今日の十角館の殺人はどうかな?
安心院の吉川家を出たのが午後5時過ぎ、二人が別府まで帰り着いたのは、途中で夕食に降りたせいもあった、すでに9時をまわった頃だった。
「ちょっと紅さんの家を覗いてみたいんだが、いいかな」と島田が言い出し、「構いませんよ」と江南は答えた。
意気込んで遠出してきたものの、それにしては大した収穫も得られなかった気がする。
(たとえば、吉川政子のもとにも青司名義の手紙が届いていた、という話だったら、僕は満足したんだろうか)
やがて車は鉄輪の紅次郎宅に到着した。
島田が呼び鈴を押した。家の中でその音の鳴るのが、かすかに聞こえた。だが、しばらく待っても応答はない。
「おかしいな。明かりは点いているのに。もう寝ているのかなあ。いいか、また今度にしよう。さて、行こうか」
国道に出てO市へ向かう。
「僕もある意味では、当て外れの気もしたけどね、別の意味じゃあ、今日の安心院行きは大収穫だよ」と島田が言った。
「と言うと」
「当てが外れたっていうのは、吉川誠一の消息に関する話だね」
「でも島田さん、行方不明になってまだ半年だというのに葬儀まで済ませてしまったっていうのは、かえって何かあるように思えませんか」
「僕の見たところでは、あの政子っていう女はどうやっても嘘のつけるタイプじゃない。正直で人が好いのだけが取り柄の女だ」
「はあ」
「これでも人間を見る目はけっこう鋭いつもりなんだよ。ま。坊主の勘とでもいうかな。
コナン君、タバコを1本貰えないかな」
「セブンスターで良ければ」と言って箱ごと手渡すと、島田は1本押し出して口にくわえた。
「数年前までは、ひどいヘビースモーカーだったんだよ。ところが一度、肺を悪くしてね、依頼ほとんど吸わなくなった。1日に1本だけ、と怠惰な生活の中でこれだけは自分に課しているんだ。
それでたね、収穫のほうはと言うと、まず青司にあまり財産がなかったっていう話。なるほど、吉川=犯人説の動機はかなり弱くなる」
「和枝夫人に恋していたというほうは?」
「どうもそっちの説は、初めからいただけないと思ってるんだ。いかにもこじつけって感じがしてねえ」
「だけど島田さん、それじゃあ事件の犯人は」
「一つ考えていることはある。いずれ話すけれども、それより今日の成果を、守須君に報告しあきゃならないんだろう」
「ああ、そういえば」
「守須君か、彼もなかなかいい名前だな」
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