今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?
倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る
2人目の岩下のシナリオ:窓枠の中で→エンディング№310~313を見る
3人目は風間のシナリオ:下半身ババア→エンディング№168・169を見る
4人目は荒井を選択!
荒井昭二は2年B組の生徒。
「よくある七不思議の話をしても面白くないでしょう?そうは思いませんか?」
- よくある七不思議で結構です
- そうですね
- 友達の話はどうですか?
「そうだ、人間の探求心について話をするというのはいかがですか。僕はね、享年の夏休みに面白い体験をしたのですよ。
普通の日常を過ごしているだけでは、なかなか体験できない経験なのですが、あなたは、そういう体験は貴重だと思いますか」
- どんな体験かにもよります
- 何でも体験するべきですよね
- 貴重といえば海外旅行ですか?
「ずいぶんと慎重なのですね、あなたは。しかし、慎重な性格は新たな刺激を得られないということの証でもあるのですよ。
勇気をもって一歩踏み出す、好奇心が何ものにも勝る、だからこそ手に入る報酬は至高の勲章なのですよ。
突然ですが、あなた、アルバイトをしたことはありますか?うちの学校で禁止されているのは重々承知ですよ。
でもね、そんな規則を破ってまでしたいことってあるでしょう?
例えばアルバイトを禁止されていても、何故するのでしょう?
小遣いが少なくて自分の欲しいものが買えないからではなく、家計を助けるためにやむなくする場合もあるでしょう。
知人が病気や事故に遭い、その手伝いをしなければならなくなった、そんな理由もあるでしょう。
罰せられるとわかっていて、校則を破る行為をあなたは愚かだと思いますか?
僕は愚かな人間ですから、勝てないんですよ、興味という欲望にね。
思えば、恥の多い生涯を送ってきました。ところでね、坂上君なら、校則を破ってもいいと思いますか?」
- 絶対に駄目
- 破るのも人生です
- 恥の多い生涯と送るって、もしかして、それは?
「ええ、あなたならそう答えると思いましたよ。見るからに真面目そうな方ですから。
僕ですか?さあ、どうでしょう。それは話を続きを聞けば、わかるかもしれません」
去年、新井が1年生だった夏休みに、当時のクラスメイトだった中村晃久から悩み事を相談された。
「僕は今とても困っているんだ。実はね、親戚が青森で牧場を経営しているんだけど、人手が足りないから手伝いにこないかと誘われているんだ。でも、学校はアルバイトが禁止されているだろ?だから困っているんだよ」
「アルバイトは禁止されていますが、手伝いは禁止されていないでしょう?それに親戚ならなおさらでしょう?親戚の家に遊びに行って、家業の手伝いをしたらお小遣いを貰えたということはよくあるんじゃないですか?」
「確かに荒井君のいう通りだよね。普通なら、そう簡単に考えれば何も悩む必要はないよね」
「何か行きたくない理由でもあるのですか?」
「ちょっと一人では行きにくいっていうか、場所が場所だけに特殊な環境だからさ。そうだ、荒井君、一緒に行こうよ。1日5千円は出すって言ってたよ。宿泊費や食費は掛からないんだ。三食ついて1か月間のアルバイトだから、かなり稼げると思うよ。みんなに聞こえちゃったかな。まあ、考えといてよ。返事は今度でいいから、じゃあ」
「坂上君なら、このアルバイトをしたいと思いますか?」
- やりたい
- やりたくない
- 他のバイトを探す
「なるほど、あなたは僕と同じ選択をするのですね。僕も他のバイトを探すことにしたんですよ」→シナリオ:いみぐい村開始!
荒井は夏休みのほとんどまるまるをアルバイトに費やすのは、あまりにも分の悪い賭けだと感じたので、後日、中村の申し出を断った。
中村の申し出を断ったものの、荒井の中ではアルバイトを体験してみたいという気持ちが強く残っていた。
校則で禁止されている行為を通じて、何か非日常的で好奇心で満たされる体験をしてみたいと、思ったからだ。
手始めに、アルバイトの求人雑誌を見てみることにしたが、ページをめくれどありきたりな仕事なかりで、まったくそそられるものがない。
バイト募集のチラシは掲示板にも目を通すうようにしたが、やはりこれといって興味の惹かれる奇特なものはなかった。
よくよく考えてみれば、非日常を得られる変わった仕事が、すぐに目につくような場所で募集しているわけがなかった。
中村の誘いを無碍にしたことを少し後悔し始めていた時、クラスメイトの袖山勝が休み時間に話しかけてきた。
袖山は、当時荒井と同じサッカー部で仲良くしていた。
「荒井君、アルバイト探しているの?」
「どこで聞いたの?」
「中村君がクラス中に牧場でもアルバイトを誘いまわっていてね。そのとき荒井君が彼の申し出を断ったことを聞いたんだ。『荒井君はもっと割のいいバイトがいいに違いない』って中村君は言ってたよ。もしかしたら彼の言う通り、良い働き口を探しているのかと思ってね」
「別にお金の所為で中村君の話を断ったわけじゃないよ。ただ僕はもっと自分がやりたいことをしたいだけなんだ」
「うん、荒井君はそういう人だと思っていたよ。だから君が気に入りそうなとっておきの話を持ってきたんだ。
今度、僕の遠い親戚の住むいみぐい村というところでお祭りがあるんだ。その手伝いを募集しているらしいだけど、興味ないかな。祭り自体は2日間で、準備を入れて3日間手伝ってほしいんだって」
祭りと聞いた荒井は、よくある縁日のイメージが浮かんだが、『とっておき』というほどのものではないように感じた。
荒井の顔から落胆を読み取った袖山は、「祭りと言っても夏祭りにような露店が出るにぎやかなものじゃないよ。どちらかというと、民族的はものさ。昔ながらの儀式をして神様を祀る、厳かな祭りだって」と続けた。
「なんでも50年前に途絶えていたものを村おこしのために復活させるらしい。村には人も少ないし、その次はいつ祭りを開催できるかわからないんだってさ」
「つまりその祭りを見るのは、今年が最後のチャンスからもしれないってことかい?」
「そうなるね。どんな手伝いをするか、詳しいことは行ってみないとわからないんだけど、もちろん報酬も出るらしいよ」
半世紀も途絶えていた祭りをこの目で無ることができるなんて、非常に価値のあることだと荒井は感じた。
この機会を逃すと、もう一生こんな体験をできないかもしれない。アルバイトは校則で禁止されていることは、どうでもよくなっていた。
仮に校則を破って咎められようとも、祭りを見るついでに少し手伝いを頼まれただけ、と主張すればいいだけだ。
「どうだい?」
「もちろんぜひとも行きたいけれど、僕のような部外者が手伝っても大丈夫なの?」
「問題ないよ。さっきも言った通り、村おこしのための祭りだからね。いろんな人に知ってほしいし、人手も少ないから友達を呼んでくれないかと親戚から言われたんだ」
荒井は、袖山から詳しい日時と村の場所を聞きながら、何十年も前に繰り広げられていたのであろう素朴で厳格な祭礼の儀を頭に思い浮かべていた。
夏休みに入り、約束の日になった。両親には友人と旅行に行くと伝えて、二泊三日分の荷物をバッグに詰め、荒井は袖山と駅で待ち合わせをして電車に乗り込んだ。
袖山から聞いたいみぐい村という名前と村の場所から、事前に祭りのことを調べようと、何度も図書館に足を運んだが、荒井が欲しい情報はまったく出てこなかった。
「一緒に来てくれてありがとう。実は親戚といってもほとんど会ったことのない人だから、一人で行くのは心細かったんだ」
荒井と袖山は、他愛のない話をしながら目的地へ向かっていた。
数時間電車に乗ったあと、荒井たちはひっそりと佇む無人駅に降りた。その駅で降車したのは荒井たちしかしなかった。
荒井たちは、駅の近くから出る小さなバスに急いで乗った。目的の場所まで向かうバスは日に2本しかないので、これを逃すと大変なことになる。
バスには乗客は乗っていませんでした。
バスの運転手が物珍し気に見て、少し微笑んだ。「
「お客さんたち、どこまで行くの?」
「いみぐい村まで。祭りの手伝いに行くんです」
「あそこはいいとこだよ、けどお祭りなんであったかなあ」
久しく執り行われていなかった祭りですから、知られていなくても不思議ではない。
バスが進む間、人はおろか他の車とも一切すれ違いません。
目的のバス停まで30分ほどバスは山道を進み、いよいよいみぐい村にたどり着いたときは、日は西側に傾きかけていた。
バス停では、袖山君の親戚夫婦が出迎えてくれていた。
袖山「お久しぶりです。わざわざ迎えに来ていただいてありがとうございます」
おじ「遠いところからよく来たね」
おば「久しぶりねえ、勝君。前にあったときはうんと小さかったものね。あなたはお友達の荒井君かしら?」
荒井「初めまして、荒井昭二と申します。3日間よろしくお願いいたします」
年齢は初老に入りかけた頃だろうか。二人とも柔和で優しそうな人でした。
バス停の周りには一面の畑が広がっており、まるで毛並みの良い緑の絨毯が敷き詰められているように立派な野菜が育っていた。
背の高い建物なんて一つもなく、見上げた先にあるのは遠くまでつらなく山々と高い青空だけで、とても美しいものだった。
バス停からしばらく歩いた先、トマトが多く実る畑に囲まれた二人の家があった。
昔ながらの木造建築で、鍵を使わずそのまま玄関の扉か開いていたので、荒井たちは驚いた。
この村には家に鍵をかける習慣がないようだった。盗られるものは何もないし、盗みを働くような悪人は村にいないからという理由だそうだ。
2階に客用の部屋があるから自由に使ってね、と夫妻は行ってくれたので、荒井たちは荷物を置いて、夫妻の待つ1階へ降りた。
「来てもらってすぐで悪いんだが、さっそく祭りの手伝いをしてもらってもいいかな?」と、色の濃いお茶を出しながらおじさんは申し訳なさそうに言いました。
村で採れる葉を煮出して作ったものらしく、一口飲むとすっきりとした味わいが広がった。
この近くにある村の寄り合い場で準備は行われいるとのことで、親戚夫婦は村の紹介がてらに連れて行ってくれた。
寄り合い場はいみぐい村自治会館と書かれた札が掛けられた場所で、他の家より少し大きいくらいの民家だった。
玄関の靴箱はすでにいっぱいになっており、荒井たちはそこへ靴をそろえて入れた。
中に入ると、大きな広間になっており、何やら作業をしている20人ほどの老人たちが、一斉に振り返って荒井たちを見たが、若者は一人はいなかった。
「おやあ、君らが手伝いに来てくれた子たちか?ありがとうねえ」と一人のおじいさんが微笑みながらそう言った。
彼らは口々に労いの言葉を言い、笑いかけてくれた。
曰く、都会から離れたこの村では過疎化が進み、若い人のほとんどは村から出て行ってしまっているようです。
手伝いの内容は、銅で作られた小さな鈴に、編み込まれた紐を通りて吊り下げるというものです。
鈴は親指大の小さなものでしたが、祭りで使うものだと聞くと、なんとなしに神秘的なものであるかのように見えた。
鈴に通す紐の編み込み方は、周りの老人方に教えてもらった。数世紀前から村に伝わる独特な編み方だそうだが、近年になるにつれだんだんと簡略化されて、荒井たちでもできるものだった。
その鈴を何百個ほどこしらえていくのです。量を思うと気の遠くなる作業だった。
よく見ると、広間には鈴を作る班とは別に、何やらお面を作る班もいるようだった。
お面班の方を盗み見ると、老人たちは木彫りの四角い面に絵の具と筆で青い化粧を施しているところだった。
「すみません、この鈴とあのお面は、いったい祭りにどうやって使うのですか?」と荒井は近くで作業しているおばあさんに尋ねた。
「これかい?これはね、神様をお呼びするための鈴なのよ。お面は、神様を安心させてあげるためのものだね」
「それは、この村の神様ということでしょうか?」
「そうそう、この村の名前の由来にもなったいみぐい様を呼ぶためのものでねえ。久しぶりのお祭りだから、失礼のないようにしなくちゃね」
それを聞いた荒井は、木彫りのお面を被りながら鈴を一心不乱に鳴らす村人たちの姿を想像した。
あなたはどう感じますか?
都会と比べて不便なところはありますが、住民がみな家族同然のように仲が良くて、温かみがある村を。
閉塞的と言えるかもしれませんが、裏を返せば一つ一つの繋がりが密ということなのです。
坂上君は、今までの話を聞いてこの村をどう思いましたか?
- 良い村だと思う
- あまり行きたいとは思わない
僕も確かに、その時までは素晴らしいところだと思っていましたよ。
荒井はさっきのおばあさんに再び質問をした。
「いみぐい様とは、どんな神様なんでしょうか?いみぐい様にまつわる話を教えてくれませんか」
「いみぐい様はねえ、この村がまだなめをない集落だったころ、大飢饉の襲われたとき救いの手を差し伸べてくださった神様さ。
海から川へ上ってやってきて、飢えた村人たちにご自身の身を一部切り取って与えてくれたそうな。
いみぐい様の身を食べた村人たちはたちまち元気になって、以降健康に過ごしていたといわれとる。
村が活力を取り戻したのを見届けて、いみぐい様はまた川を上って帰っていったらしい」
「なるほど、この村が今もあるのは、いみぐい様のおかげというわけですね」
「そうさ、感謝の心を忘れずにいないとねえ」
「その恩義を形にするのが明日からの祭ということですね。いみぐい様がやってきた大昔というと、何年ごろの話になるのでしょうか?」
「ええっと、確か・・・1500年ごろだとか・・・」
おばあさんがそう口ごもったときのことです。周りにいる老人たちの目つきがさっと変わった。
「何をあいまいなことをいうとる?1522年に決まっとるわい」
「そうじゃ、ばあさん、ボケが来たか?」
「いみぐい様がおいでなさった年を忘れるとは」
「どうなっても文句を言えん」
「まったくありえない」
こんなことを老人たちは口々に言った。
気が付けば、広間にいる老人全員が作業を止めて、おばあさんは睨んでいた。
おばあさんはすっかり委縮して黙り込み、先ほどの和気あいあいとした雰囲気とは打って変わって、なんとも重苦しい空気が寄り合い場を支配していた。
「あの、教えてくださってありがとうございます。いみぐい様についてもっと知りたいのですが、どなたに聞けばいいでしょうか」と居心地の悪い空気をどうにか打破したくて、荒井はそう言った。
「いみぐい様のことなら、みーんなよく知っとるよ。しかし、一番っつったら、やっぱり村長だな。ちょうど祭り会場におると思うから、あとで聞いてみい」と初めに話しかけてくれたおじいさんが柔らかく言った。
張りつめていた空気が嘘だったように、朗らかにおじいさんは笑っています。
他の老人たちももう元の優しい顔に戻っていましたが、詰め寄られたおばあさんだけは、何か本当にとんでもない罪を犯してしまったように、相変わらずうつむいたままった。
その後、荒井たちは作り上げた鈴とお面を祭り会場までもっていくことになった。
寄り合い場からでたときはすでに夕暮れ時になっていた。
みんなで袖山のおじが運転するトラックの荷台に、鈴とお面を入れた段ボールを詰め込んだ。
すべての段ボールを運び終わり、トラックが出発するときには、もう夕日が沈みそうな頃合いだった。
荒井、袖山、おじの3人一緒にトラックに乗り込み、祭り会場へと向かった。
おばは夕食の支度があるので家に戻った。
「あの責められていたおばあさん、いつの間にかいなくなってたね」
「ちょっと気まずくなってしまったから、先に帰ったんじゃないかな」
トラックの後部座席で、荒井と袖山はそんな会話をした。
祭り会場は、寄り合い場から車で10分ほどの距離にあった。
そこでままた数十人ほどの老人たちが、テントや小さな舞台の設営など、明日に向けて準備を行っている最中だった。
「お疲れ様です、準備はどうですか」
「おう、何とか終わりそうだ」
「それは良かったです、村長さん。小道具の方も間に合いました。手伝いに来てくれた子たちのおかげです」
「おお、わざわざ来てくれた子たちか、ありがとうな。
今はみんなで明日からの舞台作りをしていたんだが、もうそろそろ終わりそうだ。
小道具はテントの下に置いといてくれるか。もう暗くなるし、明日の午前中にやろう。あんまり気張りすぎても、いみぐい様が心配するしな」
おじと村長との会話を聞いていた荒井は、「いみぐい様は今もこの村を見守ってくださっているのですね」と声を掛けた。
「おお、いみぐい様の話に興味があるなら、ちょうどいいものがある」と言って、村長は、荒井と袖山を近くにある祠に案内してくれた。とてもこじんまりした古そうな祠だった。
「ここは昔、いみぐい様がやってきた場所と言われておる。感謝の心を忘れないために建てられた祠でな」と言うと、村長は錆びついた鍵を取り出し、苔むした祠の扉にある錠前に差し込んだ。
この村では家の玄関は施錠しないのだから、よほど大切なものが入っているのでしょう。
扉を開くと、村長は中から古びた本を取り出し、丁寧にめくると、あるページに描かれている絵を見せてくれた。
「これがいみぐい様だ」
そこには尾びれと人間の手足を持つ、魚のような生き物が描かれていました。皮膚が青みがかっており、目玉はすべて白く塗りつぶされています。
荒井は見た瞬間に半魚人という言葉が浮かび上がった。
「なぜ今まで祭りは途絶えていたのですか?村の方々は、みなさんいみぐい様のことを大切におもっているようですが」と袖山が質問した。
「情けない話だが、村の人口が減って人手が足りんくなった。せめて昔のように活気づくようにと、なんとか今年も無理をして祭りを起こすことにした」
いみぐい様の姿描かれている古びた本には、村の歴史が事細かに書かれているとのことでしたが、古い言葉で書かれていますし、ちらりと傍目から見た程度では、ほとんど内容はわからなかった。
「それ、見せていただいてもかまいませんか?その本の内容にとても興味があるんです」と荒井が言ったが、村長は、この村のとっての宝というべき貴重な存在だから、村の外から来た者には触らせることはできない、と断ってきた。
祭り会場に戻ると、村長は「今日はここまでにしよう。残りの細かいことは明日の朝だ。カズ、お前も今日は帰るんだぞ」と、会場の舞台に向かって言った。
「わかりました。じゃあ村長、また明日」と言ったのは、二十歳を少し過ぎたばかりに見える青年で、談笑する老人たちには目もくれず、さっさと背を向けて行ってしまった。
その後、おじ夫婦の家に戻って夕食もお風呂もいただいてから、床に入った荒井は、すぐに寝入ってしまった。
翌朝、朝食をとったあと、今日はおばも一緒に祭り会場へと赴き、荒井たちも準備に加わった。
周りを見れば、カズをはすでに来ており、相変わらずの仏頂面で村人に話しかけられてもにこりともしていなかったが、仕事は真面目にやっていた。村人たちが気さくに接しているところをみると、無愛想ならがも好かれているようだった。
細かい準備は昼前に終わった。祭りは午後から始まるようです。
いったん、昼食をとりに帰り、お昼過ぎに会場へ戻ってきた荒井たち。
会場にはすでに村人たち全員が集まっているようで、カズもその中にいた。
それに祭りの話を聞きつけ、新聞記者が取材に来ていた。
村長が舞台の上へとやってきた。手には昨日手伝って作った鈴とお面があった。
「いみぐい様のための祭を、ここに始めるとする」と村長が宣言すると、舞台上のお面を被った老人が3人上がってきた。
彼らは舞台に膝をつき、鈴を振って鳴らし始めた。
しばらくすると、真っ青に塗りつぶされたお念を被った村人が一人、舞台上に現れた。
きっとこれはかつていみぐい様がこの村に現れたときを再現したものだろう。
鈴を持った3人の老人は、深々ろ頭を下げた。
その舞台が終わったあと、いよいよ荒井たちも見るだけでなく、実際に参加できる儀式が始まろうとしていた。
村人たちは舞台が終わった瞬間、一様に背を向けて祭り会場を出て行った。
「あの、もう帰るのですか?」と荒井が尋ねると、おじは「ああ、そうだよ。僕たちは戻っているから、あとでまた会おう。君たちは村長を手伝ってくれ」と答えた。
いつの間にかお面をつけた村長が、「年老いたわい一人ではどうにはできんからな。さあ、お前たちも早くお面をつけなさい」と言った。
舞台に上がった荒井と袖山は、お面をつけたが、見た通りに視界が悪く制限されている。
戸惑っていると「これから村の家を全部回っていくから、君たちの分、持って」と後ろから声を掛けられた。
そこにはお面をつけた人がおり、背格好とつっけんどんな口調からカズだとわかった。
カズの手には紐で束ねられた大量の鈴とお面があった。
「これおを持って、村中を歩くんですか?」
「そう、神様を探す旅だよ」
一行は一人数キロはある鈴とお面を引きずりながら、村の家々を回り始めた。
村長から教わった昔から伝わる祝詞のようなものを挙げながら、村の家を一ずつ回り、「いみぐい様はここにいらっしゃるのか?」と聞いていった。
聞かれた家人は「いいえ、来ていません。私もお探しいたします」と答え、いみぐい様を探す一行に加わり、お面とつけてもらう。
村のありことで鈴とお面を置き、「いみぐい様を探していますよ」という痕跡を残していきます。お面はかつていみぐい様が始めて姿を見せた時代の人々を表しているそうだ。
家を回るたびに人が加わり、しばらくするといみぐい様を探す100人ほどの団体が出来上がっていた。もちろんおじ夫妻もいる。
「あれ、あそこには声を掛けないんですか?」
一軒だけ、何も声を掛けないまま通り過ぎようとした家があった。
袖山が疑問の声を上げると、カズが、「あそこは回らない」と小さな声で囁いた。
「いいんですか?もしかしたら、いみぐい様がいるかもしれないのに」と荒井が言うと、カズはは、「いない、いるわけない」とにべもなく答えた。
その家を通り過ぎる際に、窓のカーテンの隙間からちらりと中が見えた。
そこには、昨日村人たちから必要以上に責められたあのおばあさんが薄暗い中じっと俯いている姿が見えた。
やがて一行は祭り会場の広場まで戻ってきた。
道中で鈴とお面を目印代わりに残してきたので、手持ちのものはほとんど残っていません。
一行はいみぐい様の祠の前までたどり着いた。
「見よ、いみぐい様はここにいらっしゃった」と村長が嬉しそうに叫んで、地に膝をついて拝み始めた。
祠には一枚の青く塗りつぶされたお面が飾られていました。祠がこの旅のゴールだということは元々から決められていたようだ。
「今日の行事は、これで終わり。明日はいみぐい様が現れてくれたことを祝う」とカズがこっそり耳打ちしてくれた。
「あれは何だろう?そこの、川のあたりになにかある」と袖山が言うので、荒井が見てみると、確かに近くに流れる川辺に何かが引っ掛かっていた。
神山は、導かれるようにそちらに走っていき、「いみぐい様だ!」と叫んだので、祠に向かって拝んでいた人たちが一斉に袖山の方へ振り向いた。
「いみぐい様がいるんだ」と袖山が言うので、荒井は急いで袖山のもとに駆け寄った。
川辺にうずくまっている袖山の足元をよく見ると、いみぐい様がいた!
真っ青な体と、大きな尾びれ、白く丸い目。大きさは5歳児と同じくらい。
あの祠に保管してある古本に描かれたものと同じ姿をした生き物がいたが、死んでいた。息もしておらず、ぴくりとも動かない。
ただ皮膚だけは水分をたっぷり含んだように艶めいていたが、全身がしわくちゃだった。
それに不気味なことに死んでいるのに、濁った大きな白目をむき出しにしてして、歯を見せてにたにたと笑っていた。
袖山を追ってきた村人たちは、いみぐい様の死体を見た瞬間、一斉に体を強張らせて、互いに目配せをしあい、明らかに動揺していた。
「誰がやった?」と口を開いたのは、村長だった。
しかし、誰も答えない。
いみぐい様を見る限り、明らかな外傷はない。
村人たちはついに誰も口を開かず、結局そのままそこで解散ということになってしまった。
いみぐい様の死体は、村長が責任をもって預かるころになり、村人たちはお面をとり、家へと帰っていった。
家に戻り布団に入ってから、袖山は、「あれはなんだったんだろう」と口にした。
「わからないな。本に描かれていたいみぐい様にそっくりだったけど」
「なんどか村の人たちを悪い空気にさせてしまったようだし、見つけなかった方が良かったのかな」
「遅かれ早かれ誰かが気づいていてたと思うよ」
ぽつぽつと話をしていると、窓の方からこつんと小石か何かが当たる音がした。
窓の下を見ると、外にいたのはカズで、降りてこいと手招きしている。
荒井と袖山は、夫妻を起こさないようこっそりと外へと出た。
「突然ごめん、寝てた?家の人たちは起こしていないよね」
「僕たちなかなか眠れなかったので、大丈夫です。おじさんたちは寝ています」
「なら良かった。君たちにいみぐい様のことを話しておこうと思って。今日、いみぐい様の死体を見ただろう」
「はい、まさか本当にあんな生き物がいるとは思いませんでした。てっきりいみぐい様は、昔の人の作った創作なのかと」
「確かに死体はあったけどね。君の言う通り、いみぐい様なんていないよ。そんなこと、ありえるはずない。いみぐい様は、村長が中心になって作った嘘の昔話だ。僕を信じろとは言わない。ただ知っておいてほしいだけ」
「じゃあ、今日見たあの死体は、なんなんですか?」
「わからない、なんだかおかしな雰囲気になっているんだ。とにかく明日、何かが起きるかもしれない。村の人が何を考えているのか、君たち、気を付けておいたほうがいいよ。
驚かせるようなことを言ってごめん。どちらにせよ、明日で祭りは終わりだから、今日はきちんと休んで」とカズはそう言うと、「おやすみ」と残し行ってしまった。
そのまま布団に戻って、翌日起きたのは昼前だった。
昼過ぎに荒井たちは、祭り会場の広場へと向かった。
広場にはなんだか腐臭のような臭いがするこに荒井は気づいた。
いぶかしんでいるうちに、なんだか嬉しそうな村長が舞台に上がってきた。
舞台の上、村長の後ろには、いみぐい様の死体がテーブルの上にある大きな皿の上に乗せられていた。腐臭の出どころはこれだった。
「これより祭りの最終儀式を執り行う」と、村長は目を丸く見開いて、歯を見せてにたにたと笑っていた。
「ありがたいことに、いみぐい様は我々の前に現れ、その身を差し出してくれた。それもすべての肉をだ!なんとありがたいことだろう」
村長の声に合わせ、村人たちも歓喜の声は上げた。
「ああ、いみぐい様。ありがとうございます、ありがとうございます」と言って、いみぐい様の方へ向き、手を合わせた。
そして、そのかかいみぐい様の背中にかぶりついた。
「おお、この世のものとは思えない味だ!」と村長が、口から青い液体を滴らせながら、振り向いて叫んだ。
それを合図にするように、村人たちが一斉に舞台に上がり、我先にといみぐい様を食いちぎろうちして、押し合いへし合いの大混乱になった。
恍惚とした表情でいみぐい様の肉を味わっていた村長は、ふらふらと覚束ない足取りで歩き、そのまま舞台から落ちてしまった。
村人たちは、村長が落ちたことに気づかず、奪い合いながらいみぐい様を貪り食っていた。
慌てて荒井と袖山が村長のもとに駆け寄ると、村長はぴくりとも動かない。
「大丈夫ですか」と村長の顔を覗き込んだ袖山は、村長の口から吐き出された青い液体が顔にかかった。
村長は濁った白目を剝き出しにして死んでいた。だというのに、笑ったままの口からはごぼごぼと青い血があふれ出てくる。
そのうち、村人たちも苦しげな声を上げて倒れ、口から青い血を吐きながら、うめき声をあげて地面をのたうち回っていた。
呆然としている荒井と袖山の手を引いたのはカズで、そのまま停めてあったトラックの後部座席に押し込んだ。
カズは間髪入れずに車を発進させ、「荷物、取りに行って、帰れないでしょ」と声を掛けた。
袖山がぼうっとして動かないので、荒井は鍵のかかっていないおじ夫妻の家に入り、二人分の荷物を取ってきた。
「僕が何年か前にこの村に越してきたとき、ここはすでに過疎化が進んでいてね。村おこしの秒案はないとか村長たちにすがるように聞かれたんだ。
よそ者の僕に良くしてくれる老人たちが気の毒で、何か祭りでもやればいいんじゃないか、と答えたんだ。
それが引き金だった。
そもそもこの村には特別なものなんて何もなかった。奇特な逸話もなければ、不思議な土着神もいない。
けれど、村おこしの祭となると、ただ普通の祭じゃ印象不足であろう。そこで村長は村人を集めて、この村に伝わる神様を作ることにした。それがいみぐい様。」
「あのいみぐい様が描かれていた古い本も、祠も作ったということですか?」
「そうだよ。もちろん、祭りの一連の儀式も作られたものだ」
最初はそれこそお遊びみたいに考え始めたものだったよ。老人たちが寄り集まって、みんなで楽しく考えるゲームみたいなものだったんだよ。
祀る神様はこんな姿が良いんじゃないか、こんな伝説があれば良いんじゃないか、名前は村からとろう、ってね。だけど、だんだん熱が入っていってしまった。
何しろ小さい村だからさ、伝染病みたいに話は広まっていって、次第にいみぐい様の話をするのが当たり前のようになっていったんだ。
そして次第に細かすぎる歴史を作っていった。よその人たちに嘘だと見抜かれないようにさ。
いつしか村人たちは、自分たちで作りだした神様の妄想が、真実だと錯覚するほどのめり込んでいった。
いつしかいみぐい様は村人たちの生活に大きく浸食しだした。すこしでもいみぐい様について間違ったことを言ったり、存在を否定したりする人が現れると、その瞬間に村八分にされたんだ。
それから、村人たちは互いに互いを監視するようになった。何か間違いをすれば、その罪人をすぐに追放できるようにね。
ただでさえ少ない若者たちは愛想が尽きて村を出て行った。祭りをやると声を掛けたのに誰も帰ってこなかったのはそのためだ。」
「すべてが嘘だったら、あのいみぐい様の死体はなんだったんでしょうか」
「さあ、もしかしたらたまたま村人たちの妄想と似た生物がいたのかもしれない。もしくは村八分になった人たちの怨みかも」
最寄りの無人駅に着くと、カズは黙ってトラックから降りました。
荒井は、「袖山君、帰ろう。大丈夫?立てるかい?」と声を掛けた。
「うん、大丈夫だよ」と答えた袖山の顔について液体をタオルで拭ってやった荒井は、袖山の手を引いて車から降りた。
「あと5分もすれば帰りの電車が来る、気を付けて帰るんだよ」
「カズさんはこれからどうするのですか?」
「村に帰る。事の発端は僕だし、それに、あそこはいい村だからね。もう二度とこの村に来てはいけないよ」と言ったカズにお礼と別れを告げ、荒井たちは電車に乗った。
電車がホームを離れ、景色がゆっくりと動き出したとき、袖山が窓の外を指さして、「あれは何かな」と言った。
遠目からでしたが、はっきりと首吊り死体が見えた。それも村八分にあったあのおばあさんの。
「そのあと、祭りがどうなったのか、カズさんがどうしたのかはわかりません。
僕は別れの間際、カズさんに『あたなの所為ではありません』と伝え損ねてしまいました。
僕が体験した不思議な夏の話はこれで終わりです。
袖山君?ええ、今もこの学校に通っていますよ。もちろん元気です。
あのあと村はどうなったのでしょうか?新聞を探しても当時の記事は見つかりません。もしかしたら、僕たちの知らない間にまたあの奇祭が開かれているのかしれませんね。
ああ、袖山君のことなのですが、確かに元気ではいるのですが、祭りから帰ってきたあろ、少し変わったことがありまして。
笑い方ですよ。以前は静かに控えめな笑顔を見せる彼でしたが、今は違います。目と口を大きく開き、歯を見せながらにたにた笑うのです。白目を剥き出しにするその顔は、あのとき見た生き物に瓜二つですよ。気になるなら。今度会いに行ってはいかがですか?
「『荒井君、あの村はまだあるのかな』と袖山君はにたにた笑いながら言うので、いつか黙って一人であの村に行ってしまうのではないかと、気が気じゃないんですよ」
エンディング№74:異味喰様
エンディング数26/656 達成度3%
キャラクダー図鑑36/112 達成度32%
イラスト数15/27 達成度5%
次の記事:高校生時代
この記事にコメントする
- HOME -