
今日のNever 7 - The End of Infinityはどうかな?
遥と月浜でチリチリ
堤防を登った途端、目の前に広がった風景は別天地を思わせた。
茜色の空が、今にも滴り落ちそうな程に深く濃くうるおって見える。
弓なりにのびた砂浜は、ビロードのごとき光沢を帯びてなめらかだ。
「ここが月浜かぁ」とオレが言うと
「ね、登って正解だったでしょう」と優夏が得意げに言った。
商店街へと至る途中、道の左側にあったこの堤防に最初に登ろうと提案したのは優夏だった。
- 「ああ、確かにな」
- 「そうかな~」
堤防の上から下の砂地までは、オレの身の丈の3分の2程度の高さがあったが、優夏は軽々と砂地に降り立った。
オレと億彦もそれに続く。
が、その時、背後に鈍い音を聞いて、とっさにオレは振り向いた。
見ると、オレのすぐ後ろの砂地に、遥が尻餅をついている。どうやら着地に失敗して、転んだようだ。
オレは慌てて、遥の脇に手をまわして彼女を抱き起した。
「大丈夫か?」とオレが尋ねると、遥は頷いてみせた。
・・・・
見ると、一人残された遥が堤防の上にぽつんと佇んでいる。
(え?今、オレは遥を抱き起した筈だ。なのに、どうして遥は堤防の上に立っているんだ?)
こめかみがチリチリと熱くうずいた。
そうこうしているうちに遥は、ゆっくりとその体を折り曲げた。膝を丸め、両手を堤防の縁に添えたその姿勢から、彼女の次の行動を予想することはたやすいことだった。
「遥」とオレが声を掛けるよりもまえに、彼女は宙を舞っていた。
・・・遥はバランスを崩し、砂地の上に尻餅をついた。
(この光景は、ついさっき、確かに・・・)
オレは反射的に、遥の脇に手を添え、彼女を抱き起していた。
「大丈夫か?」
遥は頷きながら、瞳には恥じらいの色を浮かべていた。
遥は動揺を押し隠すかのように、足早のオレの脇をすり抜けて行った。
オレは茫然とその場に立ち尽くしていた。
デジャヴ(既視感)?違う・・・
ある現象が起こった後に、それをあたかも以前経験したことがあるかのごとく錯覚してしまうのがデジャヴだ。
これはそういった類のものでは決してない。
オレは確かに、遥が転ぶ姿を見たんだ。遥を抱き起す前に、遥を抱き起す光景を見たんだ。
ふと見上げれば、西の天空が赤黒く燃えていた。
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