今日の428 ~封鎖された渋谷で~はどうかな?
御法川編 11:00
渋谷へと向かう国道246号をスーパーカブ90が爆走していた。
TIPS:スーパーカブ90
新聞配達や郵便配達に使われ、街中でよくみかれる排気量85㏄のホンダ製のバイク。
個人で所有している愛好家も多い。ハンドルやマフラーといったパーツの換装、ボディカラーの塗り替えなどを施し、もはや一見してスーパーカブとは思えないほどおしゃれに様変わりしたものも存在する。
「ちくしょう!死ぬんじゃねぇぞ!」
御法川実は叫びながらハンドルを切る。
交差点の信号が赤へと変わったため、仕方なくブレーキをかける。
目の前の信号が青になると同時に、御法川はアクセルを全開にしたが、エンジンが止まった。
いくらキックしても一向にエンジンはかからない。
バイクを置いて走り出そうとしたとき、目の前でタクシーから客が降りたので、御法川は入れ替わりでタクシーに乗り込んだ。
「とりあえず渋谷駅まで!細かい場所は後で指示する。10分で行ってくれ!」
「いやー、ここからだと10分はちょっと・・・」
「なら15分だ。もうこれ以上は譲れないぜ。」
「道路の混み具合にもよるからねえ・・・」
御法川は料金メーターの上にある運転手の証明写真を見た。
名前は君塚八郎。無骨そうな中年男性だ。
「君塚さん。あんたはこの俺が選んだ男だ。やれるさ」
「わかりました。やってみましょう。」
君塚は小さな溜息をつくと、タクシーを勢いよく発車させた。
そもそもの始まりは20分前のことであった。
御法川が自宅でインタビュー記事をまとめていたときである。
ヘブン出版の社長である頭山照雄からの電話があった。
TIPS:ヘブン出版
硬派なフィクション本とスキャンダラスなゴシップという両極端な出版物を発行している。社長の頭山自ら執筆した「無敵のジャーナリスト」は日本ノンフィクション大賞の候補となったことがある。
「仕事だったら間に合っているぜ」
「いや、仕事のことじゃない・・・」
「今、原稿を書いて忙しんだけどな」
「そうじゃ、よかったな。フリーのライターは忙しくてなんぼだ。」
「そっちも随分売れたって聞いたぜ、今月の噂の大将。」
TIPS:噂の大将
芸能人や政治家の恥部をメインに扱った雑誌。ほとんどの記事が出まかせだったりすが、100分の1ぐらいの確率でとんでもないスクープが載ったりするので目が離せない。
月刊誌「噂の大将」はヘブン出版の看板雑誌だった。
たまにスクープ記事でバカ売れすることもあったが、基本的には少ない発行部数で低空飛行を続けていた。
しかし今月号はおまけのスクラッチカードが好評で10万部が完売したらしい。
「あたりが5つ揃えば10万円だっけ?」
電話の向こうから妙な声が聞こえてきた。なんだか嗚咽のようにも聞こえる。
「今、どこにいるんだ?」
「会社だ・・・あうぅ・・・」
「何があったんだ?」
「・・・あぅ・・・」
「あぅじゃわからん。もういい、切るぞ!」
「もう死ぬしかないんだ・・・」
タクシーが前につんのめるようにして急ブレーキをかけた。
「危ないですよ」
君塚が窓から首を出して叫んだ。
見れば車の真ん前に立ちふさがっている男がいる。
男が突然後部座席のドアにしがみつき、「すみません、乗せてください!」と図々しいことを言ってきた。
「駄目だ」
「無理を言っていることはよくわかってます。でも、今、大変なことになっていて・・・」
「大変なこと?」
「はい、人生の一大事なんです。お願いします!」
「あいにくだが、こっちのほうが間違いなく一大事だ」
「じゃあ相乗りさせてください。お金は全額支払います。ぼくの未来がかかっているんです。」
「こっちにも未来がかかっている。おまけに人命もだ。それでも譲れというのか?」
「わかりました。すみませんでした」
男はあきらめてすごすごと去っていった。
時計を見ると、今での5分ロスしている。
タクシーは再び急発進して、一気に加速した。
雑居ビルの中に入ると、エレベーターを使わずに階段を駆け上がった。
ヘブン出版はこのビルの3かいと階を借りている。
頭山は「噂の大将」編集部のある4階にいるに違いない。
編集部のドアを開こうとすると、鍵がかかっていた。
「頭山さん!」
いくら読んでも返事がないので、思い切ってドアを蹴破った。
「遅かったか・・・」
もう少し早くたどり着けていれば・・・
BAD END No.13 5分のロス
ヘブン出版社に急行するも、時すでに遅し。あと5分早く着いていれば・・・御法川の到着を遅らせたのは、言うまでもなく加納である。なぜ加納がタクシーに乗ろうとしていたのかは、加納の11:10で明らかになる。
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