今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?
倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る
2人目の岩下のシナリオ:窓枠の中で→エンディング№310~313を見る
3人目は風間のシナリオ:下半身ババア→エンディング№168・169を見る
4人目は荒井を選択!
荒井昭二は2年B組の生徒。
「よくある七不思議の話をしても面白くないでしょう?そうは思いませんか?」
- よくある七不思議で結構です
- そうですね
- 友達の話はどうですか?
「そうだ、人間の探求心について話をするというのはいかがですか。僕はね、享年の夏休みに面白い体験をしたのですよ。
普通の日常を過ごしているだけでは、なかなか体験できない経験なのですが、あなたは、そういう体験は貴重だと思いますか」
- どんな体験かにもよります→エンディング№74:異味喰様
- 何でも体験するべきですよね
- 貴重といえば海外旅行ですか?
「その通りです。何事も体験してみなければわからないものです。
しかし、やってみなければわからないからこそ、貴重な体験というのはあるのですよ。
突然ですが、あなた、アルバイトをしたことはありますか?うちの学校で禁止されているのは重々承知ですよ。
でもね、そんな規則を破ってまでしたいことってあるでしょう?
例えばアルバイトを禁止されていても、何故するのでしょう?
小遣いが少なくて自分の欲しいものが買えないからではなく、家計を助けるためにやむなくする場合もあるでしょう。
知人が病気や事故に遭い、その手伝いをしなければならなくなった、そんな理由もあるでしょう。
罰せられるとわかっていて、校則を破る行為をあなたは愚かだと思いますか?
僕は愚かな人間ですから、勝てないんですよ、興味という欲望にね。
思えば、恥の多い生涯を送ってきました。ところでね、坂上君なら、校則を破ってもいいと思いますか?」
- 絶対に駄目→エンディング№74:異味喰様
- 破るのも人生です
- 恥の多い生涯と送るって、もしかして、それは?
「そう言ってもらえると僕も話しがいがありますよ。
それでは、ほんの小さな欲望をさえ抑えることができなかった愚かな僕が体験した話を聞いてください」
去年、新井が1年生だった夏休みに、当時のクラスメイトだった中村晃久から悩み事を相談された。
「僕は今とても困っているんだ。実はね、親戚が青森で牧場を経営しているんだけど、人手が足りないから手伝いにこないかと誘われているんだ。でも、学校はアルバイトが禁止されているだろ?だから困っているんだよ」
「アルバイトは禁止されていますが、手伝いは禁止されていないでしょう?それに親戚ならなおさらでしょう?親戚の家に遊びに行って、家業の手伝いをしたらお小遣いを貰えたということはよくあるんじゃないですか?」
「確かに荒井君のいう通りだよね。普通なら、そう簡単に考えれば何も悩む必要はないよね」
「何か行きたくない理由でもあるのですか?」
「ちょっと一人では行きにくいっていうか、場所が場所だけに特殊な環境だからさ。そうだ、荒井君、一緒に行こうよ。1日5千円は出すって言ってたよ。宿泊費や食費は掛からないんだ。三食ついて1か月間のアルバイトだから、かなり稼げると思うよ。みんなに聞こえちゃったかな。まあ、考えといてよ。返事は今度でいいから、じゃあ」
「坂上君なら、このアルバイトをしたいと思いますか?」
- やりたい
- やりたくない
- 他のバイトを探す
「なるほど、あなたは僕と同じ選択をするのですね。僕も他のバイトを探すことにしたんですよ」→シナリオ:いみぐい村開始!
荒井は夏休みのほとんどまるまるをアルバイトに費やすのは、あまりにも分の悪い賭けだと感じたので、後日、中村の申し出を断った。
中村の申し出を断ったものの、荒井の中ではアルバイトを体験してみたいという気持ちが強く残っていた。
校則で禁止されている行為を通じて、何か非日常的で好奇心で満たされる体験をしてみたいと、思ったからだ。
手始めに、アルバイトの求人雑誌を見てみることにしたが、ページをめくれどありきたりな仕事なかりで、まったくそそられるものがない。
バイト募集のチラシは掲示板にも目を通すうようにしたが、やはりこれといって興味の惹かれる奇特なものはなかった。
よくよく考えてみれば、非日常を得られる変わった仕事が、すぐに目につくような場所で募集しているわけがなかった。
中村の誘いを無碍にしたことを少し後悔し始めていた時、クラスメイトの袖山勝が休み時間に話しかけてきた。
袖山は、当時荒井と同じサッカー部で仲良くしていた。
「荒井君、アルバイト探しているの?」
「どこで聞いたの?」
「中村君がクラス中に牧場でもアルバイトを誘いまわっていてね。そのとき荒井君が彼の申し出を断ったことを聞いたんだ。『荒井君はもっと割のいいバイトがいいに違いない』って中村君は言ってたよ。もしかしたら彼の言う通り、良い働き口を探しているのかと思ってね」
「別にお金の所為で中村君の話を断ったわけじゃないよ。ただ僕はもっと自分がやりたいことをしたいだけなんだ」
「うん、荒井君はそういう人だと思っていたよ。だから君が気に入りそうなとっておきの話を持ってきたんだ。
今度、僕の遠い親戚の住むいみぐい村というところでお祭りがあるんだ。その手伝いを募集しているらしいだけど、興味ないかな。祭り自体は2日間で、準備を入れて3日間手伝ってほしいんだって」
祭りと聞いた荒井は、よくある縁日のイメージが浮かんだが、『とっておき』というほどのものではないように感じた。
荒井の顔から落胆を読み取った袖山は、「祭りと言っても夏祭りにような露店が出るにぎやかなものじゃないよ。どちらかというと、民族的はものさ。昔ながらの儀式をして神様を祀る、厳かな祭りだって」と続けた。
「なんでも50年前に途絶えていたものを村おこしのために復活させるらしい。村には人も少ないし、その次はいつ祭りを開催できるかわからないんだってさ」
「つまりその祭りを見るのは、今年が最後のチャンスからもしれないってことかい?」
「そうなるね。どんな手伝いをするか、詳しいことは行ってみないとわからないんだけど、もちろん報酬も出るらしいよ」
半世紀も途絶えていた祭りをこの目で無ることができるなんて、非常に価値のあることだと荒井は感じた。
この機会を逃すと、もう一生こんな体験をできないかもしれない。アルバイトは校則で禁止されていることは、どうでもよくなっていた。
仮に校則を破って咎められようとも、祭りを見るついでに少し手伝いを頼まれただけ、と主張すればいいだけだ。
「どうだい?」
「もちろんぜひとも行きたいけれど、僕のような部外者が手伝っても大丈夫なの?」
「問題ないよ。さっきも言った通り、村おこしのための祭りだからね。いろんな人に知ってほしいし、人手も少ないから友達を呼んでくれないかと親戚から言われたんだ」
荒井は、袖山から詳しい日時と村の場所を聞きながら、何十年も前に繰り広げられていたのであろう素朴で厳格な祭礼の儀を頭に思い浮かべていた。
夏休みに入り、約束の日になった。両親には友人と旅行に行くと伝えて、二泊三日分の荷物をバッグに詰め、荒井は袖山と駅で待ち合わせをして電車に乗り込んだ。
袖山から聞いたいみぐい村という名前と村の場所から、事前に祭りのことを調べようと、何度も図書館に足を運んだが、荒井が欲しい情報はまったく出てこなかった。
「一緒に来てくれてありがとう。実は親戚といってもほとんど会ったことのない人だから、一人で行くのは心細かったんだ」
荒井と袖山は、他愛のない話をしながら目的地へ向かっていた。
数時間電車に乗ったあと、荒井たちはひっそりと佇む無人駅に降りた。その駅で降車したのは荒井たちしかしなかった。
荒井たちは、駅の近くから出る小さなバスに急いで乗った。目的の場所まで向かうバスは日に2本しかないので、これを逃すと大変なことになる。
バスには乗客は乗っていませんでした。
バスの運転手が物珍し気に見て、少し微笑んだ。「
「お客さんたち、どこまで行くの?」
「いみぐい村まで。祭りの手伝いに行くんです」
「あそこはいいとこだよ、けどお祭りなんであったかなあ」
久しく執り行われていなかった祭りですから、知られていなくても不思議ではない。
バスが進む間、人はおろか他の車とも一切すれ違いません。
目的のバス停まで30分ほどバスは山道を進み、いよいよいみぐい村にたどり着いたときは、日は西側に傾きかけていた。
バス停では、袖山君の親戚夫婦が出迎えてくれていた。
袖山「お久しぶりです。わざわざ迎えに来ていただいてありがとうございます」
おじ「遠いところからよく来たね」
おば「久しぶりねえ、勝君。前にあったときはうんと小さかったものね。あなたはお友達の荒井君かしら?」
荒井「初めまして、荒井昭二と申します。3日間よろしくお願いいたします」
年齢は初老に入りかけた頃だろうか。二人とも柔和で優しそうな人でした。
バス停の周りには一面の畑が広がっており、まるで毛並みの良い緑の絨毯が敷き詰められているように立派な野菜が育っていた。
背の高い建物なんて一つもなく、見上げた先にあるのは遠くまでつらなく山々と高い青空だけで、とても美しいものだった。
バス停からしばらく歩いた先、トマトが多く実る畑に囲まれた二人の家があった。
昔ながらの木造建築で、鍵を使わずそのまま玄関の扉か開いていたので、荒井たちは驚いた。
この村には家に鍵をかける習慣がないようだった。盗られるものは何もないし、盗みを働くような悪人は村にいないからという理由だそうだ。
2階に客用の部屋があるから自由に使ってね、と夫妻は行ってくれたので、荒井たちは荷物を置いて、夫妻の待つ1階へ降りた。
「来てもらってすぐで悪いんだが、さっそく祭りの手伝いをしてもらってもいいかな?」と、色の濃いお茶を出しながらおじさんは申し訳なさそうに言いました。
村で採れる葉を煮出して作ったものらしく、一口飲むとすっきりとした味わいが広がった。
この近くにある村の寄り合い場で準備は行われいるとのことで、親戚夫婦は村の紹介がてらに連れて行ってくれた。
寄り合い場はいみぐい村自治会館と書かれた札が掛けられた場所で、他の家より少し大きいくらいの民家だった。
玄関の靴箱はすでにいっぱいになっており、荒井たちはそこへ靴をそろえて入れた。
中に入ると、大きな広間になっており、何やら作業をしている20人ほどの老人たちが、一斉に振り返って荒井たちを見たが、若者は一人はいなかった。
「おやあ、君らが手伝いに来てくれた子たちか?ありがとうねえ」と一人のおじいさんが微笑みながらそう言った。
彼らは口々に労いの言葉を言い、笑いかけてくれた。
曰く、都会から離れたこの村では過疎化が進み、若い人のほとんどは村から出て行ってしまっているようです。
手伝いの内容は、銅で作られた小さな鈴に、編み込まれた紐を通りて吊り下げるというものです。
鈴は親指大の小さなものでしたが、祭りで使うものだと聞くと、なんとなしに神秘的なものであるかのように見えた。
鈴に通す紐の編み込み方は、周りの老人方に教えてもらった。数世紀前から村に伝わる独特な編み方だそうだが、近年になるにつれだんだんと簡略化されて、荒井たちでもできるものだった。
その鈴を何百個ほどこしらえていくのです。量を思うと気の遠くなる作業だった。
よく見ると、広間には鈴を作る班とは別に、何やらお面を作る班もいるようだった。
お面班の方を盗み見ると、老人たちは木彫りの四角い面に絵の具と筆で青い化粧を施しているところだった。
「すみません、この鈴とあのお面は、いったい祭りにどうやって使うのですか?」と荒井は近くで作業しているおばあさんに尋ねた。
「これかい?これはね、神様をお呼びするための鈴なのよ。お面は、神様を安心させてあげるためのものだね」
「それは、この村の神様ということでしょうか?」
「そうそう、この村の名前の由来にもなったいみぐい様を呼ぶためのものでねえ。久しぶりのお祭りだから、失礼のないようにしなくちゃね」
それを聞いた荒井は、木彫りのお面を被りながら鈴を一心不乱に鳴らす村人たちの姿を想像した。
あなたはどう感じますか?
都会と比べて不便なところはありますが、住民がみな家族同然のように仲が良くて、温かみがある村を。
閉塞的と言えるかもしれませんが、裏を返せば一つ一つの繋がりが密ということなのです。
坂上君は、今までの話を聞いてこの村をどう思いましたか?
- 良い村だと思う→エンディング№74:異味喰様
- あまり行きたいとは思わない
おや、そうですか。坂上君は、あまりそそられないのですね。
ですが、僕はあそこで貴重な体験ができましたから、やはり行って良かったと思っていますよ。
荒井はさっきのおばあさんに再び質問をした。
「いみぐい様とはどんな神様なのですか?どんな姿をしているのでしょうか」
「そりゃあもう、口では表せないほどの美しさだよ。
あんたらもいみぐい様のお姿を見たらそう思うに違いないよ。私も最後に見たのは50年前だからねえ、楽しみで楽しみで仕方ないよ」
周りの老人たちも彼女に続いて頷き始めました。
「一度見たら忘れられない美しさじゃ」
「もう一度お姿を拝見できるなら、もう死んでも後悔はない」
「ありがたや、ありがたや」と、ついに泣き出す老人もいるほどだった。
荒井たちが困惑していると、次第にぎり、ぎりぎり・・・という何かを擦るような音が聞こえてきた。
それは歯ぎしりの音だった。周りにいる老人たちがみな、歯を食いしばり、すり合わせているのだった。
その時、広間の壁にかけられた古時計がぽーん、ぽーんと17時を告げた。
その音に、村人たちは我に返ったようで、ハッと顔を上げ、「もうこんな時間かぁ」と誰かが言い、元の通り、穏やかな空気があたりを包んだ。
その後、荒井たちは作り上げた鈴とお面を祭り会場までもっていくことになった。
寄り合い場からでたときはすでに夕暮れ時になっていた。
みんなで袖山のおじが運転するトラックの荷台に、鈴とお面を入れた段ボールを詰め込んだ。
すべての段ボールを運び終わり、トラックが出発するときには、もう夕日が沈みそうな頃合いだった。
荒井、袖山、おじの3人一緒にトラックに乗り込み、祭り会場へと向かった。
おばは夕食の支度があるので家に戻った。
祭り会場は、寄り合い場から車で10分ほどの距離にあった。
そこでままた数十人ほどの老人たちが、テントや小さな舞台の設営など、明日に向けて準備を行っている最中だった。
「村長、こっちの道具の準備は終わりました。設営は順調ですか?」
「おう、会場の方はなんとかなるだろう、ただいくらこっちの首尾がうまくいっても『あちら』がな」
おじに促されて、村長と呼ばれた老人に挨拶すると、村長は豪快に笑った。
「おお、わざわざ来てくれた子たちか、ありがとうな。
どうだ、この村は?都会と比べるとなんもないところだが、ゆっくりしていってくれ。なんならずっといてくれると嬉しいな」
荒井は、「先ほど言っていた『あちら』とはなんのことでしょうか」と尋ねた。
「実はな、祭りの2日目、つまり明後日だが、いみぐい様を模したものを使った催しをしようと思っていてなあ。なかなかいみぐい様の美しさが再現できないもんで、四苦八苦しとるんだ」
袖山も会話に加わり、「寄り合い場にいた人たちも言っていたんですが、いみぐい様はとても美しいそうですね」と言った。
「そうだ、あの美しさを前にしては誰も何も言えなくなる」
「それは是非とも見てみたいです、ねえ荒井君」
「そうだね」と荒井は答えた。
今日はもう暗くなるからと準備は中断し、鈴とお面を詰めた大量のダンボールは会場の簡易テントの下に運び込むことにしたが、荒井たちはへとへとだった。
一方老人たちはきびきびと動いている。
荒井は、「元気の秘訣はなんですか?」と近くで一息ついているおじいさんに尋ねた。
おじいさんは「そうだなあ、やっぱりいみぐい様をいつも拝んでいるおかげだろうな」と答えた。
それを聞いた荒井は、いみぐい様の姿見たくてたまらなくなっていた。
その後、残りの準備は明日の互選中にしようということになり、荒井たりはおじの家に帰った。
晩御飯は、おばが作ったカレーで大変おいしいものだったが、一つだけおかしなところがあった。
おじ夫婦はスプーンでカレーを口に運ぶ際、二人とも口をできるだけ動かさずに食べるのです。
もちろんまったく口を開けずに食べることができないので、ほんの少し唇を開き、その隙間から吸うようにして食べており、ずず、ずず、と吸う音が荒井たちの耳の届いていた。
一頬ばりカレーを口に含んだ後、また口をできるだけ動かさず、歯ですりつぶすようにして咀嚼し、時折、歯が必要以上に擦れ合う不快な音も聞こえてきた。
ひどく食べにくそうにしており、食事時間はとても長いもので食べ終わる頃には、料理は冷めきってしまったいた。
荒井たちはお風呂に入り、もやもやとした気持ちのまま寝入ってしまった。
翌日の午前中、荒井たちが会場に着いたこるには、もうほとんどの村人たちが集まっていた。
休憩をはさみつつ、午後からいよいよ待ちに待った祭りが始まった。
祭りの開催について村長の簡単な挨拶が終わったあと、舞台の上に神輿が運ばれてきた。
その神輿の中に、一人一人が昨日用意した鈴をいみぐい様の感謝の気持ちをともに入れていく、というのが儀式の概要だった。
神輿の屋根の部分が取り外しのできる蓋になっており、そこから中へ順番に鈴を入れ行く。
荒井の番になり、鈴を入れるため神輿を覗き込むと、多くの鈴が詰め込まれていた。
鈴を投げ込んでから、目をつむり手を合わせる。
その時、ふと、いみぐい様はよそ者である自分たちのことをどう思っているのだろう?と疑問がわき、目を開けると、神輿の中に虫の卵がびっしりと詰まっていた。
思わず後ずさりした荒井に、大丈夫と袖山が声を掛けてきた。
我に返った荒井は、もう一度神輿の中を見ると、鈴が敷き詰められているだけだった。
荒井の次に袖山が神輿に向かっているときに、隣にいた老人が「なんか見たんか?」と荒井に話しかけてきた。
「いいえ、何も」と荒井が答えたが、老人は「何が見えた?」と荒井が何か見てしまったことを前提にした質問をしてくる。
荒井は内心腹立たしい気持ちになりながら、「いいえ、何も」と答えた。
袖山は特に何事もなく戻ってきた。
やがて鈴でいっぱいになった神輿は、村人たちが担ぎ、村中をゆっくりと回っていった。
先頭にたった村長が、いみぐい様への祝詞のようなものを歌い上げ、荒井たちは神輿のあとを歩いた。
村人たちは神輿を担ぐ役を交代していき、荒井も担がせてもらった。
ところで神輿とは本来、普段は神社灘のおわす神様が、祭りの際一時的にその身を移すとされるものだ。ですから、今このときにいみぐい様は神輿の中にいらっしゃるということなのだ。
時折休憩を織り交ぜつつ、村を一周するころには、夕方近くになっていた。
会場に戻り、今日はここで解散ということになった。
二日目への英気を養うという名目のもと、今日は広場で軽い宴会が開かれるとのことだった。
休憩をしていると、村長から「すまんが、ちょっといいか?明日の準備で少し見てほしいもんじょがあってな。悪いが、うちの蔵まで来てくれないか?」と声を掛けられた。
村長の家は。この村の中央付近にある、小高い丘の上にあった。
大きな蔵の扉には、重厚な閂がかかっていた。
玄関には鍵をかける風習がないとのことから、よほど重要なものが保管されているのだろうと察せられた、
閂を開くと、中から果物を存分に腐らせたかのような甘みのある悪臭が漂ってきて、袖山は「なんだかいい香りがするね」と言って、ふらふらと進もうとしていた。
村長に言われるがまま、荒井たちは奥へ奥へと進んでいった。
やがて蔵には似つかわしくない鉄格子が嵌め込まれているのが見えてきた。その向こうには人が一人寝泊りできるスペースがあろ、まるで座敷牢のようだった。
そこで何かが蠢いていました。姿は人ですが、腕と足は針金のように黒みががってやせ細り、腹部だけが異様な丸みを帯びていた。唇は糸で固く縫われており、ほとんど開けないようにされていた。
最も異様なのは目で、頭部に大きく膨らんだ複眼を3つ持っていた。
それもただの複眼ではなく、人間の眼球が何十個も集まっており、その一つ一つがあらゆく方向に忙しく動いていた。
そいつは、細長い手をすり合わせ、落ち着きなく体を震わせて、無理やり閉じられた口からあぎりぎりとい不快な歯ぎしりの音が漏れ出ていた。
「美しいだろ。これがいみぐい様だ」と村長が後ろで言った。
荒井が振り返ると、村長は昨日鈴と一緒に作ったお面を被っていた。
「いみぐい様を作り出すのは本当に難しい。以前から50年もかかってしまったが、なんとか完成したよ。
多くの個体がここまで大きくなる前に死んでしまうんでな。
とにかく、これでこの村はまだしばらく安泰だ。どうだ?このお姿は。いままで見たこともない美しさだろう。
そうだ、このお面を被ってくれ。
これがないといみぐい様は我々のことを怖がってしまう」
村長は自分のつけているものと同じお面を手渡してきてが、荒井は従う気にはなれない。
「明日の祭でお披露目するつもりだったんだが、君達には早くみせてあげたくてな。わざわざ遠くから来てくれたお礼だよ」
荒井は醜悪なフォルムに辟易としていたが、袖山はそうではないようで、「なんて綺麗なんだろう」と言って。お面をつけて食い入るようにいみぐい様を見つめていた。
「荒井君も近くで見てみなよ!凄すぎて言葉が見当たらない」
「袖山君、本当に美しいと思っているの?」
「何を言っているんだよ。荒井君こそどうしたんだい、いみぐい様の前でそんな顔をしてはいけないよ」
荒井にはどうしても虫の化け物にしか見えないのに、他の人には別の姿が見えているのだろうか?
村長は、「遅くならんようにな」と言って蔵を出て行ってしまった。
「袖山君、もう行こう。それにこの村からも早くでしょう。ここはちょっとおかしいよ」
「どうしてそんなことを言うんだよ。お祭りは明日もあるんだよ」
「だって、それはどう見ても化け物・・・」
「いみぐい様に対して失礼なことを言うなよ!」
「わかった、僕だけでも帰るよ。袖山君も、何かあったらすぐ帰った方がいい」
「そうしなよ。みんなには僕が謝っておくからさ」
悪臭にも耐えかねて、荒井はその場にお面を置いて蔵を出た。
この臭いはいみぐい様から放たれる一種のフェロモンのようなものだろう。それに袖山は囚われてしまったようだった。
荒井は荷物を取りにおじの家に戻った。
そして、バスの最終便の時間が迫っているので、足早に家を出た。
村はずれの停留所にやってきたバスに乗り込むと、来た時と同じ人が運転手を務めており、こちらを覚えていたらしく、「おや、お友達はどうしたんだい?」と驚いたように聞いてきた。
「もう少し、この村にいるようです。ずいぶん居心地がいいそうで」
「そうかぁ、ここはいい村だからねえ」
「・・・そうですね」
そうして、荒井は一人でいみぐい村を離れた。
「袖山君ですが?残念ながら、彼はまだ帰ってきてません。よっぽどあの村が気に入ったのでしょうね。
後日、袖山君の両親のもとに『夏休み中ずっと滞在することになったから、心配しないで』と電話がかかってきたらしいですよ
奇妙なことに、電話の向こうから袖山君の声に混じって、まるで歯ぎしりのような音が聞こえてきていたらしいです。
それから、夏休みが明けても袖山君が帰ってくることはありませんでした。心配した彼の両親がいみぐい村に向かうと、それにはもう誰もいなかったようですよ。
いくらくまなく探し回っても、村にある家や畑はそのままに、人間だけが忽然と消えてしまったみたいだったと
もちろん警察に相談し、捜索隊も組まれましたが、結局何一つわからずじまいで、今も未解決事件として捜査されています。
去年ニュースでも取り上げられた話題ですから、あなたたちも見たことがあるのではないですか?
そうそう、村人は消えてしまいましたが、広場に放置された神輿の中から、謎の卵が大量に見つかったそうです。そのどれもが孵化した状態でね
辺りには腐った果物のような臭いが漂っていたそうです。僕はいみぐい様の復讐だと思っています。
あの生き物のことなんて何もわからないのですが、僕が見た時のあれの目は、自分を閉じ込めている村人への怨念が込められたものに見えましたから
坂上君、おかしいのは袖山君だったのでしょうか、それとも僕だったのでしょうか?
あの村の人たちは奇妙なところはありましたが、僕らに対しては悪い人ではありませんでした。
どちらかというと、途中で手伝いを放り出して逃げ帰った僕こそ礼儀の欠けた悪い奴でしよう。
実は、僕はまたあの村に行きたいと思っているんですよ。その時にいみぐい様が僕の目にどう映るのか。
あれは美しいと思えたとき、はじめて袖山君と仲直りでいる気がするんです。もうあの村に行っても誰もいないんですけどね。
これで僕が体験した不可思議な夏の話は終わりです。興味があれば、今度いみぐい村までご案内します」
エンディング№75:忌身喰様
エンディング数27/656 達成度4%
イラスト数17/272 達成度6%
次の記事:エンディング№74:異味喰様
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