チラシの裏~弐位のゲーム日記
社会人ゲーマーの弐位のゲームと仕事とブログペットのことをつづった日記

 

屍人荘の殺人 〈屍人荘の殺人〉シリーズ (創元推理文庫)
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 今日の屍人荘の殺人はどうかな?


 玄関は閉じたもののペンションの守りは頼りない。1階の正面壁はガラスのカーテンウォールでいかにも脆弱だし、屋内へ侵入されるのは時間の問題と言える。
 「2階へ上がれ!それから階段をすべて塞ぐんだ」
 東側の階段から全員が2階へ避難したところで、階下から早くもガラスの砕ける音が響いた。
 葉村たちは大急ぎで2階ラウンジにあった棚やソファとなるべく大きな家具を手分けして運び、1、2階の中間にある踊り場と2階の踊り場に二段構えのバリケードを築き始めた。
 物音を聞きつけた進藤が3階から降りて来た。
 「麗花がどこにはいないんだ。どこに行っちゃったんだよ、麗花」
 うわ言のように呟き、進藤は中間の踊り場に積み上げたばかりの家具をどかそうとするので、立浪が慌てて腕を掴んだ。
 「現実を見ろ。どうせもう死んじまってる」
 「違う!きっとまだ生きている!探しに行くんだ!行かせてくれ!」
 「この野郎!」
 立浪に殴り飛ばされた進藤は、這いつくばって嗚咽を漏らし始めた。
 バリケード造りを先導したのは、意外にも重元だった。
 「階段を塞ぐだけじゃなく、階段そのものを上がりにくくするんだ、坂道みたいに。それだけであいつらは足を滑らせるはず」
 その言葉に従い管野はマスターキーで空き部屋で208号室に入り、ベッドの生皮の引きはがしてスノコ状の大きな板を2枚手に入れ、階段に滑らせた。さらにリンベン室からありったけのシールを持って来てばらまく。
 バリケードが完成すると、七宮が指揮した。
 「確かに反対側にも非常階段があったろう。そっちは塞がなくてもいいのか」
 「非常階段から館内に入るドアは鉄製で、防犯上内側からしか開けられないいんです。外開きですし、体当たりだけでは打ち破りにくいはずです」と管野。
 「しまった!エレベーターがある」と比留子が言い出した。
 慌ててラウンジに戻ると、エレベーターのカゴはまだ1階にあった。
 「もうすでに何人か乗り込んでいいるかもしれない」
 「2、3人乗っていてもぶち殺してやればいい」
 先ほど一人屠った立浪が槍を構えてドアを睨みつける。葉村たちも壁にかかっている武器を手に取り、それに倣った。管野がボタンを押し、ドアのランプが1から2へ移動し、ドアが開く。
 中は無人だった。
 「管野さん、エレベーター用の電源を落とせませんか」と比留子が言った。
 「電源盤は1階のフロントにあるんです。今頃は化け物たちに埋め尽くされているでしょう」
 「それじゃあ、あいつらが何かの拍子にボタンを押したら、エレベーターが下に持っていかれちゃうってこと?」と高木が言った。
 「じゃあ、暫定の措置としてこしておきましょう」
 比留子がそう言って、手近にあった椅子をドアに挟んだ。
 「これで勝手に動くことはないはず」
 なるほど、人身事故を防ぐため、ドアが閉まり切らない状態では作動しないはずだ。
 階段口でバリケードを見張っている名張の声が響く。
 「ソンビが上がって来るわ」
 一行は武器を握りなおして階段に向かう。
 バリケードの隙間から下を覗くと、ペンションに押し寄せるゾンビの数は増え続けているらしく、階下から潮が見るようにゆっくりと無数の頭が狭い階段を埋め尽くしてゆく。だがソンビどもは運動能力が低いのか、階段を上がる速度は平地でも歩行よりも遅く、足取りもおぼつかない。なんとか途中まで上がってきた者もバリケードに阻まれたり、シーツに足を取られたりしてバランスを崩し、後続を巻き込みながら階段を転げ落ちていく。
 「だがいつ突破されるか、ずっとこうして見張っているのか」と、七宮が言った。
 「それならいいものがある」と、高木言い、高木と静原がポケットから防犯ブザーを取り出した。ピンを抜くと大きな警報音が鳴り響くタイプだ。
 「これで仕掛けを作っておけば、バリケードを突破された時にすぐ気づける」
 高木の提案に従い、管野が倉庫から釣り糸を持って来てバリケードの後方に仕掛けを作った。バリケードが突破されれば釣り糸が引っ張られてピンが抜け、警報ブザーが鳴る。
 「もう一つはどうしますか」
 そう言った静原の手から、七宮がブザーをひったくった。
 「こいつは3階に非常扉に仕掛けておく。3階が落とされれば一巻の終わりだからな」
 そう言う七宮の部屋こそが3階非常扉の一番近くにあった。


 その後、メンバーは2階ラウンジに集まった。
 すでに午後10時半になっていた。肝試し開始から、たったの1時間半で世界が一変してしまった。
 現在ここにいるのは葉村、比留子、進藤、高木、静原、名張、重元、七宮、立浪、管野の総勢10名で、4人ものメンバーがいなくなってしまった。
 携帯は依然として通じないままで、身の回りで何が起きているかさっぱりわからないのだ。
 「出目は?」立浪の問いに七宮は首を振った。
 「俺が神社に着いた時には喰われていた。下松もそいつらにやられた」
 テレビのスイッチを入れると、画面にはニュース番組が流れており、緑豊かな景色の映像と『テロに可能性』という不穏な文字が大きく映し出されている。管野がボリュームを上げた。
 『今日午後4時頃、S県の娑可安公園で行われている野外ライブ、サベアロックフェスで複数の観客が体調の異常を訴えたと警察や消防に通報がありました。同様の人はそれ以降も大変な勢いで増えており、化学兵器によるテロの疑いもあるとして警察は一体を封鎖、現在も救助活動と原因の究明が続いてます』
 「携帯は通じません、固定電話は?」と、比留子が管野に訊ねた。
 管野はラウンジの電話機を持ち上げ何度か操作したが、やがて首を振って受話器を置いた。
 「駄目です」
 「すでにかなり高度な情報管制がしかれているのかしれませんね」と、比留子が呟いた。
 「じゃあ、このゾンビたちは?」
 「体調を崩した観客だろうね。服装もフェスっぽいし、彼らが流れて来た方向には会場がある。化学兵器か生物兵器かバイオハザードだか知らないけど、とにかくそこで起きた何かによって観客がああなったことは間違いないと思う」
 「それ、まずいよ。サベアロックフェスは1日に約5万人が参加するんだ。ソンビに噛まれた人間もいずれゾンビ化する」と、重元がうろたえた声を出した。
 「政府はもうこの状態を把握しているということですよね。きっと救助も来ますね」と静原が言ったが、比留子はそれを否定した。
 「私たちが彼らに襲われた以上、政府は被害をコントロールできていないと見るべきです。余計なパニックを防ぐために現場の状況を報道できないし、通信も遮断させているのだと思います。この状況でまず彼らが優先するのはなによりも被害の拡大を防ぐことでしょう。ひとまず感染という言葉を使いますが、感染者を娑可安周辺から一人も外に出さないことが優先事項、取り残された人々はその次。部屋に手を出せば二次被害の危険がありますから。
 ともかくここで籠城を続ける覚悟はしておかなきゃならない」
 「どれだけ待てば助けが来るの?」と名張が叫んだが、それに答えられる者はいない。
 「あまり悲観的になるのはやめましょう。ソンビが動く死体だというなら、死後数日で自家融解と腐敗が進行して活動できなくなるはずです。まして真夏ですから腐敗も早い。1週間もかかることはないでしょう」と、比留子が皆に呼び掛けた。
 続いて重元が呟く。
 「籠城の際に重要なのは、食料、水、電気、武器」
 「さっきコーヒーを入れた時、水はまだ出ました」と、管野が証言した。
 今のところ電気も通っている。問題は食料だ。
 「1階の厨房には数日分の食料があるのですが・・・」と、管野が無念そうに呟く。
 メンバーはそれぞれの荷物をから食料をかき集めた。管野が3階の倉庫から備蓄用の非常食を持ってきた。
 管野から非常用に置いておいていたというマスクが配られた。感染の可能性がある以上、用心しておくに越したことはない。
 あとは武器だ。剣を手に取ったのは、葉村、進藤、静原くらいで、他の面々は槍を選んだ。
 「誰か武術の経験者はいないの?」と、名張が言った。
 「子供の頃、家の方針で薙刀道と合気道を習ってましたね」と、比留子が手を挙げた。
 もう一つの大きな問題となったのは、これからどこで夜を過ごすべきかということだった。メンバーに残された居場所は、2階と3階、さらに3階倉庫内にある階段から屋上に行けるらしい。最も広く皆が過ごしやすいのがこのラウンジだ。けれど階段のバリケードが破られれば真っ先にソンビどもに蹂躙されるも同じくラウンジだ。
 「絶対に避けなきゃいけなにのは全滅だ。全員が一か所に固まってちゃ、奴らがなだれ込んできた時に誰も逃げられない。けど二つの階に分散していれば、少なくとも半分は逃げられる」と、重元が言った。
 「ちょっと待ってください。先に襲われるのは2階だと限りませんよ」と、管野が言った。
 彼の言い分はこうだ。バリケードを破ったゾンビは2階を素通りして、まず3階へ向かう可能性がある。加えて南エリアの端の設けられた非常階段は建物の外から2階と3階それぞれの非常扉に通じているため、2階を素通りして3階の非常扉が先に突破される可能性だったあるのだ。
 「東エリアのラウンジの前の扉を閉めてしまえばいいんです。
 御覧の通り、中央と接する東と南のエリアは扉で仕切ることができるんです。ただし鍵がないと開け閉めできませんから、施錠してしまうと咄嗟のことには対処できませんが。つまり夜間だけでもラウンジと東エリアの間の扉にあらかじめ鍵をかけておけば、仮にバリケードを突破されてもすぐには2階全体に被害は及ばないはずです」と、管野が言った。
 部屋割りを見ると、2階の東エリアの部屋を使っているのは、206号室の名張と、207号室の出目だった。名張さえ他の部屋へ移ってもらえばこの扉を閉めることができる。
 しばらく黙りこんでいた比留子が言った。
 「管野さん。上と下を行き来する方法は階段とエレベーターだけですか」
 「いいえ、もう一つだけ」と、管野はそう言って、倉庫から避難用のアルミ製縄梯子を持ってきた。
 「梯子を3階のベランダから垂らせば、2階の部屋と行き来できます。あいにく一つだけですが」
 「では、こうしますか。我々は基本的に今まで通り各自の部屋で夜を過ごす。非常扉が破られてたり、警報ブザーの音に気づいたらすぐさま部屋の内線で知らせ合い、室内で待機。ドアは外開きですから、体当たりされてもすぐには壊れないはずです。安全な場所にいる人はエリア間の扉を閉めるなどしてゾンビの侵攻を遅らせ、縄梯子を使って部屋に閉じ込められた人を救出する」
 メンバーはこれに納得した。縄梯子は誰でも使えるように3階のエレベーター前に置いておくことになった。
 「では、エリア間の扉の鍵ですが、テレビ台の上に置いておきます。状況に応じて使ってください。あと名張さんは部屋を変わってもらわなければいけませんが、他の部屋のカードキーは持ち出す暇がなかったので、管理人用のマスターキーを使ってください」と、管野が言った。
 結果、名張は空き部屋だった205号室の部屋を使うことになり、2階東のエリアの扉は閉鎖された。
 「管野さんはどの部屋に?」と葉村が尋ねた。
 「申し訳ないのですが、星川さんの部屋を使わせてもらおうと思います。僕も2階を見張っておきたいですし」
 進藤は大人しく頷いた。
 「わかりました。麗花の荷物だけは預からせてもらえますか」
 マスターキーで星川の203号室を開けた進藤が、星川の荷物を自分の部屋に運び込むのを見ていた比留子が言った。
 「管野さん、その部屋の戸締りや電気はどうするんですか?マスターキーを名張さんに預けちゃったら、使えるキーはないでしょう」
 203号室のカードキーは星川が持ち出したままいなくなってしまっている。
 「部屋の外にいる時は、ドアガードを挟んでおくので、そう不便にはなりませんよ。電機は名張さんが使っていた206号室のカードキーを挿しておけば使えるので」
 立浪が口を開いた。
 「それより、見張りとかはどうする」
 「皆さんは夜の間、とにかく安易に部屋の外に出ないようにしてください。バリケードや非常扉は僕が1時間おきに点検します」と、管野が申し出た。


 時刻はすでに午後11時を過ぎている。
 うとうとしかけている葉村に、「そろそろ部屋に戻った方がいいよ」と、比留子が声を掛けて来た。
 それにつられるよう他のメンバーも続々と部屋に向かったが、エレベーターに全員は乗り切れないので、葉村は東側の階段を使うことにした。
 「比留子さん、俺、こっちから戻るんで、扉を鍵を掛けてもらっていいですか」
 「送って行くよ。鍵は帰りに閉めておくから」
 階段を上がるとすぐに308号室のドアが見えた。もしバリケードを突破さしたゾンビどもが3階まで上がった来たら、真っ先に包囲されるのは葉村の部屋だ。
 「もし夜中に物音がしても簡単にドアを開けちゃいけないよ。相手の声を確かめてからね。
 それからあの話は本気だよ。君に私の助手になってほしい。明智さんのことは残念だけど」
 「やめてください。こんな時にする話じゃないでしょ」
 「確かにそうだね。ごめん、どうかしていたよ。忘れてちょうだい、おやすみ」
 比留子はそう言って、ドアを閉めた。

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 現在の夢:ゲームする時間の確保、サービス残業時間減少、年棒アップ
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