今日の十角館の殺人はどうかな?
ルルウが部屋から出ると、ホールでエラリイとヴァンが喋っている。アガサとポウもすでに起きていて、厨房のほうにいる。
「おはよう、ルルウ。無事で何よりだ」
冗談といったふうでもなくそう言うと、エラリイはルルウの斜め背後を差した。
「え?」
振り返ってみて、ルルウは思わず丸い眼鏡の縁に指を掛けた。
『第二の被害者』
カーの部屋のドアである。目の高さあたり、オルツィの時と同じ位置に、カーの名札を隠して例のプレートが貼り付けられているのだった。
「何とも律儀な犯人じゃないか。ここまでやってくれると嬉しくなるね」
ルルウは後辞さるようにしてその場を離れ、長い足を組んで椅子に座っているエラリイを見やった。
「残りのプレートは、あのまま台所の引き出しに入れて置いたんでしたよね」
エラリイは、持ちだしてきてあったプレートをテーブルの上でまとめて、ルルウの方へ滑らせた。数えてみるとプレートは6枚あった。
「見ての通りさ。犯人は同じものを、たぶんもう一組用意しているんだ。
それから、これはアガサには内緒だが-」
エラリイは声を低くして、ルルウを手招きした。
「下手に知らせて、取り乱されちゃ困ると思ってね。彼女が起きてくるよりも前の出来事だったから、ヴァンとポウの3人で相談して、隠しておくことに決めたんだ。
発見したのはポウだ。昼すぎに起きて、顔を洗いにいったついでに、何となく気になって奥の浴室を覗いてみたらしい。
すると、バスダブの中に血まみれの手首が落ちていたのさ」
「何ですってぇ」
ルルウは口に手を当てて、
「そ、それは、オルツィの?」
「カーの左手首から先が、切り取られてそこに置いてあったんだ。
今朝、僕らが眠り込んだ頃を見計らって、犯人がやったんだろう。カーの部屋には鍵を掛けておかなかったからな。忍び込んで、死体の手首を切り落とすことは誰にでもできた。時間さえかければ、アガサにだって可能な作業だろう」
「その手首は今、どこに」
「カーのベッドに戻しておいたよ。そのまま放っておくわけにもいかないからね」
ルルウはうずくこめかみを押さえた。
「また見立てですか」
まもなくアガサとポウが厨房から出てきて、食卓を整え始めた。スパゲッティ、チーズ入りのパンプディング、ポテトサラダにスープ。
「ルルウ、ちゃんとポウが見張っててくれてましたからね、安心して召し上がれ。まさか、ポウとあたしが共犯だなんて言わないでしょ」
アガサが皮肉たっぷりに言った。
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