今日の十角館の殺人はどうかな?
お前たちが殺した千織は、私の娘だった。
昨夜友人の下宿で徹夜で麻雀をしていた江南孝明が、午前11時に部屋に戻った時、郵便受けにこの手紙が入っていたのだ。
何の変哲もない茶封筒で、消印の日付は昨日の3月25日。発送場所はO市内のようだ。手紙の文字はすべてワープロ打ちだった。
差出人の住所はなかったが、中村青司という名前だけが記されていた。
江南には「千織」という名前に見覚えがあった。おそらく中村千織のことだろう。そして、その父親が中村青司か。
江南はK大学の3回生で、去年の春までミステリ研究会に所属していたが、今は辞めてしまっている。
昨年の1月、当時江南が所属していたミステリ研究会で新年会が催された。
千織はこの研究会の後輩で、当時1回生だった。
この新年会の三次会の席上で、千織は死んだのだ。
江南は用があり途中で店を出たが、そのあとのことだ。千織は急性アルコール中毒から持病の心臓発作が誘発され、救急車で病院に運ばれたが、すでに手遅れの状態だった。
葬儀には江南も参加した。
千織はO市内にある母方の祖父の家に住んでおり、葬儀もそこで執り行われた。だが、あの時の喪主の名前は青司ではなかったように思う。そういえば、あの葬儀の場に父親らしき姿は見当たらなかったように思う。
では、千織の父を名乗る人物がなぜ、身も知らぬ自分のところにこんな手紙をよこしたのだろうか。
考えて江南は、はっとして、趣味で続けている新聞のスクラップをまとめたファイルを取り出した。
『角島青屋敷炎上 謎の四重殺人』
「死者の告発か」
江南は、ミステリ研究会の仲間だった東一の自宅に電話すると、母親から、今朝からミステリ研究会のメンバーと角島に旅行に出かけている、と聞かされる。
そして、中村青司からの手紙のことを尋ねると、来ているとのことだった。
江南は、この電話の前にあの三次会に居合わせたメンバーのところに電話していたが、どこも留守だったのだ。
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