チラシの裏~弐位のゲーム日記
社会人ゲーマーの弐位のゲームと仕事とブログペットのことをつづった日記

 今日の十角館の殺人はどうかな?


 窓際の1席に向かい合って座る。
 午後4時をまわっていた。朝から何も食べてないことを思い出して、江南はコーヒーと一緒にピザトーストを注文した。
 「さてコナン君、話の続きを聞かせてもらおうか」
 自分の頼んだアールグレイが来ると、それをポットからカップにゆっくりと注ぎながら、島田はおもむろに切り出した。
 「さっきも言ったように、単なる悪戯じゃないと思うんです。誰が何の目的でこんな手紙を出したのか、まるで見当がつかないっていうのが正直なところですね。ただ若干の分析が、まだできないこともないでしょう」
 「聞きたいな、それは」
 「つまりですね、たとえば僕のところに来た手紙の文面に、この送り主がどんな意味を込められているのかを想像してみると、3つほどのニュアンスが読み取れると思うんです。
 第一はこの文章がいちばん強調している『千織は殺されたのだ』という告発の意味合いですね。第二は第一から派生して、だから俺はお前たちを憎んでるぞ、お前たちに復讐してやる、というふうな脅迫の意味合い。そして、こういった告発文・脅迫分の主として最もふさわしい中村青司という名前が利用されることになった」
 「なるほど、三つ目は?」
 「第三は、前二つとは違った角度から見た場合で、この手紙に込められた裏の意味、みたいなものです」
 「裏の意味?」
 「なぜこの送り主は、今頃になって中村青司なんていう死者の名を持ち出してきたのか。脅迫文に凄みをつけようと思ったとしても、今どきそれを真に受ける者はいないでしょう。
 そこで思うに、去年の角島の事件にもう一度注目しろっている、僕たちに対する遠回しなメッセージなんじゃないかな、と」
 「いや、面白いと思うな。角島事件再考、再考の余地は大いにありそうだからね。コナン君、君じゃどのくらい知っているのかな」
 「新聞で読んだだけですから、あんまり詳しくは」
 「なら僕が知っているところを話しておいたほうがいいね」
 「ええ、ぜひ」
 「時は昨年9月。所は角島の通称青屋敷。殺されたのは中村青司と妻の和枝、使用人夫婦の計4人。それと行方不明の庭師が1人いる。犯行後の放火によって屋敷は全焼、犯人はまだ捕まっていない」
 「確か、行方不明の庭師が犯人と目されているんでしたね」
 「そう、けれどの決定的な証拠があるわけじゃない。姿を消したら怪しいという、結局はその程度の話だと僕は思う。
 さて、事件の詳細だが、まず屋敷の主人である中村青司について、少し説明しておく必要があるだろうな。当時、青司は、紅さんよりも3つ年上だから、46歳だね。とうに引退していたが、彼はかつて知る人ぞ知る、一種天才肌の建築家だった」


 中村青司は大分県宇佐市の資産家、中村家の長男として生まれた。高校卒業後、大学に行くために単身上京。T大学の建築学科に在学中、早くも全国レベルのコンペで賞をさらい、関係者の注目を集めたという。卒業後は、担当教授から大学院への進学を強く勧められたが、機を同じくして父親が急逝、郷里に帰ることを余儀なくされた。
 父親が遺した中村家の財産は莫大な額に上った。弟の紅次郎とともにそれを相続した青司は、まもなく角島に自らの設計による屋敷を建て、早々と半ば隠居を決め込んでしまう。


 「夫人の和枝は、旧姓を花房といって、宇佐に住んでいたころの幼馴染だったらしい。早くから両家の間で約束が取り交わされていた、許嫁同士だったとも聞くね。青司が角島へ渡るとほぼ同時に、二人は結婚した」
 「その後、建築の仕事はしなかったんですか」
 「するにはしていたが、半分道楽みたいなものだった、と紅さんは言ってたな。気に入った仕事だけ気の向いたときに引き受けて、自分好みの意匠を徹底的に凝らしてね、風変わりな家ばかり建てていた。そいつがまた、あちこちの好事家の間でめっぽう評判になったりして、わざわざ遠くから島を訪れる者も多くいたっていう」
 「ふうん、変わった人物だったんですね」
 「紅さんも、道楽で仏教学なんかやっててけっこう変わった男だが、その彼が『兄は変人なんだ』ときっぱり言うんだから間違いない。兄弟の仲はあまり良くはなかったみたいだけれども。
 さて、角島の屋敷にはほかに、北村という使用人夫妻が住み込んでいた。夫は屋敷の雑用と、本土との連絡に使うモーターボートの運転、女房のほうは家事全般を任されていた。もう一人は問題の庭師だね。この男は吉川誠一といって、普段は安心院のあたりに住んでいた。月に一度数日間泊りがけで仕事にくることになっていて、ちょうど火災の3日前から島に来ていたらしい。
 次に事件の状況だが、発見された死体は全部で4体。火事のせいでどれも黒焦げになっていたから、鑑識もかなり手こずったっていうね。
 北村夫妻は寝室で、頭を叩き割られて死亡。凶器と目される斧が同室で発見されている。また両名とも縄で縛りあげられていた形跡があった。死亡推定時刻はどちらも9月19日、火災前日の午後以降。
 中村和江は寝室のベッド下で、首を絞められて死亡。何か紐状の凶器で絞殺されてものらしい
。死体は左の手首から先が欠損していたが、これも死亡時に切断されたものと考えられる。切り取られた手首の行方は今もって不明。死亡推定時刻は9月17日から18日の間。
 中村青司は、和枝と同じ部屋で、全身に灯油を浴びせられ、焼死していた。死体からは多量の睡眠薬が検出されたが、これは他の3人の死体についても同様だった。死亡推定時刻は9月20日未明の火災時。
 火災の火元は屋敷の厨房と思われる。犯人はあらかじめ屋敷中に灯油をまいたうえで、ここに火を放ったのである。
 警察の見解は知っての通り、現時点ではほぼ、姿を消した庭師の吉川誠一が犯人だといういうところに落ち着いている。不明瞭な点はいくつもあるんだけどね。
 たとえばそう、和枝夫人の左手首の問題。吉川は何のために夫人の手を切り取り、それをどこにやってしまったのか。それから、逃走経路の問題もある。島に1隻しかないモーターボートは、入江に残されたままだったんだ。4人もの人間を殺害したあと、9月も下旬の海を泳いで本土へ渡ったなんて、ちょっと考えにくいだろう。
 動機。これには二つの説がある。
 一つは青司の財産目当ての、いわば強盗節。もう一つは吉川が和枝夫人に横恋慕していた、あるいは夫人と密通していた、という説。おそらくその両方だろう、というのが大方の意見だね。
 吉川はまず、屋敷の者全員に睡眠薬を飲ませ、眠らせてしまったから犯行に取り掛かった。北村夫妻を縛り上げ、青司も同様にしてどこかの部屋に監禁する。そして和枝夫人を寝室に運び、己の欲望を満たした。最初に殺されたのはこの和枝夫人で、他の3人よりもまる1日か2日、死亡時刻が早い。殺されてしまってから死体を犯した形跡も、決定的にではないが見られたというね。次に殺されてのは北村夫妻。それまでずっと薬で眠らされ続けていたと思われる。で、最後に青司だ。眠らせた状態で灯油をかけ、そのあと厨房に行って火を点けた」
 「ねえ島田さん。犯人はなぜ青司をそんなにあとまで生かしておいたんでしょうか。北村夫妻についてもそうです、どうせなら、早くに始末してしまったほうが安全でしょう」
 「建築家としての中村青司の特徴が関係してくるんだよ」
 「建築家としての?」
 「青屋敷にしても、その別館である十角館にしても、青司が設計したこれらの建物
には、かなり偏執狂っぽい、あるいは子供じみた、あるいは遊び心に満ちたともいえる、そんな彼の趣味が存分に反映されていたわけなんだが、そのうちのひとつに、いわゆるからくり趣味のようなものがあったというんだ」
 「からくり?」
 「どの程度のものか知らないけれども、特に燃えた青屋敷のほうには隠し部屋とか隠し戸棚、隠し金庫の類が随所に造られていたらしいんだな。そして、そういった仕掛けのありかを知っていたのが当の青司だけだったとしたら」
 「そうか、金品を盗むには、彼からそれを聞き出さなきゃならない」
 「その通り。だから、青司を早くに殺してしまうわけにはいかなかった。
 以上が、事件とその捜査状況の要点だね。庭師吉川の行方は目下まだ捜索中。見つかりそうな気配は今もってない。
 どうかな、コナン君。何か質問は?」
 (残された状況からの推測-もっと悪い言い方をするなら辻褄合わせ-にすぎたいのではないだろうか。
 この事件の最大の難点は、とにかく青屋敷が全焼してしまったところにある。そのため、現場から得られる情報が本来よりも著しく少ないのだ。加えて、事件当時あるいは事件前の島の模様を語ってくれる生存者の不在・・・)
 「難しい顔をしているね、コナン君。じゃあ、僕の方から一つ尋ねるとしようか。
 千織っていう娘についてさ。紅さんに姪がいるってことは知っていたし、学校へ行く都合で和枝夫人の実家に預けられていたことも聞いている。その娘が去年、不慮の事故で死んでしまったという話も耳に入ってはいたんだが、詳しいところはよく知らないんだよ。中村千織というのはどんな娘だったんだろう」
 「おとなしい子でしたね。あんまり目立つほうじゃなくて、どこか寂し気な風情があって。僕はほとんど話をしたこと、ないんです。けど、気立てのいい子だったみたいで、例えばコンパなんかの時でも、よく気がついて雑用ばかりしてました」
 「彼女が死んだのはどんな事情で?」
 「去年の1月、ミステリ研の新年会で、急性アルコール中毒が原因となって。普段は彼女、コンパがあっても一次会だけで帰っていたんですけど、あの日は三次会まで、僕たちが無理に誘って。悪いことをしました。もともと体が弱かったらしいんですね。なのに、みんなが調子に乗って、無茶な飲み方をさせたらしくて」
 「させたらしい?」
 「僕もあの日、三次会まで行くには行ったんですけど、ちょっと用があったもので、もう一人の守須っていう友達と一緒に早めに切り上げたんです。その後の事故でした。いや、事故じゃなくて僕たちが殺したのかもしれませんね」
 「今夜は暇から、コナン君。どうだいこれから夕飯がてら一杯、ひっかけにいかないかい」
 「でも」
 「僕が奢るよ。その代わり、ミステリの話し相手になってほしいんだなあ」
 「ええ、喜んで」
 「よし決まった」
 「ところで、島田さん。まだ聞いていなかったと思うんですけど、紅次郎さんとはどういうお知り合いなんですか」
 「紅さんは大学の先輩なんだよ」
 「じゃあ、島田さんも仏教学を」
 「実を言うと、僕の家はO市の外れて寺をやっててね。3人兄弟の末っ子でね、親父は還暦を過ぎてもまだまだ意気盛んだし、今のところはミステリを読んで、中で死人が出る度にお経をあげるくらいしかすることがない」

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