今日の十角館の殺人はどうかな?
「なんてことだ。アガサは4番目だったっていうのか」
エラリイは猛然とダッシュしてルルウの部屋のドアに飛びついた。
「ルルウ、ルルウ!駄目だ。鍵が掛かっている。ヴァン、合鍵はないのか」
「そんな。ここはホテルじゃないよ」
「破るしかないな」
「待て」
身構えるポウを、エラリイを手を挙げて制した。
「ドアは外開きだぞ。外へ回って窓を壊した方が早い」
玄関に向かおうとしたエラリイが言った。
「扉の紐がほどけてる」
昨日、二つの取ってを紐で結び合わせておいたのが解かれ、その一端がだらりと垂れ下がっていたのだ。
「誰かが外に出たんだな」
「とすると、ルルウは・・・」
ポウが椅子を振り上げ、力任せに打ちつける。その幾度の繰り返しによって、ルルウの部屋の窓は破られた。
ところが、部屋の中にルルウの姿はなかった。
「手分けした探そう。おそらくもう、生きちゃいないだろうが」
言いながらエラリイは、片膝を折って右足首の包帯をさすった。
「いいのか、足の具合は」とポウが聞いた。
「走るくらい平気さ」
立ち上がって、エラリイはヴァンを見やった。ヴァンは芝生の上にうずくまって身を震わせていた。
「ヴァン、君は呼ばれるまで玄関口にいるんだ。休んで、とにかく気を鎮めろ」
息を整えながら、エラリイは冷静に指図した。
「ポウはまず、入江の方をみてきてくれ。僕はこの建物の周辺と、あっちの屋敷跡のほうを調べてみる」
「ヴァン!ポウ!」
遠くからエラリイの声が聞こえてきた。右手の、青屋敷の方向からだった。
ヴァンは腰を上げ、小走りにそちらに向かった。
ルルウが地面に倒れ伏していた。横を向いた顔の半分が、黒い土の中にめりこんでいる。伸ばした右手の先に、愛用の丸眼鏡が落ちている。
「殴り殺されてる。その辺に転がっている石か瓦礫で、頭を打たれたんだろう」
そう言ってエラリイが、赤黒く割れた死体の後頭部を差し示した。
「ポウ。調べてくれないか。辛いかもしれないが、頼む」
「ああ・・・」
ポウは死体のそばに屈み込んだ。
「死斑が出ているな」
ポウが押し殺した声で言った。
「ただし、指で押すと消える。死後硬直は、かなり進んでいる。気温の影響もあるからはっきりとは言えんが、そうだな、死後5時間から6時間としったところか」
自分の腕時計をちらりと見て、
「殺されたのは、今朝の5時から6時」
「夜明け頃か」と、エラリイがつぶやいた。
「とにかくルルウを、十角館へ運んでやろう。このままじゃあ可哀そうだ」
そう言って、ポウは死体の肩に手をかけた。
「足のほうを持ってくれるか、エラリイ」
「足跡が・・・」
呟いて、彼はすっと地面を指さした。昨日の前のためだろう、灰混じりの地面は非常に柔らかな状態になっており。そこに幾筋かの足跡が形を留めているのだ。
「まあ、いいか」
やがて
エラリイは、腰を屈めて死体の足に手を伸ばした。
ヴァンは汚れたルルウの眼鏡を拾い上げた。
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