チラシの裏~弐位のゲーム日記
社会人ゲーマーの弐位のゲームと仕事とブログペットのことをつづった日記

 

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 今日のNever 7 - The End of Infinityはどうかな?


 ルナビーチで全員集合


 「へぇ~、こんなところに喫茶店があるんだ」
 優夏がそう口にしたのは、商店街に行く途中、砂浜から海岸線沿いの舗装道路に出たところだった。
 木造2階建てで、青い三角屋根のかぶったその建物の壁には白ペンキが塗られ、夕日の赤い光を優しく照らし返している。
 「センスは悪くないな」と億彦。
 入り口の上にかけられた看板には『ルナビーチ』とある。
 入り口の扉には『営業中』と書かれたプレートがかかっていた。
 「あれ~、もしかして・・・」
 建物の裏手から、ホウキを手にした女の子がこっちを見ていた。
 彼女はホウキを壁に立てかけると、こちらに駆けよって来た。
 「確か、シーフードピザを頼んだ人たち・・・だよね?」
 彼女は、お昼にピザを配達しに来た子だった。
 「その節はどうも」
 億彦もようやく気付いたように、少し引きつった笑顔を浮かべた。
 「何?知り合い?」と遥。
 「えっと、昼にピザが届いただろ。あれ、この子が届けてくれたんだ」
 「そうなんだ~」
 優夏が納得したようにうんうんと頷く。
 「いつも、御利用いただき、ありがとうございます」
 少女はペコリと頭を下げる。そうか、ここで働いているのか。
 あれ?遥は?
 遥はじっと少女の顔を見つめていたが、なんだが顔色が良くない。
 「ねぇ、立ち話ってのはなんだし、ここで少し休んでいこうか?」と、優夏が提案して来た。
 「歩き疲れたし、そうしようか」
 「うんうん、そうしちゃおう」
 億彦と少女は、その提案に賛成のようだ。
 優夏「誠はどう?」
 誠「ああ、うん、別にいいよ」
 優夏「遥もいいよね?」
 遥「私はいい・・・帰るから」
 優夏「なんで?」
 億彦「どうしたの遥ちゃん。どこか具合が悪いの?」
 ふるふるとかぶりを振る遥。
 優夏「だったら、どうして?」
 遥「・・・」
 優夏「だったら、いいじゃない。理由もないのに一人で別行動させられないよ。ほら、一応、集団活動中なんだし」
 遥「・・・」
 億彦「きっと、遥ちゃんも疲れているんだよ。少し休めば気分も良くなるって」
 優夏「ねっ、遥」
 遥「・・・うん」
 少女「とりあえず、みんなOKなんだよね?」
 誠「そうみたいだな」
 少女「それじゃあ、4名様、ルナビーチにご案内!」
 オレ達は少女の先導で、喫茶店ルナビーチの入り口をくぐった。


 「お姉ちゃん、お客さんだよ!」
 「あら、くるみが客寄せなんて珍しいんじゃない」
 カウンターにいた女性が、笑顔でオレたちを迎えて入れる。
 年のころは20台前半だろうか。ショートカットにエプロン姿が似合う、家庭的な柔らかな雰囲気をまとった女性だ。
 「2人は姉妹?」
 「そうだよ。お姉ちゃんとくるみは血を分けた実の姉妹だよ」
 気のせいだろうか、遥が、カウンターの女性を見て、ひどく取り乱していたように見えたが、今は無表情で窓の外を見ている。
 「じゃあ、あなたのお姉さんがここの店長さんで、2人でこのお店をやっている、っと」
 「違う違う。私はただのバイトで、くるみは私の手伝いをしているだけなの。
 申し遅れました。私、この店でバイトしている守野いづみと言います。
 こっちはくるみ。私の妹で、時々お店の手伝いをやってもらってるの」
 「守野くるみです。今、学校がお休みなので、お姉ちゃんのところに遊びに来てるの。お店が忙しい時は、いろいろとお手伝いとかもしてるんだよ」
 オレは守野というという苗字に、なにやら奇妙な感覚を覚えた。
 やがて、いづみは、本当の店長は今、イタリアまで食器の買い付けに出かけていて留守だ、と説明してくれた。結構ここの店長は凝り性で、食器や材料の買い付けに店を空けることがあり、こういうことはしょっちゅうなのだそうだ。
 「だから、実質店長代理ってとこかしら?」
 いづみはそう言うと、ニコリと微笑んだ。


 店内は外装から想像した通りイタリアンレストラン風の佇まい。カウンター席とテーブル席からなり、所々に置かれた調度品も店の雰囲気とマッチしている。
 奥の方に置かれたジュークボックスからは、何十年前にヒットしただろうジャズナンバーが流れていて、店内に穏やかな落ち着きをもたらしている。
 海に面した窓からは月浜の海岸が見渡せ、さして広くない店内の奥行きと開放感を与えている。
 店の奥のほうに外に出られる扉があり、オープンテラスになっている。
 「夜なるとこの店は、レストランを兼ねたバーになるのよ」と、いづみが解説してくれる。


 「くるみちゃんは今何年生なんだい?」
 あっちでは、億彦がくるみに話しかけていた。
 「んとね、3年生」
 「中学3年生か。そろそろ高校受験か、大変だね」
 「違うよ。中学じゃなくて、高校3年生!くるみ、これでも17歳だからね!」
 あんぐりしている億彦とオレの表情に気づいたくるみは、頬を膨らませて抗議する。もしかしたら、くるみは自分の幼げな容姿にコンプレックスを抱いているのかもしれない。
 (おいおい、童顔にもほどがあるぞ)
 「そういうあなた達は、見たところ大学生って感じだけど?」といづみが言うと、
 「そうですね。私たちもちゃんと自己紹介しないと」と、優夏が自分たちのことを話し始めた。
 今年から大学3年生だということ、オレ達は同じゼミのメンバーだということ、現在合宿のため近くのロッジに泊っていること、なんかを聞かせる。
 やがて、優夏、オレがそれぞれ自己紹介を済ませた。
 「で、彼女が・・・」と優夏が声を掛ける。
 「・・・」
 「おい、遥!」とオレが声を掛けたが、遥はじっと外の風景を眺めたまま、押し黙っている。
 「えっと、彼女は同じ班のメンバーの樋口遥。私達よりも1つ年が下なんだけど、飛び級して同学年になったの」
 「・・・」
 「まあ、ちょっと人見知りが激しいみたいで、こんな風に愛想がないように見えるけど、根はものすごくいい子だから」と、優夏は必死でフォローしているが、遥はそんなことお構いなしといった様子だ。
 「わかってる」と、いづみが笑顔で答えた。
 「遥さんだね、よろしく」
 くるみが遥に握手を求めて、右手を差し出す。
 「・・・」
 遥はチラリとくるみの方を見たが、再び視線を外に向けた。
 くるみは差し出した右手のやりどころに困って、仕方なく頭をポリポリと掻く。
 気まずい空気が漂う中、億彦が大声で名乗りを上げる。
 「飯田億彦だ!」
 「飯田って?」
 くるみがぽつりと言った。億彦はピザの配達の時、朝倉と名乗ったいた・・・
 億彦もそれに気づいたらしく、硬直している。
 「さっきは確か朝倉って?」
 「いや、あれは・・・」


 その時、突然乱暴にドアが開け放たれた。
 そこには、ポニーテールに髪を束ねた一人の女の子が立っていた。
 「朝倉ですけど、責任者の方、いらっしゃいます?」
 「はい、私ですけど・・・」
 「どういうことなんですか?」と大声を出したが、オレ達に気づいて、一息ついた。
 「失礼しました。私、朝倉沙紀と申します。別荘地の朝倉家の者です」
 「いつも、御利用ありがとうございます」
 「注文したピザ、まだですか?」
 「何のことでしょう?」
 「ピザです!もう何時間経ったと思ってるんですか?」
 「何時間ですか?」
 「6時間よ、6時間!」
 「そんなに待ってたの?」「随分暇な人種もいるものだな」と、オレと億彦が口を開くと、
 「あなた達とは話してません。私がいいって言うまで話さないで!いいわね!」
 沙紀がジロリとこちらを見た。
  • 黙り込んでしまった
  • 臆することなく言い返してやる
 「なんだよ、偉そうに」
 「何ですって!」
 「配達が遅れたのは悪いかもしれないけど、そこまで怒るくらいだったら、もっと早くに連絡してこいよ」
 「何も知らないくせに・・・これだから粗野な連中とは話したくないのよ!
 さっきも言ったけど、あなたと議論する気はないの!今用があるのは、この店の責任者だけよ!」
 「はいはい、わかったよ。でもな、女の子がそんな人を脅すような態度に出るのは良くないと思うな」
 「ふん!」
 沙紀はオレに一瞥くれると、カウンターに身を乗り出して、いづみに噛みつきだした。
 「で、6時間も何をしていたのかしら?」
 「待ってましたよ!」
 「6時間も!」
 「まさか、私だってそんな暇じゃありません!
 私だって、あるものだけで我慢してねって言ったわよ。
 けど、私がピザを頼んだのちゃんとわかってるのよ、言葉が通じなくても」
 「うん、うん」
 「仕方ないから、そのまま遊んであげてたのよ!」
 「なるほどぉ」
 いづみの受け答えを聞いていたくるみが小声で尋ねる。
 「お姉ちゃん、ちゃんと話わかってる?」
 「いいの、いいの。こういう時は、仕方ないから、話聞いといてあげるの。こういうタイプは喋りたいだけ喋れば帰るから、それまで我慢、我慢。ね?」
 「どうして我慢しなくちゃいけないの?」
 「だって、こっちが配達間違えちゃったんだから」
 「くるみ、ちゃんと届けたよ」
 「くるみが間違えてなきゃ何でこうなるの?」
 「ひどい、お姉ちゃん、くるみのこと疑ってたの?」
 「けど、届いてないって言うんだから」
 「くるみ、朝倉さんに届けたんだから!」
 あの時のピザか!億彦もそれに気づいたらしく、あたふたしている。
 「私がいいって言うまで、話さないで!」と、沙紀がカウンターを叩いた。
 「くるみ、絶対朝倉さんに届けたもん!」と億彦を指さした。
 「ちょっとどういうことなの、それ?」
  • 「いや、だからそれは・・・」
  • オレは億彦を庇う気など到底なかった
 突然、優夏が声を上げた。
 「ひょっとして、あの朝倉沙紀さん?ほら、中学の時、一緒だった・・・」
 「優夏?」
 「久しぶり、何年振りだっけ?」
 「私がK大の高等部に入ってからだから、5年ぶりね」
 「懐かしい。どうしてるの?やっぱりK大行ってるの?」
 「もちろん。優夏こそ、こんな島にどうして?」
 「大学のゼミ合宿。あの林に囲まれた坂道を登って行ったところにロッジがあって・・・」
 「じゃあ、うちの別荘のすぐ近くじゃない?」
 二人で話が盛り上がってしまった。
 話を聞くと、沙紀は毎年のようにここの別荘に来ているらしい。今回は、2月の試験休みからずっとこの島に来ており、大学が始まるまで優雅に滞在するようだ。
 いづみが二人の間に割って入って言った。
 「それじゃ今晩、御馳走してあげましょう。二人の再会を祝って」
 「そんな、悪いですよ」
 「私はピザのことをハッキリさせに来たんだけど」
 「だから、そのお詫びも兼ねてってことで。あなたちも一緒にどう?」
 オレは返事に困り、遥の方を見たが、遥はすっと目を逸らした。
 「ねぇ、食べていきなよ」と言って、くるみがオレの腕を両手を掴んだ。
 「せっかく、みんなと知り合えたのに、ここでお別れしちゃうなんて寂しいよ」
 「そうよ。遠慮なんてしなくていいから。
 それとも、私の作った料理は食べられないってことかしら?」
 いづみの目は笑っていない。
 「・・・いえ、喜んでご馳走になります」
 「じゃあ、そういうことでいいわよね」
 「なんだかロッジに帰ってから準備するのも面倒だったし、嬉しいです。
 沙紀もいいでしょ?帰り道も一緒だし」
 「なら、そうさせてもらおうかしら」
 「よし、決まり!
 ところで、いづみさん。ちなみにメニューの方は?」
 「うーん、そうねぇ。パエリアとイタリアンサラダ、それにパンプキンスープも付けちゃおう!」
 気づかないうちにオレは告げていた。
 「パエリアは無理だよ、いづみさん。お米、切らしちゃってるでしょ?」
 いづみは驚いてカウンター隅の米櫃を調べた。
 「本当だわ、あと1合くらしか残ってないみたい・・・」
 「あっ、お姉ちゃん、お昼の団体客!」
 「すっかり忘れちゃってたけど、あの時のカレー10人前で・・・
 でも、誠君、なんでそんなこと知ってるの?」
 「いや、ただ何となく・・・」
 みんなもオレを不思議そうに見つめている。
 「とにかく、早く気づいてよかったよ。作り始めてから気づいたんじゃ遅すぎるもんね?」と、くるみが言うと、みんな頷いた。
 「それよりも、今はお米をどうするか?そっちの方が問題だよ」と、くるみが続けた。
 「だったら、オレが買って来ようか?」と、オレは真っ先に名乗りを上げた。
 「でも、そんなの悪いわよ」
 「全然悪くないですよ。いづみさんは準備とか色々あるわけだし」
 「じゃあ、申し訳ないけど、お言葉に甘えちゃってもいいかしら?」
 「もちろん」
 「それじゃあ、私も何かお手伝いしますよ。いづみさんのアシスタントとして、私も1品くらい作ってあげちゃおうっかな、って」
 「それは駄目だよ、優夏・・・」
 「どうして?」
  • 優夏はオレと一緒に買い物に行くんだよ
  • 失礼だろ、そんなの
 「勝手に決めないでよ」
 「ほら、オレって米の種類とか、そういうの全然知らないわけで・・・」
 「何でもいいんじゃないの?」
 「もし間違ってもち米なんか買ってきた来たりしちゃったら、それこそ取り返しのつかないことに・・・
 なあ、億彦」
 「ごもっとも」
 「ねえ、遥」
 「うん」
 「そういうわけだから」
 「何かちょっと引っかかるけど・・・」
 「というわけで、さっそく出かけるとするか」
 オレは優夏の返答を待たず、彼女の背中をぐいと押して、喫茶店の外へと出て行った。


 2人でお買い物


 「さあ、行きますか」
 「ちょっと待って」
 「どうしたんですか、いづみさん」
 「ごめん、一つ言い忘れてた。お店の脇に自転車が置いてあるから、それ使って。荷物が荷物だから」
 「10キロの米を持って歩くのは、ちょっとしんどいもんな」
 「鍵は付いてるから。じゃあ、よろしくね。
 あ、あと一つ頼んでもいいかな?あったらいいんだけど、サフランも買ってきてくれない?」
 「さふらんって?」
 「パエリアに香りと色を付ける調味料だよ」と優夏が教えてくれる。
 「それじゃあ、お願いします。
 あ、それともう一つ・・・」


 オレは夕暮れ時の冷たい空気を胸いっぱいに吸い込みながら、ゆったりとしたペースで自転車を走らせていた。
 背中の近くに声を感じた。
 「本当は何で知ってたの?」
 「何が?」
 「しらばっくれちゃって」
 優夏は自転車の荷台に横乗りになっていたが、手はオレの腰ではなく、サドルの下の所を握りしめていた。
 「あのお米のこと、なんで知ってたの?」
 「本当にわからないんだよ。自分でもなんで知ってたのか・・・」
 「ひょっとして実は透視能力があるとか?」
 「もし、透視能力があったとしても、米櫃の中なんかわざわざ覗いたりしないよ。覗くんだったら、もっと別のところを覗きたい」
 優夏の手のひらがオレの後頭部をはたいた。
 「じゃあさ、こういう可能性は?
 『いづみさんがお米がないことに気づいて慌てふためく』みたいなことを、誠は知っていた、とか・・・
 つまり予知能力!」
 その言葉を聞いたオレは、脳裏にある鮮明な光景がよぎった。
 月浜で遥を抱き起したあの光景。確かにオレは、遥が転ぶ前に遥が転ぶ様子を目撃していた。遥が転ぶことを事前に知っていた。
 「そんなわけないかぁ。そろそろ本当のこと、しゃべってもらいましょうか」
 その後、商店街に着くまで優夏はしつこく同じ質問を繰り返した。


 「お米とサフランと生クリーム・・・これで全部だよね?」
 地面の置かれたドデカイ買い物袋の中身を確認しながら、優夏が言った。
 いづみが最後に追加注文したのは生クリームだった。
 「それじゃあ、戻りますかぁ」
 「ああ、みんな待ってるしな」
 オレはそう言って、買い物袋を自転車のカゴへと押し込んだ。


 オレは、優夏を連れて来たことを後悔していた。
 優夏の体重は決して重くはないのだが、10キロの米が加わったことによって、オレの大腿筋への負荷が尋常じゃないほど苛烈なものになっていた。
 「がんばって」と後ろで優夏が声を掛ける。
  • ったく、呑気なもんだ
  • 「重い・・・降りてくれ・・・」
 「私、そんなに重くないよ、失礼ね!」
 「いや、そうじゃなくて・・・」
 誤解のないように説明しようとした時、前方に小石が現れたので、オレは急ハンドルを切って小石を避ける。
 後輪がずるりと滑って、ドリフト状態になり、危うくバランスを崩しかける。
 「もう、危ないなぁ!」
 優夏をそう言うなり、オレの腰に両腕を回してきた。
 今、オレの背中には2つの柔らかな膨らみの感触がある。なんだかやけに体中が熱かった。

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 今日のNever 7 - The End of Infinityはどうかな?


 遥と月浜でチリチリ


 堤防を登った途端、目の前に広がった風景は別天地を思わせた。
 茜色の空が、今にも滴り落ちそうな程に深く濃くうるおって見える。
 弓なりにのびた砂浜は、ビロードのごとき光沢を帯びてなめらかだ。
 「ここが月浜かぁ」とオレが言うと
 「ね、登って正解だったでしょう」と優夏が得意げに言った。
  商店街へと至る途中、道の左側にあったこの堤防に最初に登ろうと提案したのは優夏だった。
  • 「ああ、確かにな」
  • 「そうかな~」
 確かに都会では、こんな夕焼けを見ることはできないだろう。
 堤防の上から下の砂地までは、オレの身の丈の3分の2程度の高さがあったが、優夏は軽々と砂地に降り立った。
 オレと億彦もそれに続く。
 が、その時、背後に鈍い音を聞いて、とっさにオレは振り向いた。
 見ると、オレのすぐ後ろの砂地に、遥が尻餅をついている。どうやら着地に失敗して、転んだようだ。
 オレは慌てて、遥の脇に手をまわして彼女を抱き起した。
 「大丈夫か?」とオレが尋ねると、遥は頷いてみせた。


 ・・・・
 見ると、一人残された遥が堤防の上にぽつんと佇んでいる。
 (え?今、オレは遥を抱き起した筈だ。なのに、どうして遥は堤防の上に立っているんだ?)
 こめかみがチリチリと熱くうずいた。
 そうこうしているうちに遥は、ゆっくりとその体を折り曲げた。膝を丸め、両手を堤防の縁に添えたその姿勢から、彼女の次の行動を予想することはたやすいことだった。
 「遥」とオレが声を掛けるよりもまえに、彼女は宙を舞っていた。
 ・・・遥はバランスを崩し、砂地の上に尻餅をついた。
 (この光景は、ついさっき、確かに・・・)
 オレは反射的に、遥の脇に手を添え、彼女を抱き起していた。
 「大丈夫か?」
 遥は頷きながら、瞳には恥じらいの色を浮かべていた。
 遥は動揺を押し隠すかのように、足早のオレの脇をすり抜けて行った。
 オレは茫然とその場に立ち尽くしていた。
 デジャヴ(既視感)?違う・・・
 ある現象が起こった後に、それをあたかも以前経験したことがあるかのごとく錯覚してしまうのがデジャヴだ。
 これはそういった類のものでは決してない。
 オレは確かに、遥が転ぶ姿を見たんだ。遥を抱き起す前に、遥を抱き起す光景を見たんだ。
 ふと見上げれば、西の天空が赤黒く燃えていた。

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 今日のNever 7 - The End of Infinityはどうかな?


 誠 V.S. 優夏


 着替えから戻って来た優夏は、ネットの向こう側で不敵な笑みを浮かべている。
 優夏のサーブ。
 オレは一歩も動けなかった。稲妻のような剛速球は鋭くコートに突き刺さった。
 「これでフィフティーンオールね」
 「なかなかやるな」
 「なんか笑顔が引きつっているんですけど」
 「ちょっと油断しただけだ!」
 「じゃあ、行くよ~」
 燃え上がる火の玉のような強烈なサーブが放たれた。
 しかし、それはオレの真正面だった。
  • クロスに返す
  • ストレートに返す
  • ロブを上げる
 サーブ&ボレーを狙おうと、ネットに向かって猛然とダッシュをかけていた優夏は、慌てて振り向き、ボールを追いかける。
 だが、ボールは優夏の頭上を越え、ベースラインの内側にストンと落ちた。
 「これで15-30かぁ。勝負はこれからよ?」
 休む間もなく、優夏は次のサーブの体勢に入った。
 竜巻のような高速回転のかかったボールは、サービスラインギリギリの位置で跳ね上がった。
 次に返す方向は・・・
  • クロス
  • ストレート
 軽やかなステップを踏みながら、優夏がオレの返球に素早く追いつき、軽々とボールを返した。
 トップスピンのかかったボールが、吸い込まれるようにコートを打つ。
  • とりあえず返す
  • ここはロブで
 何とか返すことはできたが、このままじゃラチが開かない。
  • 前に出てみる
  • チャンスを待つ
 オレは、ネットに向かって走り出した。
 しかし、優夏はオレの裏をかいて、高々とロブを上げて来た。
 ボールはオレの頭上を越え、ベースラインを越え、背後のフェンスを越えて、森の中へと消えて行った・・・
 (これで15-40か)
 敗色濃厚な優夏は、虎視眈々と何かを企んでいるかのように、意味深な笑みを浮かべながら、
 「古今東西、お酒の種類、焼酎!」と言って、超高速サーブを放った。
 「ぶ、ぶらんで~」
 「日本酒!」
  • ウォッカ!
  • ビール!
  • ジン!
  • 老酒!
 「泡盛!」
  • ビール!
  • ジン!
  • 老酒!
 「テキーラ!」
  • ビール!
  • 老酒!
 「ワイン!」
 「老酒!」
 「うわぁ~ん、思い浮かばないよ~そうだ!スマ~ッ酒!」
 優夏が放った豪快なスマッ酒は、たちまち背後の森へ飲み込まれていった。
 結局第1セットの第1ゲームは、オレの勝利に終わったのだった。


 一生の約束


 「あ~ん、もう見つからないよ~」
 オレの片腕には、39個のテニスボールが入ったプラスチックのカゴがぶら下げられている。
 最後の1個がどうしても見つからなかった。
 探し始めてから、かれこれ30分は経つ。
 気を抜くと、優夏はとんでもない方向にボールを打ち返し、華麗なる場外本塁打をしばしば見せてくれた。
 あれから1時間以上ゲームを続けたが、最後の1球がフェンスを越える間際まで、オレは優夏に1セット負けていたのだ。
 「早く探しちゃお。時間もったいないよ。
 ほら、誠!ボケーっと突っ立ってないで、早く探す!」
 オレも中腰になって探し始めた。
 (何で呼び捨てなんだろ?)
 オレは足を止め、何気なく優夏の方へと視線を向けた。
 あらわになった優夏の太ももが、森の湿り気をまとって瑞々しく見える。すべるようななめらかな肌は、まばゆいほどの清純な艶めきに満ちていた。
 オレは唐突に、ある事実に気づいてしまう。
 (オレは優夏のことを『ゆうか』と呼んでる!)
 優夏だけじゃなく、オレは遥のことを『はるか』、億彦のことを『おくひこ』と呼んでいた。
 「あ!あったよ!」
 テニスボールを高々と掲げながら立ち上がった優夏は、満面の笑顔だった。
 「はい」と言って、優夏がふわりとボールを投げる。
 オレはそれを右手でキャッチして、プラスチックのカゴに入れた。
 これで全部集まったわけだ。
 「ちょっとぉ、サンキューとかありがとうとかないの?」
 「さんきゅう」
 「あ、実は全然感謝してないでしょ?」
  • 元はと言えば優夏のせいだ
  • 感謝している
 「あ~、何かそれ投げやり~」
 「じゃあ、どうすればいいんだよ?」
 「お礼ってのは、気持ちを込めて言うものでしょ」
 それから、オレへの悪態が連なり、だんだん、腹が立ってきた。
 「よーし、試合再開だ!」
 「いいよ、相手になってあげましょう。その代り、もしわたしが勝ったら・・・1つだけ何でも言うことを聞くこと」
 「じゃあ、もしオレが勝ったら?」
 「もちろん、1つだけ、何でも言うことを聞いてあげるよ」
 「受けて立とうじゃないか!」
 かくして、オレ達は再びネットを挟んで向かい合うことになった。
 飾ることのない優夏の態度には、すがすがしさがある。『竹を割ったような性格』とは、きっと彼女みたいな女の子のことを言うのだろう。
 ゼミ合宿も悪くないな、そう思い始めたオレだった。


 試合の決着がついたオレ達は、これからどうするか話し合った。
 もう1試合するほどの体力は残っていなかったし、かと言って、ロッジに戻るには早過ぎる時間だった。
 で、結局、海に行った遥と億彦に合流しようということになった。
 話し合いを終え、オレ達は管理事務所でシャワーを浴びた。
 そして、今オレ達は海へと続く長い坂道を下っている。
 「さ~てと、何やってもらっちゃおっかな?」
  • 「やっぱり、あの約束はなしにしない?」
  • 「もったいぶってないで早く言えよ」
 「真剣に悩んでるの。1つだけしか言うこと聞いてもらえないんだから、できるだけ突拍子もないことをやってもらわなくちゃ。
 まっ、考えておくよ」
 「今、言えよ!」
 「だって、いいのが思いつかないんだもん。約束では有効期限があるなんて言ってないしね。10年経っても、ちゃんと覚えててよ?」


 林道を抜け、オレ達は海岸線に出た。
 西に少し行くと、岩場に囲まれた小さな入り江がある。
 東に向かえば、長い白砂のビーチが広がっている。
 小さな入り江の方を姫ケ浜、長くて広い砂浜の方を月浜と呼ぶらしい。
 オレ達はまず姫ヶ浜を当たってみることにすると、タイミング良く、ばったり2人と出くわした。
 2人はちょうどロッジに帰ろうと思っていた所だったらしい。
 優夏が事情を説明し、せっかくだからということで、オレ達4人は商店街へ繰り出すことになった。

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 Never 7 - The End of Infinityのプレイ開始!


 重く垂れ下がった手には、小さな光の欠片が握りしめられていた。
 鈴か。
 鈴の底には細長い音孔が刻み込まれ、鈴の頂には色あせた紅色のひもが結ばれていた。
 やがて、鈴は手のひら零れ落ちた。
 オレは彼女の胸に泣きすがりながら、小刻みに激しく体を震わせていた。
 腕の中に冷たく濡れた肌の感触・・・硬直した細い肢体・・・
 もはやそれは動かない。
 4月6日土曜日、オレは彼女を失った。


 すべてのはじまり


 ガバっと布団を蹴飛ばして目が覚めた。
 (そうだ、オレは合宿に来てたんだった)


 ゆっくりと状態を起こし、ベッドサイドに腰をかける。
 左手を持ち上げ、腕時計を見やった。
 デジタル時計の文字盤には『1日 MON 09:17』と表示されている。
 (それにしても嫌な夢を見たもんだ。だけど、あれは本当に夢だったのか?
 『4月6日土曜日』、5日後か)
 と、その時、壊れてしまいそうなほどの暴力的な勢いで、部屋のドアが開け放たれた。
 そこに立っていたのは、誰だっけ?
 「どういうこと・・・どうして?」
 「はい」とオレは答えた。
  • ニッコリ微笑んでみる
  • 「何かあった?」と穏やかに聞いてみる
 「え?そうだったの?じゃあ、つまりあれって・・・ただの夢だったってこと?」
 言いながら視線をさ迷わせる彼女。ひどく混乱しているようだ。
 「大丈夫?ひょっとして、寝ぼけてた?」
 オレはそう言って、冷やかすように笑ってみせた。
 「寝ぼけて・・・うん、そうだったみたい」
 「どんな夢だったの?」
 「それがあんまりよく覚えていないんだよね。ついさっきまでは覚えてたような気がするんだけど」
 「よくあるよな、そういうこと。例えば、夢の中で大笑いして目覚めたんだけど、何がそんなに面白かったのか思い出そうとしても全然思い出せないとかね」
 「そう、そんな感じ。でも、私の場合は愉快な感覚なんかじゃなくて・・・絶望感だったと思う」
 (そういえば、オレが今朝見たのも、ひどく嫌な夢だったっけ)
 「でも良かったぁ。夢で良かったよ、本当に」
 「じゃ、覚えてるんじゃないか」
 「ううん、そういうんじゃなくて・・・正確に言うと、夢が終わってくれて良かったなぁ、って。よく覚えてないけど、とにかく最低な夢だったってことは確かだから。
 ゴメンね、いきなり押しかけちゃって」
 「いや、別に。オレもちょうど起きたところだから」
 「ちょっと恥ずかしいよね。いきなり訳わからないこと言ったりして・・・これじゃなんか夢遊病の人みたいだよ。
 このことは無かったことにしといて。誠と私だけの秘密ってことで」
 オレが軽く頷くのを確認して、彼女は部屋を出て行った。


 (?誠って!昨日会ったばかりだってぇのに、いきなり呼び捨てかよ。
 えーっと、彼女、名前何て言ったっけな?
 そうだ、優夏だ。で、苗字は川島だったかな。)


 『おはよう』の決着を


 オレはリビングに向かった。
 天井は吹き抜けで、長方形に広がった開放的な空間だ。
 南側には大きな窓ガラスがある。そのガラスの遥か彼方には広大な海原を眺望することができた。
 人は誰もおらず、オレはソファにでも座ろうと思い、そこに近づいた。
 ふと、ソファの上に置かれたアルミ製の灰皿に目が留まった。灰皿の中には吸殻が1本転がっていた。
 オレは灰皿を手に取り、目の前のテーブルの上にどかした。そして、柔らかなソファに身を沈めた。
 背もたれに体を預け、ぼんやりと海を眺めながらオレは
  • 脈絡なく思いを巡らせる
  • ただただボーっとする
 合宿。と言っても、これは部活やサークルのそれではない。
 ゼミ合宿。
 ほとんど授業に出ていないせいもあって、オレは大学の諸々のシステムに関して、あまりよく理解していない。
 先月の頭、後期試験の結果と進級の可否を確認するため、大学の掲示板を覗いたところ、文学部心理学科ゼミ所属名簿なるものが貼り出されていて、オレが『ナントカゼミの第5班:川島班』に配属されたことを知った。
 で、その名簿の隣にはもう1枚張り紙があって、『ナントカゼミの各班は、以下の日程において各班員の親睦会を兼ねたゼミ合宿を行う。尚、都合により参加できない者は、その旨報告するように。報告なく無断で欠席した場合、理由の如何を問わず、その者を即刻除名処分とする』と書かれていた。
 我が川島班に指定された合宿日程は、3月31日日曜日~4月7日日曜日。
 文書の最後には、『その他の詳細に関しては、各班長の指示に従うこと。以上』とあった。
 川島班の班長は、当たり前だが川島という名前だ。
 そう、さっき寝ぼけてオレの部屋に飛び込んできたあの子だ。


 彼女から電話が掛かって来たのは、掲示板を見てから数日後のことだった。
 「で、そしたら他の2人のメンバーが『どうしても現地集合がいい』って言うんだよねぇ。
 あ、船のチケットは学生課に行けばもらえるから。
 えーっと、多分31日の夜までに着いていればいいんじゃないかなぁ?
 そういうことだから、よろしくね」


 そういう訳で、昨夜の10時過ぎくらいに、オレが住んでいる場所から200kmも離れた絶海の孤島に無事到着したのであった。
 やがてリビングのドアがゆっくりと開いた。
 入って来たのは、オレが名前をまだ聞いていない子だった。
 「おはよう」とオレは明るく言った。
 彼女はオレの言葉を完全に無視して、スタスタとキッチンの奥へ消えて行った。


 オレは彼女をキッチンまで追いかけて、再度「おはよう」と声を掛けた。
 無言のまま、彼女は蛇口をひねってコップに水を注いで、一気に飲み干した。
  • 3回目の『おはよう』を告げる
  • 別の言葉を投げかける
 彼女は空になったコップをシンクに置きながら、ようやくぽつりと呟いた。
 「おはよう」
 けれど、彼女の視線はオレの方に向いていない。
 「オレ、何か怒らせるようなこと、したかな?」
 「どうして?」
 「ただ、何となく避けられているような気がしたから」
 彼女は答えないばかりか、身動きひとつしなかった。
 「ゴメン」とオレが言うと、
 「私、違うから・・・」
 そう言って、オレの脇をすり抜け、彼女はリビングに戻って行った。


 さっきまでオレが座っていたソファに、彼女はちょこんと座っている。
 そうこうしているうちに、奴が眠そうな目をこすりながらリビングに現れた。


 噂の絶えない男


 「やあ!」
 彼は部屋の中央に立ち尽くしていたオレの顔を一瞥すると、続いてその視線をあの無口な女の子の方へ流した。
 「あれぇ、ひょっとして、お邪魔だったかな?」
 しかし、やはり彼女は答えない。
 大アクビをしながら彼は、ゆっくりとソファへ歩み寄り、そこに深く腰を下ろした。無口な女の子と50cmほどの距離を保っている。
 飯田億彦。うちの大学の学生なら、一度はこの名前を聞いたことがあるはずだ。また学外の人間でも『飯田財閥の御曹司』と聞けば、おそらくピンと来るんじゃないだろうか?
 飯田一族は国家級のブルジョアである。億彦は、その一族のトップとなることを既に約束された人物だ。
 昨日の晩、オレは初めて億彦と出会ったのだ。
  • 昨日の晩のことを思い出す
  • 億彦に話しかける
 3月31日日曜日
 ここに到着したのは夜の10時を少し回った頃だった。
 月明かりに照らされたロッジは、オレが想像していたものより遥かに大きく、そして美しかった。
 大学関係者の接待だとか何だとかに利用する為のものらしいな、と思いながらオレは玄関のドアを開けた。
 部屋には膝を抱えてポツンと座っている女の子。ダイニングテーブルに頬杖をつき、どこか遠くを見ている女の子。ソファにふんぞり返り、ワイングラスをクルクル回している男。
 誰一人言葉を発する者はなかった。全くの無音・・・
 やがて丸テーブルの女の子がオレに気づき、「お疲れ様~」と声を掛けて来た。
 「え~っと、石原誠くんだったよね?」
 「ああ」
 「どうも初めまして。私は川島優夏。なぜか知らないけど、気が付いたら班長という厄介な役職に任命されてた。別に成績優秀でもなければ、素行が良いわけでもないのにね。
 まあ、とにかくよろしくね」
 「ああ、こちらこそ」
 膝を抱えた女の子は、床を見つめながら微動だにしない。
 一方、男は、片手に持ったグラスを掲げ、電球に光に透かしながらワインの色を確かめながら言った。
 「飯田億彦って聞いたことないかい?」
 「あの飯田財閥の?」
 「そういう言い方は、あまり好きじゃないんだけどね。
 そう、僕がその飯田億彦だ。よろしくな」
 「よろしく・・・」
 それからオレたちはほとんど言葉を交わすこともなく、それぞれの寝床についた。


 アイツが絶対確信犯!?


 「なあ」と、オレは億彦に声を掛けた。
 「うん?」
 「ゼミ合宿とかいうやつって、結局何を目的として実施されてるんだろう?」
 「石原、掲示板見なかったのかい?『各班員の親睦を兼ねた』ってそう書かれてたじゃないか。つまり、これていった目的なんかないってことだよ。
 みんなが親しく、仲睦まじくやってれば、それで万事OKなのさ」
 「それにしちゃ7泊8日なんて長すぎると思うけどな?」
 「僕は悪くないと思うよ、こういうの。
 ねぇ、遥ちゃんだって、そう思うだろ?」
 遥!あの子の名前はそうなのか。
 「この匂い、好きじゃない」
 「え?」
 遥がじっと見つめていたのは、テーブルの上にあるさっきオレがどけたアルミ製の灰皿だった。
 「そっか、遥ちゃんはタバコの臭いが嫌いなんだね?」
 こくりと頷く遥。
 「火はとっくに消えている筈だけど?」
 「石原、タバコの臭いってのは、そう簡単にはなくならないもんだよ?吸わない人ならすぐに気づく。
 もう少し気を使ってもらわなくちゃ困るなあ」
 「だから、オレじゃないって!」
 「しらばっくれても無駄だよ。
 今朝、この部屋に一番最初にやって来たのは誰なんだい?」
 「それはオレだけど、オレが来たときには既にあったんだよ、ソファの上に・・・」
 「信じてあげてもいいけど、その代わり、今日からこのロッジ内は禁煙ってことにするから。それだけは守ってくれよな?」
 その時、遥が静かに立ち上がり、灰皿を手にし、キッチンの方に向かって歩き出した。


 「おはよう」
 リビングに入って来た優夏は、さっきの優夏とは別人のように見えた。
 「おはよう」
 「やあ」
 オレと億彦は挨拶を返すが、遥は何の反応も示さなかった。
 灰皿を片付けた遥は、キッチンの前のダイニングチェアにひっそりと腰を下ろしている。
 「みんな、朝ゴハンは?」と優夏が聞いた。
 「まだだけど」とオレが答えると、
 「じゃ私が、腕によりをかけて作ってあげちゃおっかな」
 「え!」
 「何かご不満でも?」
  • 優夏、料理作れるの?
  • いや、そうじゃなくて、材料が・・・
 「ひょっとして、疑ってるの?」
 「そういうわけじゃないけど・・・」
 「じゃあ、問題ないよね」
 「ああ。何か手伝おうか?」
 「いいよいいよ、誠はテレビでも見て待っていて。多分15分くらいでできると思う。パンで大丈夫だよね?」
 億彦が頷いたので、オレもそれに倣う。
 「遥もパンでいい?」
 遥は、テーブルの表面に向かってコクリと頭を下げた。
 優夏がキッチンの方へ進んでいった。
 その時、オレはあることを思い出して、とっさに優夏を呼び止めた。
 「ちょっと聞きたいんだけど、優夏ってタバコ吸う?」
 「吸う訳ないでしょ。この初々しい肌を見れば、一目瞭然じゃない」


 青空よ!サヨナラ


 優夏がキッチンに向かってから、既に1時間以上経っている。
 待っている間に、オレ達3人は顔を洗い、服を着替えた。
 そして、今オレ達は、部屋の隅に置かれたテレビを見ている。番組は健康もので、もちろん見たくて見ているわけじゃない。
 ここでは島のローカル放送(2局)しか映らないらしいのだ。もう一方の局は、短いドキュメンタリー番組を放送していた。
 「お待たせしました~」
 ようやくキッチンから優夏が顔を出した。
 「食事はもうテーブルの方に運んじゃってあるから、皆さん、そっちに移動してくださ~い」
 それを聞いて、遥がいの一番に腰を上げた。
 テーブルに着いたオレたち3人は目を丸くした。
 テーブル中央の大皿には、不思議な物体が山盛りになって積まれていた。不思議な物体は、色力検査に使うカードの如く複雑怪奇なマダラ模様をしており、その形状はネチャネチャと粘性を帯びたゼリー状をしていた。
 片やトーストの方は、シンプルに黒の単色にまとめられていた。いわゆる炭だ。
 「どうぞ、召し上がれ~」
 優夏はそう言って、炭の上に不思議な物体を乗せて、それを頬張り始めた。
 しばらくして、「みんな、どうしたの?」と小首をかしげながら優夏が聞いてきた。
 「ゴメンよ、僕、ちょっと胃の調子が悪くて・・・」
 「私、おなか、空いてない」
 そう言って、億彦と遥は席を立った。
 「えー!せっかく作ったのにー!
 誠は、おなか空いてるよね?」
  • う、うん・・・
  • う、ううん・・・
 萌っ子な宅配人


 オレと優夏は、不思議な物体全てとそれぞれ2枚ずつ(億彦と遥の残した分を合わせて)の炭を平らげた。
 優夏は、幸せそうに鼻歌を歌いながら、キッチンで食器を洗っている。
 胸はムカムカするし、喉元まで何かが込み上げてきているのがわかる。


 その直後、玄関のチャイムが鳴った。
 班員は4名。ここにいるオレたち以外に来客の予定はないはずだが?
 遥は洗面台で歯を磨いているようだ。
 「おい、石原。君が出てくれよ。僕らは今、手が離せないんだ」
 億彦の声がキッチンの方から聞こえて来た。どうやら彼は優夏の後片付けの手伝いをしているらしい。
 オレは、老人のようにふらつきながら、ヨロヨロと玄関に向かった。
 「はい、今開けます」


 「毎度ありがとうございます!」
 そこに立っていたのは、まだあどけなさの残る少女だった。多分、中学生だろう。
 「ご注文のシーフードピザ、お届けに参りました」
 「そんなもん、頼んでないけど」
 伝票を確認しながら、少女は言った。
 「でも、伝票には確かにシーフードピザって書いてあるよ」
 「だから、何も注文なんかしていないって」
 再び、少女は伝票を確認して、「住所は確かにここなんだもん」と言いながら、オレに伝票を見せた。
 オレはもちろんここの住所を覚えていないので、キッチンの方を振り向いた。
 「なあ、優夏、ピザって頼んだ?」
 「私が頼むわけないでしょ」
 「億彦は?」
 手を振ってNOを示す。
 「お~い、遥!」
 歯ブラシを加えた遥が洗面所から、顔を出して、首を振った。
 「それじゃあ誰か、ここの住所を知らないかな?」
 「表札に書いてあるんじゃないの?玄関の脇にかかっている」と優夏が言ったので、さっそくオレは表札を調べた。
 「さっきの伝票、もう1回見せてもらえるかな?」
 「ピザ、冷めちゃうよ」
 そう言って、少女は伝票を差し出した。
 表札には3丁目8番地1号と書いてあり、伝票にも3-8-1と書いてあるように見える。
 「?これ、1じゃなくて7の間違いじゃないか?」
 「3-8-7?じゃあ、ここは朝倉さんのお宅じゃ・・・」
 「ここには朝倉という人は・・・」
 「ちょっと待ったぁ」と億彦が割って入ってきた。
 「どうもご苦労様、僕が朝倉億彦です。で、ピザは?」
 慌てたように少女は銀色のバッグから、正方形の薄い箱を取り出した。
 「こちらがご注文の品になります」
 億彦はうやうやしく箱を受け取り、「いくらだっけ?」と尋ねた。
 「1200円です」
 億彦がポケットから代金を取り出し、それを少女に手渡した。
 「ありがとうございました!」
 深々と一礼して、元気よく走り去って行った。


 「それってどういうことなのよぉ」
 優夏がふくれるのも無理はない。
 「胃の調子が悪かったんじゃなかったの?」
 「いつの間にか、治ったみたいだ」
 そう言いながら、億彦はピザに手を伸ばす。
 「さっき、おなか空いてないって言わなかった?」
 「さっきまでは」
 遥もピザをかじっている。
  • オレは遥をフォローすることにした
  • オレは優夏をフォローすることにした
 「遥、それは優夏に対して失礼だぞ」
 優夏はふむふむと頷いているが、遥はそんなオレの言葉など意に介した様子もなく、次のピザに手を伸ばしている。
 優夏はあきれ顔のまま、すとんとソファに腰を下ろした。
 いつの間にか、オレの胸のむかつきは消えていた。


 キワドイ選択


 「4月1日日曜日、お昼のニュースです」
 つけっぱなしにしていたテレビから、アナウンサーの声が聞こえて来た。
 と、同時に鳩の鳴き声。
 海を臨む大きなガラス窓の右上に、それはいた。
 「いつぶりだろう、鳩時計なんて見たの」
 「今気づいたの?私も昨日、気づいた時には驚いたけど、なんか懐かしいなぁ」と、優夏が言った。
 「今でも覚えているけど、私が最後に鳩時計を見たのは中学の頃だった。これよりももうちょっと大き目なやつで、窓が二つ付いているの。もちろん、鳩は2羽いて、私、その2羽の鳩はきっと番だろうと思ってた」
 「・・・続きは?」
 「いや、ただそれだけなんだけどね」
 オレは、この話の先には壮大な物語があるような気がした。それは優夏の瞳を見れば明らかだった。
 「ねぇ、そろそろ行かない?」
 そう言って、億彦が立ち上がった。
 「そうだね。こんなとこ閉じこもっても、時間がもったいないし」
 「どこに?」
 「テ・ニ・ス。さぁ、みなさん、支度してくださ~い!」と優夏が言った。


 「この合宿はゼミ合宿なんだろ?」と、テニスコートに向かう途中、オレは優夏に疑問をぶつけてみた。
 「だから?」
 「ゼミと冠が付いている以上、サークルとか部活とか、そういったのとは異なった主旨で実施されてるわけなんだろ?なのに、しょっぱなからテニスでいいのか?」
 「ぜ~んぜん、問題なし」
 「そもそもゼミ合宿とかいうやつって、一体何なんだよ?」
 「だからゼミの合宿だよ」
  • 「答えになっていない」と言う
  • 「ゼミって何?」
 「そうかなぁ?」
 「億彦は、『最初っから目的はない。あるとすれば班員の親睦を深めることが唯一の目的だ』みたいなことを言っていたけど?」
 「おしいけど、ちょっと違うかな」
 「どう違うんだよ?」
 「それはまだ言えないの。だって命令なんだもん。教授じきじき御達しなの。『合宿日最終日まで、その主旨は教えてはならない』ってね」
 「なんで?」
 「もう、そんなにしつこく聞かないの!
 優夏先生の恋愛方程式その1
 『しつこい男は嫌われる』
 よく覚えておきなさい」
 そう言って、優夏は優しく微笑んだ。


 テニスコートはロッジから徒歩5分ほどの距離にあった。
 優夏はコートの管理人から借りた4本のラケットをオレたち3人に手渡した。
 「私・・・いい・・・」
 遥は、今もらったばかりのラケットを、そっとベンチに立てかけた。
 「ええ!」
 「遥ちゃん、やらないの?」
 優夏より明らかに億彦の方が動揺していた。
 「うん」
 「でも、見てるだけじゃ、つまらないよ?」
 「見てない。私、海が見たいから」
 「海に行きたいの?」
 遥は小さく頷いた。
 「じゃ、僕も行こうかな。
 せっかく海の側に来たんじゃないか。まずは海を見たいと思うのは、当然の欲求だよ。
 それに、テニスだったらいつでもできるしね」
 「ちょっと残念だけど、でもしょうがないね。
 じゃあ、私たちはここにいるから」
  • オレも海に行きたい
  • 優夏と一緒にテニスをする
 「じゃあ、そういうことで」と言い残して、億彦は歩き出した。
 「ちゃんと夕方までには帰って来てよ」と、二人の後ろ姿に向かった優夏が声を掛けると、億彦が片手を上げて答えた。
 「じゃあ、私、着替えてくるから。だから、誠はここで待ってて」
 そう言って、優夏は管理人事務所の隣の更衣室へ向かって駆けて行った。

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