今日の十角館の殺人はどうかな?
3人は海岸に出た。
防波堤から降りて、水際に置かれたテトラポットの上に並んで腰を下ろす。
江南は膝を抱えた腕を振るわせた。
「僕は馬鹿だ。あれだけあっちこっち嗅ぎまわっておいて、結局何の役にも立たなかった。3日前はここの港まで来たっていうのに・・・せめて島の連中に一言、注意しろと知らせてやっていたら」
「仕方ないさ」
稚まだは痩せた頬をさすりながら、己に言い聞かせるように言った。
「あんな手紙を真に受けて、僕らみたいに奔走する人間は珍しいだよ。警察にでも知らせてごらん。こんな悪戯をいちいち気にするなって、まず一蹴されてしまう」
「島田さん」
守須が口を挟んだ。
「連中が皆殺しにされたのだとすれば、やはり中村青司が生きていて、ということも」
「さて、そいつはどうだか」
「それじゃあ、犯人は誰だと」
「さあて」
「それじゃ、島田さん、あの青司名義の手紙についてはどう思います」と江南が聞いた。
島田は苦い顔で、
「今となっては、関係ありと考えるしかないだろう」
「同じ犯人による工作だと?」
「そう思うね」
「あれは殺人の予告だったってことですか」
「それにしては、彼らの角島行きとすれ違いで届いていたるあたり、間が抜けているだろう。僕は別の目的があったんだと思うが」
「と言うと?」
「コナン君、最初に君と会った日、君はあの手紙を分析して、確か3つの意味を導き出したっけ」
「ええ、告発、脅迫、昨年の角島事件を再考しろっている示唆」
「そうだ」
島田は物憂げな視線を海に投げた。
「その示唆に従って、僕たちは去年の事件の再検討を始め、真相を突き止めるに至ったのだ。しかしこれはあくまでも、犯人の予期せざる結果であったと思うんだよ。思うに、犯人があの手紙に込めた真の意図は、君達の罪の告発と、もう一つ、中村青司の影をほのめかすことにあったんじゃないか」
「青司の影?」
「つまり、差出人の名前を中村青司にすることで、殺されたはずの青司が実は生きているのかもしれない、という考えを僕らの中に喚起させようと、そうして青司の一種のスケープゴートにできれば、と目論んだ」
「ということは、島田さんが疑っているのは、もしかして」
「中村紅次郎氏を?」
守須がそろりと問うた。
「中村千織が紅次郎氏の娘だったと分かった今、連中を皆殺しにする動機を持って然るべき人物は、青司氏ではなく彼のほうだから、そう言うんですか」
江南は島田の顔を覗き込んだ。
「だけど、彼はずっと別府にいて・・・」
「あの若者が言ったことを覚えているかい、コナン君」
「え?」
「研究会の連中を島まで送ってやったっていう、あの漁師の息子さ」
「ああ」
「彼はこう言ったてね。エンジンの付いたボートがあれば、島との往復は難しくない、と」
「ああ」
「この数日間、紅さんは論文執筆のため、電話も来局もシャットアウトして、家に閉じこもっていたと言った。だが、果たしてそれは本当だったんだろうか」
海のほうを見つめたまま島田は独り、小さな頷きを繰り返した。
「友人としては非常に残念だけれども、僕はやはり紅さんのkじょとを疑わざるをえない。彼は娘を死なされた。しかも、それがきっかけとなって、と彼は言っていたよね。その恋人まで実の兄の殺されてしまった。
紅さんは十角館の館の持ち主である。何かの折に、娘を殺した連中が島へ行くことを知ったとしても不思議じゃない。そこで彼は、青司の生存を匂わせ、疑いをそちらへそらすとともに、やり場のない怒りを吐露するため、君達にあの手紙を出した。同時に、自分自身に宛てたあの手紙も。自らも被害者の一人であると見せかけるためだろう」
「確かにね」
守須が呟いた。
「一番疑わしいのは紅次郎氏ですね。でも島田さん、それはあくまでも推測の域を出ないことで」
「そうだよ、守須君」
答えて、島田は自嘲気味に唇を歪めた。
「単なる僕の憶測さ。証拠なんて一つもない。そしてね。僕は証拠を探す気もない。このことを積極的に警察へ知らせるつもりもない」
J崎の陰から2隻の船が姿を現すのが見えた。
「警察の船じゃないか。こっちへ帰ってくるな。戻ろうか」
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