チラシの裏~弐位のゲーム日記
社会人ゲーマーの弐位のゲームと仕事とブログペットのことをつづった日記

 今日の十角館の殺人はどうかな?


 正午過ぎ、昼食の席上で、今朝の出来事に触れる者は誰もいなかった。
 アガサとオルツィが作ったサンドイッチの昼食を食べ終わると、終えた順に一人、二人と席を離れて行った。
 最初に立ったのはカーで、文庫本を2冊ほどを持って外へ出て行った。
 続いてポウとヴァンが立ち上がり、連れ立ってポウの部屋に向かう。


 両手を膝の上に付き、けだるそうに顔を伏せているヴァンの様子に気づいてポウが声を掛ける。
 「まだ具合が悪いのか」
 「うん、ちょっとね」
 「そこのケースに体温計が入っている。熱を測ってみろよ」
 「ありがとう」
 体温計を脇の下に挟むと、ヴァンはベッドに横になった。
 「ねえ、どう思う。今朝のことだよ」
 「俺はただの悪戯だろうと思うが」
 「でも、それならどうして誰も名乗り出なかったんだろう」
 「まだ続きがあるのかもしれん。例えばだ、今夜にも誰かのコーヒーに塩が入れられるのさ。そいつが『第一の被害者』だ」
 「ははあ」
 「その調子で『殺人犯人』は嬉々として犯行を重ねていく。ちょっと大掛かりなマーダーゲーム(殺人遊び)ってわけさ」
 「確かに、小説じゃないものね。そう簡単に殺人なんて起こるはずがない。うん、きっとそうだよ。それじゃあポウ、そのゲームの犯人役は誰なんだろう」
 「さあて、こんなお遊びを思いつきそうな奴と言えばまずはエラリイだろうな。だが、あいつはどうやら『探偵』役に回ったみたいだから。
 いや、もしかしたらやはり、エラリイなのかもしれんな。探偵=犯人ってパターンだ」
 「そういわれてみると、今朝、場の主導権を握る手際なんか、ずいぶん鮮やかだったものね」
 「うむ。体温計は?ヴァン」
 ヴァンは、セーターの袖口から体温計を引っ張り出した。目の前にかざしてそれを見てから、浮かない顔でポウに差し出す。
 「やっぱり熱があるな。唇も荒れてる。頭痛は?」
 「少し」
 「今日は大人しくしてろよ」
 「言う通りにするよ、ドクター」


 ホールでは、昼食の片づけを済ませたアガサとオルツィが、ティーバッグの紅茶を淹れて一息ついていた。
 「ね、オルツィ。あのプレート、どういう意味なのかな」とアガサは唐突に話題を振ると、オルティは首を振って答えた。
 「よくわからない。だって、みんな知らないっていうもの、何も隠すことないのに」
 「あんがいエラリイだったりしてね。ちょっとするとルルウの坊やかな」
 「ルルウ?」
 「あの子の性格なら考えられるでしょう。いつもミステリのことしか頭にないじゃない」
 「わたし、怖い」
 「お茶を飲んだら、外の空気を吸いにいきましょう。ね?」


 入江の桟橋に腰掛け、エラリイは海を見ていると、傍らにいたルルウが話しかけてきた。
 「まさかエラリイさんが犯人なんじゃないでしょうね」
 「よせよ」
 「けど『探偵』『殺人犯人』の札まであるなんて、何となくエラリイさんらしいじゃないですか」
 「知るもんか」
 「そんな、ぞんざいにあしらわないでくださいよ。ちょっと言ってみただけなんですから。しょせん、あれはただの悪戯でしょう。そうは思わないんですか」
 「思わないね」
 「どうして悪戯じゃないんです」
 「誰も名乗り出ない。それに、手が込み過ぎていやしないか。画用紙か何かにサインペンで書いてあったというのならともかくね、わざわざプラスチック板を同じ大きさに切って、ゴチック体の型紙を作って、赤いスプレーを使って。僕だったら、単にみんなを驚かすためだけの悪戯で、そこまで手間をかけたりはしないな」
 「それじゃあ、ホントに殺人なんてものが起こるっていうんですか」
 「可能性はあると思う」
 「あのプレートが殺人の予告なんだとしたら、『被害者』は5人です。あのプレートが、例のインディアン人形と同じ役割ってことでしょう?これでもしも『犯人』が『探偵』まで殺して自殺でもしちゃったら、まるっきる『そして誰もいなくなった』じゃないですか」
 しばらくの間、二人は黙りこくっていたが、やがてエラリイがゆっくりと腰を上げた。
 「僕は戻るよ。ルルウ、ここは寒い」

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