アカイロマンションのプレイ開始!
赤石マンションに入居してきた良は、引っ越しの手伝いにきた春奈とともに、オーナーの赤石徹夫から、「良い出会いが訪れますように」と挨拶される。
家賃は格安だが、建物は思っていたほどボロくはない、というのが春奈の感想だった。
春奈は良の大学のクラスメイトで、思ったことをズバズバいう性格だ。
春奈は1年生のころからの友達だが、良が4年生になった今でも、良のアプローチを躱し続けており、いまだ友達同士の関係だった。
良は学生寮で3年間過ごしていたが、家賃は格安だったが、門限あり、共同風呂、まかないの味がいまいち、テレビの共同アンテナなし、Wi-Fi環境もなし、とバラ色の学生生活を送ることができなかった。
良は必死で不動産屋を回り、家賃が格安だが、1Kで洋室8畳、バストイレセパレート、オートロックのこの物件を見つけたのだ。
場所は23区内ギリギリにあり、大学までがんばれば自転車で行ける。
そして、マンションの四方はぐるりと桜に囲まれており、とても眺望が良い!
マンションは3階建てだが、どの部屋からでも桜を見ることができた。実際、良の部屋も、ベランダに立つと、鼻先に触れるんじゃないかくらいの距離に桜の木があった。
荷運びが終わったころ、春奈が「用が済んだし帰る」と言い出した。
あわてて、手伝ってもらったお礼に夕食をおごる、と言って春奈の引き留めに成功する。
時間はまだ3時だったので、部屋で時間をつぶしてから出かけよう、と提案する。
特に大きな荷物などなかったので、良はレンタカーを借りて引っ越しを済ませたが、春奈には軽いものしか運ばせていなかったので、良はへとへとだった。
赤石マンションは、入り口が桜のアーチになっていた。
3階建てなのにエレベーターもついており良心的だ。
良の部屋は303号室で、エレベーターのすぐ前にある。
春奈をもてなそうとしたが、まだ荷解きは済んでいない。
- A:「コンビニにでも行って、何か買ってくるよ」 →春奈は自分のバッグからミネラルウォーターを取り出してごくごく飲みながら「別にいいって。片付ければ?」と言った。
- B:「部屋を片付けちゃうから、春奈は座っていて」 →「約束通り手伝わないからね」と春奈は言った。
その時ノックの音がした。インターホンがついているのにどうしてだ?
新聞の勧誘だと嫌なのでドア越しに応対する。
「どなたですか?」
「どなたですかじゃないわよ!君、ソバはまだなの?」
ドアスコープを覗くと女だった。
しぶしぶドアを開けた。
ドアの前で仁王立ちしているのは、春奈と同じ年くらいの女性だった。赤いTシャツとショートパンツという薄着だ。そして、芸能界にいてもおかしくないレベルの和風美人だった!
「君さ、礼儀ってものを知らないの?引っ越したらまずは挨拶、挨拶には引っ越しソバ。これ、世間の常識じゃない!
君、名前は?」
彼女はポケットからメモのようなものを取り出すとボールペンで何かを書いて、それを良にさしだした。それは赤いチケットのようなもので、映画の前売り券程度の大きさで、真っ赤な画用紙をハサミで適当に切ったものだった。
「なんですか、これ?」
「召集令状、赤紙よ。
じゃあ、ソバ、待ってるから」
良がぽかんとしている間に、ドアが閉められた。
「なんだったの?」と奥から春奈が聞いてきた。
「ソバはまだかって?」
「何、それ?」
春奈は良が持つ赤いチケットに気づいたようだ。
「さっき、今の人に渡されて」
表面には、ボールペン字で様付けされた良の名前が書いてある。これは、さっき彼女が書いたものだろう。
チケットをひっくり返すと白い文字が書かれていたので、声に出して読んでみる。
「本日午後8時ヨリ、一階奥駐輪場ニテ歓迎会アリ。当赤石マンション住民ハ全員参加サレタシ。尚コノ歓迎会ハ会議モ含ム物トスル
赤紙発行者 仁科カオリ」
「なんだ招待状じゃない。歓迎会って要するに新しい入居者の良をもてなしてくれる、ってことでしょ。会費は書いてないし、御馳走してもらえるんじゃない?じゃあ夕飯は先に食べない方がいいね」- A:「なんだ、直接言ってくれれば良かったのに」 →「実はシャイな人かもよ。どんな人だったの?」「僕たちと同じ年くらいの人だったよ」
- B:「でも、会議ってなんだろう? →「引っ越し早々に何かやらかしたんじゃないの?さっきのゴミとか、ちゃんと指定の場所に出した?住民会議の結果、即刻退去になったりして」
- C:「参加費はタダかなあ?」 →「お金、貸そうか?」「決して僕が貧乏ということではなくて、もしタダなら手ぶらでいうのは失礼かなという意味で・・・」
午後8時まではまだ時間がある。
さっきの仁科カオリのことを思い出して、思わず「引っ越しソバ」と呟いてしまう良。
「なんなの?」
「僕は引っ越してきたわけだから、礼儀として引っ越しソバを皆さんに配った方がいいんじゃないかと思って」
「ふーん、良にしては気がきくじゃん。歓迎会を開いてくれるんだったら、手土産の一つも必要かもね?買いに行く?」
- A:「じゃあ付き合ってくれる?」 →「じゃあ付き合ってくれる?」
- B:「また後日何か渡すよ」 →「いやいやそんなこと言って絶対忘れて、そのままにするタイプでしょ。まだ時間があるし、今日のうちに買いに行ったほうがいいって」
春奈は、贈答用のお菓子の方がいいんじゃないか、と提案してくれたが、仁科カオリの剣幕を見た良は、住人が何人いるか知らなかったので多めにソバを買った。
そして、歓迎会は飲み会かな?とも思い、ビールもケースで買って、マンションに戻った。
桜のアーチを抜けて、オートロックのドアを開けて中に入ると、エレベーターの前に誰かが立っていた。
紺絣の着物を着た長身の男性だ。
「こんにちは」と良が挨拶したのに、返事がない。
春奈がさらに大きな声で「こんにちは」と言ったが、男に無視されたので、良は文句を言ってやろうと男に近づいたが、良よりもははるかに男前だったので引き下がり、「今日、このマンションに引っ越してきました。よろしくお願いします」と頭を下げた。
「君達が?」
「いえ、僕一人です。彼女は友人です」
良は、男が有名人の誰かに似ているな、と思っていると、春奈が「ここの住人ですか?」と尋ねた。
「私は201号室の音無だ」
「失礼ですが、音無さん、誰かに似てるって言われたことありませんか?」と良は思わず聞いてしまったとたん、それが誰かを思い出す。
- A:「芥川龍之介だ」 →国語の教科書に載っていた優男風の小説家にそっくりだった。
- B:「夏目漱石だ」 →「全然違くない」と春奈はバッサリ言った。
- C:「西郷隆盛だ」 →「は?」音無の顔が引きつる。「共通点、着物着てるってことくらいじゃない」と春奈が呆れたように言った。
小説好きな春奈だが、「知りませんね」とさらりとひどいことを言う。
さらに追い打ちをかけるように「見た目だけなら芥川賞なのに、受賞されてないですよね」と言った。
「303号室か?」
「はい。なんでわかるんですか?」
「空き部屋は303号室だけだったからな。じゃあ、これで奇数になったわけだ」
「はい?」
「住人の数だ。君を入れて総住人数が7人になった。奇数は何かと具合がいい。そういう意味では歓迎する」
どういう意味ですかと良が尋ねる前にエレベーターが来て、乗り込んだ音無は迷うことなく閉のボタンを押して、良たちをシャットダウンした。
再び下りてきたエレベーターに乗って部屋に戻ると、ビールを冷蔵庫に冷やしたり、ソバを1人前ずつ袋に詰めたりして、過ごした。
時計を見ると午後6時。春奈と二人っきりでいられるのもあと2時間しかない。
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