チラシの裏~弐位のゲーム日記
社会人ゲーマーの弐位のゲームと仕事とブログペットのことをつづった日記

 今日のうみねこのなく頃に咲 〜猫箱と夢想の交響曲〜はどうかな?


 真里亞がいつも持ち歩いている手提げの中には手帳が入っており、そこには例のベアトリーチェの碑文が書き写されていた。
 浜辺で子供たちは謎解きを始める。
 子供たちは何度も挑戦していたようだが、戦人は初めて参加でノリノリだ。


 1行目、懐かしき、故郷を貫く鮎の川。
 金蔵の故郷はどこだろう?と戦人が尋ねると、朱志香が、戦前の右代宮家は小田原の辺りに屋敷を構えていた、と答える。
 そして、譲治が、小田原で鮎といったら、渓流釣りで有名な早川だろう、と答える。


 紗音は、午後の仕事はしばらくない、とのことで、子供たちに付き合っていた。
 使用人という立場上、客人と付き合うのは気を遣って疲れるのではないかと思ったが、紗音の場合、歳の近い人間と一緒に会話に加われるのが楽しいようだ。
 住み込みで働いている紗音にとって、歳が近いのは朱志香だけだったのだ。


 戦人が、早川を下ると何があるんだ?と尋ねると、紗音が、下流に出て海に出ると思います、と答える。
 戦人が、3行目には、川を下ればやがて里ありとある。河口部には、大昔から輸送の要衝になってて大きな都市がある、と話すと、譲治が、小田原城があるところだ、と答える。
 朱志香が、2年前にそこまでは推理できていた、と話す。


 4行目、その里にて二人が口にし岸を探れ。
 戦人が悩んでいると、紗音が、曽我岸という地名が小田原にあるらしい、とヒントをくれる。
 2年前にいっしょに推理した譲治が、小田原城の北に5キロくらいに曽我岸という地名があるが、そこからがわからない、と話してくれる。


 5行目、そこに黄金郷への鍵が眠る。
 曽我岸には、かつて右代宮家があったわけではないんで、その土地のどこかに鍵が隠されててノーヒントじゃお手上げた、と朱志香が愚痴る。
 譲治が、行ったことはないが、曽我岸は浅間山の山麓で、山の中にある、と教えてくれる。


 朱志香が、紗音に、金蔵の子供時代の話を聞かされたことはないのか、と尋ねると、昔の話はほとんどしないが、関東大震災について他人事のように話すので、関東地方よりずっと遠方に住んでいたのでは?と答える。
 譲治が、金蔵は小田原の本家出身ではなく、分家出身だ、と教えてくれる。
 つまり誰も金蔵の故郷を知らないのだ。


 戦人は、鍵なんてなくても扉はブチ壊して入ればいいから、最初の5行をすっ飛ばして、その先の推理に入ろう、と言い出す。


 第一の晩に、鍵の選びし6人を生贄に捧げよ。
 第二の晩に、寄り添う二人を引き裂け。
 そして、第四の晩から第八の晩まで5人、少なく見積もっても11人が生贄にされなきゃならない。
 魔女復活のための生贄を捧げた結果、第九の晩に魔女が蘇り、誰も生き残れはしない。
 みんな死んでしまうのに、第十の晩に黄金郷へ至るだろう、と書かれている。
 そして、魔女からもらえる4つの宝、一つはすべての黄金はわかるが、全ての死者の魂を蘇らせるは、みんな死んでしまったことに掛けている気がする。
 その次の、失った愛すらも蘇らせるも、第二の晩の寄り添いし二人を引き裂け、に掛けているようだ。
 第九の晩に蘇った魔女を、4つ目の宝が再び眠りにつかせる、となっていることから、好意的に解釈すると、死んだり別れさせたりと忙しいが、最後にはチャラになり、目覚めた魔女も再び眠り、手元には黄金が残るってことだろうか?


 戦人と朱志香が、魔女を胡散臭いと言った途端、真里亞が激高する。
 手帳には、碑文とともに、真里亞が書いた魔法少女チックな魔女が描かれていた。
 真里亞にとって魔女は、真里亞を虜にする魔法の夢を具現化できる唯一の存在なのだ。
 譲治が、真里亞にとっては碑文は黄金の場所を示すものじゃなくて、魔女を蘇らせる魔法だ、とフォローを入れてくれるが、真里亞はヘソを曲げたままだった。
 紗音が、使用人の間ではベアトリーチェ様の怪談が語り継がれている、と話し出す。


 これは、この島に屋敷が建てられてからずっと語り継がれている話で、当時の使用人たちは、屋敷には昼と夜で違う主がいると囁きあっていた。
 ちゃんと閉めたはずの窓や扉や鍵が、もう一度見回りに来たら開いていたとか、消したはずの灯りが点いていたり、点けたはずの灯りが消えていたり、置いたはずのものがなくなっていたり、置いた覚えのない物が置かれていたり、そういうことがあるたびに、古い使用人たちは魔女が姿を消して屋敷を訪れ、悪戯をしていったのだろうと囁き合った。
 他にも、鬼火や輝く蝶々が舞っているのを見たという使用人もおり、嘉音も見たことがあるそうだ。
 あと、最近では屋敷の中で深夜に、不思議な足音をよく聞くと使用人の間で話題になっており、肖像画の中のベアトリーチェ様が姿を消して屋敷の中を散歩しているんだろうと囁き合っているとのこと。実際、紗音も夜の見回りの時に、そういう足音を聞いたことがあるそうだ。
 ベアトリーチェ様は、もう一人の屋敷の主のため、変に怯えたりしないで、敬意を持っていれば、決して悪いことはしないそうだ。紗音が勤めを始める直前に、階段を転がり落ちて腰に怪我をして辞めた使用人は、ベアトリーチェ様のことを悪く言っていたそうで、ベアトリーチェ様のお怒りに触れたのだろうと噂しあったとのこと。


 それを聞いた戦人と朱志香は、真里亞とベアトリーチェに謝罪するが、真里亞は、魔女は気まぐれだから、と言い出す。
 譲治が、魔女のお怒りに触れないよう、真里亞に何か魔除けのようなものがないかを尋ねる。
 真里亞は、手提げを探り、やがてサソリをモチーフにしたデザインのメダルが付いたプラスチック製のブレスレットでを2つ取り出し、戦人と朱志香に手渡した。
 真里亞は、サソリは魔除けの力があるから、ベアトリーチェも大丈夫!と胸を張る。
 戦人は、ゲーセンの安っぽい景品のようだ、と思いながら、真里亞に感謝の言葉を伝える。


 その後、熊沢が焼いてくれたクッキーを食べながら、真里亞に黒魔術のアレコレを尋ねると、真里亞は嬉しそうに饒舌に答えてくれた。
 紗音の夕方の仕事が始まる時間が近づいたので、全員で敷物を畳み、ゴミを集めて、片付けをしてお開きになった。


 仕事がある紗音は一足先に屋敷に戻り、子供たちはゆっくりと薔薇園まで戻ってきた。
 だいぶ風が強くなってきており、今夜の台風が薔薇を滅茶滅茶にするだろう、と戦人が思っていると、真里亞が、「真里亞の薔薇、台風で飛ばされちゃう。うー!」と言い出し、走り出す。
 真里亞は、目印を付けたはずの薔薇を探すが見つからないため、みんなも手伝うことにしたが、真里亞が、「真里亞の薔薇はここなの!うー!うー!」と地団駄を踏むので、みんなは他の場所が探せず、真里亞が示す場所で探すフリをする羽目になった。
 そこへ偶然、真里亞の母親の楼座がやって来る。
 「探してー。ママも真里亞の薔薇を探して!うーうーうー!」と真里亞が言うので、戦人は楼座に、真里亞が元気のない薔薇に飴玉の包み紙を結び付けて目印にしたが、ここじゃなく他の場所だったと思う、と説明する。
 それを聞いた真里亞は、「ここなの!戦人が信じてくれない!うーうー!!」と騒ぎ立てたため、「うーうー言うのをやめさいって何度言ったらわかるの!ママも探してあげるから静かにしなさい!!」と楼座がキレてしまう。
 結局、楼座も探すが見つからなかったので、「他の場所の間違いじゃないの?」と言うと、真里亞は「違うの!ここにあるの!ママも信じてくれない!うーうーうー!!!」とさらに叫ぶ。
 楼座が、「誰かが抜いちゃったんでしょ。とにかくうーうー言うのをやめなさい」と言うと、真里亞はさらに興奮して、「真里亞の薔薇、抜いたのは誰、誰!返して、返して!うーうーうー!!!」とさらに騒ぎ立てたため、楼座はブチ切れて、平手で真里亞の左頬を打った。
 真里亞は一瞬静かになったが、自分の願いが拒絶されたことを知ると、ますます「真里亞の薔薇、真里亞の薔薇!うーうーうー!!!」と大声で騒ぎだす。
 楼座が、「その変な口調をやめなさいと言ってるでしょ!だからクラスの子たちにも馬鹿にされるんでしょうが!いい加減にしなさい!」と言って、もう一度真里亞の頬を打った。
 真里亞がますます大声で叫び出し、楼座が再度真里亞に手を上げようをしたので、戦人は間に入ろうとしたが、マジな顔をした楼座に凄まれてしまう。
 「誰も真里亞の薔薇を信じてくれない!ここにあったのに!探して!うーうーうー!!!」
 「でもないじゃない、なら他の場所の間違いでしょ?」
 「絶対にここなの!うーうーうー!!!!」
 「じゃあなくなっちゃったのよ、諦めなさい」
 「どうしてどうして、真里亞の薔薇がなくなっちゃうの?うーうーうー!!!」
 「知らないわよ。だから、そのうーうー言うのをやめさない!!!!」
 ガチ切れした楼座が、真里亞の頬を力強く打ったため、真里亞は転んでしまう。
 戦人は、暴力はいけませんよ、と言いながら二人の間に割って入る。
 「戦人くんは変に思わないの?うーうー唸っている女の子なんている?」
 「さすがに高校には・・・でも小学生なら、そういうのも可愛いじゃなすか」
 「可愛いって!」
 楼座の逆鱗に触れたらしく、楼座はすごい形相で戦人の胸倉をつかみ上げる。
 「馬鹿言ってんじゃないわよ!真里亞がいくつか知っている?9歳よ、小学4年生なのよ!幼稚園児じゃないのよ!それなのに、クラスでうーうー言ってるのよ!この変な口癖のせいで、未だに友達のひとりもいないのよ!無責任に真里亞のこと可愛いとか言って現実から目をそらさないで!この子の将来のことを、もっともっと真剣に考えて!!!」
 うずくまりながらうーうーと大声で不満の声を上げる真里亞の頭を、楼座は「うーうー言うのをやめなさい!!!」と言いながら引っ叩く。
 戦人が楼座を止めようとするが、逆に突き飛ばされてしまう。
 譲治が、「そのまま社会人にはなれないよ。これは叔母さんたち親子の問題なんだよ。それに、怒られているところを誰かに見られたくないよね。行こう。そして、真里亞ちゃんが戻ってきたら、何事もなかったかのように迎えてあげようろ」と戦人に声を掛けて、ゲストハウスに戻ることを促す。
 3人は、真里亞にゲストハウスに戻る、と声を掛け、その場を後にした。


 「それなら好きなだけ探しなさい。ママは知りません」
 「真里亞がひとりで探す!ママが知らなくても探す!うーうーうーうー!!!!!」
 「勝手にしなさい」と楼座は言い捨てて、屋敷に戻っていく。
 『間違いなくそれはここになった、なのに、ない』
 真里亞はいつまでも花壇の前で、あの薔薇を探し続けている・・・


 雨が降り出し、金蔵は雨音に誘われるように窓辺に近づいた。
 「遅かったではないか、ベアトリーチェ。さぁ、始めようではないか。もう誰も、私の儀式の邪魔をすることはできぬ。お前に相応しい生贄は充分にあるぞ。息子たちが4人。その伴侶が3人。孫たちが4人。私に客に使用人たち!どれでも好きなだけ食らうがいい。運命の鍵は、悪魔のルーレットに従い生贄を選ぶであろう。さぁ、全てを賭すぞ。まずは右代宮家の家督を返そう。受けとるがいい!」
 金蔵は窓を開け、指にはめていた黄金の指輪をむしり取り、力強く投げ捨てた。
 「私が最後まで生き残り、お前の目覚めを見守るだろう。さぁ、来たれベアトリーチェ。ようこそ、我が宴へ。私が生み出した全てと引き換えに、私にもう一度だけ奇跡を見せておくれ」

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 今日のうみねこのなく頃に咲 〜猫箱と夢想の交響曲〜はどうかな?


 玄関を出る前に、魔女の肖像画に目に入る。
 戦人が「魔女ベアトリーチェか」とつぶやくと、真里亞が「戦人、信じてない?」と言い出して、肖像画の下にあるプレートをパシパシと叩いた。
 『我が最愛の魔女ベアトリーチェ。懐かしき故郷を貫く・・・』
 プレートには長々と碑文が書かれている。
 朱志香が、「じい様が書かせてもんだよ」と言うと、真里亞も「黄金の隠し場所!」と言い出す。
 譲治は、「おじい様はこの絵とこの碑文に関しては何も語ってはくれないんだ。でも親類たちの間では、おじい様の黄金の隠し場所を記したもので、この謎を解いた者には家督と黄金のすべてを譲るという意味ではないかと、もっぱら囁かれているよ」と言った。
 「10tの金塊なんてねぇ。眉唾だけどな」と朱志香はぼやいている。


 右代宮家の黄金伝説とは
 金蔵は関東大震災で潰れかかった右代宮家を継ぎ、戦後の荒波をうまく乗り切り莫大な富を手にしたのだが、最初の資本金をどう築いたかということである奇妙な伝説があった。
 金蔵は分家筋から来た人間で、政界にも財界にもコネクションはなく、後に進駐軍に太いコネクションを築くにしても、一番の最初は誰の信頼を得ていない無名の人物だったはずだ。
 信用がゼロの金蔵は、いかにして最初の莫大な資金を手に入れたのか。
 このことを尋ねられた金蔵は、「私はある日、黄金の魔女ベアトリーチェに出会ったのだ」と答えた。
 金蔵が悪魔を呼び出す儀式の果てに召喚したのが、黄金の魔女ベアトリーチェなのだという。
 そして金蔵は己の魂と引き換えに、ベアトリーチェに富と名誉を授けるように契約したというのだ。
 魔女は、金蔵に10tの金塊を与えたという。
 金蔵はその黄金を担保に莫大な資金を用意し、さらにそれを元手の何倍にも増やし、右代宮家を復興させた、というのだ。
 この辺の話は、戦人たちの親たちが子供のころからすでに聞かされている相当古い話らしい。
 だから、親たちも小さい頃は、魔女から得た黄金が島のどこかに隠してあるのではないかと信じて、いろいろ探検をしたらしい。
 だが無人の森に入って迷子になったりして危なかったため、祖母辺りが、森には魔女が住んでいるから危ない、近寄ってはいけない、という話を吹き込んだ。


 戦人たちも小さいころ、宝探しと称して島中あちこちうろうろして、森で迷子になって、わんわん泣いてたところを使用人さんに見つけてもらって、親にメチャクチャ怒られたことを思い出した。
 譲治は、「黄金が元からこの島に隠されていたので、この島を丸々買い取ったのかも」と言い出す。
 10tの黄金の価値ってどれくらいなんだという疑問がわいた戦人は、譲治にたずねてみると、譲治は、「1kg当たり200万円程度の価値はあるんじゃないか」と答える。
 戦人ががんばって計算してみると、10tの黄金の価値は200億円だとわかる。
 生涯賃金が2億円と言われており、20歳から60歳まで40年働くとすると、4000年分の労働賃金に匹敵するのだ。
 譲治は、「黄金は非常に重くて、財産をまとめておくにはちょっと便利とは思えない」と言うと、朱志香が、「国際的に一番信用されて価値も安定しているからね。もし証券とかだったら、国が滅びちまったら紙切れになっちまうわけだし」と答える。
 どうやら200億円分の黄金が山積みになってるのは、現実味がないらしい。
 「爺様に大金持ちの有閑マダムが気前よく恵んでくれて、そのご婦人を魔女と呼んだ、ってことじゃねぇの」と朱志香が言うと、戦人も納得する。
 朱志香が、本人をだいぶ美化して美人に描いたのではないか、と言い出し、戦人が、「この美人は絵の中にしかいない」と言うと、真里亞が、「ベアトリーチェはいる!魔女はいる!」と怒り出す。
 朱志香が小声で、「真里亞は魔女とかベアトリーチェとか確かに存在するって信じてんだよ」と耳打ちする。
 譲治も、真里亞が学校の文集に将来の夢は魔女と書いたことを、教えてくれる。
 戦人は、クリスマスの日にサンタクロースはいないと発言したようなもんだと気づいて、素直に真里亞に謝り、二人は仲直りする。


 そこへバスケットを持った紗音がやってくる。
 朱志香が、戦人がベアトリーチェの肖像画を初めて見て、見とれていた、と言い出すと、紗音は、「ベアトリーチェ様って本当にお綺麗で、さぞやお館様を虜になさったろうに思います」と答える。
 譲治が、パトロン説のほかに、おじい様の初恋の人だという説もあることを教えてくれると、朱志香は、ばあ様は、金髪の浮気相手がいると信じていたらしい、と言った。
 紗音の持つバスケットからいい香りがする。
 熊沢からの届け物とのことで、バスケットの中は、クッキーだった。
 ここで食べるのも憚られるので、ピクニックに出かけることにし、譲治は、紗音に敷物と水筒を持ってきてほしい、と頼む。


 同時刻、客間で親たちも黄金について話し合っていた。
 絵羽は、金蔵が出自不明の金塊を持っていたことは複数の筋から確認されている、と言い出す。
 亡くなったマルソーの会長が、金蔵に10tの金塊を見せられ、インゴットの1つを任意で抜き取らせて鑑定したところ、純度99.99で、インゴット表面には右代宮家の家紋である片翼の鷲が刻印されていた、という。
 しかし、蔵臼だけは、黄金の存在を否定したので、蔵臼以外の親たちは、蔵臼が黄金を独り占めしようとしている、と言い出し、蔵臼が莫大な軍資金を調達できたのは、10tの金塊を見つけて、金蔵の個人資産を横領したからではないのか、と指摘し、蔵臼の財務調査をさせてもらうが、条件を飲んでくれたら財務調査は蔵臼の一任してもいい、と持ち掛ける。
 条件を蔵臼が尋ねると、①黄金を見つけたことを認めること②黄金について兄弟の取り分を認めこれを支払うこと③黄金の分配は右代宮当主後継ぎの肩書に50%、残りを兄弟の正当な取り分として分割④分配金は金蔵の死亡時に遺産分配に含めて清算する。ただし手付金をして、取り分の10%を来年3月までに即納してもらう⑤この取り決めは金蔵の遺言状に優先する、と蔵臼以外の親たちが答える。
 要は、金蔵死亡時に200億円のうち、蔵臼に125億円、絵羽、留弗夫、楼座にそれぞれ25億円を分け与えるのだが、来年3月までに手付金として絵羽、留弗夫、楼座に7億5000万円を払う、というものだ。
 それを聞いた蔵臼は、存在しない黄金のために75億円を払うことと、財産状況調査を自分に一任する権利を7億5000万円で売りつける気か、と言って聞く耳を持たない。
 それどころか、蔵臼は、自分以外の兄弟が黄金を発見した場合、すみやかに蔵臼に引き渡すこと、という条件を付けてきて、取引が成立した。
 いざ、誓約書のサインする場面になって、蔵臼は修正を求めてきた。
 それは手付金7億5000万円を即納することをやめて、遺産分配時にすべて一括で清算する、というものだった。
 蔵臼の今の財務状況では、とうてい半年で7億5000万円も用意はできない、ということだった。
 それを聞いた蔵臼以外の兄弟たちを顔が青ざめる。
 秀吉の会社は上場したところ、自社株をタチの悪い連中に買い占められ、今すぐにでも大金が欲しい状態だった。
 留弗夫の会社はアメリカで権利侵害で係争中で、和解した方が安上がりになるのだが、それでも数百万$になるとのことで、やはり大金が欲しい状態だ。
 楼座は連帯保証人になっており、やはり大金が欲しい状態だ。
 結局、交渉は決裂した・・・


 同時刻。
 金蔵は、嘉音から、兄弟間の交渉について聞き出している。


 同時刻、客間に入れない南條は、碑文の前で、源次に声を掛けられる。
 碑文を見ながら南條は、どうして金蔵がこんな挑発的なものを書いたのだろうか?と疑問を口にすると、源次は、碑文を理解できた者に財産や家督を譲るための遺言状だと思う、と答える。


 碑文の内容は以下の通り。


 懐かしき故郷を貫く鮎の川。
 黄金郷を目指す者よ、これを下りて鍵を探せ。


 川を下れば、やがて里あり。
 その里にて二人が口にし岸を探れ。
 そこに黄金郷への鍵が眠る。


 鍵を手にせし者は、以下に従いて黄金郷へ旅立つべし。


 第一の晩に、鍵の選びし六人を生贄に捧げよ。
 第二の晩に、残されし者は寄り添う二人を引き裂け。
 第三の晩に、残されし誉れ高き我が名を讃えよ。
 第四の晩に、頭を抉りて殺せ。
 第五の晩に、胸を抉りて殺せ。
 第六の晩に、腹を抉りて殺せ。
 第七の晩に、膝を抉りて殺せ。
 第八の晩に、足を抉りて殺せ。
 第九の晩に、魔女は蘇り、誰も生き残れはしない。
 第十の晩に、旅は終わり、黄金の郷に至るだろう。


 魔女は賢者を讃え、四つの宝を授けるだろう。
 一つは、黄金郷のすべての黄金。
 一つは、全ての死者の魂を蘇らせ。
 一つは、失った愛すらも蘇らせる。
 一つは、魔女を永遠に眠りにつかせよう。


 安らかに眠れ、我が最愛の魔女ベアトリーチェ。


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 今日のうみねこのなく頃に咲 〜猫箱と夢想の交響曲〜はどうかな?


 右代宮家の親族会議は、年に1度、10月の最初の土日に行われる。
 莫大な資産の一部を息子兄弟に貸し出し、事業的は成功を以て一人前と見なそうという右代宮家では、それは文字通り会議であった。
 どれほどの資産を投じて、どのような事業を行い、どれほどの収益を上げたのか。その結果、本家より借りた資産をどれだけ返済できるのか。あるいは、さらなる事業のためにどれだけを借りるのか。どのようなことが教訓となり、どのようなことから失敗が学べるのか。そういうことをかつては大真面目に会議をしていた。
 ただ、それも今では昔のこと。皆がそれぞれに事業家として成功を収めた今では、世間一般的は、年に1度の挨拶的な会合になりつつあった。


 さて、6年ぶりに顔を見る、朱志香の父親についても紹介しておこう。
 戦人の父親の留弗夫の左に座っているのが、留弗夫の兄にあたり、朱志香の父親でもある蔵臼叔父さんだ。


 右代宮蔵臼(うしろみや くらうす)
 金蔵の第1子で、4兄弟の長男。
 他の兄弟たちには、財産を独り占めしようとしていると思われており、兄弟との対立は激化している。
 不動産投資で、リゾート開発に莫大な投資をしているが、その成果は酷評されている。


 戦人から見て蔵臼は、あまり子供とは話さない人で、いっつも大人たちと話している印象しかない。
 留弗夫の陰口によると、随分と陰湿で乱暴な人だったらしい。
 留弗夫の言い分が真実なら、昔は長兄として威張り散らしていたそうで、親兄弟みんなの嫌われ者だそうだ。


 蔵臼たちと逆側のテーブル末席の霧江の向かいに座っているのは、恰幅のいい老紳士だ。
 この人は戦人とは初対面だ。
 南條というお医者さんで、金蔵の主治医らしい。


 南條輝正(なんじょう てるまさ)
 金蔵の主治医であり、長年の友人。
 新島の開業医だったが、息子に病院を譲り、穏やかな老後を過ごしている。
 猜疑心の凝り固まった金蔵が心を許す数少ない人物のひとり。
 非常におおらかな性格で、すぐに激高する金蔵にも動じず、長く交流している。


 金蔵がこの島に屋敷を立てた当初からの付き合いだそうで、数十年の交流があり、金蔵のチェス仲間とのこと。
 親族と使用人を除いて、ただ一人六軒島に出入りできる存在だ。
 ただ、今日という親族会議の日に、主治医とはいえ右代宮家以外の人間が同席していることから、金蔵の容態がだいぶ悪そうだ。


 空席のお誕生日席に座るべき人物は、右代宮金蔵。
 非常に短気でおっかない人だ。
 戦人は最後に会ったのは6年前の小学生の時だったので、叩かれたりした覚えはないが、親兄弟たちはずっと鉄拳で教育されてきたらしい。
 金蔵を語る上での重要なエッピソードは、昭和以前にまで遡って右代宮家を語らなければならない。
 右代宮家は、明治大正の頃までは隆盛を極めた立派な家柄だった。
 紡績工場をいくつも持ち、毎日笑い転げているだけで金が転がり込んでくる富豪っぷりだった。
 ちなみに金蔵は、分家筋で、本来なら右代宮本家とは何の関係をない人だった。
 ところ大正12年の関東大震災で、当時小田原に屋敷を持っていた右代宮本家は崩壊。
 東京下町に持っていた紡績工場は大火事で全焼し、右代宮家は一瞬にして主だった親族と財産を丸ごと失った。
 それで右代宮本家の跡継ぎは、分家筋の金蔵しか残っていなかった。
 それで、金蔵は、財産のほとんど失った右代宮本家の再興を託されることになった。
 そこから金蔵が非凡な才能と強運を発揮し、右代宮本家の残された全財産と金蔵自身を丸ごと担保に入れるような状態で巨額の借金をし、莫大な資本金を築くと、すぐに事業を興した。
 信じられないような強運や奇跡、偶然をいくつも積み重ねて次々にチャンスを物にし、いつの間にか進駐軍に強力なコネクションを持つようになっていた。
 金蔵は瞬く間に進駐軍の庇護下で大事業を成功させて成り上がっていった。
 金蔵は太いコネクションを進駐軍に作っており、昭和25年ごろ朝鮮特需が起こることを最初から見越していて事業を食いこませ、瀕死の右代宮家をわずか20数年で、かつて以上に復興させた。
 それで、縁ある小田原に本家を復興すると思ったら、なんと伊豆諸島の小島を丸ごと購入するというとんでもないことをしてしまった。
 金蔵は、GHQを通じて、水産資源基地を建設したいと申請し、この島を事業地として取得。その後、それを反故にして自分の土地にしてしまった。
 GHQの肝いりで、当時の東京都はほとんどタダ同然でこの土地を提供したそうだ。
 金蔵は強運の持ち主だが、英語力を武器にGHQに食い込むことができた。
 金蔵は、島のこの屋敷を建て、莫大な資産をうまく運用し、鉄鋼業界の大株主となり、その配当金だけで悠々自適となった。
 金蔵には、時代を見通す先見の明があったという評価が付けられていたが、金蔵はそれを否定し、自分は単に並外れた運気に恵まれていただけであると言い続けている。
 昔から西洋かぶれだった金蔵は、いつの頃からか黒魔術研究をライフワークにし始め、どんどんおかしくなっていった。


 一行は、郷田の作ったランチを味わっている。郷田の腕は大したものだった。
 朱志香曰く、老舗ホテルの暖簾分けだか派閥の分裂だかややこしいことがあり、そのトラブルで郷田は辞めざるを得なかったが、その時、偶然、右代宮本家で使用人の求人を出していたとのこと。
 応募のあった中で一番腕がよかった郷田を、夏妃が雇ったのだ。


 紗音と熊沢が配膳ワゴンを運んできて、郷田がデザートを皆の前に配膳した。
 デザートのソースを味見した戦人は、紗音に何のソースかを尋ねたが、紗音は言い淀んでいる。
 そこへ熊沢は、「鯖の搾り汁です」と答え、それを真に受けた真里亞以外は大爆笑。
 熊沢は、「冗談ですよ。今から郷田さんから説明してくれます」と言い、郷田は説明を始めた。


 配膳ワゴンを押して、紗音と熊沢は食堂を後にした。
 食堂を出るとすぐに紗音は、助け船を出してくれた熊沢にお礼を言った。
 「なぁんもお礼を言われることなんてありません」と熊沢は惚けた。


 一行は、食堂の片づけがあるため追い出され、客間でお茶が振舞われた。
 楼座が夏妃のために買った紅茶を淹れてくれるとのことだが、子供たちは外で遊んでくるように言われて、客間から追い出されてしまった。


 留弗夫が、「去年の時点で余命3ヶ月だったんだ、ってことはすでにマイナス9ヶ月ってことじゃねえか」と口火を切ると、夏妃が「当主様は今でも健在でおられます」と答える。
 秀吉も「こういうしょっぱい話は、余裕あるうちにしとくもんなんや」と留弗夫を援護する。
 蔵臼が南條に皆に説明するように促す。
 南條は、「まず初めに、私が去年申し上げました余命3ヶ月という言葉が独り歩きしているようですので、その訂正からいたします。余命というのはあくまでも見込みであって、いつ亡くなるのか、ということは決して断言できないことなのです。金蔵さんの身体はすっかり病魔に蝕まれております」と説明すると、絵羽が、「見込みで結構なんですけども、お父様、来年の今日まではさすがにどうかしら?」と尋ねる。
 皆が非難の声を上げると、絵羽は、「ごめんなさい。お父様の容態が気になって仕方がなかったもので」と笑いながら謝罪する。
 それを聞いた南條は、「来年までお元気か、という質問ですが、医者の私としては、とても難しい。この小康状態がまだしばらくは続くように思いますし、何らかの発作が来ればその時にはどうしようもないかもしれません。何しろ六軒島は孤島です。すぐに救急車が飛んでこれるわけではありません。本来ならは、本土の然るべき大病院に入院していただきたいところなのですが・・・」と言うと、蔵臼が、「親父殿は、高尚な研究を中断されたくないと仰せだ。去年、無理に連れ出そうとしたのが仇になり、外に出れば病院に閉じ込められてしまうのではないかとひどくお疑いになられていてな。親父殿は南條先生には心を許しておられる。機嫌が良ければ診察も受けられるようだがね」と続けた。
 「容態を見はするが、薬を勧めようとも入院を勧めようとも、聞き入れてくれん。本当に見るだけですがな」と南條が言った。
 留弗夫が、「つまり、相変わらず余命は3ヶ月。瀕死のままで後どれだけ永らえるか見当も付かねぇってことだ」と言った。
 蔵臼は、「実を言うと、南條先生とは異なる意見でね。とても余命3ヶ月の重病人とは思えないというのが本心だ」と言い出す。
 留弗夫は、専門家の意見を採用させてもらう、と言って、「親父の財産を話し合うことは時期尚早ではないってことさ」と続けた。
 それを聞いた南條は、「これ以上はお邪魔の様ですので、失礼させていただきましょう」と言って、席を立って客間を出て行った。
 蔵臼夫婦以外は、金蔵の余命が短いので、遺産分配について早急かつ具体的な協議に入りたい、と蔵臼夫婦に詰め寄る。
 一行は、蔵臼のリゾート計画が失敗を続け、焦って清算した挙句、傷口を広げてしまったことを知っていた。
 そして、金蔵の持ち物であるこの六軒島をリゾート化するため、ゲストハウスを自分の名義でリゾートホテル化し、庭園の整備するのに、相当な金を使ったことも知っていた。
 そのゲストハウスは、完成して2年も経つのに、年に1度親族会議の時に使うのみで、管理会社とのトラブルが生じたため未だホテルとして開業する目途は立っていない。
 そして、一行はその管理会社がトラブルで空中分解していることや、蔵臼がホテルを売ろうとしているが、観光ルートの確立していない離島のホテルには買い手がつかくわけないと踏んでいる。
 そしてリゾート化に掛けた先行投資という名の負債の大きさも知っていた。
 一行は、蔵臼にそれほどの金額を融資する人物が見当たらないことから、蔵臼は金蔵の個人資産を自分の事業に流用している、と糾弾する。
 絵羽が、これは横領で刑事告発できる立派な犯罪で、父親に対する裏切りだ、と言い放つと、夏妃が激高して、屋敷から出ていくよう、に告げる。
 それを聞いた絵羽は、「当主様の左肩を許されている右代宮家序列第3位の右代宮絵羽に下がれと!身の程を知りなさい!お前のどこに片翼の翼が許されているのか?貴様など右代宮家の跡継ぎを遺すためだけの存在じゃないの!この下衆女が!」と攻撃すると、夏妃は一言も言い返せず、涙をこぼすのみ。
 蔵臼が、夏妃に席を外して頭も冷やしてくるように言うと、夏妃は、自分の肩をもたなかったことを憤慨し、「どうして言い返さないんですか!あなたが言い返さないから私が言い返しているのに、その私に頭を冷やしてこいなんて言うんですか!」と泣きながら客間を飛び出していった。


 客間を飛び出した夏妃は、廊下で熊沢に会ったが、「何でもありません。下がりなさい」と言って、自分の寝室に飛び込むとベッドに伏して号泣した。


 右代宮家は血を特に重んじるが、嫁いで家を出れば、本来は序列から除籍される。
 絵羽も本来は秀吉との結婚の際に除籍されるはずだったが、蔵臼と夏妃との間に子供が授からなかったため、絵羽は、自分が入り婿をとって跡継ぎを産むと吹き込み、自分の席を右代宮栄に留まらせるよう認めさせたのだ。
 右代宮家に嫁いたが跡継ぎを遺せず外様扱いの夏妃と、入り婿を取る形で血族に残った絵羽は、右代宮家の序列の中では雲泥の差。
 しかも、絵羽の方が先に男児を産んでいる。
 熊沢は、そんな夏妃を「おいたわしや」と物陰から見守ることしかできなかった。


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 今日のうみねこのなく頃に咲 〜猫箱と夢想の交響曲〜はどうかな?


 ゲストハウスにいる子供たち4人は、6年ぶりにそろったが、中身は6年前とまったく同じで、楽しく過ごす。
 ノックの音がし、「失礼します。お食事のご用意ができました」と慎ましやかな紗音の声が聞こえる。
 朱志香が立ち上がって、扉を開け、紗音を部屋の中に迎い入れる。
 「御無沙汰しております、戦人さま。6年ぶりにございます、紗音です」と紗音は深々と会釈する。
 「はー、あんたもすっかり美人になったじゃねぇのよ」と声を上げる戦人。
 「もったいないお言葉、恐悦に存じます」
 「何を食ってどこを鍛えたらそんなにでかいお胸になるんだか!朱志香とどっちがでけぇか、ちょいと触って確かめさせてもらうぜ」
 これは戦人のコミュニケーション術で、十中八九どつかれたりするけど、残り一くらの確率で本当にタッチできたらラッキーだ、思っている。
 ところが、戦人の手が紗音のお胸に接触するまで1cmくらいのところまで来たのだが、紗音は真っ赤になって俯いているだけで、拒絶して戦人をどつくとか、胸を庇う行動をとろうとしない。
 そのタイミングで朱志香が戦人の後頭部に肘鉄を叩きこむ。
 「すまんぜ紗音ちゃん。魅力的な胸に思わず吸着されそうになっちまった。駄目だぜ、抵抗しなきゃ」
 「ですけど、戦人さまは、大切なお客様ですし」
 「お客様でも、犯罪は犯罪。ビンタをくらわしてやれ」
 「そんなことできません!私たちは、その・・・家具ですし。でも、命令ならお聞きします。それが務めですから」
 それを聞いて譲治が「命令させてもらうことにするよ。次から戦人くんが滑に触ろうとしたら、平手打ちで反撃すること」と笑いながら言った。
 「はい、仰せつかりました。以後、そのようにさせていただきます」と晴れやかな表情で紗音はお辞儀しながら宣言した。
 戦人が、紗音に今年で何年になるのかを尋ねると。紗音は10年ほどお仕えさせていただいております、と答える。


 紗音
 若いが年季のある使用人。
 普段は落ち着いて仕事をそつなくこなすが、焦るとミスが多くなる。
 なお、紗音はあくまでも勤務時間中の仮の名前で本名ではない。


 紗音は6つの時からここに勤めているという古参の使用人だ。


 譲治が、さっきあった嘉音は紗音の弟だ、と教えてくれる。


 戦人たちは紗音に先導されて、お屋敷に向かう。
 再び立派な薔薇庭園に迎えられ、さらに進むと見えてくるのが、迫力ある右代宮本家の御屋敷だった。
 玄関に入ると、老いた使用人が迎えてくれた。最古参で、使用人の長を務める源次だった。


 呂ノ上源次
 右代宮家に使える使用人たちを他b寝る使用人頭。
 金蔵にもっとも長く使えており、最大の信頼を得ている。
 金蔵直属の使用人であるため、蔵臼夫婦には、金蔵のスパイのように思われている。


 「戦人さま、お久しゅうございます」
 「源次さん、本当にお久しぶりっす。お元気そうですね」
 「お陰様で健やかに過ごさせていただいております。戦人さまこそ、ご立派になられました。お館様の若き日に、少し似てこられましたな。ここからは紗音に代わって私がご案内申し上げます。」
 源氏の案内で食堂へ向かう。


 吹き抜けのホールを通り抜ける時、戦人は6年前の記憶にないものを見つけた。
 それは2階に上がる階段の真正面に飾られた、とても大きな肖像画だった。
 「なぁ朱志香、あんな絵、前はあったっけ?」
 「戦人が来てた頃にはアレは掛けられてなかったっけ。」
 それを聞いていた源次は、「一昨年の4月に、お館様がかねてより画家に命じて描かせていたものをあそこに展示なされたのでございます」と答える。
 肖像画には、この洋風屋敷にふさわしい、優雅なドレスを着た気品を感じさせる女性が描かれていた。歳はわからないが、目つきにやや鋭さと意志の強さを感じさせるため、若そうな印象を受けた。
 肖像画の女性は美しい黄金の髪で、日本人的ではない容姿を感じさせた。
 真理亞は、魔女のベアトリーチェ、と言った。


 この六軒島は全周が10km程度の小さな島で、右代宮家だけが住んでいる。
 住めるように聖地されているのは、船着き場ち屋敷の周りの敷地だけで、あとはこの島が無人島だった時代から手つかずのままになっており、一切の明かりも電話もなく通行人もいない無人の広大な森が広がっている。
 そんな危険な森に子供が遊びに行ったら大変なことになるかもしれない。
 「森には恐ろしい魔女がいるから立ち入ってはならない」
 それが六軒島の魔女伝説である。
 だから、この島で魔女と言ったら、それは広大な未開の森の主を指す。


 「なるほどなぁ、あの魔女伝説の魔女に、ベアトリーチェなんてオシャレな名前がついてたとは、とんと忘れてたぜ」
 「爺さまの妄想の中の魔女だよ。この絵を掲げた頃から現実と妄想の区別がつかなくなり始めた。私たちにとっては想像の中にいる魔女にすぎないけど、爺さまにとっては、彼女はこの島にいる存在。だから、それを理解することができない私たちにもわかるよう、あの絵を書かせたって言うんだけど、気持ち悪いったらありゃしないぜ」と朱志香が言った。
 「お嬢様、お館様にとっては大切な肖像画です。お館様の前でそのように仰せられることがございませんよう、固くお願い申し上げます」と源次が言うと、朱志香は「頼まれて言わねえよ」と、忌々しいような目つきで肖像画を一瞥すると、そっぽを向いた。


 この島で、右代宮家が支配している部分などほんのわずかだ。
 残りの未解の部分をすべて彼女、魔女ベアトリーチェが支配しているというなら、彼女こそこの六軒島を真に支配する存在なのだと言える。


 食堂の扉が開けられ、中へ招かれる。
 いかにも大金持ちって感じの食堂には、来客に序列を思い知らせるのが目的としか思えない長長いテーブルが置かれ、その序列に従い、親たちが着席していた。
 一番奥正面のいわゆる御誕生席が最上位の席、爺さまの指定席で、まだ空席だった。
 席順は、御誕生席を正面奥に見ながら、左右と序列が続き、序列が低いほど御誕生席から遠のいていく。
 御誕生席に一番近い第1列目の左席、序列第2位の席は、親兄弟の長兄の蔵臼の席。
 そしてその向かいの第1列目の右席には、序列第3位の親兄弟の長女の絵羽が座る。
 第2列目の左席は序列第4位の親兄弟の3人目の留弗夫。
 その向かいの第2列右席、序列第5位は親兄弟末っ子の楼座の席。
 次の第3列目左席は親たちの配偶者ではなく、序列第6位の朱志香の席だ。
 その向かいは譲治の席。
 朱志香の隣は戦人で、その向かいは真里亞。
 戦人の隣、つまり第5列目左席の序列第10位まできて、ようやく夏妃だった。
 その向かいが秀吉。
 夏妃の隣の第6列目の左席が霧江。
 霧江の向かいの席の食事の支度がされていたが空席だった。序列的に言うなら、そこには楼座の夫が座るべき席だ。
 右代宮家は独自の序列を持っており、男尊女卑の残りで、女の胎は借り物だとする考えに基づくと、直系の事もがもっとも序列が高く、孫がその次、血のつながらない配偶者は一番ビリって考えになるわけだ。


 本家の長男に嫁ぎ、家を切り盛りする実質上ナンバー2の夏妃は、戦人よりも2つも序列が下だった。
 「お久ぶりですね、戦人くん。ずいぶん背が伸びましたね」
 「食ったり食べたり食事したりしてたらいつの間にかこんな身長に」
 「身長はいくつくらいあるの?」
 「180かな?つーか伯母さん、そこは、食べてばっかじゃねぇかって突っ込んでくださいよ」
 「え?ごめんなさいね」


 右代宮夏妃
 蔵臼の妻。
 家庭を顧みない夫に代わり、右代宮本家を切り盛りしている。
 責任感が強くプライドが高い。
 しかし、夫にもその兄弟たちにも理解されず、境遇はあまり良いとは言えない。


 夏妃は、親兄弟の長男の妻で、朱志香の母親だ。
 いつも気難しそうな顔をして、親たちと難しい話をしているという印象しかない。


 テーブルの上には整然と食器が並べられていたが、まだ食事の配膳は始まっていなかった。
 基本的に、上席者が着席するまでは食事は始まらない。
 つまり、最上位の爺さまが来ない限り、いつまでもお昼始まらない。
 ただ、戦人の記憶の中の爺さまは、必ず時間通りに現れたものだ。
 「俺の記憶じゃ時間に厳格な人だったと思うんだけどな」と戦人が言うと、朱志香が「6年前はそうだったかもなぁ。最近はそうでもねぇよ。というか、もう自分の世界オンリーって感じで会食にも顔を出さねぇぜ」と答えた。
 「朱志香」と夏妃に叱られ、朱志香はそっぽを向いた。


 右代宮本家の老いた当主、右代宮金蔵は、書斎にいる。
 時計は昼を指していたが、席を立とうとはしない。


 右代宮家の老当主。
 余命わずかと宣告されながらも、意気軒高。
 莫大な財産を築いたが、相続について何も明かしておらず、息子兄弟たちをやきもりさせている。
 西洋かぶれにして、大のオカルトマニア。


 閉め切られた室内は、濃厚な埃が舞い、胡散臭い異臭を放つ薬品の臭いを混ぜこぜにした空気で澱んでいる。
 その書斎の扉を、さっきから叩き続ける音が繰り返されている。
 その音には時折、「お父さん」という声が混じっていた。
 金蔵は大きくため息をつくと、手にしている古書を乱暴に閉じて卓上にたたきつける。
 それから大声で、扉を叩き続ける蔵臼に怒鳴った。
 「やかましい!その音を止めぬか、愚か者!」
 「お父さん、年に一度の親族会議の日ではありませんか。どうかお出でください」
 金蔵はいつも書斎にこもりきりで、家人すらも部屋に入れることを嫌った。そのため、こうして廊下から言葉をかけるしかないのである。
 「私に構うでない!源次はどこだ!源次を呼べい!苦艾の魔酒を用意させろ!」
 扉の前では、蔵臼、南條、源次が、出てこようとしない主を待ち続けている。
 「金蔵さん、あんたの顔を見に、息子や娘や孫たちが来てるんじゃないか。ちょっと顔を見せてやったらどうだね」
 「うるさい黙れ!私に意見するというのか、南條!私は源次を呼べと言ったのだ!」
 金蔵は老眼鏡を置くと乱暴に席を立つ。
 「なぜだ!なぜにいつも私には邪魔が入るのか?全てを捨てよう、全てを捧げよう、その見返りに私はひとつしか求めないというのに!おぁベアトリーチェ、お前の微笑みをもう一度見られるならば、私は世界中の微笑を奪い取り全てをお前に捧げよう!」


 「何を怒鳴っているのかもさっぱりだな。もう頭がどうにかなっているのだろう」
 「蔵臼さん。実のお父さんに、そりゃああんまりじゃないかね」
 「親父はすでに死んでいる。ここにいるのは、親父だったものの幻さ。私は下に戻る」と言って蔵臼は踵を返した。
 源次は、南條に食事に行くように促すと、南條は小さく頭を下げると、階段を降りて行った。
 それを見届けた源次は、書斎の扉をノックする。
 「お館様、源次でございます」
 「何ゆえ私をこれほどまでに待たすのか!そこには誰もおるまいな?」
 「はい、私だけでございます」
 それを聞いた金蔵は、卓上の古風なスイッチを押した。
 すると少しだけ遅れて、扉の施錠が開く重い音が聞こえた。
 金蔵は、自分の部屋に厳重な施錠を施し、自分の許可がなければ誰も入室できないようにして、自ら作った座敷牢に自らを閉じ込めているのだった。
 源次は書斎の一角に向かい、いつもの慣れた手つきで、金蔵の愛飲する酒を準備し、グラスを盆に載せ、金蔵の元に向かった。
 「どうぞお館様」
 落ち着きを取り戻した金蔵は、グラスを傾けて、窓から景色を見下ろす。
 金蔵は窓の外を見たまま、グラスだけを突き出した。
 「飲め、わが友よ」
 「もったいないお言葉です」
 「私とお前の中に儀礼はいらぬ」
 「いただきます」
 源次はうやうやしくグラスを受け取ると、舐めるようにグラスをわずかに傾け、くっと煽った。
 「互いに老いたな」
 「今日まで過ごすことをお許しいただけたのも、全てお館様のおかげでございます」
 「今日まで、本当によく私に仕えてくれた。お前だけが今でも私に仕えてくれる。」
 「もったいないお言葉です」
 「私の余命もそう長くはあるまい。なぜだ、なぜに右代宮の血はこうも無能なのか!私の築き上げた栄光を受け継ぐに相応しい者はおらんのか?これがベアトリーチェの呪いであることもわかっておる!黄金の魔女め、それが私への復讐のつもりか。逃げたくば逃げるがよい!逃がさぬ逃がさぬわ!お前は私の物だ!ベアトリーチェ、なぜに微笑み返してはくれぬ」
 金蔵が咆哮すると、源次は盆とグラスを置くと、主人の背中をさせる。
 「すまぬわが友よ、ゆえに私は決心した。この身に最後に賭するコインがあるならば、それを悪魔たちのルーレットに託してみたい、魔法の力はいつも賭けるリスクで決まる。そう、奇跡を掴み取る運気は即ち魔力なのだ。もし私に奇跡を手にする資格があったなら、ベアトリーチェ、お前の愛くるしい笑顔をもう一度だけ見せてくれ。お前から授かった物を全て返そう!あの日からの栄光を全てお前に返そう!」


 蔵臼が食堂に現れて、「当主様は具合がすぐれないとのことだ。郷田、ランチを始めてくれ」と告げる。
 絵羽が「南條先生、そんなにお父様の具合は悪いの?」と尋ねると、南條は、「体調と言うよりは機嫌ですな」と答える。
 それを聞いた戦人は、「機嫌が云々ってことは、症状はそんなに悪くないんじゃねぇの?」と言うと、譲治が、「おじい様は特に強い気力をお持ちだからね。でも、身体が必ずしもそれに伴えるとは限らないよ。去年からずっと余命3か月と言われ続けている」と答える。


 当主空席のまま始まる昼食。


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 今日のうみねこのなく頃に咲 〜猫箱と夢想の交響曲〜はどうかな?


 10/4(土)10:30 六軒島到着


 船が船着き場に到着すると、タキシード姿の大柄な男がいて、にこやかな笑顔で迎えていた。
 男は6年前には務めていなかったとのことで、戦人とは初対面だったので、二人は挨拶を交わす。


 男は、使用人の郷田と名乗り、一昨年から右代宮本家に使えているとのことだった。


 郷田俊朗(ごうだ としろう)
 料理人として雇われた使用人。
 年季は短いが、前職で培われた接客術は洗練されており、評価は高い。
 蔵臼夫妻が雇用した使用人であるため、金蔵のスパイと思われている古参の使用人たちより、信頼されているらしい。


 郷田は全員の下船を補助して挨拶をしていた。
 挨拶や仕草が洗練されていて、プロの身のこなしで、見かけのゴツさの割りにとても優雅だった。
 全員が下船すると、船は船着き場を離れ始める。新島の母港へ引き上げるのだろう。


 この島に来ると、うみねこがにゃあにゃあと賑やかな声で迎えてくれていたのだが、今日はまったく声が聞こえないため、戦人は違和感を感じていた。
 六軒島は、右代宮本家が住んでいるきわめて一部以外は、手つかずで放置されているため野鳥の天国で、どっかの岸壁がうみねこの巨大コロニーになっており、この島はいつもうみねこだらけなのだ。


 戦人が、うみねこの声が聞こえないと話すと、譲治が、野鳥は天気や気圧の変化に敏感で、今夜から天気が崩れそうだから巣に早めに引き上げているかも、と話す。


 薄暗い森の中を進むと、石造りの庭園風の階段が見えてきた。
 石段の向こう側に美しいゲストハウスが見えてくる。
 その前には美しい薔薇園があった。


 薔薇を見ていると、真里亞が、「この薔薇だけヘン、うー。」と言い出す。
 立派な薔薇たちの中で、その1本だけがしおれかけていたのだ。
 「うー、他のみんなは元気なのに、これだけ可哀そう」という真里亞に、譲治が、「帰るまでの間、この薔薇をお世話してあげるといいよ」と声を掛け、ポケットから、機内で舐めていた飴玉の包み紙を取り出して、目印をつけるようにその薔薇にやさしく縛り付けた。
 そして、譲治は、「この薔薇さんに何か名前を付けてあげるといいよ」と話すと、真里亞は真剣に悩み始める。


 突然、秀吉が、「嘉音くん!」と大声を上げながら、手を振り出す。
 その方向を見ると、小柄な少年が、手押しの猫車に園芸道具を積んで運んでいるところだった。
 少年は、自分が呼び止められたことを知ると、猫車を置いて帽子をとり、頭を下げた。
 戦人は、少年が自分より年下ぽかった。


 郷田が少年に挨拶を促すと、少年は、「初めまして、使用人の嘉音です」とだけ挨拶した。


 嘉音(かのん)
 若い使用人。
 寡黙に仕事をこなすが、愛想が悪く評価は高くない。
 音の仮名を持つ使用人は他にも数人いるが、たまたまこの日は、彼と紗音が当番だった。


 郷田が、もう少し自己紹介はできませんかと小声で促しているが、嘉音は「僕たちは家具ですから」と答える。
 朱志香が、「嘉音くんは寡黙でさ、余計なおしゃべりはしない性分なんだよ。愛想は少し悪いけど根はいい人なんだぜ。ここに務めて3年になるんだっけ?確か郷田さんにょり1年長いんだよな?」とフォローする。
 戦人が「よろしくな、俺は戦人!18だけど、君はいくつだい?」と挨拶すると、朱志香が先に答える。
 「私たちの2つ下だから、16だったよなー?」
 「はい、そうです」


 嘉音は、「まだ仕事がありますので失礼します」、と言って頭を下げると、踵を返して猫車を押し始めたが、突然の小車がぐらりと転んで積み荷を散らしてしまう。
 嘉音は、無言で落ちた荷を猫車に積み直すが、一抱えもあるような肥料の袋を持ち上げるのには苦労しているようだ。
 戦人は、「俺はレストランで、落ちたフォークをウェイトレスに拾わせるってやつが大嫌いなんだ」と言って、他にも転がる肥料を抱え上げると、嘉音は驚いた目を向け、「結構です、僕がすべてやりますので」と話す。
 そんな風にしている内に、積み荷は全て猫車に積みあがった。
 「お見苦しいところをお見せして、申し訳ございませんでした」と言って嘉音は去っていった。


 ゲストハウスの中に入った戦人は、薔薇の庭園は記憶にあったが、このゲストハウスには記憶がないことに気付く。
 門柱らしきものに「渡(とらいあん)」と記されているが、みんなはゲストハウスと呼んでいるようだ。
 譲治が、建ったのは一昨年だ、と教えてくれる。
 部屋はみんなツインで、絵羽と秀吉、留弗夫と霧江、譲治と戦人、楼座と真里亞の組み合わせだった。


 戦人と譲治の部屋は、いとこ同士が集まるだろうと言うことで、大き目の部屋だった。
 真理亞がうらやましがるので、戦人は、「ここは俺と譲治兄貴に部屋だが、特別に出入りを許可してやろう。お母さんにはナイショだぞ」と話すと、真里亞はうれしそうに笑う。


 部屋に荷物を置くと、親たちは屋敷の方へ挨拶に向かうとのことで、いとこ同士は、ゲストハウスで留守番することになった。
 郷田と熊沢に連れられて親たちが屋敷に向かおうとすると、譲治が熊沢に何か尋ねている。


 親たちがいなくなったあと、戦人は、譲治が熊沢に聞いたことを聞きだそうとすると、朱志香が、使用人について聞いていた、と言い出し、「たぶん、掃除とか昼飯の準備で忙しいんだよ。後で、挨拶に来るぜ。紗音の出迎えの方が良かったーってんだろう?」と続ける。
 戦人は、紗音の名前は憶えており、「今も使用人やってんのか?元気かよ」と話す。


 一方屋敷では親たちが集まっていた。
 楼座が頭痛持ちの夏妃のために、頭痛に良く効くハーブティーの手土産を渡すが、絵羽は、微笑みで胡麻化しつつも夏妃に対してちょっぴり明白な悪意を含む言葉を掛ける。
 窓から刺す明かりは曇天と言えどこんなにも温かなのに、室内の空気はよどんでいた。
 霧江が、「さっそく頂いてみましょう」と紅茶を淹れてこようとすると、夏妃が「ありがとう。それは後でいただきましょう。うちの者がすぐにお茶を持ってきますので、どうぞおくつろきください」と言った。
 客人が挨拶に見えたのだから、すぐにお茶が振舞われるべきなのだが、お茶のタイミングが遅れて、客人たちが自分たちでお茶を淹れようなどと言い出してはホストの顔は丸つぶれだ。
 夏妃は、お茶の準備が遅れている使用人たちの不手際に下唇を噛み、絵羽はその表情を見ながら、くすくすと笑っている。
 そこへティーカップを積んだ配膳ワゴンを押して紗音が入ってくる。
 「失礼いたします。お茶のご用意をさせていただきます」
 秀吉が、「紗音ちゃん、久しぶりやのう。ますます別嬪さんになりよったなぁ」と声を掛ける。
 返事をしようとする紗音に対し、夏妃は「おしゃべりは配膳を済ませてからになさい、お茶が冷めます」と言い放つ。
 「申し訳ございません、奥様」と紗音が謝る仕草が、配膳ワゴンに触れ、ティースプーンを数本落としてしまう。
 その無様に夏妃がますます表情を険しくし、それがますます紗音を委縮させていた。
 お茶が遅れた不手際も、使用人の無様もすべては夏妃の日ごろの指導の至らなさということに結び付き、自分の顔をつぶしてしまう。
 年に一度しかない日に、その無様をさらすことは、右代宮本家の台所を預かる身をしては屈辱でしかなかったに違いない。
 霧江が険しくなった空気を切り替えたくて、「いい香りね。銘柄を聞いてもいいかしら?」と声を掛けたが、紗音は答えられず、「申し訳ございません、後ほど調べてまいります」と言ったので、ますます夏妃の表情と部屋の空気が険しくなってしまう。
 絵羽が、「紗音ちゃん、自分で淹れているものが何かもわからないの?ダメよ、そんな怪しげなものを来客に振舞っちゃ。こんなお茶じゃ銀のスプーンでもないと飲めないわよ?ねぇ紗音ちゃん、銀のスプーンって何に使うか知っている?」と言うが、紗音は答えられない。
 紗音が答えに窮しているのを見て取り、楼座が「銀は毒に触れると曇る、って言われているの。紗音ちゃんも一つ勉強ができてわね」と声をかける。
 毒見をしなければ飲めないお茶扱いされたことは、夏妃にとって、それを振舞った自分を貶されたも同然だった。
 留弗夫が「毒舌の姉貴がひと舐めしたら、銀の皿だって真っ黒に曇っちまうぜ」と言うと、秀吉も「わしゃあその毒舌を毎日聞かされとるから、もう毒には耐性がついてしもうたわ。絵羽も、わし相手には構わんが耐性のない相手にはちぃと加減せんとな。わっはっは」とと馬鹿笑いしながら答え、絵羽も「あらあらひどい、紗音ちゃんにお茶の知識を教えてあげただけじゃない」とくすくすと笑いながら答える。
 夏妃だけは笑いに加わらなかったが、客間内は談笑で盛り上がっていると誤解できる程度にはなった。


 お茶の配膳を終えて戻ろうとする紗音に、霧江は、助け舟にならなくてゴメンと小さく謝る。
 紗音は小さく頷き返し、そそくさと出ていく。
 うつむきながら配膳ワゴンを押して廊下を歩く紗音の姿は、何かのいじめを受けたことを容易に想像することができた。
 嘉音が、「気を落さないで、姉さんは何も悪くない」と声を掛けてきた。
 お茶の配膳が遅れたのは、郷田のせいだった。
 賓客が集まっているところへお茶を運ぶという派手な仕事を見栄っ張りな剛だが譲るわけないが、お茶を準備するのに無駄な時間をかけすぎて、ポイントが稼げないことがわかっていたので、たまたまその場を通りかかった紗音に配膳を押し付けたのだ。
 紗音は「ありがとう。嘉音くんだけでもわかってくれたんで、ちょっと心が楽になったかな」と答える。
 不意に人の気配がしたので、二人は慌てて振り返ると、使用人の長である源次の姿があった。
 「そこで何をしている。紗音、早く厨房に戻りなさい」
 「はい、失礼いたしました」と言って紗音が配膳ワゴンを押して立ち去ろうとと、嘉音が言葉にできない何かを瞳に宿して、無言で源次に訴えている。
 「どうした、何かあったのか?」
 「紗音は何もわるくないのに、あいつら・・・」
 「やめて嘉音くん。失礼しました。すぐに仕事に戻ります。嘉音くんも自分の持ち場に戻って、お願い」
 「姉さんがそういうなら」
 「何事もないなら、そうしなさい」
 「はい、失礼いたします」


 「おいたわしや、紗音さん、嘉音さん」と呟きながら、その姿を廊下の影から見守る熊沢だった。


 二人がいじめられる理由は何もないが、郷田に嫌われている。
 郷田は、右代宮本家に来る前は、どこか立派なホテルに務めており、そこで身につけられた仕事ぶりは、大したもだったが、ここではもっとも年季が短い使用人。
 郷田自身のそれまでの積み重ねによるプライドもあり、自分より年季を持ちながら未熟で人生経験も及ばない紗音と嘉音をことあるごとにいびっていた。
 また二人は夏妃からも嫌われている。
 ちょっとした金蔵の気まぐれが、夏妃に劣等感を与えてしまった。


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 今日のうみねこのなく頃に咲 〜猫箱と夢想の交響曲〜はどうかな?


 やっと新島空港に到着。
 戦人は飛行中ずっと堕ちると連呼しており、それを真里亞に揶揄される。


 空港からタクシーに分乗し、港にやってきた。
 ここから船で30分、隣の島まで向かうのだ。


 船から朱志香が手を振って一行を出迎えてくれる。


 右代宮朱志香(うしろみや じぇしか)
 蔵臼と夏妃の娘。
 順当に行けば、やがては右代宮家の跡継ぎ(厳密にはその夫)になると考えられている。ただし本人は関心がないようである。
 生まれつき気管支が弱く、突発的に咳などの発作を起こすことがある。


 朱志香は、戦人の父親の留弗夫の兄で右代宮家長男の蔵臼の娘で、右代宮家直系の跡取り娘で、戦人と同い年の18歳。


 お手伝いさんで割烹着姿の熊沢チヨも、買い物ついでに挨拶に来ていた。


 熊沢チヨ(くまさわ ちよ)
 途中で何度か退職しているが、総じれば長い年季を持つパートタイマーの老女である。
 容量がよく、使用人としての技量は決して低くないのだが、噂好きでおしゃべりなため、良い評価は受けていない。


 熊沢チヨは、右代宮本家にもう何年も務めている古参の使用人で、高齢なので力仕事は得意じゃないが、何でもこなすスーパー使用人らしい。
 玉に瑕なのはサボリ癖があることで、力仕事や面倒な仕事は、持病がどうこうと屁理屈を言ってよく逃げようとするらしい。


 島に向かう船は、改造高速艇で、最高速度は40ノットを超えるとのこと。
 その船の甲板で、乗物苦手な戦人は揺れると落ちるを連呼し大騒ぎ。
 あまりにも戦人が騒ぐので、楼座が船長に頼んで速度を落としてもらい、なんとか戦人も落ち着く。


 前方に六軒島が見えてきた。
 伊豆諸島の中に含まれる全周が10㎞程度の小さな島で、六軒島は丸ごと右代宮本家が所有している私有地だった。
 島には船着き場とお屋敷があるだけで、島のほとんどは未開の森林のまま残されている。
 右代宮一族は大富豪なのだ。


 突然、真里亞が「ないない、うーうー」と騒ぎ出す。
 真理亞は洋上を指さしており、戦人は、6年前はそこに小さい岩の上に鳥居があったことを思い出す。
 朱志香は、無くなったのはこの夏のことだ、と答える。
 熊沢さんが、「ある晩に大きな稲妻が落ちて御社を砕いてしまったんだとか。鎮守様に落雷があるなど、不吉の兆しに違いないと、漁民たちは囁いております。」と話す。
 真理亞は、「不吉、不吉」と連呼したあと、天を指して「不吉、来る」と言い出す。
 見れば、台風が近づいており、空は鉛色だった。
 真理亞は、癇癪を起したように「うーうー」と騒いでいる。


 熊沢さんと入れ替わり、秀吉がやってきて、この場の様子がわからないため、空気を換えてくれ、真里亞も落ち着く。


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 今日のうみねこのなく頃に咲 〜猫箱と夢想の交響曲〜はどうかな?


 思ってたよりも小さな飛行機に乗ることを知り、揺れを心配している右代宮戦人を安心させようと、右代宮譲治が声を掛けてきた。


 右代宮戦人(うしろみや ばとら)
 18歳。
 留弗夫と前妻、明日夢の息子。
 6年前、母の死別と同時に後妻の籍を入れた父に反発。
 母方の祖父母宅に身を寄せていた。
 だが、祖父母が相次いで死去し、6年ぶりに右代宮家に戻って来た。
 今回の親族会議では、いとこたちとの6年ぶりの旧交を温め合う。


 右代宮譲治(うしろみや じょうじ)
 23歳。
 絵羽と秀吉の息子。
 人当たりのいい好青年で、親類の誰からも好かれている。
 父の会社で見習いをしており、やがては独立する夢を持っているらしい。
 いとこ4人組の最年長として、彼らのまとめ役もしている。


 そこへ譲治の両親で、戦人の父親の姉夫婦もやってくる。


 右代宮秀吉(うしろみや ひでよし)
 絵羽の夫。
 絵羽の婿養子として右代宮家に迎えられた。
 そのため、右代宮家の陰湿な遺伝子を持たず、その朗らかな笑顔は親族会議においてとても貴重である。
 裸一貫から起業し、尾までは中堅外食チェーン運営会社の社長を務めている。
 業績は右肩上がりできわめて順調とか。


 右代宮絵羽(うしろみや えば)
 金蔵の第2子。
 兄の蔵臼を敵視しており、財産問題から当主跡継ぎ問題まで、あらゆる面で対立する立場をとっている。
 本来は結婚時に右代宮家の籍を失うところを、入り婿を認めさせることによって強引に留まった経緯がある。


 さらに戦人の継母までやってきた。


 右代宮霧江(うしろみや きりえ)
 留弗夫の妻。後妻。
 仕事のパートナーをして長い付き合いがあり、前妻の逝去により、晴れて正妻の座を射止めた。
 留弗夫が手掛ける胡散臭い仕事の数々でも右腕を務め、成功に導いてきた。
 頭の回転が速く、留弗夫の信頼も厚い。


 戦人の父親もやってくる。


 右代宮留弗夫(うしろみや るどるふ)
 金蔵の第3子。
 姉の絵羽共々、長兄の蔵臼が父の財産を独占することがないよう、親族会議での追及を強めている。
 前妻の明日夢を6年前に失い、その後、すぐに後妻の霧江を籍に入れた。


 2家族でじゃれ合っていると、話題が縁寿のことになった。
 縁寿は、留弗夫と霧江の娘で、風邪を引いたため今回の親族会議は欠席していた。


 戦人たちが乗る予定の飛行機は、天候調査中で、まだ乗り込めなかった。
 待合ロビーのテレビでは、天気予報を映し出されており、関東地方に台風が近づきつつあることを教えていた。
 そこへ、留弗夫の妹の楼座と、その娘の真里亞もやってきた。


 右代宮真里亞(うしろみや まりあ)
 9歳。
 楼座の娘。父親は知らない。
 幼児言葉が抜けず、よく怒られている。
 勉強にも友人にもまったく興味がないが、オカルトや黒魔術などには強い関心を示し、逸脱した数々の知識を天才的暗記力で記憶している。


 右代宮楼座(うしろみや ろーざ)
 金蔵の第4子。
 4兄弟の末っ子で、他の兄弟たちと大きく歳が離れている。
 そのため、親族会議では発言力がだいぶ劣るようである。
 デザイン会社を運営しているが、道楽の域を出てはおらず、それほど芳しい経営状態ではないようである。


 楼座親子の到着を待っていたかのように搭乗開始を告げるアナウンスが流れる。


 飛行機搭乗すると、乗客は右代宮家のみだった。
 機長のアナウンスで、シートベルトを外せない揺れを聞かされた戦人は、パニックを起こす。


 トロフィー:ようこそ、六軒島へをゲット!


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 うみねこのなく頃に咲 〜猫箱と夢想の交響曲〜のプレイ開始!


 館の主の右代宮金蔵は、診察中にもかかわらず執事の呂ノ上源次に酒を注がせる。
 主治医の南條輝正は、余命わずかな金蔵に遺言を書くように勧められるが、金蔵は、「後に残したいことも伝えたいこともただのひとつもない。魔女との契約で、私が死ぬときにすべてを失うので、何も残らぬ。」と捲し立てる。
 南條は、「心残りは生きているうちにこなさればいいが、万一の時、必ず心残りが解決できるよう、残された者が引き継いでくれるように残すのが遺言だ。」と答える。
 金蔵は、「死ねが魂はすぐに契約で悪魔に喰らわれ消え去ってしまうので、全ては私が来ている内でなければならぬ。だから遺言状は私には必要ない。そのようなものを書く暇があったなら、ベアトリーチェの微笑む顔がもう一度見たい。今こそお前に与えられた全てを返そう、全てを失おう。だから最後にもう一度だけ姿を見せてくれ。お前の微笑みを再び一目見るまでは絶対に死ねないのだ。」と叫ぶ。


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