今日の探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.1 仮面幻想殺人事件はどうかな?
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伊綱「それじゃ音成さんは、今回の事件の関係者をクロッシュに呼び集めてください!」
音成「伊綱さん、ゲンマの小早志と瀬堂は不在でした」
伊綱「そうですか・・・手配してでも突き止めておいた方が良いかもしれません」
音成「わかりました。あと、尾場警部も別件で不在とのです」
砂永「白鷺洲様、犯人がわかったとは本当ですか?」
伊綱「はい、これから説明します」
聞く
伊綱「まず今回の事件の犯人ですが、今回の件で殺人を犯した人は、笠見由紀乃さんです!」
音成「なんだって!」
伊綱「そもそも、村崎さんが会社でソースを明らかにしなかったのは、実は自分自身で開発したものではないからではないか、と思ったんです」
綾城「そうなのか!」
伊綱「つまり、村崎さんと昔から懇意のあった狭川美弐こと笠見由紀乃さんが開発した新技術を、村崎さんは盗んだわけです」
音成「盗作だったのか!」
伊綱「そして盗まれたことを知った笠見さんは、村崎さんを問い詰めに行ったのです」
望美「それで、彼女が『スノーマンが盗まれた』って言ってたのね」
伊綱「逆上した笠見さんはネットなどで手に入れた青酸カリで毒入り砂糖を作り、村崎さんを殺害してしまいます。
そして彼のノートパソコンをフォーマットしてデータを隠滅し、自殺に見せかけるために彼の携帯を使って萌奈さんにメールを送ります」
生王「2通目のメールは笠見さんが送ったものだったんだ」
聞く
伊綱「その後、綾城さんより先に、メールを受け取った萌奈さんが部屋を訪れた。
小早志さんの指示でソースコードを狙っていた萌奈さんは、村崎さんが死んでいることに驚きますが、今のうちにと部屋を探します。
しかし、パソコンはすでにフォーマットされていた。仕方ないので、小早志さんの指示でメモリーカードと毒入りの砂糖を持って引き上げます。
やがて綾城さんたちが発見して警察が来ます。
その後7月2日に再び萌奈さんは村崎さんの部屋に合鍵で入ります。おそらく犯人に見当がついたのでしょう。
萌奈さんは笠見さんの存在は知っていたと思いますし、自分以外に合鍵を持っている人がいるとすればその人しかいない。きっとソースコードを盗むために殺したんだと思ったんでしょうね」
生王「それで、もしかして脅して奪い取るつもりで?」
伊綱「ええ、おそらくはそれも小早志さんの指示でしょうね。何か決定的な手掛かりがないか、探しに行ったのです。
そして、クロゼットを探すのに邪魔だったコートは、出して窓にかけた。」
音成「コートは探すのに邪魔だったから、窓にかけただけなんですか!」
伊綱「そうですよ。急いでてしまうのを忘れたんでしょうね」
聞く
伊綱「しかし、脅しに使えるような証拠は見つからなかったので、2人はカマを掛けようとしました。
村崎さんのメモリーカードを使い、ヴィオレの名前でタクリマクスにアクセスします。そして、同じくログイン中のみにさんの前に現れて、脅すようなセリフを言う。例えば『よくも殺したな』とか」
音成「もしかして、それが幽霊!」
伊綱「そうです。村崎さんが生き返ったとは思わないまでも、少なくとも自分が犯人だということが誰かにバレている分かったのです」
音成「なるほど」
伊綱「そもそも、自殺ということになったとはいえ、人を殺して平静でいられるような人はほとんどいません。
いつ後ろから警察に声を掛けられるか、とか考えると、ビクビクと夜も眠れない状態だったんじゃないでしょうか」
生王「そこに、そのセリフか」
伊綱「笠見由紀乃さんはその時のショックで心臓マヒを起こし絶命してしまいます。
しかし、死んでしまうことは小早志さんらにとっても、当然予定外でした。
そして、そのことをニュースで知って困惑した萌奈さんは、さらに私たちが調査していることを知って、もう後がないと思ったのか、村崎さんの部屋で先に持ち出していた毒を飲んで自殺します」
聞く
伊綱「コートにカギや携帯電話が入っていたのは偶然でしょう」
生王「それが事件の真相か」
音成「実行犯は亡くなっているわけですが、小早志は参考人として問い詰める必要がありそうですね」
癸生川「ちょっと待ったああああ!!!その推理には大きな間違いがある」
伊綱「どういうことですか?」
癸生川「さあ、伊綱君、交代だ」
聞く
癸生川「伊綱君、君は一つ大きな思い違いをしている」
伊綱「思い違い?」
癸生川「とても大きな思い違いだ。
さあ、入っておいで!」
女性「失礼します」
伊綱「こちらの方は?」
癸生川「狭川美弐さんだよ」
美弐「どうも。私が狭川美弐です」
望美「実在してたんですか?」
癸生川「村崎君と長い付き合いがあり、そして新技術『スノーマンシステム』を開発した人こそ、紛れもなく彼女だ」
伊綱「それじゃあ、笠見由紀乃さんはいったい・・・」
望美「私の友達って、この方なんですか?」
癸生川「いや、そこの望美さんのメール友達だった狭川美弐さんというのは、笠見由紀乃に間違いはないよ」
望美「え!」
癸生川「それと、村崎君と笠見さんの身元をもう少し洗うべきだったね、音成君」
音成「え!」
癸生川「笠見由紀乃と言う人は、村崎君の生き別れの妹だよ」
聞く
伊綱「ちょっと待ってください。こんがらがって、何が何だか・・・」
癸生川「こんがらがるのは、君達が余計なことを考えてるからだよ。真実はいたって単純なんだよ、伊綱君!」
伊綱「じゃあ、こちらの美弐さんは?」
癸生川「わざわざ来てもらったわけなんだが、実は彼女は今回の事件には一切関係ない」
望美「じゃあ、亡くなった笠見さんは、偶然、彼女と同じ名前をハンドルネームにしていた訳ですか?」
癸生川「偶然じゃない、故意だよ」
聞く
美弐「私が村崎さんと親しくしていることを、由紀乃さんは快く思っていなかったんだと思います」
癸生川「12年前の話だ。村崎家の両親が交通事故に遭って亡くなり、兄妹2人が残された。兄・洋才は高校卒業間近だったので一人働いていくことになったが、小学生の妹・由紀乃は里子に出され、笠見家に引き取られた。
そのまま何年も経ち、成長した由紀乃は兄に会いに行ったが、村崎君には取り合ってもらえなかった。どうも彼は両親を失ったという忌まわしい過去をすべて捨てたがっていたらしい」
伊綱「家族がいたことを思い出させるから、妹とは会わなかったってことですか?」
癸生川「その通りだ。しかし、それとは逆に、両親を失った由紀乃の兄への憧れは次第に強くなり、兄の関わるゲームを熱中してプレイしたりし、少しでも彼に近づこうとした」
伊綱「何だか、悲しいすれ違いですね」
癸生川「そうだ。過去に付けられた大きな心の傷を、片やすべて忘れ去ろうとして、片や遺された唯一の肉親にすがることで、癒そうとしていた」
音成「そんな・・・」
癸生川「そうして由紀乃は今年の初めに、兄を追うため家を出て、品方市で一人暮らしを始めた。村崎君に合鍵を渡しに行ったが、取り合ってもらえなかった」
聞く
癸生川「やがて由紀乃は村崎君が懇意にしている女性の存在を知ってしまう。それがこちらの狭川美弐さんだ。
さて諸君。愛しい愛しい兄と親しくしている女性がいることを知った由紀乃に、一体どんな感情が生まれたと思うかね?」
生王「それはきっと・・・」→羨望
生王「その立場を羨んで、『自分も狭川美弐になりたい』と思うようになった?」
癸生川「その通りだよ、生王君」
生王「え、本当に!」
癸生川「それ以降、彼女はネットの世界では狭川美弐を名乗るようになった。美弐さんの仮面をかぶって、少しでも兄の傍らにいる気持ちになって、心を落ち着けていたんだろう」
望美「そっか、プラグラムが趣味だとかの話は、本物の美弐さんになりきって言ってたんですね」
癸生川「そうだ。美弐さんが雪だるまグッズが好きだと知れば自分も集めた。
そして、ある日彼女は兄がタクリマクスに熱中していると知って、自分もそれを始めることにした」
生王「それも、みにという名前でか・・・」
癸生川「村崎君のキャラの名前も、どうにかして突き止めたんだろう。美弐さんの好きな雪だるまのアイテムを手に入れて、どうにか彼の気を引こうとしたわけだ」
聞く
癸生川「さて、ここで問題になってくるのが、村崎君はタクリマクスの中でのキャラクタのみにを、本物の狭川美弐だと思うようになってきたって事なんだ」
美弐「実は、彼には前から何度も一緒にタクリマクスをやろうと勧められてたんです。ですが、ソフトを買ったものの、私の時間が取れなくて全然始められなかったんです。
そこに現れたのが彼女で・・・」
癸生川「笠見由紀乃は興信所に依頼したり、ストーカーのように付け回したりして、美弐さんのことを徹底的に調べたようだね。彼氏をしてみても本人だと思わせるくらい、文章の使い方やものの考え方を研究したんだよ」
伊綱「何だかそこまで行くと怖いですね」
聞く
美弐「そのせいで、彼と話が食い違うようになってきて、不審に思うようになったんです。
それに誰かに付け回されてたりする気もしてたんで、気味が悪くなってこちらの探偵さんに調査を依頼したんです」
癸生川「それで、その様子を直接伺うために僕もタクリマクスをやっていたわけだ」
伊綱「何ですって!先生、依頼を受けたらちゃんと話してくれないと困るじゃないですか」
癸生川「来たじゃないか、君達のところにも・・・砂永さんが」
伊綱「あ!」
癸生川「どうぜ同じ事件に関わりそうだし、いいかな~って」
聞く
癸生川「やがて由紀乃さんはオンラインの村崎君から、スノーマンシステムについての話も耳にする」
美弐「もともとスノーマンシステムはアルジェに有効に使ってもらおうと思って、私が何年も前から研究していたものなんです。だから、最初から権利は村崎君に渡すつもりでし。それでアルジェにも有効になるなら、いいかな、って思ってました」
癸生川「それを知った由紀乃さんは、ある日村崎君の部屋に合鍵で忍び込んで、ノートパソコンを同じ機種の新しいものと入れ替えた。なぜなら狭川美弐は、このシステムを持ってないといけないからだ」
伊綱「それで由紀乃さんの部屋のノートパソコンに、スノーマンシステムが入ってたんですね」
癸生川「そうだ。あれは元々村崎君のノートパソコンだったんだよ」
美弐「そういえば、あの人、突然ハードがクラッシュしたような事を言ってたけど、そういう事だったんですね」
伊綱「なぜか初期状態に戻ってたから、フォーマットした訳ですね」
聞く
癸生川「しかして事件が起こる。萌奈さんと村崎君が急接近したんだ」
伊綱「それって、スノーマンシステムを盗むために?」
癸生川「きっかけや動機はこの際どうでもいいだろう。大事なのは2人が隠れて付き合うようになったって事だよ。
それと小早志って人が持っていた技術が、スノーマンシステムによく似ているという話なのだが、実は小早志システム(仮)は、ソフトのバージョンアップで最近、実装されているんだ」
生王「後からプログラムを追加変更できるというのも、オンラインゲームの特徴だからね」
癸生川「その新システムに採用された箇所こそが、スノーマンシステムなんだよ。
それで肝心の噂の真偽の程だが・・・」
美弐「先ほどタクリマクスでスノーマンを見せてもらいましたが、私が開発したシステムは使われていませんでした。私の開発したものであれば絶対に起こらない処理落ちがありましたから」
癸生川「ということだよ」
伊綱「関係、なかったんですね」
癸生川「スノーマンに特殊な技術が使われていると聞いた村崎君は、『スノーマンに会いに行く』と言って確認に向かった訳だ。萌奈さんと小早志の関係に薄々感づいていたんだろう」
生王「その名前からしても自分たちのシステムがどこからか漏れたのかもしれない、と思ったんだろうね」
伊綱「由紀乃さんの言い残した『盗まれた』ってのも、同じ理由ですね。
美弐さんに成りすましていた由紀乃さんは、タクリマクスのスノーマンを見て、そう思ったんでしょう」
癸生川「その通りだ。もし先に特許なんか取られていたら、自分たちのしていることが無駄に終わっちゃうからね。
まあ、結果は先ほど美弐さんが言った通り、別物だったので一安心する訳だ」
聞く
癸生川「そして、同じころ、由紀乃さんは村崎君と萌奈さんの浮気を知ってしまった。
それで、今度は彼女がどう思ったか」
音成「わかりました。今度は萌奈さんになろうと思ったんですね」
癸生川「違う!今の彼女は『狭川美弐』だった。したがって、彼氏に浮気をされた普通の女性の反応だよ。『私というものがありながら・・・』という感じかな。
そうして由紀乃さんは、兄であり恋人でもある村崎君に対して、強い愛情と怒りを抱えるようになった」
聞く
癸生川「さて、ここでいよいよ真犯人の登場と相成る訳だが・・・」
伊綱「え!犯人は由紀乃さんではないんですか?」
癸生川「違うんだ。『笠見さん』には違いないんだけどね」
伊綱「同じ笠見さんってことは、由紀乃さんの養父とか?」
癸生川「その通りだよ!12年前に小学生だった由紀乃さんを引き取って、以降12年間育てて来た養父、笠見伝次郎が今回の事件の犯人だ!
そして、その人物に君らもすでに会っている!」
伊綱「ええええ!」
癸生川「言ったろう、犯人は仮面を被っていると。誰か一人は偽名を名乗り、嘘の顔で君らの前に現れていた。さあ、その人物だが、生王君、君なら当然わかっているね?」→山王丸
癸生川「その通りだよ。
いいかい?シャンブリオン西河谷の大家である山王丸豪吉は、1週間前から海外旅行に行ってるんだよ」
伊綱「それじゃあ、私たちが会った人は?」
癸生川「その人こそ笠見由紀乃の養父、笠見伝次郎なんだ!」
伊綱「そんな・・・」
癸生川「今オバキューさんに行方を追ってもらってる」
聞く
癸生川「さて、養女の由紀乃の心は完全に兄・村崎の所にあった。
伝次郎に対しても心をかたく閉ざし、ロクに相手にもしてもらえなかった。
八方手をつくして心を開くよう頑張ったが、由紀乃の心は実の兄にしか向いていなかった。
特に2年前に奥さんを亡くしているらしいから、それ以降はさらにつらかっただろうね」
尾場「おう、盛り上がっているトコ失礼するぜ。
おい、探偵、連れてきたぞ!お前さんの言う通り、駅で張ってたら、まんまと現れやがった」
癸生川「おお、素晴らしい!」
伝次郎「くっ・・・」
伊綱「大家さん?・・・じゃないんですね。
あなた、由紀乃さんの養父の伝次郎さんだったんですか?」
伝次郎「・・・」
癸生川「そうして、娘を奪われた気持ちでいっぱいになったこの男は思う訳だ。『村崎が邪魔だ』と」
聞く
伝次郎「わかるんかい!心を開いてくれない娘を12年も育てて来た者の気持ちが!
わしぁあ、自分の娘だと思ってそりゃあ大事にしたでよ。実の娘のつもりで接しておったが、なのに・・・」
癸生川「この伝次郎氏は、もう定年退職しているが、以前メッキ工場に勤めていた。先月、工場に挨拶に来たと称して、こっそりと青酸カリを少量持ち帰っている」
尾場「ちょっと調べりゃ簡単に割れる事だ」
聞く
癸生川「村崎君の部屋は、廊下に台所の窓が面している。今は夏場だ。窓の鍵を閉め忘れることもあるだろう。彼の留守中にそこの窓を開けて、手に取れるものに青酸を混ぜる。今回は、たまたま紅茶の砂糖だったんだろう。
そして村崎君は6月26日にそれを入れた紅茶を飲んでしまった、ということだ。
村崎君はちょうど紅茶を飲む寸前に、タクリマクスでスノーマンに会ったんだろう。舟を持っていなかったので、そこまで3日も掛ったんだ。それで、ようやく技術的な問題がないことを知って出したメールが、数時間遅延して萌奈さんに届いた。」
伊綱「単なる遅延ですか?」
癸生川「そうだよ。文章のクセとかが本人に間違いないみたいだし。
そして、死んだことを確認するために、毒を入れた後伝次郎は本当の大家が海外旅行中だというのを良いことに、窓の開いていて山王丸家に身を隠し、留守番の振りをして、誰かが発見に来るのを待っていた」
伝次郎「ちょっと違うな。初めからあの家も調査していて、旅行に出かけるタイミングで決行したでよ」
癸生川「なるほど、成りすます準備もしていたわけか」
伝次郎「当然でよ。ああいう古い家のドアなんてピッキングでラクに開けられるしのぉ」
癸生川「長期旅行中だということは広まっているから、来客も少ない、と」
伝次郎「それにわざわざ窓から砂糖に毒を入れるなんて、面倒なことをせんでも、大家の家にゃマスターキーがあるでよ」
癸生川「なるほど、もっと用意周到だった訳か」
伊綱「そっか、たまたま同じタイミングで、タクリマクスとスノーマンの事件が起こっていたから、ややこしいことになっていたんですね」
聞く
伝次郎「でよ、毒飲んで死んだかなと思って外から部屋の様子を伺っていたら、娘っ子が一人合鍵で204号室に入ってって、わしゃ慌てて追いかけたでよ」
伊綱「萌奈さん?メールを見て、綾城さんより先に来てたんですね」
伝次郎「村崎の死体を見て、驚いて声を出さなかったのは幸いだが、わしが追いかけて部屋に入った途端、物凄い勢いで逃げてった。どうも何かを探している様子だったでよ」
癸生川「ちなみに、その時にメモリーカードを持ち去っている」
伝次郎「わし一人が死体を発見するのも怪しまれると思ぉて急いで大家の家に戻ると、今度は同じ会社の綾城とかいうヤツが来よった」
癸生川「で、一緒に入って、第一発見者のフリをした訳だ」
伊綱「萌奈さんが『自殺じゃない』って訴えてたのは、そういう目撃があったからなんですね」
聞く
癸生川「やがて、警察では無事に自殺と処理され、数日経って伝次郎氏はそのことを娘に知らせる。
これで、心は自分に向くはずだ、とね。
実は伝次郎氏もタクリマクスをやっていたんだ。娘が熱中していると聞いて自分でも一生懸命調べて覚えたんだろうね。正体を隠して一緒に冒険をしたりするようにもなっていた。
そして、ゲームを通じて伝えてしまった。彼女が他の何よりも恐れていた事。生きるための拠り所としていた人物との別れとなる、実の兄の死を。
由紀乃さんは知らなかった。村崎君の死は報道もされていないし、最近は美弐さんになりきる為、彼女ばかりに注意していたからだ」
伊綱「それでショックを受けて・・・」
癸生川「ゲームをプレイしている状態のまま、死んでしまった。
どうにか心を吊り下げて、立っていた1本の細い糸が、その瞬間にぷつんと音を立てて切れた。そして、心は命を道連れにして、落ちて、壊れた」
伝次郎「ああああー!由紀乃ー!」
伊綱「良かれと思ってしたことが、最悪の結果を呼んでしまったんですね」
癸生川「良かれと言っても、彼だけの事情だよ。鳴きたくないホトトギスを、自分の都合だけで無理やり鳴かせようとした報いだ。彼が娘に注いだという愛情表現も、どうせこんな風に歪んでいたんだろう。だから、娘に好かれることもなかったんだ」
聞く
伊綱「でも、先生、だったら萌奈さんはどうして?」
癸生川「目撃者だからね。犯行の様子も見ていたかもしれないし。実際、彼女は村崎君は他殺だと訴えていた」
伊綱「結局、村崎さんは自殺ということに落ち着いたものの、いつ証拠を掴まれたり、不利になる証言をするかわかりませんしね」
癸生川「伝次郎氏は、あらかじめ萌奈君に匿名でクギを刺していたはずだ。黙っていろ、とね。
しかし、探偵が調査を始めたことを知った。だからこそ、再び大家として伊綱君達の前に現れた。
そして、萌奈さんを生かしておくはヤバいと踏んだんだろう。その夜、こっそり呼び出して、無理やり毒入り紅茶を飲ませる。さらに自殺に見せかけるため、ゲームを立ち上げコントローラを握らせ、鍵を閉めて部屋を立ち去った。
あとは翌日、君達をいっしょに中に入って、発見するフリをする、という訳だ」
聞く
伊綱「それじゃあ、あのコートは?」
癸生川「萌奈君は探し物をしに、村崎君の死後、部屋に入った。それに関しては、伊綱君の推理通り。まあ、小早志の指示なのか萌奈君が気を利かせたのかはわからないけどね。
ノートパソコンを探してたんんだろうけど、それは警察が持ち去っていた」
伊綱「では、携帯電話とカギは?」
癸生川「カギは冬に由紀乃さんから受け取ったものを、放ったらかしてたんだろう。
携帯電話は村崎君が隠しておいたんじゃないかな」
伊綱「隠す?」
癸生川「美弐さんが部屋に来ても見つからないように」
伊綱「『みに』で登録されている番号は、使用されていない番号でした。
美弐さん、最近、電話換えました?」
美弐「いいえ」
生王「でたらめな番号を登録していたのか」
伊綱「萌奈さんの為のカムフラージュですね」
癸生川「どこまで浮気のつもりだったんだかね」
音成「それじゃあ、コートが湿ってたって、何なんでか?」
癸生川「押し入れの湿気だよ」
聞く
癸生川「さあ、以上が真相だ!
オバキューさん、ここからは警察の仕事です」
尾場「おうよ。さ、署まで来てもらおうか」
伝次郎「くっ」
尾場「音成、お前も来るんだよ」
癸生川「それでは、砂永さん、美弐さん、報酬の方はキチンと振り込んでおいてくれたまえ!
では、僕らも帰るぞ」
こうして茫然としっぱなしの関係者を余所に、我々は探偵事務所へと引き返した。
複雑な仮面と、各々の抱く幻想の世界によって生まれたこの事件は、癸生川探偵事務所の面々によって、解決へと至ったのであった。
伊綱「そういえば、タクリマクスで怪しいメッセージを送って来たアイビスってキャラ、いったい何者だったんでしょうね?」
癸生川「僕さ!」
~了~
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