今日の十角館の殺人はどうかな?
今日中に済ませたい仕事があるから、と言われ、江南は紅次郎にいとまを告げた。
紅次郎は、近くの高校で社会科の教師を務める傍ら、仏教学の研究をしているのだという。
島田は揺り椅子からぴょこんと立ち上がって、跳ねるような足取りで江南の側までやってくると「カワミナミ君、どんな字書くの」と問うた。
「揚子江の江に、東西南北の南です」
「いい名前だねえ。紅さん、じゃあ僕もそろそろ失礼するとしよう。一緒に出ようじゃないか、江南君」
紅次郎の家を出て、江南と島田は並んで歩く。
「コナン君、何で君はミステリの研究会をやめたんだろうか。思うにそれは、そのクラブの気風が肌に合わなかったからだ、違うかい」
「正解ですよ」
「したがって、君は別に、ミステリそのものに興味がなくなったわけじゃないということだ」
「ミステリは今も好きですよ」
「僕も、仏教学よりミステリが好きだ。さてコナン君、お茶でも飲みに行こうじゃないか」
「はあ」
「しかしコナン君、君も変わった男だねえ。ただの悪戯かもしれない1通の手紙のために、こんな遠方まで一人で出向いてくるんだから。まあもっとも、僕が君と同じ立場にあったとしても、きっと同じ行動を取っただろうな。
どう?君は他意のない悪戯だとと思う?」
「幽霊が手紙を書いただなんて思いませんよ。誰かが死者の名を騙って書いたんでしょう。ただの悪戯にしては念が入りすぎている」
しばらく歩いていると、島田が指さした。
「あの店に入ろう」
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