今日のかまいたちの夜 輪廻彩声はどうかな?
犯人がわかった!
透は、犯人が分かったんです、と言って、俊夫さんに向かって、最後に時計を合わせたのはいつかを尋ねた。
俊夫さんは、クォーツだからめったに狂うことがないので、記憶がない、と答えた。
続けて、透は、鳩時計を合わせたのは誰かを尋ねた。
俊夫さんが、シーズンが始まる前に、自分が電池を入れ替えて、合わせた、と答えた。
透が、自分の時計に合わせたことを確認すると、そうだ、と俊夫さんが答えた。
俊夫さんの時計は、その時から狂っていた、と透は言った。
そして、透は、香山さんに、香山さんの時計は高そうだから狂ったりしないのかを尋ねた。
香山さんは、巻き忘れると止まるが、狂ったりはしない、と答えた。
透は、最後に合わせたのはいつか尋ねると、香山さんは、ハッとした表情を浮かべた。
透は、今までのことをまとめる、と言って話し出す。
シュプールの鳩時計は、俊夫さんが合わせたもので、正確な時間より5分進んでいた。
当然、俊夫さんの時計も5分進んでいる。
時計以外に時間を知る方法は、テレビ、ラジオ、電話時報、ビデオがあります。
このシュプールには鳩時計以外時計がないので、ビデオの時間表示は非常に目につくものになっています。
僕は、ビデオ表示が点滅しているのに気づいていましたが、それが何かはわかりませんでした。
それを聞いた俊夫さんは、ここのビデオは停電すると、そのことを気付かせるために数字が点滅するようになっている。夕べの停電のせいで、ビデオの時間は全部狂っていた、と告げる。
ここのビデオは、停電している間はタイマーが止まって、通電が始まると、また動くようになるタイプ、とのこと。
それを聞いた透は、夕べの停電以降、ビデオの時刻表示は、正確な時刻から11分遅れ、鳩時計を比べると、16分遅れになっていたのだ。
鳩時計と同じ時刻だったとすると、16分間停電していたことになる、と説明した。
小林さんが、ビデオの時計を合わせたとき、電話の時報で確認した、と言うと、透は、停電は11分だったが、重要なのは犯行があったと思われる時間だ、と言い出す。
透は、このペンションには3通りの時間があった、と話し出す。
鳩時計と俊夫さんの時計、狂ったビデオ、正確だと今は判明している透の時計の3つだ。
鳩時計と俊夫さんの時計は、俊夫さんが合わせたから、当然同じになる。
香山さんの時計は、いったいどんな時間だったのか?
香山さんの時計は、ぼくよりも11分遅れ、俊夫さんよりも16分遅れている。
不思議なことに、香山さんの時計は、停電で狂ったビデオの表示と同じだ。
香山さんは、偶然だ、と抗議する。
透は、昨日の夕食の前、香山さんは鳩時計に合わせていたのを見た、と言って話を続ける。
昨日の夕食の時点では、香山さんの時計は鳩時計に合っていた。
田中さんが自室に戻り、停電があり、やがて元に戻った。
そして次の日、不思議なことに、香山さんの時計は16分も遅れ、狂ったビデオと同じ時間だった。
つまり、香山さんは、停電以降、ビデオのある部屋に入って、自分の時計を合わせた。
透は、部屋にビデオがある人に、部屋に香山さんを招き入れたかを確認すると、誰も招き入れていなかった。
透は、香山さんが、夕べ停電以降、田中さんの部屋に入り、ビデオ表示を見てしまい自分の時計を合わせた、と告げる。
春子さんが、あなたなの?どうしてなの?と絶叫する。
透は、犯行の後あわてて同じ凶器で電話線を切っていることから、香山さんが、始めから田中さんを殺す気があったとは思えない。計画的犯行なら、あらかじめ切るだろうから、と言って話し出した。
最初は落ち着いて話をしていて、その時に時計を合わせた。
その後、口論するか何かあり、香山さんは田中さんを殺した。
計画的でないなら、凶器は、田中さんの持ち物だろう。旅行中持っていそうな刃物というとカミソリくらいだろう。
事件の真相
香山さんが腹から絞り出すような声で話し出した。
あいつはマムシのような奴やった。
あいつは、黒木英治ちゅう元総会屋、いや、ヤクザや。
会社始めた頃、労働争議やらなんやらで、やくざまがいの連中につい世話になることもあった。
やっぱりこのままやったらいかん、そう思うて、すっぱり手ぇ切ったんや・・・切ったつもりやったんや。
そしたら、暴力団新法やなんやができて、金回りが悪なったんやろな・・・あの手この手でたかり始めよったんや。
昔のつきあいがあるさかい、警察に訴えるわけにもいかへん。
黒木は、そん中でも一番たちの悪い奴や。こんなことまで追っかけてきよって、五千万よこせ、そやなかったら会社つぶしたるって言いよった。
そんな金出るわけあらへん。話し合いで何とかならんか思たけど、最後にはあいつ、家族に何かあってもええんかいって・・・
そいで、わし、かーっとなって、気付いたらあいつの首絞めてたんや。
・・・はっとして、手ぇ放したけど、あいつ目ぇ剥いて泡吹いとった。
カバンからでっかいマイソリが覗いとったさかい、それであいつの喉、切ったったんや。
みんなが下を向いていると、突然、真理の悲鳴が聞こえてきた。
逃亡と追跡
顔を上げると、香山さんが、後ろから真理を抱きかかえるようにして、喉元に茶褐色に汚れたカミソリの刃を押し当てている。
頼むから動かんといてくれ!この子を傷つけとうない!と、脅迫というより必死に懇願する香山さん。
お願いだからもうやめて、と春子さんが涙声で訴えるが、香山さんはかぶりを振った。
すまん、春子、と言いながら、香山さんは、真理を引きづるように談話室から玄関の方へ向かう。
小林さんが近づくのを見て、香山さんは、車を玄関へ回すんや、と言い放つ。
小林さんは、車で逃げるのは無理だから、止めた方がいい、と答える。
香山さんが、ええから持ってこい!と怒鳴ったので、小林さんは、裏の駐車場へ向かった。
奥さんと、可奈子ちゃんが泣き出した。
しばらくして、表玄関にエンジンの音が響いてきた。
真理は半ば意識を失いつつあり、香山さんが支えていなければ、自分からカミソリの刃に向かって倒れていきそうに見える。
玄関から、雪まみれの小林さんが入ってきて、その子を離せ、と言った。
香山さんは、みんな、そっちに寄るんや、と怒鳴ったので、みんなは談話室の片隅に集まった。
「そこでじっとしとるんやで。麓で解放したる。もし下で警察が待ち構えとったりしたら、どうなるか分かっとるやろな?」と香山さんが言いなが、真理を引きずって、玄関ポーチを下り、エンジンをかけたままの車に乗り込んだ。
透は、玄関のドアを飛び出した。
白いヴァンが、白い闇の中に溶けるように消えてしまった。
透は、小林さんに向かって、車を貸してください、と頼んだ。
俊夫さんが、俺の車で行こう。このあたりの運転なら、俺が一番慣れている、と言った。
俊夫さんが、車を取り行くと、小林さんは、真理ちゃんを頼む、と透に言った。
俊夫さんは、ハンドルにしがみつき、できるかぎりのスピードで飛ばしてくれた。
あっと思った瞬間、車はコマのよにスピンし、衝撃とともに止まった。
助手席の側から雪の壁に激突したようだ。
香山の良心
ペンションから1kmほどは走っただろうか。
歩いては戻れないし、真理も助けられなかった。
その時、木々の枝を震わせて、低い爆発音が地鳴りのように響いてきたので、音のした方向へと向かった。
足元に真新しいタイヤの跡が刻まれているのに気づいた。
タイヤの跡をたどっていると、白い林が途切れ、視界が開けた。
道がない。
急カーブだ、と俊夫さんが言った。
タイヤの跡は、カーブを無視して、まっすぐに崖っぷちに向かっていた。
ガードレールが飴細工のように引きちぎられている。
眼下を見下ろすと、遥か下の沢に火の手が見える。
真理!と絶叫した透は、がっくりと膝から雪の中に崩れ落ちた。
透、と声が聞こえたので、振り向くと、真理が透の方へ向かった歩いて来る。
泣きながら真理が、「あたしを降ろしてくれたの・・それからスピードを出して・・・」と話した。
香山さんは、真理を道連れにするつもりなど始めからなかったのかもしれない。いや、土壇場で良心が勝ったのかも。
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