428 ~封鎖された渋谷で~の体験版のプレイ開始!
ワゴン車の後部座席に押し込められた背広の男性が、穴のあいた袋を頭から被せられ、手は縛られた状態にありながら、ドアを蹴りながら必死で助けを求めるメールを打っている。
車内の様子がおかしいことに気付いた通行人の女性が、車を覗き込んだ瞬間、車は爆発する・・・
加納 10:00-11:00
午前9時28分、渋谷のスクランブル交差点で、渋谷署刑事課強行犯係に配属されて2年目の加納慎也は、大勢の刑事と張り込みをしている。
ハチ公の前に立っている、アタッシュケースを持った大沢ひとみ(19歳)を見つめる加納。
ひとみの持つアタッシュケースには、現金5000万円が入っており、それは、昨日何者かに誘拐されたひとみの双子の姉のマリアに対する身代金だった。
犯人は、昨晩、ひとみを名指してハチ公前に立たせるよう、電話で指示していた。
「時計の見過ぎだ」とホームレスに小声で言われる加納。
ホームレスは、渋谷署刑事課の笹山裕二巡査長で、加納の5歳上の先輩だった。
いつも笹山は、張り込みの現場では必要以上に力を入れた変装で現れており、署内では変装マニアなのでは?と噂されている。
TIPS:渋谷署
正式な名称は、渋谷中央署。
32の町、約20慢人の安全を守っている。
「小銭貸してくれよぉ」
突然、笹山が加納にすがりついてきた。
TIPS:所轄
特定の地域を管轄すること。警察機関では各地に設置された警察署のことを指す。所轄の警察署と、東京の警察組織の頂点である警視庁とでは権限に大きな違いがあるが、多くの警察官が人事により警視庁と所轄を行き来しているため、ドラマのような露骨な対立は少ないと言われている。
所轄の刑事である加納たちは、引き渡し現場のハチ公像前から少し離れた場所に配置されており、ハチ公像の周辺は本庁特殊犯捜査一係選り抜きの捜査員によって固められていた。
加納たちの役割は、あくまでも犯人が逃走した場合に備えてのバックアップなのだ。
TIPS:ハチ公像
1934年に建てられた犬の銅像。渋谷駅前の待ち合わせ場所としてあまりにも有名。ハチ公像前の初代5000圭の展示車両(通称青ガエル)や、西口のモヤイ像も、待ち合わせ場所としてよく利用されている。
TIPS:本庁
警視庁のこと。都内101か所の警察署を管轄する東京の警察本部。単に東京の警察というだけではなく、首都の治安維持という目的のために様々な任務や権限を有する日本最大の警察組織である。
隠語で「母屋」ともいわれ、対して所轄の警察署は「はなれ」と呼ばれる。
「指定時間だ。各捜査員は周囲を警戒、不審な人物に注意しろ」
イヤホンから飛び込んできたのは、本庁の管理官である久瀬宏二の声だ。
去年までは渋谷署刑事課の課長で、加納たちの上司だった人物である。
TIPS:管理官
凶悪犯罪が発生した際、捜査の指揮にあたる役職。捜査本部が設置される場合は陣頭指揮をとる。
テレビドラマなどでは、警視庁からやってきた若い超エリート管理官が登場することもあるが、実際には犯罪捜査に秀でたベテランがつく場合が多い。
「まだ余裕の声だな、久瀬さん。」と笹山が言うと加納は苦笑した。
指定の時間を過ぎたが、それらしき人物はやってこない。
初動捜査による捜査本部の見解は、犯人は複数犯の可能性が高いが、営利誘拐のプロによる犯行ではない。怨恨の線は薄いが、被害者家族とはなんらかの面識あり、というものだった。
その結果、現場にやってきた人物は、即座に確保することになった。
身代金を入手した上で逃走されると、人質の安否が危ぶまれると判断したからである。
「来た!来たわよ!」
ドスの利いたオネエ言葉の主は久瀬である。
「20代の男!バンダナ、オレンジのトレーナーよ!」
久瀬は普段は冷静で無口なのだが、緊張するとついオネエ言葉になってしまう。
久しぶりに聞く久瀬の本気の声に、加納と笹山の気持ちは引き締まった。
TIPS:オネエ言葉
身体は男性でも心は女性な人たちが使う言葉。
といっても、一般的な女性の話し言葉とはまた異なり、一種独特の雰囲気がある。コマーシャルなどで突然耳にすると思わず聞き入ってしまう。
近づいてきたのは、20代前半の男で、何気ない態度でひとみに話しかけてきた。
「各捜査員、確保の用意よ」
久瀬は交差点から少し離れた指揮車両におり、現場の様子は撮影班から送られてくる映像でチェックしていた。
若い男は盛んにひとみに話しかけている。
A:間違いない、犯人だ!
加納は一歩踏み出した。
B:まだ状況がよくわからない。
ここは慎重に様子を見よう。
「待て待て、あせるな」と笹山に引き戻される加納。
よく見ると、ひとみが無視し続けたため、若い男はつまらなさそうにその場を離れた。
「ナンパってとこだろ。かわいいからな」と笹山が言った。
たしかに、ひとみは可愛い部類にはいる。
TIPS:ナンパ
道端などで男性が女性に声をかけること。成功させるにはコツが必要。容姿も重要。
声をかけては物を売ったりお酒を飲む店に連れ込むのは、ナンパではなくキャッチセールスである。
ナンパに見せかけたキャッチセールスもあり、区別が難しい。
「しかし、うちのミーちゃんほどじゃない」
笹山は先月結婚したばかりの新婚で、ミーちゃんとは奥さんの名前である。
「加納、結婚はいいぞぉ。お前はさっさと独身なんてやめちまえ」
「笹山さん、まじめにやりましょう。」
笹山とコンビを組んでから、「まじめにやりましょう」が口癖になった気がする。
笹山は加納の胸元に手を入れてきて、「待ち受けを見せろ」と言いながら、携帯電話と取り出した。
待ち受け画面を見るなり、笹山は呆れた顔をした。
「長濱まさみじゃねえか」
TIPS:長濱まさみ
ながはままさみ。国民的人気タレント。国民的朝の連続ドラマや国民的大河ドラマのヒロインを務め、歌えば国民的ヒットを連発し、おまけに年末の国民的歌番組の司会もする。とにかくすべてが国民的。
加納は観念して紹介することにした。
「それが僕の彼女です。名前は留美っていって・・・」
「お前気持ちわりーな。長濱まさみを彼女って」
「確かに留美はちょっと長濱まさみに似ていて・・・」
「お前、馬鹿にしてんのか?」
正直に話したのに、笹山はまったく信用しようとしない。
「じゃあ結婚してみせろよ」
できるものなら、加納もすぐに結婚したかったが、乗り越えなければならない事情があった。
「もういい。おふざけは終わりだ。捜査に集中しろ」と笹山はそう言って、ひとみに視線を戻した。
若い男が接触してきてから数分が過ぎた。
ひとみがつらそうな顔をしている。
1万円札が5000枚で重さが約6キロ。加えてアタッシュケースの重さも加わっている。
この誘拐事件が発生したのは、昨日の午後7時のことだった。
「警視庁より通信指令。渋谷署管内で略取事件らしき所在不明事案の発生。現場は緑山学院大学付近のレストランLLダイナー。被害者は同大学の学生の大沢マリア、19歳。レストラン近辺で男ひとりにより、無理やり車で連れ去れらた模様。付近巡回中の各員は、現場に急行せよ。」
TIPS:略取事件
法律的には、誘惑などの間接的な手段で第三者の支配下に置くことを「誘拐」とし、暴行や脅迫などの強制的な手段で行われた場合は「略取」とされる。両者を合わせて「拐取」と呼ぶこともある。
窃盗事件の捜査で神宮前5丁目にいた加納と笹山も現場に向かった。
加納たちがLLダイナーに到着したのが午後7時15分だった。
ほぼ同時にやってきて所轄の捜査員たちよって、現場保存のために店舗及び周辺道路への立ち入りが規制された。
店内に入ると通報者である女性が加納たちを出迎えた。それは被害者の双子の妹のひとみだった。
「今日、姉と一緒にパーティに出席することになっていたんです。でも時間を間違えていたようで、私だけ1時間ほど遅刻して、7時ちょうどに会場に着きました。」
留学生との交流が趣旨のパーティに誘拐されたマリアはひとりで出席していた。
会場に遅れてやってきたひとみは、車に押し込まれるマリアを、レストランの窓から目撃したという。車は国産の青いワゴン車だったらしい。
「犯人の姿は見ました?」
「中年の男の人でした。」
「私も見ました。ひとみさんの言う通りです。」と、もう一人の目撃者のリーランド・パーマーが言った。ひとみとマリアが通っている大学の講師だ。日本に来て日が浅いようで、日本語がたどたどしい。
ひとみは、犯人がマリアを後部座席に押し込んだあと、運転席に乗り込んだの見たので、犯人は一人だと思われた。
ひとみとリーランドは犯人の顔までは見ていなかった。
二人から聞き出せたのは、中年男性に単独犯の可能性あり、という情報までだった。
そこへ先輩刑事の梶原義男から、「捜査本部が立った。現場の状況を確認次第するに署に戻れ」と携帯電話に連絡が入った。
110番通報から捜査本部立ち上げまでの所要時間はだいたい30分ほどだ。
加納と笹山が署に戻ると、本当からやってきた久瀬によって、被害者宅に潜入する対策班が編成されていた。
TIPS:捜査本部
約150人の大所帯で、渋谷署内の会議室に設けられている。主戦力は本庁の捜査一課の第一特殊犯罪捜査係。その他、捜査一課の他係、機動捜査隊、所轄の刑事課、隣接する警察署からも捜査員が招集されている。
TIPS:対策班
身代金目的の略取誘拐事件では、被害者家族に協力なしでは解決が難しく、逆に家族が犯人逮捕の障害になることもある。そのため、被害者宅には常駐する対策班が編成され、訓練された捜査員による説得や誘導が行われる。
加納は刑事のひとりを捕まえて、手短に状況を確認した。
事件は制から1時間後、被害者宅に犯人から脅迫電話が入った。
「明日、朝10時、渋谷ハチ公前。5000万円を次女のひとみに持たせろ。いう通りにしなければ、人質の命はない。」
特殊な訓練を受けている刑事たちに加えて、所轄からは梶原が対策班に加えられた。
刑事たちは宅配便や引っ越し業者に変装して被害者宅に潜入する。
この時点で午後8時30分。
対策班は、逆探知の準備をし、犯人からの二度目の電話を待つ。
しかし、その後犯人から電話はなかった。
TIPS:逆探知
かかってきた電話の発信源を特定すること。警察が単独で行うことができず、正式な手続きを経たうえで、電話会社などの協同して行わなければならない。以前は逆探知に時間がかかったが、現在ではかかってきた瞬間に特定されることがほとんどだという。
約束の時間から20分が過ぎていたが、犯人からの接触はない。
「なんで犯人はこの場所を選んだんでしょう?」
「人ごみにまぎれて身代金を奪うしかねえだろ?」と笹山はぶっきらぼうに答えた。
ひとみを中心とした半径50メートル以内に、50人の刑事が配置されている。身代金を奪って逃げきるためには、犯人側もかなりのリスクを背負わなければならない。
加納は、ポケットから「デカ魂メモ」を取り出した。
デカの心得・その89
意味がなさそうなものほど、必ず意味がある
このメモ帳には渋谷署の警部補である建野京三の名言が書き留められいた。
建野は加納にとって目標ともいえる存在で、今回の捜査ではひとみの護衛を担当している。身代金受け渡し役が役目を終えた後、身柄を保護するポジションだ。
もちろん、ひとみにはそんな護衛が付いていることは知らされていない。
加納が建野のすごさを目の当たりにしたのは、3年前の金融会社籠城事件だった。
オフィスに立てこもった犯人は、ガソリンをまき散らして火を放とうとしていた。
誰もが手をこまねいている中、建野は迷うことなく自らガソリンをかぶり、ビルの中へ入り、犯人を説得して確保したのだ。
あの時の建野の行動は、今も鮮烈に目に焼き付いている。
「建野さんが、どんだけすごい刑事でも、世間は誰もあの人の名前を知らないんだよな」と笹山がぽつりと言った。
「刑事の名前が世に出るのって、不祥事の時か殉職の時くらいだろ。カリスマシェフとかカリスマ美容師がいるのに、カリスマ刑事がいてもいいじゃねえか」
本部設置のための機材搬入、捜査車両の準備、おまけに資料のコピーと雑務に追われ加納はほとんど眠れず、食事もとっていなかった。
TIPS:本部設置
捜査本部は、所轄警察署の講堂などの広い部屋に設置される。本庁と所轄の捜査員が集まり、通信機材や捜査資料などが運び込まれる。そのため、すぐに新聞記者などに気付かれる可能性が高く、誘拐事件などでは人質の安全を考慮して報道協定が結ばれる。
「来たわよ!」
イヤホンから久瀬の興奮した声が飛び込んできた。
「20代の男!赤い袖なしジャンパー!ゴミ袋を持っているわ!」
ひとみから5メートルほど離れたあたりから、目つきの悪い若者が近づいてくる。
身代金を奪うのにチンピラのような若者を使うのは可能性としてあり得る。
若者が強引にアタッシュケースを奪おうとした。
犯人だ!刑事たちが一斉に若者にとびかかる。
若者は、あっさりと地面に押さえつけられた。
「確保しました!」
「待って!外国人が来た!身代金を奪ったわ!」
振り返った途端、視線の端に外国人の男が走り去っていくのが見えた。手にはあのアタッシュケースを持っている。
刑事たちがばらばらと立ち上がって外国人の後を追う。
気付けば出遅れて、若者とその場に残されていた。
加納は、残っていた刑事と一緒に若者を渋谷署に連行した。
「何回言わせるんだよ。」
取調室で遠藤亜智と名乗った若者は、一貫して事件には無関係であることを主張した。
「なぜアタッシュケースを奪おうとした?」
「荷物が重そうだったから、持ってやろうとしただけだって。あの子、荷物を下に置かなかったろ?すごく大事なもんが入っていると思ったんだよ」
デカの心得・その25
取り調べでは言葉尻を捕まえろ
「大事なものって、何だと思ったんだ?」
「そんなもん、わかるかえねえだろ」
代り映えのしない質問と答えは延々と繰り返し、もう1時間近くが経とうとしていた。
加納が取調室に詰めている間に、現場のほうでは事件の進展があったようだったが、マリアの無事は確認されていない。
デカの心得・その54
急がば回れ
「お前の役目は捜査のかく乱だったんだろ?」
「なんだ、それ」
亜智はすっとぼけた顔をしている。
デカの心得・その55
取り調べにはやっぱりカツ丼
TIPS:カツ丼
どんぶりに盛ったごはんの上に卵とじしたトンカツを載せた日本料理。
卵でとじるかわりにウスターソースをかけた「ソースカツ丼」、味噌で煮込んだトンカツを載せる「味噌カツ丼」などのバリエーションがある。
本来、警察官が取り調べ中の被疑者に食事を提供することはない。「メシで釣った」とみなされかねないので、やってはいけないことになっている。
「食うか、カツ丼?」
亜智は黙ってうなづいた。
何も食べていなかったかのように、亜智はカツ丼をかきこんだ。
「さあ全部吐け、犯人の目的は?」
亜智は首をかしげる。
「デカの心得・その115 ライトを効果的に使え」
取調室にはどこか虚ろな声が響いていた。
取り調べを始めてかれこれ5時間。まったく進展がなかった。
亜智の瞼が閉じていく。
「デカの心得・その117 眠くなった時を狙え」
加納の目が輝いた。
「お前も犯人グループのひとりだな?」
亜智の首が、がくんと大きく前に折れた。
「久瀬さん、やりました!さっきの若者がついに犯行を認めました!!!」
「何言っているんだ。こっちはこれから黒幕を確保するところだ。お前は本部で待機してろ」
事件が結末を迎えると、加納は辞表を提出した。
俺は間違っていたんだろうか。自問自答しながらデカ魂メモをデスクにおいて渋谷署を後にした。
BAD END No.01 さらば渋谷署
ヒント:亜智の物語を10:30まで読み進め、亜智がひとみに近づかないよう選択肢を選んでみよう。そうすれば、加納が亜智を逮捕することはなくなり、その後の運命も変わるだろう。
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