今日の屍人荘の殺人はどうかな?
合宿当日の早朝、葉村は、大学の最寄り駅で明智と剣崎と待ち合わせて、電車に乗り込んだ。
目的のペンションは娑可安湖の側だそうで、参加者はその最寄り駅で集合ということになっている。娑可安湖周辺は避暑地としても有名で、個人の別荘やキャンプ地も多い。
「どうした、葉村君。朝っぱらから陰気な顔をして」
「陰気な顔は生まれつきです。結局二泊三日という説明しか受けていないじゃないですか。どんな人が来るのかわからないのに、不安になりませんか?」
「日本語通じる相手には違いないだろう。なんの心配があるんだ。そもそも事件というのはいつ起こるかわからんものだ。問題ない」
すると葉村を挟んで反対側に座っていた剣崎が振り向いて、葉村に詫びた。
「ごめんね。私が進藤さんからもっと詳しい説明を聞いておくべきだったね」
「いや、深い意味はないんで大丈夫です。それにしても、ペンションを貸切なんてずいぶんと太っ腹なOBがいるんですね」
葉村の問いに剣崎が口を開く。
「なんでも親御さんが映像会社の社長らしいよ」
ふと葉村は、剣崎が自分を凝視していることに気づいた。葉村の左のこめかみに走る古い傷跡を見ているのだ。4、5センチほどの裂傷の傷でかなり目立つ。普段は髪を伸ばして目立たないようにしているのだが、風が髪が乱れて見えてしまったのだろう。
「どうしたの、それ」
「昔、震災の時に瓦礫に打ち付けて怪我しまして」
「それは、たいへんだったね。後遺症とかは?」
「幸いにも。少々顔つきが悪くなって、時々怖がられるんですが」
気づいた時、剣崎の細い指が傷跡を撫でていた。
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