラマのロケだろう。気にすることはない。


 「誘拐事件かなんかのドラマで、あの女の子は身代金を渡す役だな」
 亜智はそう結論付けて、女の子から視線を外した。
 気分が良くなりながら辺りのゴミを拾い、今日はどこをどう回ろうかと思いを巡らす。
 と、何かが破裂したような音がして、にわかに交差点の辺りが騒がしくなった。
 映画だがドラマの撮影がアクションシーンにでも入ったのだろう。
 今日はちょっと足を伸ばして四谷辺りまで行ってみようか。


 TIPS:四谷


 よつや。東京都新宿区の南東にある地域。渋谷駅から北東方向へ約4キロ離れた場所に位置する。
 ちなみに渋谷も数字のみで書き表すと428となるが、四谷もまた428.あらに4月28日は渋谷の日であり四谷の日でありシニヤの日でもあったりする。


 そんなことを考えつつ、亜智はゴキゲンな気分でコミを拾い続けた。


 BAD END No.07 ゴミ拾いを続ける


 ヒント:ハチ公まで行われている光景を映画かドラマの撮影だろうと思い、ゴミ拾いを再開した亜智。
 平和な一日を過ごすことができそうで、それはそれでよかったのかもしれないが、実は彼女は今、大変なことに巻き込まれつつあるのだ。
 もう一度、すぐ手前の選択肢を選び直そう。


 トロフィー:10時BADENDコンプリートをゲット!

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 今日の428 ~封鎖された渋谷で~の体験版はどうかな?


 亜智 10:30 女の子に近づく?


 A:「あんなもの持たせたまま、女の子を待たせるんじゃねーよ」
 亜智は代わりに持ってやろうかと思った。


 B:「とりあえず、このゴミ捨てるか」
 近くにゴミ箱がないか探した。


 スーツ姿の男から加納 10:30にjump


 加納 10:30 追う?追わない?


 A:このまま泳がせるのはリスクが高すぎる。
 追って捕まえるしかない!


 B:いや、追跡はほかの捜査員に任せて、自分は別のことをやるべきだ。


 亜智 10:35 ナニゴトだ?


 A:なにやら物騒な雰囲気がする。
 話しかけて事情で聞いてみよう。


 B:どうせ映画かドラマのロケだろう。気にすることはない。


 そう思ったとき、今度はくたびれた背広姿の中年男性がゆっくりと近づいてきた。
 足がわるいのだろうか杖を使って歩いている。
 杖の男が懐から、拳銃を取り出した。


 TIPS:拳銃


 コルト・ディテクティブスペシャル。コルト社が1927年に発売した38口径リボルバー。獅子鼻
(スナブノーズ)と呼ばれる短い銃身が特徴。ディテクティブ(刑事)スペシャルという名の通り、刑事や麻薬取締官などが護身用で持つことが多い。


 と、そこへ突然若い男が走ってきた。
 それを見て杖の男はくるりと踵を返し、雑踏の中へ消えていく。
 男は険しい形相で女の子に向かって走ってきたので、とっさに亜智の体が動き、思い切りジャンプして男に飛び蹴りを放った。
 亜智と男が交差点のど真ん中でにらみ合いをはじめたが、遠巻きに周囲の通行人たちが怪訝そうな顔で見ていていることに気付き、急に二人は冷静になり離れた。
 男はハチ公像に近づいていき、がっくりと膝をついた。
 さっきまでいた女の子はもういない。
 そのまま男に気付かれないよう、亜智はその場から立ち去った。
 もう日課のゴミ拾いをする気分ではなくなってしまった。


 BAD END No.06 妙な男と口論になる


 ヒント:女の子に向かってきた加納と口論になり、亜智のテンションはすっかり下がってしまった。これは加納がここに現れたからである。加納がスクランブル交差点にもどってくれないようにするには、どうしたらいいだろうか?加納の物語を読み進めれば、その手掛かりを見つけることができる。


 亜智


 「誘拐事件かなんかのドラマで、あの女の子は身代金を渡す役だな」
 亜智はそう結論付けて、女の子から視線を外した。
 気分が良くなりながら辺りのゴミを拾い、今日はどこをどう回ろうかと思いを巡らす。
 と、何かが破裂したような音がして、にわかに交差点の辺りが騒がしくなった。
 映画だがドラマの撮影がアクションシーンにでも入ったのだろう。
 今日はちょっと足を伸ばして四谷辺りまで行ってみようか。


 TIPS:四谷


 よつや。東京都新宿区の南東にある地域。渋谷駅から北東方向へ約4キロ離れた場所に位置する。
 ちなみに渋谷も数字のみで書き表すと428となるが、四谷もまた428.あらに4月28日は渋谷の日であり四谷の日でありシニヤの日でもあったりする。


 そんなことを考えつつ、亜智はゴキゲンな気分でコミを拾い続けた。

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 今日の428 ~封鎖された渋谷で~の体験版はどうかな?


 亜智 10:30 女の子に近づく?


 A:「あんなもの持たせたまま、女の子を待たせるんじゃねーよ」
 亜智は代わりに持ってやろうかと思った。


 B:「とりあえず、このゴミ捨てるか」
 近くにゴミ箱がないか探した。


 女の子は手が痛むのか時折片手に持ち替えたりしながらも、地面に置こうとはしない。それほど大事なものなのだろうか。
 「俺があんただったら、待たせた野郎はぶん殴るね。持っててやるよ。重いんだろ?」
 亜智がそういうと、女の子は目を丸くして見つめる。
 亜智が乱暴にアタッシュケースに手を伸ばすと、周囲から一斉に数人の男がとびかかってきた。
 「話は署で聞かせてもらう」
 隣にぴったりと張り付いているスーツ姿の男が警察手帳を見せた。


 TIPS:警察手帳


 警察職員の身分を証明するもの。旧警察手帳は身分証明の他に、実際に記入可能な手帳としての機能があったが、現在はFBI捜査官が持つバッジケースのような身分証明と徽章のみのデザインとなっている。


 パトカーの後部座席の押し込まれた亜智は、憮然としながら窓の外に目をやった。
 すでに女の子はアタッシュケースは持っておらず、杖をついた男と話しているようだった。


 数時間が経った。
 延々と取り調べを受けた結果、無関係ということがわかり、迎えに来た父親の大介とともに帰ることになった。
 息子が留置場に入るという不名誉な事件の後のわりに、大介はやけに上機嫌だった。
 「いいニュースがあるんだ。お前も喜ぶぞ」
 「なんか気持ちも悪いなぁ」
 「ふふふ・・・」
 そんな会話をしながら、二人は家路についた。


 BAD END No.05 警察に逮捕される


 ヒント:親切心でアタッシュケースを持ってあげようとしたのに、なぜか突然警察が現れ、何時間も拘束されてしまった。
 彼女を心配するのはいいが、少しタイミングが悪かったようだ。
 亜智の10:30の選択肢を選び直してみよう。

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 今日の428 ~封鎖された渋谷で~の体験版はどうかな?


 亜智 10:35 ナニゴトだ?


 亜智が振り返ると女の子はまだその場にいた。


 A:なにやら物騒な雰囲気がする。
 話しかけて事情で聞いてみよう。


 B:どうせ映画かドラマのロケだろう。気にすることはない。


 加納 10:35 外国人を追跡


 外国人は細い路地に逃げ込み、入り組んだ路地を迷うことなく走り抜ける。
 どうやら渋谷の町をよく把握しているようだ。
 「大沢ひとみがさらわれたわ!」
 無線から久瀬の切羽詰まった声が聞こえてきた。
 「犯人は男、銃を携帯している模様。明治通り方面に逃走中!」
 加納はとっさに判断して、背後の刑事に外国人が向かった方向を教え、ひとみをさらった男を探すことにした。
 しばらくあたりの路地を走り回っていると、数十メートル先の十字路をさっきとは別の外国人が横切っていった。同じように黒い服を着ているが、ひとみはそばにいない。
 十字路を曲がった途端、目の前に銃を持った外国人が立っていた。
 加納が行動を起こすより早く、外国人はいきなり発砲した。


 BAD END No.04 外国人に撃たれる


 ヒント:ひとみをさらった犯人を追うべく路地に入り込んでしまった加納は、別の外国人と遭遇し、運悪く撃たれてしまった。
 犯人がひとみに接近できなければ、彼女が連れ去られることはなかったはずだ。亜智の10:35の「ナニゴトだ?」の選択で、ひとみに話しかけるように行動を変えてみよう。

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 今日の428 ~封鎖された渋谷で~の体験版はどうかな?


 加納 10:30 追う?追わない?


 A:このまま泳がせるのはリスクが高すぎる。
 追って捕まえるしかない!


 B:いや、追跡はほかの捜査員に任せて、自分は別のことをやるべきだ。


 外国人は細い路地に逃げ込み、入り組んだ路地を迷うことなく走り抜ける。
 どうやら渋谷の町をよく把握しているようだ。


 その時、カップルのような二人連れがゴミ捨て場の前にいるのが見えた。
 よく見ると、女の子のほうはひとみだった。
 「大沢ひとみを発見。20代の男と一緒です。無理やり連れられている模様」
 あの若者も犯人グループのひとりなのだろうか。
 「よし、外国人はこっちに任せろ。お前は大沢ひとみを追え」
 「了解」
 加納は急いで二人の後を追った。
 女の子の足ではそうそう早く矢知れない。追いつける。
 すると、逃げきれないと思ったのか、若者がようやく止まった。
 若者はひとみを背中に隠し、加納をにらみつけてくる。
 「とにかく彼女を放せ」
 ひとみはおびえたように首を振った。
 突然、脳天に衝撃が走った。ぐらりと視界が回転して、平衡感覚がおかしくなる。
 ばさばさっと音がして、黒っぽいものが空中に浮かんでいるのが見えた。
 カラス?
 それを最後に加納の視界は真っ暗になった。


 BAD END No.03 カラス……?


 ヒント:犯人を追っていた加納は、途中ひとみと亜智に出くわす。そこで公論となり、ふいに頭に衝撃を受けて気を失ってしまった。亜智がこの場にやってきのは、ひとみを連れて一目散に逃げ出したからである。もし、亜智が交番にかけこんでいたら、また違った運命になっただろう。亜智の10:35の行動が鍵だ。

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 今日の428 ~封鎖された渋谷で~の体験版はどうかな?


 亜智 10:00-11:00


 遠藤亜智は、父親の大介に一声かけて玄関へ向かった。
 玄関の脇の引き出しを開けると、大量のゴミ袋が入っており、適当に何枚かを取り出し、それをポケットに押し込むと、お気に入りのスニーカーを履いた。
 亜智の家は玄関から店内へとつながっている。
 狭い店内には電化製品がガラクタのように積まれていた。
 渋谷駅から109の脇を抜け、道玄坂を登っていくと見えてくる古びた商店街の外れで、遠藤電気店は何十年もこじんまりと店を構えてきた。
 家電の大型量販店が渋谷に進出してから、値段と品ぞろえでは太刀打ちできなくなった。それでも経営が成り立っているのは、こまめな出張修理を行うことで、地元の人たちに重宝がられてきたからだ。
 ところがここにきて将来の雲行きが怪しくなってきた。跡継ぎともいえる長男の亜智にまったく働く気がなかったからである。
 亜智は周囲をきょろきょろと見渡しながら、渋谷駅のほうにゆっくりと歩き出した。


 亜智は、道端に捨てられたペッドボトルを拾って、ゴミ袋に入れた。
 半年ほど前からこんな風に街のゴミ拾いを続けている。
 「すみません、いそいでいるので」と女性の声が聞こえてきた。
 亜智が声のしたほうを見ると、おとなしそうな女性がホスト風の男たちに捕まっている。どうやらキャバクラのスカウトのようだ。
 目の前の落ちているゴミとトラブルを亜智は拾わずにはいられない。
 「なあ、彼女、嫌がっているみたいだけど?」
 亜智は女性とホストの間に割って入った。
 「なんなの、お前?」
 ホストたちは面倒くさそうに亜智を見た。
 「彼女嫌がってんじゃん。かわいそうだから、他あたんなよ」
 「おい、兄ちゃん。ナメた口きくじゃん」
 「ちょっと静かなとこ行くか?」


 TIPS:静かなとこ


 場所のイメージを口にする人によって変わる。女性が「静かなところへ行きたい」と言えば、喫茶店や公園という感じだろう。ところが、チンピラ風の男が言えば、いきなり人通りのなり裏道になる。


 茶髪のホストが亜智をにらみつけた。
 スカウトされていた女性は、おろおろしている。
 「口の利き方なら謝るからさ」
 「それが謝る態度か?土下座だ、土下座」
 茶髪の男が、噛んでいたガムを道端に吐き捨てた。
 「おい、拾えよ、それ」
 「うっせえよ、いいから土下ざqwer」
 亜智の手が茶髪の顎をつかんでいた。
 「おい、てめえ!」
 もう一人のホストがあわててわめく。
 亜智は力強く茶髪の顎を握りしめた。
 茶髪は必死に抵抗しようとするが、亜智の手は締め付ける力をさらに増していく。
 「ガムってのは、道にこびりついて片付けるのがすげえ手間なんだよ。」
 「あんた、もしかして・・・そのシャツ、エコ吉!」
 ホストの顔がみるみると青ざめる。
 「すみません!亜智さん、スよね?俺ら全然気がつかなくって・・・勘弁してください!」
 ホストは素早く落ちているガムを拾うと、そのままズボンのホケットに突っ込んだ。
 ようやく亜智は茶髪の顎から手を離した。
 ホストたちはヘコヘコと亜智に詫びを入れ、逃げるように去っていった。
 「助かりました」
 絡まれたいた女性が、ニコリと笑顔を見せて礼を言った。


 TIPS:女性


 柿沼涼子(かきぬまりょうこ)。緑山学院大学法学部の2年生。
 バイト先の喫茶店に向かう途中でホスト風の男たちに捕まってしまった。
 ちなみにホストといえば携帯小説の主人公が恋におちる相手として定番だが、実際は定番どころか稀である。


 「たまにあんなものいるけど、渋谷のこと、嫌いにならねぇでくれよな」
 「はぁ・・・」
 亜智は女性に軽く手を振ると、また道玄坂を歩き出した。
 亜智にとって、渋谷は生まれ育った街だった。すべて自分の庭のように知り尽くしている。
 そんな愛着ある街だからこそ、ゴミや争いごとにまみれるのはガマンならなかった。


 亜智は坂を下りきると渋谷駅へと向かった。
 駅前の交差点では大勢の人たちが行きかっていて、一秒たりとも風景がじっとしていることがない。
 「俺はこの街の白血球になりてぇ・・・いや赤血球か?あれ、どっちだっけ?」
 体内に侵入してくる異物を攻撃して排除するのは白血球で、赤血球は酸素を体中に運ぶ役割を持っている。亜智がなりたいのは、白血球のほうだろう。
 考え込みながら歩いていると、渋谷駅のハチ公前にひと際目立つ女の子を見かけた。


 「モロタイプ」と亜智は心の中でつぶやいた。


 TIPS:モロ


 「諸に」から来ている副詞。直接に、まともに、完全になどの意味で用いられる。
 「モロタイプ」というのは「完全に自分の好みである」という意味。


 「待ち合わせの相手は男だろな」
 しゃがみこんでゴミ袋の口を結びながら、ばんやりと女の子を眺めてみると、妙なことに気付いた。
 女の子は会社員が持つようなアタッシュケースを持っている。アタッシュケースは見るからに重そうで、女の子は両手で必死に持っている。


 A:「あんなもの持たせたまま、女の子を待たせるんじゃねーよ」
 亜智は代わりに持ってやろうかと思った。


 B:「とりあえず、このゴミ捨てるか」
 近くにゴミ箱がないか探した。


 加納 10:30 不審な男


 「来たわよ!黒いコート、外国人!30代前半!」
 イヤホンから久瀬の興奮した声が飛び込んできた。
 ひとみから5メートルほど離れたあたりから、無表情な外国人が近づいてくる。
 外国人がアタッシュケースを受け取った。
 刑事たちが一斉に外国人との距離を詰める。
 ところが次の瞬間、思わぬ事態が起こった。アタッシュケースを抱えた外国人が突然向きを変え、加納たちに向かって走ってきたのである。


 keep out


 亜智 10:30 女の子に近づく?


 A:「あんなもの持たせたまま、女の子を待たせるんじゃねーよ」
 亜智は代わりに持ってやろうかと思った。


 B:「とりあえず、このゴミ捨てるか」
 近くにゴミ箱がないか探した。


 女の子に男が近づいてきた。黒い服を来た外国人で、何やら女の子と会話しており、女の子は小さくうなづいていた。
 女の子はアタッシュケースを外国人に手渡し、外国人はアタッシュケースを右手に持ち、足早に歩いていく。
 それをきっかけにするかのように、近くにいたホームレス風の男が亜智を突き飛ばして走り出した。
 その隣に並んで走るスーツ姿の若い男。(ここからjumpして加納 10:30を出現させる)
 (亜智編に戻る)あちこちから男たちが走り出してきた。


 TIPS:ホームレス風の男


 渋谷署の刑事である笹山裕二。張り込みの際には決まって妙な変装をしてくるので、コスプレ刑事の異名を持つ。加納慎也とコンビを組み、誘拐事件の捜査にあたっている。


 すぐに男たちは人ごみにまぎれてしまった。
 あれだけの人数でおいかければ、すぐに外国人は捕まってしまうだろう。
 そうだ、あの女の子は?


 亜智が振り返ると女の子はまだその場にいた。


 A:なにやら物騒な雰囲気がする。
 話しかけて事情で聞いてみよう。


 B:どうせ映画かドラマのロケだろう。気にすることはない。

 
 加納 10:30


 加納と笹山が転がるように駆けだす。
 ところが次の瞬間、思わぬ事態が起こった。アタッシュケースを抱えた外国人が突然向きを変え、加納たちに向かって走ってきたのである。
 外国人はためらくことなく赤信号中の交差点に飛び込んでいった。
 同じように交差点に突入したのは加納だけだった。
 怒声とクラクションを背中に浴びながら、加納は外国人に迫っていく。
 「待って、加納!確保しちゃだめ!」
 イヤホンから久瀬の声が響いた。
 「しばらく泳がせて!本ボシは別にいるわ!」


 TIPS:本ボシ


 事件の犯人のことを「ホシ」といい、中でも主犯格の人物のことを「本ボシ」という。読み方は「ほんぼし」。


 「捕捉班。外国人の尾行を続行。鑑識班は写真の照合、急いで!」


 TIPS:捕捉班


 犯人の捕捉を専従にする班。誘拐事件など現在進行の事件の場合、捜査陣は役割を細かく分担し、事態の推移に合わせた行動が求められる。突入や犯人確保などは、警視庁捜査一課の生え抜き捜査員が担当するのが一般的らしい。


 TIPS:鑑識班


 警視庁から派遣された鑑識課員などで構成されている班。指紋の採取や照合、被疑者写真の分析などの鑑識作業を担当する。


 デカの心得・その12 常に最悪の状況を想定して行動せよ


 久瀬が犯人を泳がせろと言えるのは、捜査陣の配置に自信があるからなのだろう。
 しかし、もし犯人が捜査網を突破して身代金を入手する方法を用意していたら・・・


 A:このまま泳がせるのはリスクが高すぎる。
 追って捕まえるしかない!


 B:いや、追跡はほかの捜査員に任せて、自分は別のことをやるべきだ。


 後続の刑事に外国人が逃げた方向を伝え、加納は追跡を打ち切った。
 とりあえず、自分の持ち場へと加納はスクランブル交差点に戻った。
 ひとみは相変わらず引き渡し場所に立ち、心配そうに外国人が逃げた方向を見つめていた。
 加納は小走りに大沢ひとみに駆け寄った。
 その時、男の叫び声とともに背後から不意の攻撃を食らった。
 突拍子もない出来事に、加納は反射的にキレた。
 あちこちから迷惑そうな目が加納たちに注がれている。
 まずい、と加納は思い若者から離れ、すぐにひとみに目をやった。
 いない・・・
 久瀬の乗る指揮車両も姿を消している。現場はすでに次の場所へと移行したのだ。
 完全に事件の捜査から取り残されてしまった。
 無線も通じない。若者との喧嘩に夢中で、周波数の変更を聞きそびれたのだ。
 周りを見渡すが、もう若者の姿は見つからなかった。
 アタッシュケースも、ひとみも、若者も、みんな見失ってしまった・・・
 加納は立ち尽くしていた。今、頭の中は・・・辞表の書き出しを何にするかでいっぱいだった。


 BAD END No.02 犯人を見失う


 ヒント:ひとみに駆け寄ろうとした加納は、亜智ともみ合いになり、ひとみの姿を見失ってしまった。加納が犯人を追っていたら、こんなことにはならなかっただろう。タイムチャートで加納の10:30に戻って、選択肢を選び直してみよう。

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 428 ~封鎖された渋谷で~の体験版のプレイ開始!


 ワゴン車の後部座席に押し込められた背広の男性が、穴のあいた袋を頭から被せられ、手は縛られた状態にありながら、ドアを蹴りながら必死で助けを求めるメールを打っている。
 車内の様子がおかしいことに気付いた通行人の女性が、車を覗き込んだ瞬間、車は爆発する・・・


 加納 10:00-11:00


 午前9時28分、渋谷のスクランブル交差点で、渋谷署刑事課強行犯係に配属されて2年目の加納慎也は、大勢の刑事と張り込みをしている。
 ハチ公の前に立っている、アタッシュケースを持った大沢ひとみ(19歳)を見つめる加納。
 ひとみの持つアタッシュケースには、現金5000万円が入っており、それは、昨日何者かに誘拐されたひとみの双子の姉のマリアに対する身代金だった。
 犯人は、昨晩、ひとみを名指してハチ公前に立たせるよう、電話で指示していた。


 「時計の見過ぎだ」とホームレスに小声で言われる加納。
 ホームレスは、渋谷署刑事課の笹山裕二巡査長で、加納の5歳上の先輩だった。
 いつも笹山は、張り込みの現場では必要以上に力を入れた変装で現れており、署内では変装マニアなのでは?と噂されている。


 TIPS:渋谷署


 正式な名称は、渋谷中央署。
 32の町、約20慢人の安全を守っている。


 「小銭貸してくれよぉ」
 突然、笹山が加納にすがりついてきた。


 TIPS:所轄


 特定の地域を管轄すること。警察機関では各地に設置された警察署のことを指す。所轄の警察署と、東京の警察組織の頂点である警視庁とでは権限に大きな違いがあるが、多くの警察官が人事により警視庁と所轄を行き来しているため、ドラマのような露骨な対立は少ないと言われている。


 所轄の刑事である加納たちは、引き渡し現場のハチ公像前から少し離れた場所に配置されており、ハチ公像の周辺は本庁特殊犯捜査一係選り抜きの捜査員によって固められていた。
 加納たちの役割は、あくまでも犯人が逃走した場合に備えてのバックアップなのだ。


 TIPS:ハチ公像


 1934年に建てられた犬の銅像。渋谷駅前の待ち合わせ場所としてあまりにも有名。ハチ公像前の初代5000圭の展示車両(通称青ガエル)や、西口のモヤイ像も、待ち合わせ場所としてよく利用されている。


 TIPS:本庁


 警視庁のこと。都内101か所の警察署を管轄する東京の警察本部。単に東京の警察というだけではなく、首都の治安維持という目的のために様々な任務や権限を有する日本最大の警察組織である。
 隠語で「母屋」ともいわれ、対して所轄の警察署は「はなれ」と呼ばれる。


 「指定時間だ。各捜査員は周囲を警戒、不審な人物に注意しろ」
 イヤホンから飛び込んできたのは、本庁の管理官である久瀬宏二の声だ。
 去年までは渋谷署刑事課の課長で、加納たちの上司だった人物である。


 TIPS:管理官


 凶悪犯罪が発生した際、捜査の指揮にあたる役職。捜査本部が設置される場合は陣頭指揮をとる。
 テレビドラマなどでは、警視庁からやってきた若い超エリート管理官が登場することもあるが、実際には犯罪捜査に秀でたベテランがつく場合が多い。


 「まだ余裕の声だな、久瀬さん。」と笹山が言うと加納は苦笑した。
 指定の時間を過ぎたが、それらしき人物はやってこない。


 初動捜査による捜査本部の見解は、犯人は複数犯の可能性が高いが、営利誘拐のプロによる犯行ではない。怨恨の線は薄いが、被害者家族とはなんらかの面識あり、というものだった。
 その結果、現場にやってきた人物は、即座に確保することになった。
 身代金を入手した上で逃走されると、人質の安否が危ぶまれると判断したからである。


 「来た!来たわよ!」
 ドスの利いたオネエ言葉の主は久瀬である。
 「20代の男!バンダナ、オレンジのトレーナーよ!」
 久瀬は普段は冷静で無口なのだが、緊張するとついオネエ言葉になってしまう。
 久しぶりに聞く久瀬の本気の声に、加納と笹山の気持ちは引き締まった。


 TIPS:オネエ言葉


 身体は男性でも心は女性な人たちが使う言葉。
 といっても、一般的な女性の話し言葉とはまた異なり、一種独特の雰囲気がある。コマーシャルなどで突然耳にすると思わず聞き入ってしまう。


 近づいてきたのは、20代前半の男で、何気ない態度でひとみに話しかけてきた。
 「各捜査員、確保の用意よ」
 久瀬は交差点から少し離れた指揮車両におり、現場の様子は撮影班から送られてくる映像でチェックしていた。


 若い男は盛んにひとみに話しかけている。


 A:間違いない、犯人だ!
 加納は一歩踏み出した。


 B:まだ状況がよくわからない。
 ここは慎重に様子を見よう。


 「待て待て、あせるな」と笹山に引き戻される加納。
 よく見ると、ひとみが無視し続けたため、若い男はつまらなさそうにその場を離れた。
 「ナンパってとこだろ。かわいいからな」と笹山が言った。
 たしかに、ひとみは可愛い部類にはいる。


 TIPS:ナンパ


 道端などで男性が女性に声をかけること。成功させるにはコツが必要。容姿も重要。
 声をかけては物を売ったりお酒を飲む店に連れ込むのは、ナンパではなくキャッチセールスである。
 ナンパに見せかけたキャッチセールスもあり、区別が難しい。


 「しかし、うちのミーちゃんほどじゃない」
 笹山は先月結婚したばかりの新婚で、ミーちゃんとは奥さんの名前である。
 「加納、結婚はいいぞぉ。お前はさっさと独身なんてやめちまえ」
 「笹山さん、まじめにやりましょう。」
 笹山とコンビを組んでから、「まじめにやりましょう」が口癖になった気がする。
 笹山は加納の胸元に手を入れてきて、「待ち受けを見せろ」と言いながら、携帯電話と取り出した。
 待ち受け画面を見るなり、笹山は呆れた顔をした。
 「長濱まさみじゃねえか」


 TIPS:長濱まさみ


 ながはままさみ。国民的人気タレント。国民的朝の連続ドラマや国民的大河ドラマのヒロインを務め、歌えば国民的ヒットを連発し、おまけに年末の国民的歌番組の司会もする。とにかくすべてが国民的。


 加納は観念して紹介することにした。
 「それが僕の彼女です。名前は留美っていって・・・」
 「お前気持ちわりーな。長濱まさみを彼女って」
 「確かに留美はちょっと長濱まさみに似ていて・・・」
 「お前、馬鹿にしてんのか?」
 正直に話したのに、笹山はまったく信用しようとしない。
 「じゃあ結婚してみせろよ」
 できるものなら、加納もすぐに結婚したかったが、乗り越えなければならない事情があった。
 「もういい。おふざけは終わりだ。捜査に集中しろ」と笹山はそう言って、ひとみに視線を戻した。


 若い男が接触してきてから数分が過ぎた。
 ひとみがつらそうな顔をしている。
 1万円札が5000枚で重さが約6キロ。加えてアタッシュケースの重さも加わっている。


 この誘拐事件が発生したのは、昨日の午後7時のことだった。
 「警視庁より通信指令。渋谷署管内で略取事件らしき所在不明事案の発生。現場は緑山学院大学付近のレストランLLダイナー。被害者は同大学の学生の大沢マリア、19歳。レストラン近辺で男ひとりにより、無理やり車で連れ去れらた模様。付近巡回中の各員は、現場に急行せよ。」


 TIPS:略取事件


 法律的には、誘惑などの間接的な手段で第三者の支配下に置くことを「誘拐」とし、暴行や脅迫などの強制的な手段で行われた場合は「略取」とされる。両者を合わせて「拐取」と呼ぶこともある。


 窃盗事件の捜査で神宮前5丁目にいた加納と笹山も現場に向かった。
 加納たちがLLダイナーに到着したのが午後7時15分だった。
 ほぼ同時にやってきて所轄の捜査員たちよって、現場保存のために店舗及び周辺道路への立ち入りが規制された。
 店内に入ると通報者である女性が加納たちを出迎えた。それは被害者の双子の妹のひとみだった。
 「今日、姉と一緒にパーティに出席することになっていたんです。でも時間を間違えていたようで、私だけ1時間ほど遅刻して、7時ちょうどに会場に着きました。」
 留学生との交流が趣旨のパーティに誘拐されたマリアはひとりで出席していた。
 会場に遅れてやってきたひとみは、車に押し込まれるマリアを、レストランの窓から目撃したという。車は国産の青いワゴン車だったらしい。
 「犯人の姿は見ました?」
 「中年の男の人でした。」
 「私も見ました。ひとみさんの言う通りです。」と、もう一人の目撃者のリーランド・パーマーが言った。ひとみとマリアが通っている大学の講師だ。日本に来て日が浅いようで、日本語がたどたどしい。
 ひとみは、犯人がマリアを後部座席に押し込んだあと、運転席に乗り込んだの見たので、犯人は一人だと思われた。
 ひとみとリーランドは犯人の顔までは見ていなかった。
 二人から聞き出せたのは、中年男性に単独犯の可能性あり、という情報までだった。
 そこへ先輩刑事の梶原義男から、「捜査本部が立った。現場の状況を確認次第するに署に戻れ」と携帯電話に連絡が入った。


 110番通報から捜査本部立ち上げまでの所要時間はだいたい30分ほどだ。
 加納と笹山が署に戻ると、本当からやってきた久瀬によって、被害者宅に潜入する対策班が編成されていた。


 TIPS:捜査本部


 約150人の大所帯で、渋谷署内の会議室に設けられている。主戦力は本庁の捜査一課の第一特殊犯罪捜査係。その他、捜査一課の他係、機動捜査隊、所轄の刑事課、隣接する警察署からも捜査員が招集されている。


 TIPS:対策班


 身代金目的の略取誘拐事件では、被害者家族に協力なしでは解決が難しく、逆に家族が犯人逮捕の障害になることもある。そのため、被害者宅には常駐する対策班が編成され、訓練された捜査員による説得や誘導が行われる。


 加納は刑事のひとりを捕まえて、手短に状況を確認した。
 事件は制から1時間後、被害者宅に犯人から脅迫電話が入った。
 「明日、朝10時、渋谷ハチ公前。5000万円を次女のひとみに持たせろ。いう通りにしなければ、人質の命はない。」
 特殊な訓練を受けている刑事たちに加えて、所轄からは梶原が対策班に加えられた。
 刑事たちは宅配便や引っ越し業者に変装して被害者宅に潜入する。
 この時点で午後8時30分。
 対策班は、逆探知の準備をし、犯人からの二度目の電話を待つ。
 しかし、その後犯人から電話はなかった。


 TIPS:逆探知


 かかってきた電話の発信源を特定すること。警察が単独で行うことができず、正式な手続きを経たうえで、電話会社などの協同して行わなければならない。以前は逆探知に時間がかかったが、現在ではかかってきた瞬間に特定されることがほとんどだという。


 約束の時間から20分が過ぎていたが、犯人からの接触はない。
 「なんで犯人はこの場所を選んだんでしょう?」
 「人ごみにまぎれて身代金を奪うしかねえだろ?」と笹山はぶっきらぼうに答えた。
 ひとみを中心とした半径50メートル以内に、50人の刑事が配置されている。身代金を奪って逃げきるためには、犯人側もかなりのリスクを背負わなければならない。
 加納は、ポケットから「デカ魂メモ」を取り出した。


 デカの心得・その89
 意味がなさそうなものほど、必ず意味がある


 このメモ帳には渋谷署の警部補である建野京三の名言が書き留められいた。
 建野は加納にとって目標ともいえる存在で、今回の捜査ではひとみの護衛を担当している。身代金受け渡し役が役目を終えた後、身柄を保護するポジションだ。
 もちろん、ひとみにはそんな護衛が付いていることは知らされていない。


 加納が建野のすごさを目の当たりにしたのは、3年前の金融会社籠城事件だった。
 オフィスに立てこもった犯人は、ガソリンをまき散らして火を放とうとしていた。
 誰もが手をこまねいている中、建野は迷うことなく自らガソリンをかぶり、ビルの中へ入り、犯人を説得して確保したのだ。
 あの時の建野の行動は、今も鮮烈に目に焼き付いている。


 「建野さんが、どんだけすごい刑事でも、世間は誰もあの人の名前を知らないんだよな」と笹山がぽつりと言った。
 「刑事の名前が世に出るのって、不祥事の時か殉職の時くらいだろ。カリスマシェフとかカリスマ美容師がいるのに、カリスマ刑事がいてもいいじゃねえか」


 本部設置のための機材搬入、捜査車両の準備、おまけに資料のコピーと雑務に追われ加納はほとんど眠れず、食事もとっていなかった。


 TIPS:本部設置


 捜査本部は、所轄警察署の講堂などの広い部屋に設置される。本庁と所轄の捜査員が集まり、通信機材や捜査資料などが運び込まれる。そのため、すぐに新聞記者などに気付かれる可能性が高く、誘拐事件などでは人質の安全を考慮して報道協定が結ばれる。


 「来たわよ!」
 イヤホンから久瀬の興奮した声が飛び込んできた。
 「20代の男!赤い袖なしジャンパー!ゴミ袋を持っているわ!」
 ひとみから5メートルほど離れたあたりから、目つきの悪い若者が近づいてくる。
 身代金を奪うのにチンピラのような若者を使うのは可能性としてあり得る。
 若者が強引にアタッシュケースを奪おうとした。
 犯人だ!刑事たちが一斉に若者にとびかかる。
 若者は、あっさりと地面に押さえつけられた。
 「確保しました!」
 「待って!外国人が来た!身代金を奪ったわ!」
 振り返った途端、視線の端に外国人の男が走り去っていくのが見えた。手にはあのアタッシュケースを持っている。
 刑事たちがばらばらと立ち上がって外国人の後を追う。
 気付けば出遅れて、若者とその場に残されていた。
 加納は、残っていた刑事と一緒に若者を渋谷署に連行した。


 「何回言わせるんだよ。」
 取調室で遠藤亜智と名乗った若者は、一貫して事件には無関係であることを主張した。
 「なぜアタッシュケースを奪おうとした?」
 「荷物が重そうだったから、持ってやろうとしただけだって。あの子、荷物を下に置かなかったろ?すごく大事なもんが入っていると思ったんだよ」


 デカの心得・その25
 取り調べでは言葉尻を捕まえろ


 「大事なものって、何だと思ったんだ?」
 「そんなもん、わかるかえねえだろ」
 代り映えのしない質問と答えは延々と繰り返し、もう1時間近くが経とうとしていた。
 加納が取調室に詰めている間に、現場のほうでは事件の進展があったようだったが、マリアの無事は確認されていない。


 デカの心得・その54
 急がば回れ


 「お前の役目は捜査のかく乱だったんだろ?」
 「なんだ、それ」
 亜智はすっとぼけた顔をしている。


 デカの心得・その55
 取り調べにはやっぱりカツ丼


 TIPS:カツ丼


 どんぶりに盛ったごはんの上に卵とじしたトンカツを載せた日本料理。
 卵でとじるかわりにウスターソースをかけた「ソースカツ丼」、味噌で煮込んだトンカツを載せる「味噌カツ丼」などのバリエーションがある。
 本来、警察官が取り調べ中の被疑者に食事を提供することはない。「メシで釣った」とみなされかねないので、やってはいけないことになっている。


 「食うか、カツ丼?」
 亜智は黙ってうなづいた。


 何も食べていなかったかのように、亜智はカツ丼をかきこんだ。
 「さあ全部吐け、犯人の目的は?」
 亜智は首をかしげる。


 「デカの心得・その115 ライトを効果的に使え」
 取調室にはどこか虚ろな声が響いていた。
 取り調べを始めてかれこれ5時間。まったく進展がなかった。
 亜智の瞼が閉じていく。
 「デカの心得・その117 眠くなった時を狙え」
 加納の目が輝いた。
 「お前も犯人グループのひとりだな?」
 亜智の首が、がくんと大きく前に折れた。
 「久瀬さん、やりました!さっきの若者がついに犯行を認めました!!!」
 「何言っているんだ。こっちはこれから黒幕を確保するところだ。お前は本部で待機してろ」


 事件が結末を迎えると、加納は辞表を提出した。
 俺は間違っていたんだろうか。自問自答しながらデカ魂メモをデスクにおいて渋谷署を後にした。


 BAD END No.01 さらば渋谷署 


 ヒント:亜智の物語を10:30まで読み進め、亜智がひとみに近づかないよう選択肢を選んでみよう。そうすれば、加納が亜智を逮捕することはなくなり、その後の運命も変わるだろう。

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