チラシの裏~弐位のゲーム日記
社会人ゲーマーの弐位のゲームと仕事とブログペットのことをつづった日記

 今日の十角館の殺人はどうかな?


 「さて」
 エラリイが口を切ったのは、携帯食ばかりの簡単な食事を済ませ、コーヒーを一杯飲みほした時だった。
 「要点のおさらいだ」
 例の見取り図にちらりと目をくれてから、エラリイは話し始めた。
 「犯人の足跡と考えらえるのは、死体と階段の間を往復する二筋だけだっていう結論が出たんだったね。つまり、犯人は海から来て海へ戻って行ったことになるわけだ。
 犯人は外部の者であると、そう考えるがこの場合、最も論理的だろう。僕らがこの島から出ることができないが、第三者が外からやって来ることはいくらでも可能なんだ。それならば、海を泳いだなんて無理な解釈の必要もない。船を使ったと考えればいいんだからね」
 「船・・・」
 「オルツィにしてもルルウにしてもなぜ、殺されたのが朝早くだったのか。僕らに気づかれないように島へ上陸するには、夜中から早朝にかけての時間が最適だからだ」
 二人の顔を見やりながら、エラリイはポケットからセーラムの箱を引っ張り出した。が、空っぽだと分かってテーブルに放り出す。
 「吸うか」と言ってポウが、煙草入れをエラリイの前へ滑らせた。
 1本とって咥え、エラリイはマッチを擦った。
 「僕も一本、いいかい、ポウ」
 「構わんよ」
 エラリイがポウの煙草入れをヴァンに回す。
 「ところでエラリイ、お前の説が正しいとしてもだ、まず、何だって犯人はあんなプレートを作ったんだ」と、ポウが問うた。
 エラリイは目を補足して、ゆっくりと煙を吐いた。
 「第一に、『犯人』が7人の中にいるのだと、僕に信じ込ませる効果がある。それだけ外部に対しては無防備になるってことだ」
 「第二は?」
 「心理的圧迫、だろうね。最後のほうに残った何人かが互いを疑い、殺し合うかもしれない、とそこにも犯人の狙いはあったはずだ。いずれにせよ、この犯人の最終目的じゃ、7人の皆殺しにあると考えて良さそうだ」
 「ひどい話だ」
 煙草に火を点け、ヴァンは呟いた。
 「もう一つ疑問に思うのは」
 太い親指をこめかみに押し付けながら、ポウは言った。
 「犯人としてはあくまでも、内部の人間の犯行だと思わせたかったはずだ。とすればあの場合、屋敷跡の入り繰りを往復するなりして、足跡を余分に残しておくのが賢明な方策だろう。そのくらいの工作はやろうと思えばできたはずだが」
 「足跡が残っていることに気づかなかったんじゃないか」
 「そしてそのまま、本土へ帰っていったわけか。『第三の被害者』のプレートは、じゃあいつ貼り付けたんだ」
 「それは・・・」
 ヴァンが答えに詰まると、ポウはエラリイのほうに向きなおり、
 「どう解釈する、エラリイ」
 「犯人としてはやなり、入口と階段を往復する足跡を作りたかっただろう。それをしなかったということは、そこに何かやむをえぬ事情があったってことだが、ルルウ殺しの状況を考え合わせてみるとその説明がつく。
 おそらくルルウはあの岩場で、犯人と船を、たぶん犯人が島から離れようとしているところを見てしまったんだ。
 ルルウは事態を察し、逃げ出した。それに気づいた犯人が、慌てて追いかける。この時当然、ルルウは助けを求める声や悲鳴を上げたに違いない。足の遅いルルウに追いついて殴り殺したあと、犯人は焦った。今の声を聞いて、他の者がすぐに起き出してくるかもしれない。
 仕方なく犯人は、足跡の件は捨て置いて岩場に戻り、とりあえず船を入江のほうへ回して、ルルウを探し始める声はないかと上の様子を窺った。幸運にも、誰も騒ぎ出す気配はない。そこで犯人は十角館へ上がり、台所の窓からでも中を覗いてみて誰も起きていないことを確かめると、ホールに忍び込んでドアにプレートを貼り付けた。そうしてすぐ、足跡問題はもう諦めて島を離れたってわけだ」
 「ふうん、犯人はゆうべもずっと、この島にいたわけか」
 「毎晩来ていたんだと思う。夜になると島に上がってきて、僕らの動きを監視していたのさ」
 「その間、船は入江か岩場に着けっぱなしにしてあったと?」
 「小さなゴムボートならば簡単に畳める。林の中まで持って上がることもできるし、おもりを付けて水の中に沈めておいてもいい」
 「ゴムボート?」
 ポウは眉をひそめた。
 「そんなもので本土と行き来できるのか」
 「本土である必要なないのさ。すぐに絶好な隠れ場所があるだろう」
 「猫島?」
 「犯人はあそこにキャンプを張っているんだと思うね。あの島からなら、手漕ぎのゴムボートであれば充分だよ」
 ポウはテーブルに片肘を付くと、苦々し気に問いかけた。
 「じゃあエラリイ、猫島に潜むその真犯人というのは、いったい誰なんだ」
 「中村青司さ、もちろん」
 エラリイは即座に断言した。
 「青司が生きているという可能性はまあ、一歩譲って認めるとしようか。しかしな、もっと他の人間ならがどうか知らんが、その青司に、俺たちを皆殺しにするどんな動機があるって言うんだ」
 「動機ね、それが実は大ありなのさ」
 「本当か」
 「何だい、エラリイ」
 「中村千織、覚えてるだろう」
 「中村千織、あの?」
 ヴァンの声が小さく落ちた。
 「去年の1月、僕らが不注意で死なせてしまった後輩、あの中村千織だ」
 「中村・・・中村青司、中村千織・・・」
 呪文でも唱えるように、ポウが呟く。
 「しかしそんな、まさか」
 「その、まさかさ。僕にはそうとしか考えられない。中村千織は中村青司の娘だった、と」
 「ああ・・・」
 ポウは鋭く眉根を寄せると、煙草入れのラークを1本叩き出して、直接口に咥え取った。
 「半年前この島に起こった事件の犯人は、中村青司その人だった。彼は行方不明になった庭師か、あるいは誰か、自分と体格や年齢、血液型が一致する男を探してきて、自分の身代わりに焼死させ、生き残ったんだ。そうして、娘を殺した僕らに対する復讐を・・・」
 その時突然、ぐふぅという異様な声が、ポウの喉で爆発した。
 「ポウ?」
 がたんっと激しい椅子が鳴った。ポウのごつい体が、もんどりうって床に倒れた。
 凄まじい痙攣とともに、仰向けに転がった彼の四肢が宙に突き上げられ、そのままどたりと床に落ちた。それが、ポウの最期だった。
 先の方を吸っただけで投げ出されたラークが、青いタイル張りの床の上で紫煙を上げて昇らせている。

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