チラシの裏~弐位のゲーム日記
社会人ゲーマーの弐位のゲームと仕事とブログペットのことをつづった日記

 今日の十角館の殺人はどうかな?


 結局、江南と島田の二人は、S町までやってきていた。
 中村青司が実は生きているのではないか。昨日彼らが到達したその解答を支持するような、何からかの手掛かりを探すことが、今日この地を訪れた目的である。問題の角島を一度見てみたいという思いもあった。
 しかし、半日かけて付近の住人や漁師に話を聞いてまわった結果、集まったのは月並みな幽霊譚だけだった。実質的に推理を進展させるようなものは何も掴めぬまま、港から少し離れたこの場所で、二人は点かれた体を休めていた。
 江南は煙草をくわえると、その場に腰を下ろし、足を伸ばした。
 間近で揺れる波のざわめきに耳を傾けながら、ブルージーンにオリーブグリーンのブルゾンを着た島田の背中を見やる。子供に釣り竿を持たせてもらい、無邪気な声を上げているその様子は、とても30代後半の男の姿には見えない。
 島田と守須、二人は対照的な性格だといえる。島田を陽とすれば、守須は陰。どちらかと言うと生真面目で内向的な守須の目には、島田のあっけらかんとした、己の興味や関心にあまりにも忠実な言動が、軽率な野次馬根性として映ったのだろう。島田は島田で、せっかくの楽しみに水を差す守須の良い子ぶりに、いくぶん鼻白んだふうだった。
 「そろそろ行きませんか、島田さん」
 やがて、江南は上から呼びかけた。
 「そうするか」
 島田は子供に竿を返し、手を振って別れを告げた。
 堤防沿いの道を降りると、二人は肩を並べて歩き出した。
 「結局、何もありませんでしたね」
 「おや、そうかい」
 島田はにやにやと目を細めながら、
 「幽霊の話を拾ったじゃないか」
 「あんなの、どこにでもある噂話ですよ」
 「いや、案外そういうところにこそ、真実ってやつは潜んでいるんじゃないかとぼくは思うがね」
 色黒の頑丈そうな若者が道端にいて、器用な手付きで網を繕っていた。また20歳前だろう。
 「角島の有形の正体は他ならぬ、死んだはずの中村青司だってことさ」
 「あのう」
 と、突然耳聞きなれない声がした。声の主は網を繕っていた若者だった。
 「あんたち、島へ行った大学生の知り合いかい」
 島田は若者の方へすたすたと歩み寄って行った。
 「君、彼らを知ってるの?」
 「あの人たちは、俺と親父とで島まで送ってったんだ。えらくはしゃいでいたよ。俺、あんな島のどこが楽しみなのか、さっぱりわからんけど」
 ぶっきらぼうな口ぶりではあったが、島田を見る目は人懐っこそうに光っている。
 「あんたたち、幽霊の話を調べているのかい」
 「ああ、うん。まあそんなとこだな。ねえ、君はその幽霊、見たことあるの」
 「ないよ。ありゃあ、ただの噂だ」
 「誰の幽霊だか知ってる?」
 「中村青司とかって奴だろ」
 「じゃあね、君はその中村青司が、角島で生きているって考えたことはないかい」
 若者は不思議そうに目をぱちくりさせて、
 「生きてるかってか。その人、死んだんじゃないの」
 「死んでないのかもしれないのさ」
 島田は大まじめな口調で、
 「例えば、離れの十角館に明かりが点いていたって話、あれは本当に青司が灯したのかもしれないね。青司の姿を見たっていうのも、幽霊だなんていうよりはさ、彼が実は生きていると考えるほうが、まだしも現実的じゃないか。島に近づいたモーターボートが沈んだっていうのもあったね。これは自分の姿を見られた青司が、釣り人を殺して沈めたのかもしれない」
 「あんた、面白い人だな」
 若者はおかしそうに笑った。
 「でも、ボードの話はぜんぜん違うよ。だって俺、あのモーターボードがひっくり返るとこ、見てたもの」
 「何?」
 「あの日は波が高くてね。俺、ちょうどそこに居合わせたもんだから、やめときなって止めたんだ。どうせあの島の辺りじゃ雑魚しか釣れないっていうのも教えてやったのに、聞かずに出て行ったんだ。そしたらこっちを出てすぐ、島へ近寄りもしないうちに、高波くらってあっという間さ。
 それにね、あんた『釣り人を殺して』とか言ってたけど、誰も死んじゃあいないよ。乗ってた人はすぐに助けられたんだ」
 傍らでやりとりを聞いてきた江南は、思わず吹き出してしまった。島田はつまらなそうに口をとがらせ、
 「しかしそれでもね、うん、青司は生きているんじゃないかと思うんだよ、僕は。モーターボートをどこかに隠していて、ときどきこっちへ買い出しにくるんじゃないかな」
 「さてねえ」と若者は首を傾けた。
 「無理な話だと思う?」
 「どうだかなあ。夜のうちにJ崎の裏側から上がるんなら、無理でもないか。けど、岸にモーターボートを繋いどいたら、いつか見つかっちまうだろ」
 「そこは何とか隠すのさ。とにかく海が時化てなければ、モーターボートでも十分に行き来できるわけだろう」
 「ああ、今ぐらいの気候だったら、エンジンさえ付いていりゃあそう難儀でもないよ」
 「ふんふん」
 満足げに鼻を鳴らすと、島田は勢いよく立ち上がった。
 「いやあ、どうもありがとう。うん、いいことを教えてもらった」
 若者に手を振ると、少し先の路上に止めてあった車に向かって、島田はさっそうと歩きだした。江南が慌てて後を追い、横に並ぶと
 「どうだい、コナン君」
 島田はにたりと笑って言った。
 「大した収穫じゃないか」
 いったい今の話が『大した』収穫なのかどうか、判定に迷うところだが、少なくとも、中村青司生存の可能性を否定するものではなかったと言える。
 (よりによって連中、問題の多い場所に乗り込んでいったもんだな。まあ、そうそう滅多なこともないだろうけど)

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