チラシの裏~弐位のゲーム日記
社会人ゲーマーの弐位のゲームと仕事とブログペットのことをつづった日記

 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
 1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る
 2人目の岩下のシナリオ:窓枠の中で→エンディング№310~313を見る
 3人目は風間のシナリオ:下半身ババア→エンディング№168・169を見る
 4人目は荒井のシナリオ:いみぐい村→エンディング№74・75を見る
 5人目は細田のシナリオ:トイレの恋→エンディング№270~272見る
 6人目は新堂のシナリオ:高木ババア→エンディング№001・002・004・005を見る(エンディング№03は7話目のエンディングの影響するので、あとでプレイします)


 語り部6人に話が終わったのに、7人目はまだ姿を見せない。
 新堂に「どうするんだ?」と促された坂上。
  • もうしばらく待ちましょう
  • 新堂さんの意見を聞きたい
  • 帰りましょう
 
 シナリオ:うしろの正面


 「なあ、坂上。7人目は結局まだ来ねえけど、どうするんだよ」
 皆、待たされた不満が噴出したのか、好き勝手に文句を言い出した。
 岩下が席を立ち、つかつかとドアに向かって歩き始めたので、他の皆もそれに続いて席を立った。
 「待ってください」と坂上は皆を呼び止めた。
 「僕が話をします。七不思議は七話揃わないと、終わりませんから。皆さんに気に入ってもらえるような怖い話ができるように頑張りますので、どうか席に戻ってもらえないでしょうか」
 坂上の言葉に一同は顔を見合わせると、ぞろぞろと席に戻った。
 「皆さん、ありがとうございます。それで、最近僕が体験した話と、昔起きたとある話とどちらをご希望でしょうか」
 「へえ、お前は怖い話が苦手だったんじゃねえのか。それなのに、俺たちに選択させてくれるっていうのか?」
 「せっかくですので、よければ新堂さんが選んでいただけますか?」
 「よし、俺が聞きたいのは・・・」
 「わかりました。皆さん、僕の話を聞いていただけますようでありがとうございます。改めまして、僕は1年E組の坂上修一と言います。どうぞ、最後までお付き合いしていただけると嬉しいです」


 昔、この付近に大きな団地があったが、老朽化が進んだため、10年くらい前に取り壊されてしまった。
 その団地にある男の子が住んでいた。
 彼はまだ、その団地に引っ越してきたばかりだったので、周りに友人と呼べる人間がおらず、いつも団地の隅にある古びたブランコで遊んでいた。
 そんなある日、誰かが彼に声を掛けてきた。
 「お前、一人で何してんだよ」
 彼に声を掛けてきたのは、男の子と近い歳の活発そうな少年だった。
 「俺たちと一緒に遊ばねえか?仲間にも紹介してやるよ」
 そう言って、彼は少年の手を引っ張って公園の茂みの中に連れて行った。
 彼に連れていかれた場所には、少年と近い年頃の子供たちが数人おり、思い思いに遊んでいた。  
 「こいつも今日から仲間だ」と紹介されると、他の子どもたちは素直に受け入れてくれた。
 「皆この団地に住んでいる奴らなんだぜ。お前も今日から俺たちに仲間だ。これからは一緒に遊ぼうぜ」
 「うん、よろしく」
  こうして一人ぼっちだった少年に友達ができ、その日から7人は何をするのも一緒に行動した。


 ある夏の暑い日のこと。
 リーダー格の少年が、みんなにある提案をした。
 「学校に行ってみたくねえか?」
 少年は、学校についてよく知らなかった。
 他の子どもたちは小学校はいつも行っているところとのことで、夏休みで誰もいない近くにある高校へ探検に行く、とのことだった。
 子供たちは興味津々で探検に出かけた。


 子供たちがやってきたのは、鳴神学園だった。
 リーダー格の少年の案内で、破れたフェンスを潜り抜けて校内に侵入した子供たちは、木造の旧校舎にやってきた。
 この頃、旧校舎はすでに立ち入り禁止だったが、入り口に立ち入り禁止のテープが貼られているだけで、子供たちが侵入するには簡単だった。
 リーダー格の少年は、「探検するにはぴったりの場所だろ?今から探検しよーぜ」と言った。
 嫌がる子供もいれば、乗り気の子供もおり、結局、子供たちは旧校舎に入ることにした。


 旧校舎の中は、昼間でも薄暗く、木の匂いに満ちていた。
 そして、子供たちが歩く度、床はぎいぎいと音を立てた。
 最初は、その音に怖がっていた子供たちだったが、だんだんと恐怖が薄れていき、好き勝手に遊び回り始めた。
 「これから、みんなで何かして遊ぼうぜ」とリーダー格の少年が言った。
 彼はどんな遊びをしたと思いますか?
 「かくれんぼしようぜ」
 リーダー格の少年がそう提案し、皆はかくれんぼすることになり、リーダー格の少年が鬼をかってでた。
 鬼が数を数える声と同時に、子供たちは散り散りに走り出し、それぞれが思い思いの場所に身を潜めた。
 少年は、近くの教室にあった掃除道具入れに身を隠すことにした。
 少年が道具入れのドアを閉めると、目の前には完全な闇が広がっていた。
 完全な闇の中で、少年はひたすら扉が開くまで待っていた。
 けれど、扉は一向に開かれることはなかった。
 それどころか、外からの声が一切聞こえてこなかったが、少年は扉が閉まっているからだと多い、さして気にも止めなかった。
 そうこうしている内に、少年はだんだんと眠くなってきて、そのままうとうとと眠りに落ちてしまった。
 次に目が覚めた時、少年は途端に怖くなり、「怖いよ!出して!!」とがむしゃらにあちこち叩いた。
 途端に扉が開いて、少年は勢いよく放り出されて、床に膝を強く打ち付けた。
 「痛いよぉ、お母さん・・・」
 少年のすすり泣く声が教室に響いたが、誰もそれを聞いている人はいなかった。
 少年が掃除用具入れから出た時には、外はすっかり日が落ち、空には丸い月が煌々と光っていた。
 少年は痛む膝をさすりながら立ち上がり、よろよろと廊下に出た。
 月明かりのみで照らされた廊下は、端まで光が届かず暗い闇が横たわっていた。
 少年は、泣きそうになるのを必死に堪えながら、一歩踏み出した。
 お母さんのところに帰りたい・・・その思いだけが少年を突き動かしていた。
 その時、前方の闇の中、さらにその闇よりも濃く、濃縮された漆黒の何かが少年に近づいてきていた。
 目を凝らしてみると、それを一本の腕で、なめらかに動きながらこちらに手招きしていた。
 「ねえ、僕、お母さんのところに帰りたいよ。僕をおうちにかえしてよ」と少年は、手に母親のところに帰りたいと訴えてみた。
 すると、手はぴたりと動きを止め、少年に囁いた。
 「ダメだよ。キミは、かだかくれんぼの途中だろ?見つけてもらわなければ帰れないよ」
 「じゃあ僕はどうしたらいいの?」
 「こっちへおいで。私と一緒に待とうじゃないか。見つけてもらえれば、キミはおうちに帰れるよ」
 少年は、その言葉を信じて、その漆黒の手を取った。


 「少年は、ずっと皆が来るのを待っていました。けど、いつまでたっても皆は、少年のことを探しに来てはくれませんでした」
 福沢「そんな、噓でしょ」
 新堂「お前、修一って、まさか」
 「誠にいちゃん、皆、どうして僕を探しに来てくれなかったの?」
 新堂「修一、違うんだ。俺たちはお前のことを探したんだ。でも、いくら探しても、お前は見つからなくて、だから先に帰っちまったもんだと思って、帰っちまったんだよ。決して、お前をさがしてなかったわけじゃねえ!」
 風間「そうさ、皆、お前のことをとても心配したんだ。本当だよ」
 風間さん・・・望にいちゃんが恐れおののいた目で、僕のことを見ていた。
 「僕知っているんだ。あの手が教えくれた。皆は僕がいなくなったことを、お母さんたちに言わなかったって」
 荒井「言っても信じてもらえないと思ったんですよ。旧校舎はしらみつぶしに調べましたし、神隠しなんて非現実的なことがあるわけないと思ってましたから。だから修一君は、かくれんぼに飽きて、どこかに行ってしまったと思ったんです」
 「僕はこの集会で誰かが僕の話をしてくれるんじゃないかって期待してたんだ。でも、皆は僕のことを欠片も話してくれなかった。皆、僕の事、忘れたかったんでしょ?なかったことにしたかったんでしょ?」
 細田「違う!みんなはどうか知らないけど、僕は修ちゃんのことを忘れたことないよ!だって、数少ない友達だったもの。けど、あのあと団地は取り壊されることになって、皆とも離ればなれになっちゃって、だから、気付くのが少し遅れちゃっただけだよ!」
 皆の言葉は嘘にまみれていた。皆から出るのは、取り繕った嘘ばかりだ。
 岩下「私たちをどうするの?」
 明美ねえちゃんがぼそっと呟いた。
 「どうもしないよ。皆の気持ちがわかったから、僕はもう行くよ」
 皆を背にして、坂上は歩き出した。


 部室を出ると、そこには見慣れた闇が広がっていた。そして、その暗がりの中から、漆黒の美しい手の持ち主が現れた。
 「ありがとう、死神さん。みんなにもう一度会わせてくれて」
 死神と呼ばれた黒い手の持ち主は、日野だった。
 「お友達に会えてよかったね」
 「うん、でも皆、僕のことを忘れてたんだよ、死神さん」
 黒い手は優しく僕を抱きしめた。
 「人間なんてそんなものさ。あいつらは忘れるようにできている生き物なんだ。自分を守るため、記憶さえ捻じ曲げてしまうんだ。これ以上、彼らと話をしてもキミが苦しくなるだけさ。還ろうか、私たちの居場所へ」
 「うん」
 手を繋いで僕らは、歩き出した。
 僕は、また還っていく。この常闇の深淵へと。



 エンディング№431:僕の還る場所
 エンディング数 38/657 達成度5%
 キャラクター図鑑 38/122 達成度31%
 イラストギャラリー 32/283 達成度11%


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 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
 1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る
 2人目の岩下のシナリオ:窓枠の中で→エンディング№310~313を見る
 3人目は風間のシナリオ:下半身ババア→エンディング№168・169を見る
 4人目は荒井のシナリオ:いみぐい村→エンディング№74・75を見る
 5人目は細田のシナリオ:トイレの恋→エンディング№270~272見る
 6人目は新堂のシナリオ:高木ババア→エンディング№001・002・004・005を見る(エンディング№03は7話目のエンディングの影響するので、あとでプレイします)


 語り部6人に話が終わったのに、7人目はまだ姿を見せない。
 新堂に「どうするんだ?」と促された坂上。
  • もうしばらく待ちましょう
  • 新堂さんの意見を聞きたい
  • 帰りましょう
 
 シナリオ:うしろの正面


 「なあ、坂上。7人目は結局まだ来ねえけど、どうするんだよ」
 皆、待たされた不満が噴出したのか、好き勝手に文句を言い出した。
 岩下が席を立ち、つかつかとドアに向かって歩き始めたので、他の皆もそれに続いて席を立った。
 「待ってください」と坂上は皆を呼び止めた。
 「僕が話をします。七不思議は七話揃わないと、終わりませんから。皆さんに気に入ってもらえるような怖い話ができるように頑張りますので、どうか席に戻ってもらえないでしょうか」
 坂上の言葉に一同は顔を見合わせると、ぞろぞろと席に戻った。
 「皆さん、ありがとうございます。それで、最近僕が体験した話と、昔起きたとある話とどちらをご希望でしょうか」
 「へえ、お前は怖い話が苦手だったんじゃねえのか。それなのに、俺たちに選択させてくれるっていうのか?」
 「せっかくですので、よければ新堂さんが選んでいただけますか?」
 「よし、俺が聞きたいのは・・・」
 「これは僕の体験談です。僕でも皆さんが知らない怖い話を一つだけ知っています。その理由は、僕の話を聞けは理解していただけると思います」
 「今から1年ほど前、僕はまだ中学3年生でした。正確に言うと僕の中学で体験した話なのですが・・・・
 皆さんは、たった一人になってしまった時ってありませんか?
 普段はいつも人通りのある道なのに、突然人がいなくなり自分だけになってしまったってことってありませんか?
 それがもし学校で起きたとしたらどうしますか?
 例えば、休み時間にトイレに入る。いつもは誰かしらいるはずのトイレ。入って、ふと見ると誰もいない。
 変だなと思って用を済ませてトイレから出ると、今までたくさんの人がいたはずの廊下に誰もいない。そんな経験はありませんか?
 驚いて窓から校庭に目をやるとそこにはたくさんの生徒たちが遊んでいる。ほっとして廊下に目を戻すと、いつの間にかそこにはたくさんの人たちの姿がある。
 ほんの一瞬前に見た、誰もいない背景がまるで嘘のように、そこにはいつもの日常が動いている。そんな経験はありませんか?」
 坂上がそう話していると、荒井が聞いてきた。
「本当にそんなこと気にかけて日常を生活しているんですか?」
 「周りにいた人たちが、突然自分の視界から姿を消してしまう。そんなとき、僕はいつも思うんですよ。別の世界に迷い込んでしまった、と。そんなときは、大きな人通りを目指して歩くんです」


 とある住宅街を一人で歩いているときのこと、不思議なことに5分歩いても10分歩いても、誰にも出会わなかった。
 また誰もいない世界に迷い込んでしまったと思った坂上は、大通りを探すことにした。
 でも、その日に限って、大通りを見つからず、どこをどう歩いても似たような住宅街が現れるばかりで、完全に別の世界に取り込まれてしまった。
 焦った坂上は無我夢中で走り出し、見たこともない場所に迷い込んでしまった。
 住宅が並んでいるばかり光景が延々と続き、坂上はとある一軒の家の呼び鈴を押してみたが、返事は帰ってこなかった。
 試しに何軒もの呼び出しを鳴らしてみたが、どれも結果は同じだった。
 そんな時、住宅ではない建造物が坂上の視界に飛び込んできた。
 それは、学校だった。そう、この鳴神学園だった。
 すでに放課後になっている時間帯だったが、それでも誰もおらず、各教室や体育館も回ったが、人影さえも見つけることができなかった。


 坂上は、屋上へ行けばかなり遠くまで見通せるはずだと思い、屋上へ向かった。
 屋上から眺める光景は、いつもの日常だった。
 ここは僕らの暮らしている世界なんだ、と思うったら、とたんに疲れが出た坂上は、その場にへたり込んでしまい、空を見上げた。
 すると、空に浮かんだ巨大な目玉が、じっと坂上を見ており、坂上はそのまま意識を失ってしまった。


 気づくと、坂上は見覚えのある住宅街に立っていた。元の世界に戻ってきたのだ。
 翌日、病院にいった坂上は、ココロの病気と診断される。周りからふと人がいなくなるのは、自分の殻に閉じこもり、周囲を遮断するからとのこと。
 本当に人がいなくなるのではなくて、他人を拒絶したというきもちがあるために起こる錯覚で、坂上の頭の中の妄想を現実と勘違いしているとのこと。
 そして、妄想にしてあまりにもリアルな学校だったので、調べると、本当に鳴神学園は存在していた。だから、坂上はこの学校に入学した。
 そして、急に人がいなくなる症状は亡くなった代わりに、いつも空に目玉が浮かぶようになり、まるで坂上を監視しているみたいとのこと。


 「もし、誰かの視線を感じたなら、迷わず空を見上げてごらんなさい。そこには、あなたを監視する巨大な目玉が浮かんでいるかもしれませんよ」


 エンディング№430:いつも誰かに見られている
 エンディング数 38/657 達成度5%
 キャラクター図鑑 38/122 達成度31%
 イラストギャラリー 29/283 達成度10%


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 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
 1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る
 2人目の岩下のシナリオ:窓枠の中で→エンディング№310~313を見る
 3人目は風間のシナリオ:下半身ババア→エンディング№168・169を見る
 4人目は荒井のシナリオ:いみぐい村→エンディング№74・75を見る
 5人目は細田のシナリオ:トイレの恋→エンディング№270~272見る
 6人目は新堂のシナリオ:高木ババア→エンディング№001・002・004・005を見る(エンディング№03は7話目のエンディングの影響するので、あとでプレイします)


 語り部6人に話が終わったのに、7人目はまだ姿を見せない。
 新堂に「どうするんだ?」と促された坂上。
  • もうしばらく待ちましょう
  • 新堂さんの意見を聞きたい
  • 帰りましょう
 
 シナリオ:うしろの正面


 「なあ、坂上。7人目は結局まだ来ねえけど、どうするんだよ」
 皆、待たされた不満が噴出したのか、好き勝手に文句を言い出した。
 岩下が席を立ち、つかつかとドアに向かって歩き始めたので、他の皆もそれに続いて席を立った。
 「待ってください」と坂上は皆を呼び止めた。
 「僕が話をします。七不思議は七話揃わないと、終わりませんから。皆さんに気に入ってもらえるような怖い話ができるように頑張りますので、どうか席に戻ってもらえないでしょうか」
 坂上の言葉に一同は顔を見合わせると、ぞろぞろと席に戻った。
 「皆さん、ありがとうございます。それで、最近僕が体験した話と、昔起きたとある話とどちらをご希望でしょうか」
 「へえ、お前は怖い話が苦手だったんじゃねえのか。それなのに、俺たちに選択させてくれるっていうのか?」
 「せっかくですので、よければ新堂さんが選んでいただけますか?」
 「よし、俺が聞きたいのは・・・」
 「これは僕の体験談です。僕でも皆さんが知らない怖い話を一つだけ知っています。その龍は、僕の話を聞けは理解していただけると思います」
 「申し訳ありません。やはり、話すのはやめさせてもらいます。興味のない方をいらっしゃるようですし、どうやら自分の立ち位置を間違えてしまったようですね。なんとも歯切れの悪い形となってしまいましたが、これで集会を終わらせていただきたいと思います。皆さん、今日はどうもありがとうございました」


 翌日。
 「よう、日野。これから新聞部か?」
 「ああ、新堂。昨日はありがとうな。もうすぐ試合で忙しいのに、わざわざ協力してくれて」
 「いいってことよ。こちとら、いつも試合を取材してもらってんだ。ボクシング部を悪く言う連中も多いけど、お前が好意的は記事を書いてくれるから助かってる。俺にできることなら、いつでも協力は惜しまないぜ」
 「それで、どうだった?うちの可愛い後輩は喜んでたか?」
 「喜ぶっていうよりは、ビビッていたんじゃねえか?」
 「あいつをびびらせるなんて、お前らやるじゃないか。でも、可愛いからって手を出さないでくれよ」
 「手を出す?」
 「冗談だよ。何をやるにも一生懸命で、俺にちょろちょろとまとわりついてくるのさ。やっぱ、1年生ってのは初々しくていいよな!」
 「人にはそれぞれ愛の形ってのものがあるからな。だから別に俺は否定しねえけどよ。でも、俺にはそんな趣味はねえし、まったく手を出すつもりはないから安心してくれ。しかし日野、少しばかりお前を見る目が変わったぜ。俺にはそんな気はねえからな、はっきり言っとくぜ」
 「は?」
 「触るな!それ以上俺に近づくんじゃねえ、このゲス野郎」
 「俺はノーマルだぞ。どこから急にそんな発想が引き出されてくるんだ」
 「お前が自分ところの後輩を可愛いと思うのは自由だ。だが、俺は男に手を出すつもりはねえし、そんな趣味を平然と押し付けてくんじゃねえよ」
 「はあ、男?昨日七不思議の集会に行ったのは、1年に女子だぞ」
 「いや、来たのは男だ。1年の・・・確か坂上修一だ」
 「おいおい、俺が指名したのは倉田恵美って1年の女子だ。それに、坂上修一なんて名前の奴は新聞部にいないぞ」
 「ちょっと待てよ。俺たちは新聞部員でもない部外者に話していたのか?」
 「まさか倉田の奴、行くのが嫌になって代役を立てたんじゃないだろうな。あっ!!!!」
 「どうしたんだよ、日野」
 「悪いけど一緒に部室まで付き合ってくれないか」
 「ああ」
 「急ぐぞ!」


 新聞部の部室に入り、日野は棚に駆け寄ると、資料を探す。
 「なあ、日野、何をそんなに慌てているのか、いい加減に教えてくれてもいいだろ?お前がみているそれ、何なんだよ」
 「これは新聞部が刷った過去の新聞をまとめたものだ。・・・あった!」


 日野は、怪訝そうな顔をする新堂に資料を見せると、問題の箇所を指で指し示す。
 「おい、それじゃあ、坂上ってのは」
 「ああ、新聞部員さ。20年以上前の部員だけどね」
 「俺は確かにあいつに会った。いや俺だけじゃない。岩下も風間も、あの場にいた全員が坂上という男に話を聞かせている。でも、あいつは・・・」
 「20年前に死んでいる。理由は定かではないが、彼が死ぬ直前に書いたのが、この学校新聞に記されている鳴神学園の七不思議という記事なのさ。実はと言うと俺はこの新聞を読んだとき、今回の企画を思いついた。もともと七不思議の集会は、彼の企画なのさ」
 「じゃあ、昨日俺たちが話したのは幽霊だっていうのかよ!」
 「ただ、俺が聞き手役を頼んだ蔵って奴はちょっとイタズラ好きって言うかお茶目なんだよな。あいつのことだ、今回の聞き役を買って出て、この昔の資料を読んだんだろう。それで、わざわざ坂上修一という代役を用意した。もしくは、坂上修一という男子に変装したとか・・・」
 「お前、そんな下らねえ仮説をマジで言ってんのか?」
 「じゃあ、お前らは幽霊相手に話したって言うのか」
 「てめえ、俺にケンカ売る気か?」
 「お前、ちゃんと記事を読んだのか?」


 新堂は改めて記事に目を通した。
 「これって!」
 「お前たちが坂上修一に会っていたのならば、大変なことになるぞ。まさか、6話で終わらせた、なんてことはないよな?」
 「あいつ7話目を話すって言ったのに、俺はあいつの話を聞いてやらなかった。無理やり6話目で終わらせて帰っちまった」
 「・・・」
 「助かる方法はあるのかよ!」
 「落ち着けよ。倉田のイタズラかもしれないだろ。まずは倉田を探そう」
 「ああ、そうだな」


 そのとき、風もないのに掃除用部などを入れている縦長のロッカーのドアがゆっくりと開いていった。
 「うわああああ!!!」
 「く、倉田・・・」


 幅30センチほどの細長いロッカーの中に、倉田恵美は器用に押し込められていた。
 まるで体育座りをしたまま押しつぶされているような恰好で、手足は妙な方向に捻じ曲がっていた。
 よく見ると、首の周りに歪に皺がよじれている。
 すでに死んでいるはずの倉田の首がギリギチと不気味な音を発しながら回り始めた。
 首の周りについた捩れた模様はちょうど一回転首を捩じられてできたもののようだ。
 そして、空気の抜けた人形が生気を取り戻すように、妙な方向に捩れていた四肢がボキボキと音を立てて修復されていった。
 まもなく倉田は自力でロッカーの中から這い出してきた。
 ロッカーからみごっとに這い出してきた倉田は、焦点の合わない視線を日野に向けている。
 「今回も聞けなかった」
 おそらく、倉田に坂上が乗り移っているのだろう。死んでいる倉田がしゃべっている。
 しかし、それは聞き覚えのある倉田の声ではなく別人のものだった。
 「僕は、ただ怖い話を聞きたかっただけなんだ。それを学校新聞に載せたかっただけなんだ。7話集まって初めて学校の七不思議が完成するのに、6話しか集まらなかった」
 そんな独り言をつぶやきながら、倉田はゆっくりと近づいてきた。


 「なあ、お前。坂上だろ?」
 「お前、誰だ?」
 「俺は日野って言うんだ。今回の七不思議の集会を企画したのは俺だよ」
 「あれは僕の企画だ」
 「ああ、そうだ。でもあの企画は6話しか集まらなかったため、七不思議にならなかった。だから・・・」
 「そう、だから僕は、僕自身が7話目になることで責任を取った。20年前の新聞の7話目に書いてある通りさ」
 「わざわざ七不思議を完成させるためだけに自殺したっていうのか?」
 「僕のとって、あの記事を最高のものにすることは宿命だった。僕はあいにく七不思議の最後を締めくくる強烈な怖い話を知らなかった。だから、七不思議の最後を飾るには自分が死ぬことが一番だと思った。学校の怪談に取り憑かれて恐怖を感じながら自殺する人間の記録。それが7話目さ。そして、僕はその新聞を刷り上げたあと、この新聞部で首を吊って自殺した。だから、僕はあれからずっとこの新聞部にとどまっている。そう、僕は、見事に学校の怪談の一つになることができたのさ。そして、この部室にとどまり、入れ替わる新聞部員たちの話を聞いていた。いつか、僕の後を継いで七不思議の企画を立ててくれる人間が現れるのを。だから僕は、今回の七不思議を楽しみにしていた。それだわざわざ、この女の子の代わりに聞き役を務めることにした。それなのに、今回も6人しか来なかった。僕は7話目を話そうとしたのに、聞きたくないという奴がいた。お前がその一人だったよな」
 そういうと、倉田は、新堂を指さした。


 新堂「悪かった!聞くよ、今から7話目を聞くから」
 倉田「もう遅いよ。今回も七不思議の集会は失敗して終わったんだ。7人目がちゃんと来てたら、こんなことにはならなかったのにな」
 日野「待て!7人目はいた。ちゃんと来ていたんだぞ!」
 倉田「どこに?」
 日野「7人目は聞き役もかねた倉田恵美という女の子だったんだよ!お前が殺して乗り移ったその子が7人目だったんだよ!」
 倉田「僕は集会が始まる前に彼女を殺してロッカーに入れてしまったからね。どうりでいつまで経っても7人目が来なかったわけだ。でも、もうこの子は死んでしまったから、残念だけど7話目を話すことはできない」
 日野「じゃあ俺が話す。俺の話を聞いたらこんな場所に縛られずに成仏できるかもしれないぜ」
 倉田「お前は何か勘違いしているんじゃないか?7話目は僕が書くんだ。それに僕は成仏なんかしたくない。この新聞部の主として、ずっとずっと見守り続けるんだ。今回の7話目は、こんな話はどうかな?20年前に新聞部で首つり自殺した部員がいた。その部員が一生懸命に考えた企画を、日野って男が横取りしたのさ。でも、日野は自殺した部員の怒りを買って、殺されてしまう。そして、その死体を偶然見つけたボクシング部の主将は発狂してしまう。面白そうだろ?さあ、始めようか、学校であった怖い話の7話目を」


 エンディング№429:20年前の学校であった怖い話
 エンディング数 37/657 達成度5%
 キャラクター図鑑 38/122 達成度31%
 イラストギャラリー 28/283 達成度9%


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 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
 1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る
 2人目の岩下のシナリオ:窓枠の中で→エンディング№310~313を見る
 3人目は風間のシナリオ:下半身ババア→エンディング№168・169を見る
 4人目は荒井のシナリオ:いみぐい村→エンディング№74・75を見る
 5人目は細田のシナリオ:トイレの恋→エンディング№270~272見る
 6人目は新堂のシナリオ:高木ババア→エンディング№001・002・004・005を見る(エンディング№03は7話目のエンディングの影響するので、あとでプレイします)


 語り部6人に話が終わったのに、7人目はまだ姿を見せない。
 新堂に「どうするんだ?」と促された坂上。
  • もうしばらく待ちましょう
  • 新堂さんの意見を聞きたい
  • 帰りましょう
 
 シナリオ:うしろの正面


 「なあ、坂上。7人目は結局まだ来ねえけど、どうするんだよ」
 皆、待たされた不満が噴出したのか、好き勝手に文句を言い出した。
 岩下が席を立ち、つかつかとドアに向かって歩き始めたので、他の皆もそれに続いて席を立った。
 「待ってください」と坂上は皆を呼び止めた。
 「僕が話をします。七不思議は七話揃わないと、終わりませんから。皆さんに気に入ってもらえるような怖い話ができるように頑張りますので、どうか席に戻ってもらえないでしょうか」
 坂上の言葉に一同は顔を見合わせると、ぞろぞろと席に戻った。
 「皆さん、ありがとうございます。それで、最近僕が体験した話と、昔起きたとある話とどちらをご希望でしょうか」
 「へえ、お前は怖い話が苦手だったんじゃねえのか。それなのに、俺たちに選択させてくれるっていうのか?」
 「せっかくですので、よければ新堂さんが選んでいただけますか?」
 「よし、俺が聞きたいのは・・・」
 「これは僕の体験談です。僕でも皆さんが知らない怖い話を一つだけ知っています。その理由は、僕の話を聞けは理解していただけると思います」
  • それでは、話しましょう
  • やっぱり、やめましょう
 「今から1年ほど前、僕はまだ中学3年生でした。正確に言うと僕の中学で体験した話なのですが・・・・
 皆さんは、たった一人になってしまった時ってありませんか?
 普段はいつも人通りのある道なのに、突然人がいなくなり自分だけになってしまったってことってありませんか?
 それがもし学校で起きたとしたらどうしますか?
 例えば、休み時間にトイレに入る。いつもは誰かしらいるはずのトイレ。入って、ふと見ると誰もいない。
 変だなと思って用を済ませてトイレから出ると、今までたくさんの人がいたはずの廊下に誰もいない。そんな経験はありませんか?
 驚いて窓から校庭に目をやるとそこにはたくさんの生徒たちが遊んでいる。ほっとして廊下に目を戻すと、いつの間にかそこにはたくさんの人たちの姿がある。
 ほんの一瞬前に見た、誰もいない背景がまるで嘘のように、そこにはいつもの日常が動いている。そんな経験はありませんか?」
 坂上がそう話していると、荒井が聞いてきた。
「本当にそんなこと気にかけて日常を生活しているんですか?」
  • はい、そうです
  • 始めは違いました
 「始めは僕もそんなこと気にしていなかったかもしれません。でも、あの出来事を切っ掛けに僕は誰もいない空間がとても恐ろしくなってしまったんです」


 1年ほど前の雨の日に放課後。
 靴箱で、朝方傘立てに突っ込んでおいた、坂上の傘がなくなっていた。
 仕方ないので教室においてあった、予備の置き傘を取りに戻った。
 3階にある自分の教室を目指して、2階から3階への階段を上がろうとしたとき、坂上は異様な違和感を覚えた。
 坂上の耳に自然と流れ込んでいた生活音がピタリと止まった。
 辺りを見るとさっきまでいたはずの人がどこにもいない。
 なのに、坂上は突然怖くなったので、慌てて人を探した。
 すると、2階から3階へと上がる階段の踊り場に、学生服を着た男子生徒が一人立っているのを見つけた。
 彼は奇妙なことに壁を向いて立っていた。しかも、踊り場の四つ角の隅にぴったりと体を寄せるようにして立っていた。
 階段の踊り場の角にぴったりとへばりつくように人が立っているという光景は、非日常的な違和感として坂上の目に飛び込んできた。
 次の瞬間、日常の雑踏音が聞こえ、3階から数名の女子生徒が小走りで降りてきた。
 改めて辺りを見回すと、そこにはいつもの学校で見かける当たり前の光景が広がっていたので、坂上は平常心に戻った。
 もう一度見直すと、彼は確かにそこに存在していた。
 坂上は、踊り場に佇む後ろ姿の彼は見ないように努め、そのまま3階まで駆け上がった。
 坂上は教室に置いてあった置き傘を手にしたあと、彼とは会いたくなかったので、別の階段から帰ることにした。


 それから1カ月ほどたった、ある日また坂上は同じような経験をした。
 坂上が母親とデパートへ行ったとき、母親は洋服を買いに特売場に向かい、坂上はほしいCDがあったので別の階に向かった。
 特売場のある階から階段を下りているとき、坂上は周りに誰もいないことと、踊り場の隅に一人の男性が立っていることに気づいた。
 Tシャツとジーパン姿の彼は、学校で出会った彼とはもちろん別人だと思うが、彼も同じようにぴったりと隅に体を押し込むように密着させ、立っていた。
 恐怖に襲われた坂上だったが、階段の下から一組の親子連れが上がって来たので、自分を取り戻し、CD売り場に行くことを諦め、特売場の母親を探しに行った。


 坂上が彼らのことをはっきりと意識するようになったのはあれからで、それからというもの、階段を見ると、必ず踊り場の隅を見るようになっていた。
 今までの2回の例に考えると、彼らは階段の踊り場に現れる、そしてその時坂上以外は誰もいないということだ。
 なので、坂上は周りに誰かいないかを常に気を配るようになった。人がいないということは、彼らが現れる危険信号のように思えたから。
 やがて、坂上は彼らの存在というよりも、彼らの行為自体に興味を持った。彼らは、あんなところに立って、いったい何をしているのだろう。
 ある日、家に誰もいないとき、坂上はこっそりと階段の踊り場の片隅に立ってみた。彼らが立っていたのと同じように、ぴったりと壁に体を押し付けるようにして、立ってみた。
 でも、何も起きなかった。
 当たり前だが、坂上は、自分のしていることがおかしくなり、一人でクスクスと笑ってしまった。
 それがきっかけて、坂上の気持ちは少し楽になり、階段を見ても普通に歩けるようになった。


 そんなある日、学校で彼と初めて会った階段の踊り場の隅に「あそこに僕の求めているものがある」と坂上は感で感じ、無意識のうちにふらふらと彼が立っていたあの隅に誘導されていった。
 坂上は誘われるまま、ゆっくりとその隅に立った。
 「このまま、ここに居続けていたい。許されるならば、僕はもうこの壁に寄り添って生きていきたい。このまま壁になってしまってもいい」と坂上は本気で願った。
 坂上はふっと現実に引き戻された。背後にとても危険な存在を感じた。
 その存在は、震える唇を坂上の右耳に近づけてつぶやいた。
 「そこは僕の居場所だから」
 坂上は、それが学生服の彼だと理解した。ここは、彼の場所なのだ。
 とっさに坂上がその場を退くと、学生服の彼はその隙間に滑り込んできた。
 その時の坂上の気持ちは、やっと自分が手に入れたものが、本当は他人のものだったという焦燥感だった。


 坂上はそのあとすぐに母親と一緒に行ったデパートに向かった。
 もしかしたら、あそこは彼のものじゃないかもしれないと思いながら。
 あの踊り場でも、学校で感じたものと同じものが待っていた。
 そして、周りに誰もいないことに気づいた。
 「もしかしたらこの場所は僕が立っても許されるんじゃないか」
 坂上が隅に立とうとしたら、背後に恐ろしいほどの殺気を感じたためすごすごと引き下がった。
 そして、それが当然だとでも言っているかのように、一人の男が隅に陣取った。やはりあの時の男だ。


 それからというもの、坂上は自分の場所を探すようになり、いくつもの場所を探し当てることに成功した。
 そして、いくつかのことがわかった。
 まず、人通りの多い場所であること。必ず、階段の踊り場だということ。そして、周りに誰もいないということ。
 しかし、残念なことに必ず、それらの場所には先客がいて、誰かが立っているか、坂上が立とうとすると背後に現れるのだ。
 もしかしたら、彼らは誰かを殺めることで自分の場所を手に入れたかもしれない。事実、そう思わせるような事件が起きた。


 去年の大晦日、図書館が火事になるという事件が起きた。
 誰もいないはずの休館日に火事があったのに、二つの死体が見つかり、真冬の怪談をして騒がれた。
 その図書館は、例の踊り場があった。
 結局、身元不明のまま無理心中という線でうやむやになってしまったが、例の場所のある建物が次々と火事になったりしたらどうなるのだろう。どの建物からも二つの死体が発見されたら・・・


 坂上はやっと幸いにも誰もいない自分の場所を見つけた。
 それは、この学校の旧校舎にあった。


 「僕は思い違いをしていたんです。人通りの多い場所にあるのではなく、あるいは死体が埋まっている場所とか。
 僕は自分のいるべき場所を見つけたのですから、この学校にとても満足していますよ。
 僕の話が本当かどうか、よければここにいる皆さんにそれを確認してもうらいたいんですよ。
 だって、旧校舎はこの夏休みに取り壊されるんですよね?
 僕は、その時生き残っている自信がないんですよ。きっと僕は旧校舎がなくなるとき、一緒にいなくなってしまうと思います。
 やっと見つけた僕の居場所。それがなくなるなんて、気が狂いそうなんです。僕の居場所で最期を迎えた方が幸せですよね。だから、皆さんにこの話をしたんです。
 もし旧校舎が取り壊されたとき、僕が死んだらきっとテレビのニュースでやるはずです。
 だから、確かめてください。僕が本当に死んだか。そして、死体はいくつ見つかったのか」


 エンディング№428:うしろの正面
 エンディング数 36/657 達成度5%
 キャラクター図鑑 38/122 達成度31%
 イラストギャラリー 27/283 達成度9%


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 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
 1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る
 2人目の岩下のシナリオ:窓枠の中で→エンディング№310~313を見る
 3人目は風間のシナリオ:下半身ババア→エンディング№168・169を見る
 4人目は荒井のシナリオ:いみぐい村→エンディング№74・75を見る
 5人目は細田のシナリオ:トイレの恋→エンディング№270~272見る
 6人目は新堂のシナリオ:高木ババア→エンディング№001・002・004・005を見る(エンディング№03は7話目のエンディングの影響するので、あとでプレイします)


 語り部6人に話が終わったのに、7人目はまだ姿を見せない。
 新堂に「どうするんだ?」と促された坂上。
  • もうしばらく待ちましょう
  • 新堂さんの意見を聞きたい
  • 帰りましょう
 
 シナリオ:うしろの正面


 「なあ、坂上。7人目は結局まだ来ねえけど、どうするんだよ」
 皆、待たされた不満が噴出したのか、好き勝手に文句を言い出した。
 岩下が席を立ち、つかつかとドアに向かって歩き始めたので、他の皆もそれに続いて席を立った。
 「待ってください」と坂上は皆を呼び止めた。
 「僕が話をします。七不思議は七話揃わないと、終わりませんから。皆さんに気に入ってもらえるような怖い話ができるように頑張りますので、どうか席に戻ってもらえないでしょうか」
 坂上の言葉に一同は顔を見合わせると、ぞろぞろと席に戻った。
 「皆さん、ありがとうございます。それで、最近僕が体験した話と、昔起きたとある話とどちらをご希望でしょうか」
 「へえ、お前は怖い話が苦手だったんじゃねえのか。それなのに、俺たちに選択させてくれるっていうのか?」
 「せっかくですので、よければ新堂さんが選んでいただけますか?」
 「よし、俺が聞きたいのは・・・」
  • 最近あった話
  • 昔に起きた話
 「わかりました。皆さん、僕の話を聞いていただけますようでありがとうございます。改めまして、僕は1年E組の坂上修一と言います。どうぞ、最後までお付き合いしていただけると嬉しいです」


 昔、この付近に大きな団地があったが、老朽化が進んだため、10年くらい前に取り壊されてしまった。
 その団地にある男の子が住んでいた。
 彼はまだ、その団地に引っ越してきたばかりだったので、周りに友人と呼べる人間がおらず、いつも団地の隅にある古びたブランコで遊んでいた。
 そんなある日、誰かが彼に声を掛けてきた。
 「お前、一人で何してんだよ」
 彼に声を掛けてきたのは、男の子と近い歳の活発そうな少年だった。
 「俺たちと一緒に遊ばねえか?仲間にも紹介してやるよ」
 そう言って、彼は少年の手を引っ張って公園の茂みの中に連れて行った。
 彼に連れていかれた場所には、少年と近い年頃の子供たちが数人おり、思い思いに遊んでいた。  
 「こいつも今日から仲間だ」と紹介されると、他の子どもたちは素直に受け入れてくれた。
 「皆この団地に住んでいる奴らなんだぜ。お前も今日から俺たちに仲間だ。これからは一緒に遊ぼうぜ」
 「うん、よろしく」
  こうして一人ぼっちだった少年に友達ができ、その日から7人は何をするのも一緒に行動した。


 ある夏の暑い日のこと。
 リーダー格の少年が、みんなにある提案をした。
 「学校に行ってみたくねえか?」
 少年は、学校についてよく知らなかった。
 他の子どもたちは小学校はいつも行っているところとのことで、夏休みで誰もいない近くにある高校へ探検に行く、とのことだった。
 子供たちは興味津々で探検に出かけた。


 子供たちがやってきたのは、鳴神学園だった。
 リーダー格の少年の案内で、破れたフェンスを潜り抜けて校内に侵入した子供たちは、木造の旧校舎にやってきた。
 この頃、旧校舎はすでに立ち入り禁止だったが、入り口に立ち入り禁止のテープが貼られているだけで、子供たちが侵入するには簡単だった。
 リーダー格の少年は、「探検するにはぴったりの場所だろ?今から探検しよーぜ」と言った。
 嫌がる子供もいれば、乗り気の子供もおり、結局、子供たちは旧校舎に入ることにした。


 旧校舎の中は、昼間でも薄暗く、木の匂いに満ちていた。
 そして、子供たちが歩く度、床はぎいぎいと音を立てた。
 最初は、その音に怖がっていた子供たちだったが、だんだんと恐怖が薄れていき、好き勝手に遊び回り始めた。
 「これから、みんなで何かして遊ぼうぜ」とリーダー格の少年が言った。
 彼はどんな遊びをしたと思いますか?
  • かくれんぼ
  • 宝探し
 「宝探ししようぜ。誰かの持ち物を、持ち主に隠してもらって俺らがどこに隠したか探すんだ」とリーダー格の少年が言うと、子供たちは宝探しをすることに賛成した。
 よーし、じゃあ決まりだな。それど宝物だけど、お前らなにか持ってるか?」
 リーダー格の少年に促され、皆は自分のポケットを探ってみた。
 「あの、これはどうかな」
 そう言って、少年が持ち出したのは一つのオルゴールだった。
 そのオルゴールは、少年の父親の出張先のおみやげで、彼はそれをとても大切にしており、いつも肌身離さずポケットの中に忍ばせて、暇なときにはオルゴールの音色を聞いたりして、楽しんでいた。
 少年はせっかくなので、みんなにオルゴールの音色を聞かせてあげた。
 「いいんじゃないか。じゃあお前、これをどっかに隠して来いよ」
 リーダー格の少年に言われ、少年は自分の宝物を隠すために、旧校舎を歩き回った。
 少年は2階にある教室の窓際の机の中にオルゴールを隠すことにした。
 少年はオルゴールを隠し終わると、皆の元に戻った。
 「じゃあ、宝探し始めようぜ」


 皆は、少年が隠したオルゴールを探すため、それぞれが思い思いの場所を探し始めましたが、どこを探しても見つけることができませんでした。
 「俺たちの負けだよ。一体どこに隠したんだよ」
 少年はオルゴールが見つからなかった皆を得意そうに見ていた。
 「案内するね」
 少年は皆を引き連れて、自分がオルゴールを隠した場所へ案内した。


 「あれ、ない・・・」
 少年が2階の教室の窓際の机の中に手を入れてみたところ、どういうわけか隠したオルゴールがない。
 「本当にここに入れたのかよ。違うところに隠したのを間違えたんじゃねえのか」
 「どこ行っちゃったんだろ?」
 「ねえ、他の場所も探してみよう」
 子供たちは旧校舎を探し回ったが、オルゴールは見つからなかった。
 「そうだ、この中の誰かが盗ったんだろ!僕のオルゴールを!」
 「そんなことするわけねえだろ」
 「何でオルゴールが無いんだよ!返せ!僕のオルゴールを返せ!」
 少年はそう言うとリーダー格の少年に掴みかかった。
 「何するんだよ、離せ!」 
 リーダー格の少年は掴みかかった少年を突き飛ばした。
 「付き合ってらんねーぜ。可哀そうだからと思って、せっかく仲間に入れてやったのに、もうお前とは二度と遊んでやらなからな。皆、行こうぜ」
 「ボクを泥棒呼ばわりするなんて、とんでもないね」
 「皆で探して無かったんだからしょうがないじゃん」
 「そんなに大事なものなら、宝探しなんかに使わなければいいでしょ」
 子供たちは、自分たちを泥棒呼ばわりする少年を置いて、出て行ってしまった。
 一人残された少年は、一人でオルゴールを探し続けた。
 彼にとって、オルゴールはとても大事なものだった。今はもう死んでしまった父親からの最後の贈り物だったから・・・


 坂上「そして少年は、今でもオルゴールを探し続けているんです・・・」
 福沢「坂上君・・・そんな・・・」
 風間「君は、修一なのかい?」
 荒井「でも。彼はあの日以来、行方不明のはずでは・・・」
 坂上「僕は長い間探し続け、そして確信した。やっぱり、皆の中の誰かが嘘を吐いていたんだって。だから僕は待っていた。みんながここへ帰って来るのを。ほら、聞こえる・・・あのオルゴールの音色が・・・持ってるんじゃないか。ひどいなあ。僕は、ずっとそのオルゴールを探してたんだよ。ずっと。ずーーーーっと」
 皆はこわばった表情で坂上を見ていた。
 (そんな表情をするのは、後ろめたい気持ちがあるからだ。全部吐き出させて徹底的に探さないと)
 坂上は、皆を部室の壁まで追い詰めた。
 その時、細田が一気に駆けだした。
 「逃げるな!」
 坂上の言葉に、細田は体をビクっとこわばらせて、床に倒れ込んだ。
 坂上は、倒れてピクピクと震えている細田に馬乗りになると、彼の身体を仰向けにして、その腹の中に手を突っ込んだ。
 「あぎゃああああ!」
 豚が泣くような悲鳴をあげながら、細田がジタバタを暴れた。
 他の皆は、そんな細田を見つめながら、ただ呆然と立ち尽くしていた。
 肉を、骨を、臓物を、全てひっくり返して見たが、オルゴールは見つからなかった。
 空っぽになった細田を置いて、坂上は残りの皆に向き合った。
 福沢「本当に、持ってないのよ」
 坂上「ダメだよ、君たちの言葉はもう信じられない。僕がきちんと、全員を隅々まで調べさせてもらうよ」
 新堂「落ち着け、坂上。俺たちは偶然同じ学校に入ったのか?どうしてここにお前がいるんだよ。なんで日野は俺たちを集めたんだよ。お前ら、グルなのか?」
 坂上「新堂、お前はまだ気が付いていないのか?
 新堂「何に?」
 坂上「ここが地獄だってことさ。思い出せよ。みんなが帰ったあの後のことを」


 「もうお前と遊ばないって言っただろ!」
 「返せ!あれは僕の宝物なんだ!」
 「てめぇ、本当にぶっ殺すぞ!」
 車の音。


 「そうだ、俺たちは全員即死だった」
 「僕の宝物を盗んだお前らが天国に行けるわけはない。この無間地獄で、永遠に同じ地獄を繰り返す」
 「そうだ、思い出した。俺たちをひき殺した、あの運転手・・・」
 「まだ免許を取り立ての若い男だったよ。事故後、間もなく首吊り自殺をした。当然、地獄行きさ。あの日野貞夫という運転手はね。わかっただろう?お前たちが正直に告白するまで何度だって殺すよ。次でもう2801回目だ。全員殺したら、また僕たちはあの団地で出会ったところから始まる。そして何度も何度も繰り返される。終わらないから安心して死んでくれ」
 「正直に言うよ。あの日お前が、あまりにもオルゴールを大事にしていたから、つい面白くなって皆で示し合わせてあのオルゴールを隠したんだ。悪気はなかった。それにお前が泣くのが面白くて、つい本当のことを言いそびれてしまったんだ。すまなかった。本当のことを言ったんだから、もう許してくれよ」
 「じゃあ、僕のオルゴールはどこにあるの?」
 「それは、細田が隠したんだ。だからあいつが・・・」
 バラバラの肉塊となった細田の残骸を見て、新堂は泣きじゃくった。
 「お前が悪いんだぞ。お前が細田を殺すから・・・」
 「残念、また最初からだね、新堂」
 「やめて・・・」


 エンディング№427:ようこそ、無間地獄へ
 エンディング数 35/657 達成度5%
 キャラクター図鑑 38/122 達成度31%
 イラストギャラリー 26/283 達成度9%


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 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
 1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る
 2人目の岩下のシナリオ:窓枠の中で→エンディング№310~313を見る
 3人目は風間のシナリオ:下半身ババア→エンディング№168・169を見る
 4人目は荒井のシナリオ:いみぐい村→エンディング№74・75を見る
 5人目は細田のシナリオ:トイレの恋→エンディング№270~272見る


 6人目は新堂誠を選択。
 シナリオ:高木ババア開始!


 新堂誠は3年D組の生徒。
「お前がどうして新聞部に入ったか教えてくれないか?」
  • なんとなく入りました
  • 前から憧れていました
  • ゲーム実況者になりたかったので
「ずいぶんと変わった部に憧れていたんたな、お前。何に興味を持つかは人それぞれだからな。
 それより俺みたいな奴が、こんな女子供が喜びそうな集会にいるのは場違いだって感じてんじゃねえか?」
 「言ってくれるじゃねえか、坂上。
 何せ、俺が自らそう言ったんだもんな。俺が何に興味を持つかなんて俺の勝手だ。
 それじゃあ、さっそく話を始めるとするか。ところで、この部屋、なんか怪しくねえか?
 霊ってのはよ、人間の気を敏感に察知するっていうからな。それでな、霊は恐怖心を持った奴の周りに集まるっていうじゃねえか。
 怖い話をしているとき、突然背筋にゾクって寒気が走る。あれはま、そいつの背中を霊が撫でてるんだぜ。
 坂上、お前、まさか怖がったりしてねえよな」
 「怖がっているのがお前じゃないとしたら、他の誰かが怖がっているのか?それを察知して霊が集まってきたのか?
 それとも、この霊たちは、誰も怖がっていないのに集まって来たのか?
 この霊たちは。これから起きる何かを予測して集まってきたことになる。わかるか?この集会で何かが起こるってことさ。
 それじゃあ、話を始めてやろう。噂話って知ってるか?口裂け女とか、人面犬、トイレの花子さんや、メリーさん。そういう噂、お前は馬鹿にしているか?」
 「信じるのは馬鹿らしい。かといって、心のどこかでは信じている自分がいる。そんなあやじやな感じってところか。
 でもよ、もし少しでも信じているなら、その心に従ったほうが身のためだぜ。」


 新堂のクラスメートに吉田達夫という男がいた。
 現実主義というか、アンチ・ロマンチストというのか、どにかく嫌な男だ。
 勉強はできたけど、それだけの男で、いつも気取っていて、殴ってやりたいタイプだった。
 吉田は、どんなに殴られようが絶対に抵抗しないが、きちんとそれを先生に報告していたので、いじめようとしてもいじめられない男だった。
 先生の間では、成績抜群で品行方正、先生には従順でなんでも従い、問題があるとすぐに報告するため、評判が良かった。
 吉田はそんな男だから、誰にも相手にされず、無視されていた。
 ところが吉田は、それを喜んでいるようだった。自分が選ばれた人間にでもなったつもりで、周りを見下しているのは見え見えだった。


 「お前はそんな奴には何かガツンと一発かましてやりたいと思うだろ?」
 「腹が立つ奴がいても、だんまりなのか?
 だとしたら、よほどの優等生か、逆に冷たい人間なんだな」


 そんな時、新堂はちょっとおもしろい話を聞いた。高木っていう名前のババアの話だった。
 そのババは、ませたガキが好きそうなフリルのついた真っ赤なロングスカートをはいている。
 足が隠れて地面を引きずるほどのロングスカートのため、高木ババアのスカートの裾はボロボロだった。
 そのババアは腰まである伸ばし放題の髪の毛をいつも垂らしていて、顔を隠している。
 その顔を見た人の話では、すげえ厚化粧をしており、あの顔を見たら、二度と忘れらないとのこと。
 そして、上は白のブラウスを着ているのだが、お姫様が着てるようなヒラヒラのついたかわいらしいブラウスなのだが、ずっと着続けているせいか、元の色がわからないぐらい薄茶色に変色していた。
 ところどころ穴もあいているし、ツギハギだらで、すんげえ臭い。
 そして、ものすごいスピードでピョンピョン飛びながら歩いていた。


「時速100キロで、ピョコピョコ飛び跳ねながら走る厚化粧をした薄汚ねえババア。そんな奴に追いかけられたら、お前どうする?
 お前、笑ったか?今、笑ったんじゃねえのか?」
「一瞬、お前が笑ったように見えたんだけどな。引き攣った笑い、って奴だったのか?」


 高木ババアが何でピョコピョコ飛び跳ねるのかは、片足がないからだ。
 なんでも、交通事故でトラックのタイヤに足を巻き込まれたらしいんだけど、そのとき家族も一緒にいて、息子夫婦に3人の孫、全員、即死だった。
 死体は原形をとどめておらず、ミンチみたいにグチャグチャになったらしい。
 トラックの運転手は酔っぱらっていたらしく、事故に気づかず、子供をタイヤに挟んだまま、10キロ以上走ったそうだ。
 それで高木ババアは発狂してしまい、その後、家族みんな死んだショックから立ち直れず、自宅の布団で、誰にも看取られずに死んだらしい。
 死後1カ月以上経って発見されたそうで、今現れる高木ババアは幽霊だ。
 幽霊だからこそ、時速100キロで走ることができるのだ。
 高木ババアが臭いのは死後1カ月以上経っているからで、あの服装は事故にあったときの服装とのこと。
 そして、高木ババアは、ある目的があって狙った奴の前に現れ、高木ババアに狙われると絶対に逃げられないため最後らしい。
 高木ババアは、最初は何気なく声をかけてくる。
 「身寄りのない年寄りの思い出話を聞いてくだされ」
 ついうっかり情けをかけて相手をしたら、もう最後だ。いきなり、あの時の事故の話を始めるのだ。
 「私には、人様のうらやむのうな家族がいましての。よくできた息子に、よくできた嫁。目に入れても痛くないほどのかわいい孫が3人。
 そりゃあもう、とても幸せな家族でした。仏様には毎日お礼を言いました。
 でも、ひどいもんです。仏様なんて、いやぁしません。私の家族はみんな死んでしまいました。
 交通事故でした。私を残して家族全員、トラックに轢かれちまったんでごぜえます」
 そんなこと言われたら、聞いているほうは、慰めないわけにはいかない。
 「その分、おばあさんが頑張って生きなきゃ」
 「ありがとうごぜえます。こんなババアに気を遣ってくださって。
 あんた様は、死んでいった家族たちのことがかわいそうだと思いますかのう?」
 「ええ」
 誰だって、反射的にそう答えるだろう。
 すると、高木ババアは、薄汚れたスカートをめくって、こう言う。
 「私しゃあ、そん時の事故で片足をなくしちまいました。私のなくなった片足、不憫だとは思いませんかのう?」
 (さあ、どうだ。お前の心は恐怖心でいっぱいだろう。さあ、おとなしく私に食われてしまうがいいよ)
 まるでそんなことを言っているように、醜く化粧されたシワだらけの顔をこっちに向けてニタニタと笑う。
 もう、走り出すしかない。
 走って走って、心臓が口からこぼれるほど走りまくって逃げる。
 そして、もうだめだ、走れない、と思って、ふらふらの足を休め、全身で息をして、ふっと顔を上げると、高木ババアがニタニタ笑いながら、目の前に立っている。
 「よくできた息子は、腹の上を裂かれて真っ二つ。内臓が飛び出て、どこにいったかわからなくなりましてのう。かわいそうだと思うなら、あんたの内臓をくださいな」
 また逃げる。逃げて、逃げて、逃げまくる。
 足が痙攣して転ぶ。
 後ろからゆっくりと足音が聞こえてきて、真後ろで止まる。
 「よくできた嫁は、両腕を轢き潰されてしにました。かわいそうだと思うなら、あんたの両腕くださいな。
 目に入れても痛くないほどかわいい3人の孫。
 一人は両足を潰されました。
 一人は首を潰されてしにました。
 そして、最後の一人は、タイヤに巻き込まれて体中の皮膚をひっぺがされて真っ赤になって死にました。
 家族はみんな、挽き肉みたいにグジャグジャになって、死んだんでごぜえます。
 かわいそうだと思うでしょう?
 だったら、あんたの体をくださいな」
 そして、首を絞め上げられ、ジ・エンド。
 死んだあと、死体は見つからない。全身は死んでいった家族に分け与えられるから。


 「この話を聞いた奴はよ、1週間以内に必ず高木ババアに会うっていうぜ。
 俺は、お前に話したんだからな。ここに集まっている残りの5人は関係ねえぜ。
 お前、笑っているのか?それとも、震えているのかよ。
 そう心配すんなよ。実は助かる方法もあるんだぜ」


 「助かる方法を知りたいか?」
 「高木ババアに会わないですむ方法、それはな・・・
 1週間以内に誰でもいいから10人以上に高木ババアの話をするんだ。
 それも高木ババアの話を知らない奴にだぞ。知っている奴に話しても、だめだからな。
 それを守れなかったら、お前は死ぬぜ。
 それでな、吉田にもこの話をしてやったんだよ」


 「なあ、吉田、ちょっとおもしろい話があるんだけど、聞いてくれねえか?」
 吉田は気のない素振りで聞いていたが、話が進むにつれ、新堂の話に耳を方群れるのがわかった。
 新堂が話し終えると、吉田は馬鹿にしたようにせせら笑った。
 「君って子供。もし信じてたら、かわいそうだなあ」
 「お前が信じるも信じないのも勝手だけでよお。高木ババアを見たからって、俺のせいにするんじゃねえぞ」
 吉田は吹き出した。
 「ぷぷっ!もし本当に会えたら、すぐに君に知らせてあげるからさ。
 じゃあね、僕、君と違って塾があるから」
 そういって吉田は荷物を片付けると帰ってしまった。


 「悪いが俺はよ、こういう噂は信じてるもんでな。
 俺が高木ババアに話を聞いたときは、急いで10人に話だぜ。
 それで、吉田はどうなったと思う?俺の話を信じて、ちゃんと10人に話したと思うか?」
 「お前の感が当たってるかどうかは、まあ続きを聞いてくれよ」


 次の日、吉田は別に何気なくふるまっており、別に誰かに話をする風もなかった。
 日曜日には新堂は、吉田があせっていると思って電話した。
 「君、馬鹿じゃないの?悪いけど、僕は高木なんてババアの話は忘れてたよ。君、頭が変なんじゃないの?一度、病院行ったら?
 あのさ、君が何を思おうが僕には関係ないけどね、大切な僕の休養日に邪魔だけはしないでくれる?」
 言うだけ言って、吉田は一方的に電話を切った。
 新堂は、吉田の慌てるところを見てみたかったが、吉田が死ぬかどうか見極めることにした。


 そして、いよいよ明日で約束の1週間が終わるという日になった。
 いつも他人を見下した態度をとっている吉田が、その日に限って妙にしおらしい。
 愛想笑いなんか浮かべて、すれ違う奴らにペコペコあいさつしている。
 今までが今までだから、誰も吉田なんか相手にしない。
 吉田は、何か話したそうにしているが、誰も聞かない。
 吉田が、高木ババアの話を気にしており、誰かに話したくて仕方ないのに、誰も聞いてくれないのが、新堂にとっておかしくてしかたがなかった。
 吉田は頭を下げながら何人かに話し始めるが、すぐに逃げられてしまう。
 新堂のクラスメートは、もうみんな高木バアアの話を知っているのだ。
 新堂がニヤニヤしながら吉田を見ていると、それに気づいた吉田が、今にも泣きそうな顔で新堂の側に駆け寄ってきた。
 「なあ、新堂君」
 吉田は、泣き出しそうな声を出し、新堂の手を握り締めてきた。
 「あの話は冗談だよね?」
 「何の話だよ、お前、俺と口聞きたくなかったんじゃなかったっけ?俺、お前の大事な時間を邪魔しちゃ悪いからよぉ」
 突然、吉田は土下座して新堂に謝った。
 「ごめんよ。僕が悪かったよ。だから許しておくれよ。
 僕のこと助けて!!」
 新堂は、これ以上しらばっくれるのもかわいそうになり、土下座する吉田を助け起こした。
 「そんな高木ババアが怖いんだったら、話せばいいじゃねえか」
 それを聞いた吉田は大声で泣き始めた。
 「うわあああん!!みんな知ってるんだもの。みんな高木ババアの話を知ってるんだよ!
 まだ3人しか話せてないんだよ。お願いだよ!死ぬのはいやだよ!」
 「3人って誰に話したんだよ?」
 「お父さんとお母さん、それから親戚のおばさん。
 学校のみんなも、塾のみんなも、誰も聞いてくれないんだ。聞いてくれそうになった連中も、みんな知ってるんだよ。高木ババアの話をさ」
 「先公は?お前、ずいぶんと気に入られてたじゃねえか」
 「馬鹿にして、僕の話をまじめに聞いてくれない。
 それでも無理に話そうとすると、怒鳴るんだよ。お前はいつから、そんな馬鹿な事を言う生徒になったんだって、まじめに心配そうな顔をするのさ。
 もう、だめだ。もう、僕は死んでしまう。お願いだ。助けてくれよ」
 「あんなの冗談さ。高木ババアなんているわけねえだろう」
 新堂は、吉田がかわいそうに見えたので、心にもないことを言ってしまった。
 「本当に、あれは嘘だったんだね!」
 「ああ、冗談だよ、気にすんな」
 「ありがとう!その一言で僕は救われるよ。本当にありがとう」
 吉田は、落ち着いて帰っていった。
 しかし、新堂は、吉田が早めに10人に話しておけばこんなことにならなかったんだ、と思っていた。


 そして約束の1週間目がやってきたが、吉田は学校に来なかった。
 恐ろしくなった新堂は、話をした責任を感じ始めた。
 そして、放課後、新堂は吉田の家に電話したら、吉田は家にいた。
 「なんだ君か。どうしたの?」
 「お前、今日学校休んだじゃねえか。何かあったのかと思ってよ」
 「あっははは、何言ってんの、君?あれは冗談だんだろう?いやあ、僕としたことがちょっと取り乱しちゃったよ。君みたいな下等な人間に騙されるところだった。
 今日は、ちょっと疲れたから休んだだけさ。別に君に心配してもらう必要はない。
 あ、そうそう、前にもう僕の家に電話しないでくれって言ったよね?もう電話、しないでくれる?
 それから、君がした高木ババアに話、明日になったら先生に報告しておくつもりだから、覚悟しておくんだね。
 君のような奴を愉快犯っていうん・・・」
 そこまで聞いた新堂は、受話器を叩きつけた。
 腹が立った新堂は、そこら辺のもののい当たり散らしたが、怒りは収まらない。
 仕方がないので、新堂は寝ることにした。


 電話のベルの音で、新堂は目覚めた。
 受話器を取ると、金切り声が聞こえてきた。
 「助けてくれよ、新堂君!!」
 電話の主は吉田だった。
 「ウソツキ、どうして嘘なんかつくんだよ。新堂君の責任だよ。僕が死んだら、新堂君の責任なんだ。どうしてくれるんだよ!
 高木ババアが出てきちゃったじゃないか!高木ババアが、あと6時間でお前を殺すっていうんだよ!殺されるよ!」
 「馬鹿言ってんじゃねえよ。俺はお前の時間を邪魔するつもりはないからよ」
 「お前の責任だ!あと6時間のうちに7人に話さないと俺は殺されるんだぞ!」
 「うるせえ!」
 そう言って新堂は、受話器を置いた。
 新堂が時計を見ると6時を回っていた。
 ちょうどその日、新堂の両親は法事で田舎に言っており、明日の朝まで家には、新堂一人きりだった。
 新堂は、念入りに戸締りをし、作り置きの夕食を食べた。
 8時を回ったころ、また吉田から電話があった。
 「見つからないよ!まだあと5人にも話なさきゃならないんだ!」
 「いい加減にしろ!」
 「いるんだよ!高木ババアが僕のことを見ているんだよ!どこに行っても追いかけてくるんだ」
 「死んじまえよ、クソ野郎!」
 新堂は、電話が壊れるかと思うほど、受話器を乱暴に叩きつけた。
 嘘をついているとは思えない雰囲気の吉田から恐怖を感じた新堂は、テレビのボリュームをいっぱいに上げた。
 何かほかのことを考えようとしても、吉田のことが浮かんで消えない新堂は、風呂に入ることにした。
 風呂に入っているときに、また電話のベルが鳴ったが、新堂は怖くて電話に出れなかった。
 ベルは20回ほどなってようやく切れたが、すぐにまたかかってきた。
 新堂は風呂を飛び出し、受話器をとってすぐに切った。
 それでも電話がかかってくるので、新堂は電話線を外した。
 そして、新堂はリビングのソファの上で足を抱えて、時計を見つめ、12時になるのをじっと待った。


 12時まであと5分ほどになったとき、「新堂」という声をともに、家のドアをぶち壊すような勢いでたたく音が聞こえた、
 吉田が、家にやって来たのだ。
 「新堂、もう時間がないんだ。俺は死ぬ!だから、お前も死ね!死んで責任をとりやがれ!」
 新堂は、急いで玄関に行き、中からドアを押さえつけた。
 「俺はなあ、道行く奴を呼び止めてまで、無理やり話を聞かせたんだよ!まるで狂人扱いさ!
 殴られもしなけどよぉ、話したよ!後ろには高木ババアがいるからよお!
 でも足りないんだよ!あと一人!もう時間がない。だから、お前を殺すんだ!」
 突然、ドアが激しく揺れて隙間に刃物の切っ先が垣間見えた。
 「新堂、お前を殺す!お前を生贄にして俺は助かるのさ!ひゃっはははは!」
 そして、吉田は諦めたのか、すぐに物音はしなくなった。
 その時、鼓膜が破れるようなものすごい音が鳴り響いた。リビンクからだった。
 新堂が目を向けると、リビングの一面を壁を覆っていた窓ガラスが粉々に砕け散っていた。
 「新堂!!」
 絨毯にまき散らされたガラスの破片の上に、土足の吉田が仁王立ちになっていた。手には包丁を持ち、体中から血を滴らせながら。
 顔は青く腫れあがって歪んでいた。無理やり見知らぬ通行人に高木ババアの話をしようとして殴られたのだろう。
 新堂は、吉田に殺される、と覚悟を決めた。
 その時、いきなり吉田が包丁を振り回しながら、見えない何かを必死に追い払うように、暴れ出した。
 吉田には高木ババアが見えているのだ。
 「やめろよ!もう少し時間をくれよ!こいつを殺してからにしてくれよ!ぎゃあ!!!」
 突然、吉田の腹が真一文字にパックリと割れた。
 吉田は苦しそうに目を細めると、ぱくぱくと口を開いた。
 「うわああ!」
 新堂は叫んで、階段を上がり、自分の部屋に逃げ込もうとした。
 「逃げるな」
 吉田は、新堂を追いかけてきた。
 足が震えてうまく階段を上がれず、つんのめった新堂の足首を、吉田の血まみれの手が掴んだ。
 新堂が慌てて振り返ると、吉田は新堂の足首を握りしめたまま、嬉しそうに包丁を振り上げていた。
 吉田の腹からは、腸がベロンとはみ出ており、ほかほかと湯気を立てていた。
 吉田は新堂めがけて包丁を振り下ろしたが、必死だった新堂は渾身の力を込めて足をけり出すと、見事吉田の腹に命中した。
 吉田はそのままもんどり打って、階段を真っ逆さまに転げ落ちて行った。
 腸が階段にぺちゃりと張り付いていたが、吉田は動いていた。
 「し・・・ん・・・どう・・・」
 ものすごい目で新堂を睨みつけるが、新堂は四つん這いになって這いずりながら階段を上がり、なんとか自分の部屋に逃げ込んだ。
 ドアの向こうから、ズルズルビチャビチャ階段を何かが這い上がってくる音が聞こえてくる。
 新堂は、鍵のないドアのノブに手をかけ、ドアが開かないように必死に体を踏ん張らせた。
 「新堂、開けろ。お前を殺してやんだからよぉ」
 そして、がりがりとドアを爪で引っかく音が聞こえる。
 「開けろ」
 突然、ドアを破って包丁を握った手を突き出てきた。
 包丁は、新堂の左腕の肉をそいだ。
 「新堂、見ぃつけた」
 その時、ドアに空いた穴から、汚れた白いブラウスを着た手が伸びてきた。
 高木ババアの手が、吉田の手を掴んだ。
 「やめてくれよ。もう少しであいつをのこと殺せるんだよ、うぎゃああ!」
 ドアの向こう側から吉田の悲鳴が聞こえてくるのと、穴に手が引きずり込まれるのはほとんど同時だった。
 そのあと一切の物音は聞こえなくなり、床には包丁だけが落ちていた。
 新堂が時計を見ると、針は12時を指していた。
 10分ほどして、新堂は慎重にゆっくりとあたりに気を配りながらドアを押し開いた。
 ドアの向こうに何もなかった。吉田の死体も、腹から引きずり出された腸も、血の跡さえも。
 痕跡といったら、ドアに空いた穴と、床に落ちた包丁だけ。
 新堂が1階に降りると、リビングの窓ガラスは割れたままで、カーテンが風にたなびいていた。
 そして、玄関に目をやると、そこにも包丁を立てた跡がくっきりと残っていた。
 確かに吉田は来たが、12時を過ぎると同時に忽然と姿を消してしまった。


 次の日、新堂はこっぴどく親に叱られた。
 本当のことを言っても信じてもらえないため、友達がきて大騒ぎしたって嘘をついて謝った。
 そして、必死に頼み込んで部屋に鍵をつけてもらった。


 学校にも吉田は来なかった。
 突然家でしてしまったそうで、行方不明になった。


 「そういえばお前、さっき吉田は期限に間に合わなかったって言ったよな。ご名答だ。なかなか鋭い勘をしてるじゃねえか。
 お前、俺の話、信じようが信じまいが勝手だけどよ。なんで、お前だけに話をしたのかわかるか?
 ここに集まった残りの連中は、もう高木ババアの話を知っているから、お前に話してんだ。
 どうして、わざわざこんな話をしたのか不思議なのか?悪く思わないでくれ、俺も必死なんだ。
 毎晩、吉田の野郎が俺の夢の中に現れんだよ。手足をちぎられ、内臓をそっくり抜かれた血まみれの吉田がよ。
 そんで、毎週10人に高木ババアの話しろって脅かすんだ。俺がその約束を守り続けなければ、俺のことを殺しにやってくるんだってよ
 俺、死ぬのは怖いからよ。たとえ誰にどう思われようと、俺はこの約束を守らなきゃなんねえ」
 「ヒヒヒ、面白い話でしたね。あの、せっかくですので少し付け加えさせてもらえますか」
 突然そう言って口をはさんだのは、さっき話をしてくれた荒井だった。
 「高木ババアの話は僕も知ってますし、1週間以内に10人以上に話しましたから、話さなかったときに何が起こるかは知りません。
 ただ僕は知っているんですよ。新堂さんが吉田さんに借金があったことを。50万円という多額の借金がね。
 ああ、借金というより恐喝って言うんでしたっけ?吉田さんは返さなければ学校や親にばらすって、ずいぶんと新堂さんに詰めよっていたそうですね。
 そんな吉田さんが、突然行方不明になって学校に来なくなった。偶然って怖いですね、ヒヒヒヒヒ」
 
 

 エンディング№005:吉田の真実
 エンディング数 34/657 達成度5%
 キャラクター図鑑 38/122 達成度31%
 イラストギャラリー 26/283 達成度9%

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 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
 1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る
 2人目の岩下のシナリオ:窓枠の中で→エンディング№310~313を見る
 3人目は風間のシナリオ:下半身ババア→エンディング№168・169を見る
 4人目は荒井のシナリオ:いみぐい村→エンディング№74・75を見る
 5人目は細田のシナリオ:トイレの恋→エンディング№270~272見る


 6人目は新堂誠を選択。
 シナリオ:高木ババア開始!


 新堂誠は3年D組の生徒。
「お前がどうして新聞部に入ったか教えてくれないか?」
  • なんとなく入りました
  • 前から憧れていました
  • ゲーム実況者になりたかったので
「ずいぶんと変わった部に憧れていたんたな、お前。何に興味を持つかは人それぞれだからな。
 それより俺みたいな奴が、こんな女子供が喜びそうな集会にいるのは場違いだって感じてんじゃねえか?」
 「言ってくれるじゃねえか、坂上。
 何せ、俺が自らそう言ったんだもんな。俺が何に興味を持つかなんて俺の勝手だ。
 それじゃあ、さっそく話を始めるとするか。ところで、この部屋、なんか怪しくねえか?
 霊ってのはよ、人間の気を敏感に察知するっていうからな。それでな、霊は恐怖心を持った奴の周りに集まるっていうじゃねえか。
 怖い話をしているとき、突然背筋にゾクって寒気が走る。あれはま、そいつの背中を霊が撫でてるんだぜ。
 坂上、お前、まさか怖がったりしてねえよな」
 「怖がっているのがお前じゃないとしたら、他の誰かが怖がっているのか?それを察知して霊が集まってきたのか?
 それとも、この霊たちは、誰も怖がっていないのに集まって来たのか?
 この霊たちは。これから起きる何かを予測して集まってきたことになる。わかるか?この集会で何かが起こるってことさ。
 それじゃあ、話を始めてやろう。噂話って知ってるか?口裂け女とか、人面犬、トイレの花子さんや、メリーさん。そういう噂、お前は馬鹿にしているか?」
 「信じるのは馬鹿らしい。かといって、心のどこかでは信じている自分がいる。そんなあやじやな感じってところか。
 でもよ、もし少しでも信じているなら、その心に従ったほうが身のためだぜ。」


 新堂のクラスメートに吉田達夫という男がいた。
 現実主義というか、アンチ・ロマンチストというのか、どにかく嫌な男だ。
 勉強はできたけど、それだけの男で、いつも気取っていて、殴ってやりたいタイプだった。
 吉田は、どんなに殴られようが絶対に抵抗しないが、きちんとそれを先生に報告していたので、いじめようとしてもいじめられない男だった。
 先生の間では、成績抜群で品行方正、先生には従順でなんでも従い、問題があるとすぐに報告するため、評判が良かった。
 吉田はそんな男だから、誰にも相手にされず、無視されていた。
 ところが吉田は、それを喜んでいるようだった。自分が選ばれた人間にでもなったつもりで、周りを見下しているのは見え見えだった。


 「お前はそんな奴には何かガツンと一発かましてやりたいと思うだろ?」
 「腹が立つ奴がいても、だんまりなのか?
 だとしたら、よほどの優等生か、逆に冷たい人間なんだな」


 そんな時、新堂はちょっとおもしろい話を聞いた。高木っていう名前のババアの話だった。
 そのババは、ませたガキが好きそうなフリルのついた真っ赤なロングスカートをはいている。
 足が隠れて地面を引きずるほどのロングスカートのため、高木ババアのスカートの裾はボロボロだった。
 そのババアは腰まである伸ばし放題の髪の毛をいつも垂らしていて、顔を隠している。
 その顔を見た人の話では、すげえ厚化粧をしており、あの顔を見たら、二度と忘れらないとのこと。
 そして、上は白のブラウスを着ているのだが、お姫様が着てるようなヒラヒラのついたかわいらしいブラウスなのだが、ずっと着続けているせいか、元の色がわからないぐらい薄茶色に変色していた。
 ところどころ穴もあいているし、ツギハギだらで、すんげえ臭い。
 そして、ものすごいスピードでピョンピョン飛びながら歩いていた。


「時速100キロで、ピョコピョコ飛び跳ねながら走る厚化粧をした薄汚ねえババア。そんな奴に追いかけられたら、お前どうする?
 お前、笑ったか?今、笑ったんじゃねえのか?」
「一瞬、お前が笑ったように見えたんだけどな。引き攣った笑い、って奴だったのか?」


 高木ババアが何でピョコピョコ飛び跳ねるのかは、片足がないからだ。
 なんでも、交通事故でトラックのタイヤに足を巻き込まれたらしいんだけど、そのとき家族も一緒にいて、息子夫婦に3人の孫、全員、即死だった。
 死体は原形をとどめておらず、ミンチみたいにグチャグチャになったらしい。
 トラックの運転手は酔っぱらっていたらしく、事故に気づかず、子供をタイヤに挟んだまま、10キロ以上走ったそうだ。
 それで高木ババアは発狂してしまい、その後、家族みんな死んだショックから立ち直れず、自宅の布団で、誰にも看取られずに死んだらしい。
 死後1カ月以上経って発見されたそうで、今現れる高木ババアは幽霊だ。
 幽霊だからこそ、時速100キロで走ることができるのだ。
 高木ババアが臭いのは死後1カ月以上経っているからで、あの服装は事故にあったときの服装とのこと。
 そして、高木ババアは、ある目的があって狙った奴の前に現れ、高木ババアに狙われると絶対に逃げられないため最後らしい。
 高木ババアは、最初は何気なく声をかけてくる。
 「身寄りのない年寄りの思い出話を聞いてくだされ」
 ついうっかり情けをかけて相手をしたら、もう最後だ。いきなり、あの時の事故の話を始めるのだ。
 「私には、人様のうらやむのうな家族がいましての。よくできた息子に、よくできた嫁。目に入れても痛くないほどのかわいい孫が3人。
 そりゃあもう、とても幸せな家族でした。仏様には毎日お礼を言いました。
 でも、ひどいもんです。仏様なんて、いやぁしません。私の家族はみんな死んでしまいました。
 交通事故でした。私を残して家族全員、トラックに轢かれちまったんでごぜえます」
 そんなこと言われたら、聞いているほうは、慰めないわけにはいかない。
 「その分、おばあさんが頑張って生きなきゃ」
 「ありがとうごぜえます。こんなババアに気を遣ってくださって。
 あんた様は、死んでいった家族たちのことがかわいそうだと思いますかのう?」
 「ええ」
 誰だって、反射的にそう答えるだろう。
 すると、高木ババアは、薄汚れたスカートをめくって、こう言う。
 「私しゃあ、そん時の事故で片足をなくしちまいました。私のなくなった片足、不憫だとは思いませんかのう?」
 (さあ、どうだ。お前の心は恐怖心でいっぱいだろう。さあ、おとなしく私に食われてしまうがいいよ)
 まるでそんなことを言っているように、醜く化粧されたシワだらけの顔をこっちに向けてニタニタと笑う。
 もう、走り出すしかない。
 走って走って、心臓が口からこぼれるほど走りまくって逃げる。
 そして、もうだめだ、走れない、と思って、ふらふらの足を休め、全身で息をして、ふっと顔を上げると、高木ババアがニタニタ笑いながら、目の前に立っている。
 「よくできた息子は、腹の上を裂かれて真っ二つ。内臓が飛び出て、どこにいったかわからなくなりましてのう。かわいそうだと思うなら、あんたの内臓をくださいな」
 また逃げる。逃げて、逃げて、逃げまくる。
 足が痙攣して転ぶ。
 後ろからゆっくりと足音が聞こえてきて、真後ろで止まる。
 「よくできた嫁は、両腕を轢き潰されてしにました。かわいそうだと思うなら、あんたの両腕くださいな。
 目に入れても痛くないほどかわいい3人の孫。
 一人は両足を潰されました。
 一人は首を潰されてしにました。
 そして、最後の一人は、タイヤに巻き込まれて体中の皮膚をひっぺがされて真っ赤になって死にました。
 家族はみんな、挽き肉みたいにグジャグジャになって、死んだんでごぜえます。
 かわいそうだと思うでしょう?
 だったら、あんたの体をくださいな」
 そして、首を絞め上げられ、ジ・エンド。
 死んだあと、死体は見つからない。全身は死んでいった家族に分け与えられるから。


 「この話を聞いた奴はよ、1週間以内に必ず高木ババアに会うっていうぜ。
 俺は、お前に話したんだからな。ここに集まっている残りの5人は関係ねえぜ。
 お前、笑っているのか?それとも、震えているのかよ。
 そう心配すんなよ。実は助かる方法もあるんだぜ」


 「助かる方法を知りたいか?」
 「高木ババアに会わないですむ方法、それはな・・・
 1週間以内に誰でもいいから10人以上に高木ババアの話をするんだ。
 それも高木ババアの話を知らない奴にだぞ。知っている奴に話しても、だめだからな。
 それを守れなかったら、お前は死ぬぜ。
 それでな、吉田にもこの話をしてやったんだよ」


 「なあ、吉田、ちょっとおもしろい話があるんだけど、聞いてくれねえか?」
 吉田は気のない素振りで聞いていたが、話が進むにつれ、新堂の話に耳を方群れるのがわかった。
 新堂が話し終えると、吉田は馬鹿にしたようにせせら笑った。
 「君って子供。もし信じてたら、かわいそうだなあ」
 「お前が信じるも信じないのも勝手だけでよお。高木ババアを見たからって、俺のせいにするんじゃねえぞ」
 吉田は吹き出した。
 「ぷぷっ!もし本当に会えたら、すぐに君に知らせてあげるからさ。
 じゃあね、僕、君と違って塾があるから」
 そういって吉田は荷物を片付けると帰ってしまった。


 「悪いが俺はよ、こういう噂は信じてるもんでな。
 俺が高木ババアに話を聞いたときは、急いで10人に話だぜ。
 それで、吉田はどうなったと思う?俺の話を信じて、ちゃんと10人に話したと思うか?」
  • 話をした
  • 期限が間に合わなかった
  • 話さなかった
 「お前の感が当たってるかどうかは、まあ続きを聞いてくれよ」


 次の日、吉田は別に何気なくふるまっており、別に誰かに話をする風もなかった。
 日曜日には新堂は、吉田があせっていると思って電話した。
 「君、馬鹿じゃないの?悪いけど、僕は高木なんてババアの話は忘れてたよ。君、頭が変なんじゃないの?一度、病院行ったら?
 あのさ、君が何を思おうが僕には関係ないけどね、大切な僕の休養日に邪魔だけはしないでくれる?」
 言うだけ言って、吉田は一方的に電話を切った。
 新堂は、吉田の慌てるところを見てみたかったが、吉田が死ぬかどうか見極めることにした。


 そして、いよいよ明日で約束の1週間が終わるという日になった。
 いつも他人を見下した態度をとっている吉田が、その日に限って妙にしおらしい。
 愛想笑いなんか浮かべて、すれ違う奴らにペコペコあいさつしている。
 今までが今までだから、誰も吉田なんか相手にしない。
 吉田は、何か話したそうにしているが、誰も聞かない。
 吉田が、高木ババアの話を気にしており、誰かに話したくて仕方ないのに、誰も聞いてくれないのが、新堂にとっておかしくてしかたがなかった。
 吉田は頭を下げながら何人かに話し始めるが、すぐに逃げられてしまう。
 新堂のクラスメートは、もうみんな高木バアアの話を知っているのだ。
 新堂がニヤニヤしながら吉田を見ていると、それに気づいた吉田が、今にも泣きそうな顔で新堂の側に駆け寄ってきた。
 「なあ、新堂君」
 吉田は、泣き出しそうな声を出し、新堂の手を握り締めてきた。
 「あの話は冗談だよね?」
 「何の話だよ、お前、俺と口聞きたくなかったんじゃなかったっけ?俺、お前の大事な時間を邪魔しちゃ悪いからよぉ」
 突然、吉田は土下座して新堂に謝った。
 「ごめんよ。僕が悪かったよ。だから許しておくれよ。
 僕のこと助けて!!」
 新堂は、これ以上しらばっくれるのもかわいそうになり、土下座する吉田を助け起こした。
 「そんな高木ババアが怖いんだったら、話せばいいじゃねえか」
 それを聞いた吉田は大声で泣き始めた。
 「うわあああん!!みんな知ってるんだもの。みんな高木ババアの話を知ってるんだよ!
 まだ3人しか話せてないんだよ。お願いだよ!死ぬのはいやだよ!」
 「3人って誰に話したんだよ?」
 「お父さんとお母さん、それから親戚のおばさん。
 学校のみんなも、塾のみんなも、誰も聞いてくれないんだ。聞いてくれそうになった連中も、みんな知ってるんだよ。高木ババアの話をさ」
 「先公は?お前、ずいぶんと気に入られてたじゃねえか」
 「馬鹿にして、僕の話をまじめに聞いてくれない。
 それでも無理に話そうとすると、怒鳴るんだよ。お前はいつから、そんな馬鹿な事を言う生徒になったんだって、まじめに心配そうな顔をするのさ。
 もう、だめだ。もう、僕は死んでしまう。お願いだ。助けてくれよ」
 「あんなの冗談さ。高木ババアなんているわけねえだろう」
 新堂は、吉田がかわいそうに見えたので、心にもないことを言ってしまった。
 「本当に、あれは嘘だったんだね!」
 「ああ、冗談だよ、気にすんな」
 「ありがとう!その一言で僕は救われるよ。本当にありがとう」
 吉田は、落ち着いて帰っていった。
 しかし、新堂は、吉田が早めに10人に話しておけばこんなことにならなかったんだ、と思っていた。


 そして約束の1週間目がやってきたが、吉田は学校に来なかった。
 恐ろしくなった新堂は、話をした責任を感じ始めた。
 そして、放課後、新堂は吉田の家に電話したら、吉田は家にいた。
 「なんだ君か。どうしたの?」
 「お前、今日学校休んだじゃねえか。何かあったのかと思ってよ」
 「あっははは、何言ってんの、君?あれは冗談だんだろう?いやあ、僕としたことがちょっと取り乱しちゃったよ。君みたいな下等な人間に騙されるところだった。
 今日は、ちょっと疲れたから休んだだけさ。別に君に心配してもらう必要はない。
 あ、そうそう、前にもう僕の家に電話しないでくれって言ったよね?もう電話、しないでくれる?
 それから、君がした高木ババアに話、明日になったら先生に報告しておくつもりだから、覚悟しておくんだね。
 君のような奴を愉快犯っていうん・・・」
 そこまで聞いた新堂は、受話器を叩きつけた。
 腹が立った新堂は、そこら辺のもののい当たり散らしたが、怒りは収まらない。
 仕方がないので、新堂は寝ることにした。


 電話のベルの音で、新堂は目覚めた。
 受話器を取ると、金切り声が聞こえてきた。
 「助けてくれよ、新堂君!!」
 電話の主は吉田だった。
 「ウソツキ、どうして嘘なんかつくんだよ。新堂君の責任だよ。僕が死んだら、新堂君の責任なんだ。どうしてくれるんだよ!
 高木ババアが出てきちゃったじゃないか!高木ババアが、あと6時間でお前を殺すっていうんだよ!殺されるよ!」
 「馬鹿言ってんじゃねえよ。俺はお前の時間を邪魔するつもりはないからよ」
 「お前の責任だ!あと6時間のうちに7人に話さないと俺は殺されるんだぞ!」
 「うるせえ!」
 そう言って新堂は、受話器を置いた。
 新堂が時計を見ると6時を回っていた。
 ちょうどその日、新堂の両親は法事で田舎に言っており、明日の朝まで家には、新堂一人きりだった。
 新堂は、念入りに戸締りをし、作り置きの夕食を食べた。
 8時を回ったころ、また吉田から電話があった。
 「見つからないよ!まだあと5人にも話なさきゃならないんだ!」
 「いい加減にしろ!」
 「いるんだよ!高木ババアが僕のことを見ているんだよ!どこに行っても追いかけてくるんだ」
 「死んじまえよ、クソ野郎!」
 新堂は、電話が壊れるかと思うほど、受話器を乱暴に叩きつけた。
 嘘をついているとは思えない雰囲気の吉田から恐怖を感じた新堂は、テレビのボリュームをいっぱいに上げた。
 何かほかのことを考えようとしても、吉田のことが浮かんで消えない新堂は、風呂に入ることにした。
 風呂に入っているときに、また電話のベルが鳴ったが、新堂は怖くて電話に出れなかった。
 ベルは20回ほどなってようやく切れたが、すぐにまたかかってきた。
 新堂は風呂を飛び出し、受話器をとってすぐに切った。
 それでも電話がかかってくるので、新堂は電話線を外した。
 そして、新堂はリビングのソファの上で足を抱えて、時計を見つめ、12時になるのをじっと待った。


 12時まであと5分ほどになったとき、「新堂」という声をともに、家のドアをぶち壊すような勢いでたたく音が聞こえた、
 吉田が、家にやって来たのだ。
 「新堂、もう時間がないんだ。俺は死ぬ!だから、お前も死ね!死んで責任をとりやがれ!」
 新堂は、急いで玄関に行き、中からドアを押さえつけた。
 「俺はなあ、道行く奴を呼び止めてまで、無理やり話を聞かせたんだよ!まるで狂人扱いさ!
 殴られもしなけどよぉ、話したよ!後ろには高木ババアがいるからよお!
 でも足りないんだよ!あと一人!もう時間がない。だから、お前を殺すんだ!」
 突然、ドアが激しく揺れて隙間に刃物の切っ先が垣間見えた。
 「新堂、お前を殺す!お前を生贄にして俺は助かるのさ!ひゃっはははは!」
 そして、吉田は諦めたのか、すぐに物音はしなくなった。
 その時、鼓膜が破れるようなものすごい音が鳴り響いた。リビンクからだった。
 新堂が目を向けると、リビングの一面を壁を覆っていた窓ガラスが粉々に砕け散っていた。
 「新堂!!」
 絨毯にまき散らされたガラスの破片の上に、土足の吉田が仁王立ちになっていた。手には包丁を持ち、体中から血を滴らせながら。
 顔は青く腫れあがって歪んでいた。無理やり見知らぬ通行人に高木ババアの話をしようとして殴られたのだろう。
 新堂は、吉田に殺される、と覚悟を決めた。
 その時、いきなり吉田が包丁を振り回しながら、見えない何かを必死に追い払うように、暴れ出した。
 吉田には高木ババアが見えているのだ。
 「やめろよ!もう少し時間をくれよ!こいつを殺してからにしてくれよ!ぎゃあ!!!」
 突然、吉田の腹が真一文字にパックリと割れた。
 吉田は苦しそうに目を細めると、ぱくぱくと口を開いた。
 「うわああ!」
 新堂は叫んで、階段を上がり、自分の部屋に逃げ込もうとした。
 「逃げるな」
 吉田は、新堂を追いかけてきた。
 足が震えてうまく階段を上がれず、つんのめった新堂の足首を、吉田の血まみれの手が掴んだ。
 新堂が慌てて振り返ると、吉田は新堂の足首を握りしめたまま、嬉しそうに包丁を振り上げていた。
 吉田の腹からは、腸がベロンとはみ出ており、ほかほかと湯気を立てていた。
 吉田は新堂めがけて包丁を振り下ろしたが、必死だった新堂は渾身の力を込めて足をけり出すと、見事吉田の腹に命中した。
 吉田はそのままもんどり打って、階段を真っ逆さまに転げ落ちて行った。
 腸が階段にぺちゃりと張り付いていたが、吉田は動いていた。
 「し・・・ん・・・どう・・・」
 ものすごい目で新堂を睨みつけるが、新堂は四つん這いになって這いずりながら階段を上がり、なんとか自分の部屋に逃げ込んだ。
 ドアの向こうから、ズルズルビチャビチャ階段を何かが這い上がってくる音が聞こえてくる。
 新堂は、鍵のないドアのノブに手をかけ、ドアが開かないように必死に体を踏ん張らせた。
 「新堂、開けろ。お前を殺してやんだからよぉ」
 そして、がりがりとドアを爪で引っかく音が聞こえる。
 「開けろ」
 突然、ドアを破って包丁を握った手を突き出てきた。
 包丁は、新堂の左腕の肉をそいだ。
 「新堂、見ぃつけた」
 その時、ドアに空いた穴から、汚れた白いブラウスを着た手が伸びてきた。
 高木ババアの手が、吉田の手を掴んだ。
 「やめてくれよ。もう少しであいつをのこと殺せるんだよ、うぎゃああ!」
 ドアの向こう側から吉田の悲鳴が聞こえてくるのと、穴に手が引きずり込まれるのはほとんど同時だった。
 そのあと一切の物音は聞こえなくなり、床には包丁だけが落ちていた。
 新堂が時計を見ると、針は12時を指していた。
 10分ほどして、新堂は慎重にゆっくりとあたりに気を配りながらドアを押し開いた。
 ドアの向こうに何もなかった。吉田の死体も、腹から引きずり出された腸も、血の跡さえも。
 痕跡といったら、ドアに空いた穴と、床に落ちた包丁だけ。
 新堂が1階に降りると、リビングの窓ガラスは割れたままで、カーテンが風にたなびいていた。
 そして、玄関に目をやると、そこにも包丁を立てた跡がくっきりと残っていた。
 確かに吉田は来たが、12時を過ぎると同時に忽然と姿を消してしまった。


 次の日、新堂はこっぴどく親に叱られた。
 本当のことを言っても信じてもらえないため、友達がきて大騒ぎしたって嘘をついて謝った。
 そして、必死に頼み込んで部屋に鍵をつけてもらった。


 学校にも吉田は来なかった。
 突然家でしてしまったそうで、行方不明になった。


 「ここに集まった残りの連中は、もう高木ババアの話を知っているから、お前に話してんだ。
 どうして、わざわざこんな話をしたのか不思議なのか?悪く思わないでくれ、俺も必死なんだ。
 毎晩、吉田の野郎が俺の夢の中に現れんだよ。手足をちぎられ、内臓をそっくり抜かれた血まみれの吉田がよ。
 そんで、毎週10人に高木ババアの話しろって脅かすんだ。俺がその約束を守り続けなければ、俺のことを殺しにやってくるんだってよ
 俺、死にのは怖いからよ。たとえ誰にどう思われようと、俺はこの約束を守らなきゃなんねえ」」
 

 エンディング№004:高木ババア
 エンディング数 33/657 達成度5%
 キャラクター図鑑 38/122 達成度31%
 イラストギャラリー 26/283 達成度9%

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 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
 1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る
 2人目の岩下のシナリオ:窓枠の中で→エンディング№310~313を見る
 3人目は風間のシナリオ:下半身ババア→エンディング№168・169を見る
 4人目は荒井のシナリオ:いみぐい村→エンディング№74・75を見る
 5人目は細田のシナリオ:トイレの恋→エンディング№270~272見る


 6人目は新堂誠を選択。
 シナリオ:高木ババア開始!


 新堂誠は3年D組の生徒。
「お前がどうして新聞部に入ったか教えてくれないか?」
  • なんとなく入りました
  • 前から憧れていました
  • ゲーム実況者になりたかったので
「ずいぶんと変わった部に憧れていたんたな、お前。何に興味を持つかは人それぞれだからな。
 それより俺みたいな奴が、こんな女子供が喜びそうな集会にいるのは場違いだって感じてんじゃねえか?」
 「ほう、怖いものしらずってぇか、直球じゃねえか、お前、気に入ったぜ。
 俺に面と向かってそんなこと言う奴は、久方ぶりたしなあ。
 はっきり言って俺は、こんな会に興味はなし。だが、新聞部の日野には、ちっとした借りがあってな。受けた恩を仇でかえすわけにはいかねえ。
 だから、義理を立てて奴の頼みを引き受けたんだ。
 それじゃあ、さっそく話を始めるとするか。ところで、この部屋、なんか怪しくねえか?
 霊ってのはよ、人間の気を敏感に察知するっていうからな。それでな、霊は恐怖心を持った奴の周りに集まるっていうじゃねえか。
 怖い話をしているとき、突然背筋にゾクって寒気が走る。あれはま、そいつの背中を霊が撫でてるんだぜ。
 坂上、お前、まさか怖がったりしてねえよな」
 「怖がっているのがお前じゃないとしたら、他の誰かが怖がっているのか?それを察知して霊が集まってきたのか?
 それとも、この霊たちは、誰も怖がっていないのに集まって来たのか?
 この霊たちは。これから起きる何かを予測して集まってきたことになる。わかるか?この集会で何かが起こるってことさ。
 それじゃあ、話を始めてやろう。噂話って知ってるか?口裂け女とか、人面犬、トイレの花子さんや、メリーさん。そういう噂、お前は馬鹿にしているか?」
 「そうかい。そんなの子供だましだよって鼻で笑ってんだな、お前は。だとしたら、不幸だな」


 新堂のクラスメートに吉田達夫という男がいた。
 現実主義というか、アンチ・ロマンチストというのか、どにかく嫌な男だ。
 勉強はできたけど、それだけの男で、いつも気取っていて、殴ってやりたいタイプだった。
 吉田は、どんなに殴られようが絶対に抵抗しないが、きちんとそれを先生に報告していたので、いじめようとしてもいじめられない男だった。
 先生の間では、成績抜群で品行方正、先生には従順でなんでも従い、問題があるとすぐに報告するため、評判が良かった。
 吉田はそんな男だから、誰にも相手にされず、無視されていた。
 ところが吉田は、それを喜んでいるようだった。自分が選ばれた人間にでもなったつもりで、周りを見下しているのは見え見えだった。


 「お前はそんな奴には何かガツンと一発かましてやりたいと思うだろ?」
 「腹が立つ奴がいても、だんまりなのか?
 だとしたら、よほどの優等生か、逆に冷たい人間なんだな」


 そんな時、新堂はちょっとおもしろい話を聞いた。高木っていう名前のババアの話だった。
 そのババは、ませたガキが好きそうなフリルのついた真っ赤なロングスカートをはいている。
 足が隠れて地面を引きずるほどのロングスカートのため、高木ババアのスカートの裾はボロボロだった。
 そのババアは腰まである伸ばし放題の髪の毛をいつも垂らしていて、顔を隠している。
 その顔を見た人の話では、すげえ厚化粧をしており、あの顔を見たら、二度と忘れらないとのこと。
 そして、上は白のブラウスを着ているのだが、お姫様が着てるようなヒラヒラのついたかわいらしいブラウスなのだが、ずっと着続けているせいか、元の色がわからないぐらい薄茶色に変色していた。
 ところどころ穴もあいているし、ツギハギだらで、すんげえ臭い。
 そして、ものすごいスピードでピョンピョン飛びながら歩いていた。


「時速100キロで、ピョコピョコ飛び跳ねながら走る厚化粧をした薄汚ねえババア。そんな奴に追いかけられたら、お前どうする?
 お前、笑ったか?今、笑ったんじゃねえのか?」
  • 笑った
  • 笑っていない
「どうした?声が震えているぜ?」


 高木ババアが何でピョコピョコ飛び跳ねるのかは、片足がないからだ。
 なんでも、交通事故でトラックのタイヤに足を巻き込まれたらしいんだけど、そのとき家族も一緒にいて、息子夫婦に3人の孫、全員、即死だった。
 死体は原形をとどめておらず、ミンチみたいにグチャグチャになったらしい。
 トラックの運転手は酔っぱらっていたらしく、事故に気づかず、子供をタイヤに挟んだまま、10キロ以上走ったそうだ。
 それで高木ババアは発狂してしまい、その後、家族みんな死んだショックから立ち直れず、自宅の布団で、誰にも看取られずに死んだらしい。
 死後1カ月以上経って発見されたそうで、今現れる高木ババアは幽霊だ。
 幽霊だからこそ、時速100キロで走ることができるのだ。
 高木ババアが臭いのは死後1カ月以上経っているからで、あの服装は事故にあったときの服装とのこと。
 そして、高木ババアは、ある目的があって狙った奴の前に現れ、高木ババアに狙われると絶対に逃げられないため最後らしい。
 高木ババアは、最初は何気なく声をかけてくる。
 「身寄りのない年寄りの思い出話を聞いてくだされ」
 ついうっかり情けをかけて相手をしたら、もう最後だ。いきなり、あの時の事故の話を始めるのだ。
 「私には、人様のうらやむのうな家族がいましての。よくできた息子に、よくできた嫁。目に入れても痛くないほどのかわいい孫が3人。
 そりゃあもう、とても幸せな家族でした。仏様には毎日お礼を言いました。
 でも、ひどいもんです。仏様なんて、いやぁしません。私の家族はみんな死んでしまいました。
 交通事故でした。私を残して家族全員、トラックに轢かれちまったんでごぜえます」
 そんなこと言われたら、聞いているほうは、慰めないわけにはいかない。
 「その分、おばあさんが頑張って生きなきゃ」
 「ありがとうごぜえます。こんなババアに気を遣ってくださって。
 あんた様は、死んでいった家族たちのことがかわいそうだと思いますかのう?」
 「ええ」
 誰だって、反射的にそう答えるだろう。
 すると、高木ババアは、薄汚れたスカートをめくって、こう言う。
 「私しゃあ、そん時の事故で片足をなくしちまいました。私のなくなった片足、不憫だとは思いませんかのう?」
 (さあ、どうだ。お前の心は恐怖心でいっぱいだろう。さあ、おとなしく私に食われてしまうがいいよ)
 まるでそんなことを言っているように、醜く化粧されたシワだらけの顔をこっちに向けてニタニタと笑う。
 もう、走り出すしかない。
 走って走って、心臓が口からこぼれるほど走りまくって逃げる。
 そして、もうだめだ、走れない、と思って、ふらふらの足を休め、全身で息をして、ふっと顔を上げると、高木ババアがニタニタ笑いながら、目の前に立っている。
 「よくできた息子は、腹の上を裂かれて真っ二つ。内臓が飛び出て、どこにいったかわからなくなりましてのう。かわいそうだと思うなら、あんたの内臓をくださいな」
 また逃げる。逃げて、逃げて、逃げまくる。
 足が痙攣して転ぶ。
 後ろからゆっくりと足音が聞こえてきて、真後ろで止まる。
 「よくできた嫁は、両腕を轢き潰されてしにました。かわいそうだと思うなら、あんたの両腕くださいな。
 目に入れても痛くないほどかわいい3人の孫。
 一人は両足を潰されました。
 一人は首を潰されてしにました。
 そして、最後の一人は、タイヤに巻き込まれて体中の皮膚をひっぺがされて真っ赤になって死にました。
 家族はみんな、挽き肉みたいにグジャグジャになって、死んだんでごぜえます。
 かわいそうだと思うでしょう?
 だったら、あんたの体をくださいな」
 そして、首を絞め上げられ、ジ・エンド。
 死んだあと、死体は見つからない。全身は死んでいった家族に分け与えられるから。


 「この話を聞いた奴はよ、1週間以内に必ず高木ババアに会うっていうぜ。
 俺は、お前に話したんだからな。ここに集まっている残りの5人は関係ねえぜ。
 お前、笑っているのか?それとも、震えているのかよ。
 そう心配すんなよ。実は助かる方法もあるんだぜ」


 「助かる方法を知りたいか?」
 「高木ババアに会わないですむ方法、それはな・・・
 1週間以内に誰でもいいから5人以上の右足を集めるんだ。お前が高木ババアの代わりをやればいいんだよ」
 (高木ババアは、本当にいるのか?)
  • いるわけない
  • きっといる
 (いるわけないさ。
 新堂さんは、僕を驚かそうとしてこんな作り話をしているんだ。)

 エンディング№002:高木ババアなんて怖くない
 エンディング数 32/657 達成度4%
 キャラクター図鑑 38/122 達成度31%
 イラストギャラリー 23/283 達成度8%


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 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
 1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る
 2人目の岩下のシナリオ:窓枠の中で→エンディング№310~313を見る
 3人目は風間のシナリオ:下半身ババア→エンディング№168・169を見る
 4人目は荒井のシナリオ:いみぐい村→エンディング№74・75を見る
 5人目は細田のシナリオ:トイレの恋→エンディング№270~272見る


 6人目は新堂誠を選択。
 シナリオ:高木ババア開始!


 新堂誠は3年D組の生徒。
「お前がどうして新聞部に入ったか教えてくれないか?」
  • なんとなく入りました
  • 前から憧れていました
  • ゲーム実況者になりたかったので
「ずいぶんと変わった部に憧れていたんたな、お前。何に興味を持つかは人それぞれだからな。
 それより俺みたいな奴が、こんな女子供が喜びそうな集会にいるのは場違いだって感じてんじゃねえか?」
  • そんなこと思っていません
  • はい、正直に言うと感じてます
  • 何に興味を持つのかは人それぞれです
 「それが本音なら、お前は肝っ玉が据わった男だな。まあ、たいていのやつら俺を怖がって、そういった上っ面の答えを返すんだ。お前の言葉が本物かどうか、これから試させてもらうぜ。
 それじゃあ、さっそく話を始めるとするか。ところで、この部屋、なんか怪しくねえか?
 霊ってのはよ、人間の気を敏感に察知するっていうからな。それでな、霊は恐怖心を持った奴の周りに集まるっていうじゃねえか。
 怖い話をしているとき、突然背筋にゾクって寒気が走る。あれはま、そいつの背中を霊が撫でてるんだぜ。
 坂上、お前、まさか怖がったりしてねえよな」
  • 怖いです
  • 別に怖くありません
 「そうか、怖いのか。正直でいいことだが、だったら、お前は霊の餌食だよ。霊に精神を食われないように、しっかりと自分を保つんだ。
 噂話って知ってるか?口裂け女とか、人面犬、トイレの花子さんや、メリーさん。そういう噂、お前は馬鹿にしているか?」
  • している
  • していない
  • 何とも言えない
 「そうか、お前は信じるのか。どうやら、お前の言葉は信じて良さそうだな」


 新堂のクラスメートに吉田達夫という男がいた。
 現実主義というか、アンチ・ロマンチストというのか、どにかく嫌な男だ。
 勉強はできたけど、それだけの男で、いつも気取っていて、殴ってやりたいタイプだった。
 吉田は、どんなに殴られようが絶対に抵抗しないが、きちんとそれを先生に報告していたので、いじめようとしてもいじめられない男だった。
 先生の間では、成績抜群で品行方正、先生には従順でなんでも従い、問題があるとすぐに報告するため、評判が良かった。
 吉田はそんな男だから、誰にも相手にされず、無視されていた。
 ところが吉田は、それを喜んでいるようだった。自分が選ばれた人間にでもなったつもりで、周りを見下しているのは見え見えだった。


 「お前はそんな奴には何かガツンと一発かましてやりたいと思うだろ?」
  • はい
  • いいえ
 「そう思うのが当然だ」


 そんな時、新堂はちょっとおもしろい話を聞いた。高木っていう名前のババアの話だった。
 そのババは、ませたガキが好きそうなフリルのついた真っ赤なロングスカートをはいている。
 足が隠れて地面を引きずるほどのロングスカートのため、高木ババアのスカートの裾はボロボロだった。
 そのババアは腰まである伸ばし放題の髪の毛をいつも垂らしていて、顔を隠している。
 その顔を見た人の話では、すげえ厚化粧をしており、あの顔を見たら、二度と忘れらないとのこと。
 そして、上は白のブラウスを着ているのだが、お姫様が着てるようなヒラヒラのついたかわいらしいブラウスなのだが、ずっと着続けているせいか、元の色がわからないぐらい薄茶色に変色していた。
 ところどころ穴もあいているし、ツギハギだらで、すんげえ臭い。
 そして、ものすごいスピードでピョンピョン飛びながら歩いていた。


「時速100キロで、ピョコピョコ飛び跳ねながら走る厚化粧をした薄汚ねえババア。そんな奴に追いかけられたら、お前どうする?
 お前、笑ったか?今、笑ったんじゃねえのか?」
  • 笑った
  • 笑っていない
「お前さっき、馬鹿げた噂話も信じているって言ったよな?あれは俺に話をさせるための演技だったのか。
 お前も吉田と同類だ。
 さっきの話、覚えているか?この部屋には、無数の霊が集まっているって話をだよ。
 吉田もいるぜ。そう、吉田はすでにこの世の人間じゃないからな。
 さあ、目を凝らしてみろよ。見えんだろ?大きく見開いた目玉をぎらつかせている、血まみれになった吉田の顔がよ。
 どうだ?見えたか?
 この集会が終わった後、吉田はお前に憑いていくみたいだぜ。
 お前が鳴神学園の七不思議に加わる日も、そう遅くなさそうだ」


 エンディング№001:吉田の執念
 エンディング数 31/657 達成度4%
 キャラクター図鑑 38/122 達成度31%
 イラストギャラリー 22/283 達成度7%


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 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
 1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る
 2人目の岩下のシナリオ:窓枠の中で→エンディング№310~313を見る
 3人目は風間のシナリオ:下半身ババア→エンディング№168・169を見る
 4人目は荒井のシナリオ:いみぐい村→エンディング№74・75


 5人目は細田を選択!


 僕ね、今日のこの会をとっても楽しみにしてたんですよ。坂上君も楽しみにしてましたか?
  • 楽しみにしていた
  • 特に気にしていない
  • あまり乗り気ではなかった


 坂上君は立場的にみんなを盛り上げるべきだと思うけどなあ。そこまではっきり言われると、なんだかちょっと引いちゃうかも。
 それにしても、7人目はどうしちゃたんでしょうかねえ。
 迷惑するのは、坂上君なんですもんねえ。かわいそうに。
 あ、申し遅れました。僕は細田友春っていいます。2年C組です。
 あのう、坂上君って、友達とかいます?


 細田は、自分がデブだという自覚があるが、ダイエットをしてもどうしても食べたり、汗っかきですぐに喉が渇いてしまい、お茶よりもおいしいジュースを飲んでしまうため、どうしても痩せられないとのことで、小学生の頃から太っており、細田なのにデブと言われ続けていた。


 風間と岩下の話を聞いていれば、シナリオ:トイレの恋開始!


 細田が1年生の頃、友達がいなかった。
 原因は、太っていたからで、クラスの皆は、外見で人のことを判断するような人ばかりだった。
 細田が話しかけても、ニヤニヤと見下したような笑顔しか返してくれなかったで、細田はいつも一人でいた。
 そんな細田のお気に入りの場所はトイレの個室だった。
 学校はマンモス校で人が多いが、トイレだけは一人になれる場所だった。
 細田は授業中でも平気で抜け出して、トイレに入ってボーっとしていた。


 その日の放課後も、細田はトイレの中でボーっとしていた。
 突然、短い女性の悲鳴が聞こえてきて、それに続いてドンっという何か大きなものが落ちる音が聞こえた。
 声は隣の女子トイレの方から聞こえてきたようだった。


 悲鳴が聞こえたのが女子トイレだったの、細田は入って確認するのはちょっとと思い、知らんふりしようと思ったが、泣き声が聞こえてきた。
 細田は薄情な男ではなかったので、泣き声を聞き、ケガでもしているのではないかと思い、女子トイレの様子を伺ってみることにした。
 女子トイレの中に入ると、トイレの個室の開いたドアから女の子の足が見え、同時に女の子のすすり泣く声が聞こえた。
 どうやら女の子は、地べたに座り込んで泣いているようだ。
 「大丈夫?」と細田が女の子に声を掛けると、ビクっと体を震わせて、目をまん丸くさせて細田のことを見ていた。
 「あの、いきなり入ってきてごめんなさい。隣の男子トイレにいたら、悲鳴と鳴き声が聞こえてきたから心配になって」
 地べたに座り込んでいた女の子のすぐ近くには、ちぎれたロープがあり、脱ぎ捨てられた上履きの横には白い封筒が落ちていた。
 もしかしてこの子、自殺しようとしていたんじゃないか・・・
 「私、死のうと思ったの」
 突然、女の子がそんなことをしゃべった。
 「どうして自殺しようと思ったの?」
 細田の言葉を聞いた女の子は、泣くのをやめてぽつりぽつりと、その理由をしゃべり始めた。
 要約すると、彼氏に振られたからというのがおおまかな理由でした。付き合っていた彼氏に好きな人ができて、別れを切り出されてしまったそうだ。
 それで、生きることに絶望した女の子は死ぬことに決め、トイレのドア枠で首を吊ろうとしたが、ロープが切れ、結局未遂に終わってしまった。
 細田は必死に女の子を慰めた。
 「ありがとう、慰めてくれて、私は1年F組の室戸葵。あなたは?」
 「僕は1年C組の細田友春って言います」
 「そっか、結構近いクラスなんだね」
 そう言って室戸はふっと笑った。
 とりあえず、室戸は自殺を思いとどまってくれたようだ。
 「細田君は命の恩人だね」
 細田は女の子と話したことがほとんどなかったので、その時は相当ニヤケた間抜けな顔をしていただろう。
 それ以来、細田は室戸と友達になり、廊下ですれ違う時に、声をかけてもらったり、あいさつをするようになったが、周りは不思議そうに見ていた。


 室戸とあって1週間が過ぎようとした頃、放課後、いつものように一人で帰ろうとしている細田に、室戸が声を掛けた。
 「よかったら、いっしょに帰らない?」
 思いがけない室戸の提案に戸惑う細田。
 細田は女の子にそんなことを言われたことがなかったのだ。
 「細田君は、私と一緒に帰るのは嫌かな?」
 「嫌なわけあるもんですか」
 「本当?じゃあ一緒に帰りましょ」
 女の子と一緒に帰るなんて初めての細田は、緊張して何を話したか、あまり覚えていなかった。
 そして、ある角に差し掛かった時、室戸が小さく声を上げた。
 室戸が声を上げた方を見ると、鳴神学園の制服を着た一組のカップルが楽しそうに、道を歩いていた。
 室戸の顔色が一気に曇ったのがわかった。
 室戸は走り出すと、すぐ近くの路地に引っ込んでしまったので、細田は室戸を追いかけた。
 察しの悪い細田でも、もしかしたらさっきのカップルの男は、室戸の彼氏だった人じゃないかと気づいた。
 「こめんね、いきなり隠れたりして。さっき、前を歩いていた男の子、私の彼氏だったの。新しい彼女と歩いているのを見たら、何だかその場にいられなくて・・・私、このままじゃ学校にも行きたくないな」
 細田は悲痛な面持ちで訴える室戸を見て、何とかしてあげたいと思った。
 「何か自分に、協力できることはないかな?」
 「ありがとう、細田君」
 そして、室戸は細田にあることを頼んだ。


 坂上君、彼女は僕に何を頼んだと思う?


 「今日の夜、私と出会った新校舎のトイレに来てほしいの」と室戸はお願いしてきた。


 細田は家に帰っていろいろと考えた。
 彼女はなぜあんな場所に自分を呼んだのだろうか。
 しかし、答えは出なかった。
 何も考えられないまま、いつしか彼女との約束の時間が近づいてきました。


 坂上君、僕は彼女の言う通り、トイレに行ったと思う会?君なら、どうする?

 細田は行こうと思ってはいたが、もんもんと考えているうちに、いつの間にか居眠りをしてしまっていたらしく、気づいたら朝になっていた。
 細田は学校へ行き、朝一番に室戸に謝ろうと思い、彼女のクラスに寄った。
 「あのう、室戸さんはもう来てますか?」
 すると近くにいた室戸のクラスメイトが対応してくれた。
 「いいえ」
 「そうですか。もし来たら伝言をお願いできますか。細田友晴が謝罪していた、と」
 「それは、難しいかと思います」
 「え、伝言は嫌ですか?」
 「いえ、そういう意味じゃなくて。室戸さんは、1週間前に亡くなりましたから」
 「え?」
 「はい、だから伝言はできないんです」
 室戸は、細田と約束したあのトイレで1週間前に首を吊って死んでいた。
 遺書らしきものは見つからなかったが、警察は自殺を断定した。
 1週間前というと、ちょうど細田が彼女とであったあの日だった。
 細田は室戸と友達になり、廊下ですれ違う時に、声をかけてもらったり、あいさつをするようになったが、周りは不思議そうに見ていた。
 みんなが驚いていたのは、細田が室戸と歩いていたからではなく、一人で歩いていたのに、まるで女の子と一緒にいるかのように話をしていたからだったのだ。
 細田は室戸の幽霊と一緒に1週間もいた。
 後でわかったことだが、彼女は事あるごとにあのトイレで自殺未遂を繰り返していた。
 それに、彼女は虚言癖の持ち主で、日常的に嘘をつく人物としてクラスでも浮いた存在だったそうだ。
 思い起こせば、彼女はいつも一人で行動していたように思うし、室戸が話してくれた彼氏の話も嘘だった。



 「室戸さんは僕と同じで、独りぼっちだったんですよ。僕は何も知らず彼女の嘘に付き合わされていたんですよ。誰にも理解されないまま、死んでしまった室戸さん。もしもう少し早く僕と出会えていたら、もしかしたら友達になれたかもしれないのに。
 今も2階のトイレに入ると、女子トイレの方から小さな悲鳴と、何かが落ちる音、すすり泣く声が聞こえるんです。だから、僕はいつもあの2階のトイレを使うんです。そして音がするたびに女子トイレに行ってしまうんです。もしかしたら室戸さんに会えるんじゃないかと思って」


 エンディング№272:一人ぼっちの彼女
 エンディングリスト30/656 達成度4%
 キャラクター数37/112 達成度33%
 イラスト数 20/272 達成度7%


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 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
 1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る
 2人目の岩下のシナリオ:窓枠の中で→エンディング№310~313を見る
 3人目は風間のシナリオ:下半身ババア→エンディング№168・169を見る
 4人目は荒井のシナリオ:いみぐい村→エンディング№74・75


 5人目は細田を選択!


 僕ね、今日のこの会をとっても楽しみにしてたんですよ。坂上君も楽しみにしてましたか?
  • 楽しみにしていた
  • 特に気にしていない
  • あまり乗り気ではなかった


 坂上君は立場的にみんなを盛り上げるべきだと思うけどなあ。そこまではっきり言われると、なんだかちょっと引いちゃうかも。
 それにしても、7人目はどうしちゃたんでしょうかねえ。
 迷惑するのは、坂上君なんですもんねえ。かわいそうに。
 あ、申し遅れました。僕は細田友春っていいます。2年C組です。
 あのう、坂上君って、友達とかいます?


 細田は、自分がデブだという自覚があるが、ダイエットをしてもどうしても食べたり、汗っかきですぐに喉が渇いてしまい、お茶よりもおいしいジュースを飲んでしまうため、どうしても痩せられないとのことで、小学生の頃から太っており、細田なのにデブと言われ続けていた。えn


 風間と岩下の話を聞いていれば、シナリオ:トイレの恋開始!


 細田が1年生の頃、友達がいなかった。
 原因は、太っていたからで、クラスの皆は、外見で人のことを判断するような人ばかりだった。
 細田が話しかけても、ニヤニヤと見下したような笑顔しか返してくれなかったで、細田はいつも一人でいた。
 そんな細田のお気に入りの場所はトイレの個室だった。
 学校はマンモス校で人が多いが、トイレだけは一人になれる場所だった。
 細田は授業中でも平気で抜け出して、トイレに入ってボーっとしていた。


 その日の放課後も、細田はトイレの中でボーっとしていた。
 突然、短い女性の悲鳴が聞こえてきて、それに続いてドンっという何か大きなものが落ちる音が聞こえた。
 声は隣の女子トイレの方から聞こえてきたようだった。


 悲鳴が聞こえたのが女子トイレだったの、細田は入って確認するのはちょっとと思い、知らんふりしようと思ったが、泣き声が聞こえてきた。
 細田は薄情な男ではなかったので、泣き声を聞き、ケガでもしているのではないかと思い、女子トイレの様子を伺ってみることにした。
 女子トイレの中に入ると、トイレの個室の開いたドアから女の子の足が見え、同時に女の子のすすり泣く声が聞こえた。
 どうやら女の子は、地べたに座り込んで泣いているようだ。
 「大丈夫?」と細田が女の子に声を掛けると、ビクっと体を震わせて、目をまん丸くさせて細田のことを見ていた。
 「あの、いきなり入ってきてごめんなさい。隣の男子トイレにいたら、悲鳴と鳴き声が聞こえてきたから心配になって」
 地べたに座り込んでいた女の子のすぐ近くには、ちぎれたロープがあり、脱ぎ捨てられた上履きの横には白い封筒が落ちていた。
 もしかしてこの子、自殺しようとしていたんじゃないか・・・
 「私、死のうと思ったの」
 突然、女の子がそんなことをしゃべった。
 「どうして自殺しようと思ったの?」
 細田の言葉を聞いた女の子は、泣くのをやめてぽつりぽつりと、その理由をしゃべり始めた。
 要約すると、彼氏に振られたからというのがおおまかな理由でした。付き合っていた彼氏に好きな人ができて、別れを切り出されてしまったそうだ。
 それで、生きることに絶望した女の子は死ぬことに決め、トイレのドア枠で首を吊ろうとしたが、ロープが切れ、結局未遂に終わってしまった。
 細田は必死に女の子を慰めた。
 「ありがとう、慰めてくれて、私は1年F組の室戸葵。あなたは?」
 「僕は1年C組の細田友春って言います」
 「そっか、結構近いクラスなんだね」
 そう言って室戸はふっと笑った。
 とりあえず、室戸は自殺を思いとどまってくれたようだ。
 「細田君は命の恩人だね」
 細田は女の子と話したことがほとんどなかったので、その時は相当ニヤケた間抜けな顔をしていただろう。
 それ以来、細田は室戸と友達になり、廊下ですれ違う時に、声をかけてもらったり、あいさつをするようになったが、周りは不思議そうに見ていた。


 室戸とあって1週間が過ぎようとした頃、放課後、いつものように一人で帰ろうとしている細田に、室戸が声を掛けた。
 「よかったら、いっしょに帰らない?」
 思いがけない室戸の提案に戸惑う細田。
 細田は女の子にそんなことを言われたことがなかったのだ。
 「細田君は、私と一緒に帰るのは嫌かな?」
 「嫌なわけあるもんですか」
 「本当?じゃあ一緒に帰りましょ」
 女の子と一緒に帰るなんて初めての細田は、緊張して何を話したか、あまり覚えていなかった。
 そして、ある角に差し掛かった時、室戸が小さく声を上げた。
 室戸が声を上げた方を見ると、鳴神学園の制服を着た一組のカップルが楽しそうに、道を歩いていた。
 室戸の顔色が一気に曇ったのがわかった。
 室戸は走り出すと、すぐ近くの路地に引っ込んでしまったので、細田は室戸を追いかけた。
 察しの悪い細田でも、もしかしたらさっきのカップルの男は、室戸の彼氏だった人じゃないかと気づいた。
 「こめんね、いきなり隠れたりして。さっき、前を歩いていた男の子、私の彼氏だったの。新しい彼女と歩いているのを見たら、何だかその場にいられなくて・・・私、このままじゃ学校にも行きたくないな」
 細田は悲痛な面持ちで訴える室戸を見て、何とかしてあげたいと思った。
 「何か自分に、協力できることはないかな?」
 「ありがとう、細田君」
 そして、室戸は細田にあることを頼んだ。


 坂上君、彼女は僕に何を頼んだと思う?


 「今日の夜、私と出会った新校舎のトイレに来てほしいの」と室戸はお願いしてきた。


 細田は家に帰っていろいろと考えた。
 彼女はなぜあんな場所に自分を呼んだのだろうか。
 しかし、答えは出なかった。
 何も考えられないまま、いつしか彼女との約束の時間が近づいてきました。


 坂上君、僕は彼女の言う通り、トイレに行ったと思う会?君なら、どうする?
  • 行く
  • 行かない

 細田は彼女との約束を果たすため、夜の学校へ向かった。
 鍵のかかっている校舎の中に忍び込めたのは、彼女が教えてくれたから。
 こっそりと人気のない校舎奥にある非常口の扉の鍵を開けておいてくれたので、細田はそこから中に入ることができた。
 トイレに入ると、中は真っ黒だった。
 細田は小声で室戸を呼んでみたが、反応はなかった。
 待ち合わせのトイレの個室の前に立っていると、「細田君」と背後から室戸の声が聞こえた。
 振り向くと、室戸はにこにこを笑っていた。
 「細田君、来てくれてありがとう」
 「うん、でも、一体トイレに呼び出して何をするの?」
 「ぜひ、細田君に協力してほしいことがあるの」
 彼女はそういうと、細田の前を横切りトイレの扉を開けた。
 「細田君、なんでも協力してくれるって言ってくれたよね?だから、私の代わりにここで死んでほしいの」
 「え?」
 最初、細田は彼女の言葉の意味が理解できなかった。
 「私ね、あの人が憎くて憎くてたまらないの。で、普通に殺すのは嫌。呪われてさんざんもがき苦しんだ挙句に死んでほしいの。そのためにはね、生贄を捧げる必要があるの」
 「生贄?」
 「そう、死んで」
 いつの間にか彼女の手には切り出しナイフが握られていた。
 そして躊躇なく、そのナイフを細田の腹に突き刺した。
 「うわああああ」
 細田はあまりの痛さに、思わず力いっぱいに彼女を突き飛ばした。
 すると、彼女は便器に頭を打ち付け、鈍い嫌な音がして、首があらぬ方向によじれてしまった。どうも首の骨が折れてしまったようだ。
 すでに彼女は動かなくなっている。どうやら、打ち所が悪かったようだ。
 細田の腹には切り出しナイフが突き刺さったままだが、刃渡りが短かったのと、細田の脂肪がぶ厚かったおかげで、細田は動けた。
 「細田君・・・生贄・・・死んで」
 「うわああああ」
 あらぬ方向に曲がった首をだらりとさせながら、室戸が動き始めた。
 「来るな、来るなよ」
 細田は腹に刺さっていた切り出しナイフを引き抜いて、やたらめったら振り回した。すると室戸に命中し、頬がざっくりと切れた。
 不思議なことに室戸の皮膚は発泡スチロールでも切るかのように抵抗なく切れた。そして、割れた頬がぱっくりと開き、その中から得体のしれない黒い塊が出てきた。
 それは、握り拳ほどの大きさで黒くて柔らかいイキモノだった。
 それは室戸の頬から這い出すと、ぺちゃりと床に落ちた。
 そいつはぷくぷくとした丸いフォルムで、小さく手足のようなものが4本生えていて、それを器用に動かしながら、便器を這い上ろうとしていた。
 そして、そいつはさかりのついた猫みたいに声を上げながら、鳴き始めた。見ると室戸のぱっくり割れた傷口からそいつが何匹もボロボロと出てきていた。
 そして、それが出てくるたびに室戸の体がしぼんでいった。
 細田はパニックになり、そいつを次々と踏みつぶした。潰すたびに、黒い液体をあたりにまき散らしながら、ネコにように鳴いた。
 一匹残らず踏みつぶすと、室戸はミイラのようにしぼんで動かなくなっていた。
 正気に戻った細田は、おなかに激痛が走った。
 ナイフで刺されたことを思い出し、傷口を押さえながらトイレを出たが、力尽きトイレの前の意識を失った。


 細田は気づくと病院のベッドにいた。
 細田がトレイで叫んでいたので、宿直の先生が様子を見に来て、倒れている細田を救出したのだった。
 警察の人が事情を聞きに来たが正直に言うしかない。
 「傷の形状からいって、自分で刺したとは思えないんだけど、誰に刺されたのかな?」
 「室戸葵さんです」
 「あのトイレでなかんっていた子かな?」
 「はい、そうです」
 「見間違いとか、思い違いじゃなくて?」
 「はい、そうですけど何か?」
 「おかしいな。彼女はね、1か月前に亡くなっているんだよ」
 「え?だって僕と彼女は1週間前にあのトイレで知り合ったんですから」
 「彼女の死体を検死したんだけれど、死後1か月は経っているんだよ。彼女、行方不明になって捜索願を出されていたんだよね。なんでも彼氏に振られたのがショックで悩んでいたらしい。それで1か月前にあのトイレで首を吊って自殺してしまったんだな。でも不思議なのは、1か月間もよく発見されなかったことだ。あの個室だけ、誰も使わなかったんだろうけど、それにしても普通臭いで分かりそうなもんだよな。それに死後1か月にしては状態がおかしいんだよ。まるで、遺体は何年も経過したようにミイラ化していたんだよな」


 細田は室戸と出会ってからの日のことを考えていた。
 細田は室戸と友達になり、廊下ですれ違う時に、声をかけてもらったり、あいさつをするようになったが、周りは不思議そうに見ていた。
 みんなが驚いていたのは、細田が室戸と歩いていたからではなく、一人で歩いていたのに、まるで女の子と一緒にいるかのように話をしていたからだったのだ。
 細田は室戸の幽霊と一緒に1週間もいた。
 細田はありのままに話をしたが、刑事には信じてもらえず、気が動転して現実と妄想がない交ぜになっていると笑われた。
 結局、謎のままあの事件は終わり、室戸がトイレで自殺したという結論だけが事実として伝わった。


 「僕は思うんですよ。室戸さんは自分を捨てた彼氏に復讐するために、あの黒いイキモノに自分の命を捧げたんじゃないでしょうか。だって彼女がただ自殺しただけなら遺体がミイラ化していたとか1か月も発見されなかったのは不自然じゃないですか。おそらく彼女は、あのトイレで自分の命を引き換えになにか邪悪なものを呼び出してしまった。そして、そいつと契約をしたんじゃないでしょうか。それが僕が見た気味の悪い黒いイキモノです。
 でも、室戸さんを捨てた彼って、いったい誰だったんでしょう。果たして復讐は成されたのか、それともまだ成されていないのか。
 僕ね、あのイキモノはまだ生きていると思うんです。きっと次の依り代を探していますよ」
 


 エンディング№271:呼び出されたイキモノ
 エンディングリスト29/656 達成度4%
 キャラクター数37/112 達成度33%
 イラスト数 20/272 達成度7%


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 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
 1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る
 2人目の岩下のシナリオ:窓枠の中で→エンディング№310~313を見る
 3人目は風間のシナリオ:下半身ババア→エンディング№168・169を見る
 4人目は荒井のシナリオ:いみぐい村→エンディング№74・75


 5人目は細田を選択!


 僕ね、今日のこの会をとっても楽しみにしてたんですよ。坂上君も楽しみにしてましたか?
  • 楽しみにしていた
  • 特に気にしていない
  • あまり乗り気ではなかった


 坂上君は立場的にみんなを盛り上げるべきだと思うけどなあ。そこまではっきり言われると、なんだかちょっと引いちゃうかも。
 それにしても、7人目はどうしちゃたんでしょうかねえ。
 迷惑するのは、坂上君なんですもんねえ。かわいそうに。
 あ、申し遅れました。僕は細田友春っていいます。2年C組です。
 あのう、坂上君って、友達とかいます?


 細田は、自分がデブだという自覚があるが、ダイエットをしてもどうしても食べたり、汗っかきですぐに喉が渇いてしまい、お茶よりもおいしいジュースを飲んでしまうため、どうしても痩せられないとのことで、小学生の頃から太っており、細田なのにデブと言われ続けていた。えn


 風間と岩下の話を聞いていれば、シナリオ:トイレの恋開始!


 細田が1年生の頃、友達がいなかった。
 原因は、太っていたからで、クラスの皆は、外見で人のことを判断するような人ばかりだった。
 細田が話しかけても、ニヤニヤと見下したような笑顔しか返してくれなかったで、細田はいつも一人でいた。
 そんな細田のお気に入りの場所はトイレの個室だった。
 学校はマンモス校で人が多いが、トイレだけは一人になれる場所だった。
 細田は授業中でも平気で抜け出して、トイレに入ってボーっとしていた。


 その日の放課後も、細田はトイレの中でボーっとしていた。
 突然、短い女性の悲鳴が聞こえてきて、それに続いてドンっという何か大きなものが落ちる音が聞こえた。
 声は隣の女子トイレの方から聞こえてきたようだった。


 悲鳴が聞こえたのが女子トイレだったの、細田は入って確認するのはちょっとと思い、知らんふりしようと思ったが、泣き声が聞こえてきた。
 細田は薄情な男ではなかったので、泣き声を聞き、ケガでもしているのではないかと思い、女子トイレの様子を伺ってみることにした。
 女子トイレの中に入ると、トイレの個室の開いたドアから女の子の足が見え、同時に女の子のすすり泣く声が聞こえた。
 どうやら女の子は、地べたに座り込んで泣いているようだ。
 「大丈夫?」と細田が女の子に声を掛けると、ビクっと体を震わせて、目をまん丸くさせて細田のことを見ていた。
 「あの、いきなり入ってきてごめんなさい。隣の男子トイレにいたら、悲鳴と鳴き声が聞こえてきたから心配になって」
 地べたに座り込んでいた女の子のすぐ近くには、ちぎれたロープがあり、脱ぎ捨てられた上履きの横には白い封筒が落ちていた。
 もしかしてこの子、自殺しようとしていたんじゃないか・・・
 「私、死のうと思ったの」
 突然、女の子がそんなことをしゃべった。
 「どうして自殺しようと思ったの?」
 細田の言葉を聞いた女の子は、泣くのをやめてぽつりぽつりと、その理由をしゃべり始めた。
 要約すると、彼氏に振られたからというのがおおまかな理由でした。付き合っていた彼氏に好きな人ができて、別れを切り出されてしまったそうだ。
 それで、生きることに絶望した女の子は死ぬことに決め、トイレのドア枠で首を吊ろうとしたが、ロープが切れ、結局未遂に終わってしまった。
 細田は必死に女の子を慰めた。
 「ありがとう、慰めてくれて、私は1年F組の室戸葵。あなたは?」
 「僕は1年C組の細田友春って言います」
 「そっか、結構近いクラスなんだね」
 そう言って室戸はふっと笑った。
 とりあえず、室戸は自殺を思いとどまってくれたようだ。
 「細田君は命の恩人だね」
 細田は女の子と話したことがほとんどなかったので、その時は相当ニヤケた間抜けな顔をしていただろう。
 それ以来、細田は室戸と友達になり、廊下ですれ違う時に、声をかけてもらったり、あいさつをするようになった。


 室戸とあって1週間が過ぎようとした頃、放課後、いつものように一人で帰ろうとしている細田に、室戸が声を掛けた。
 「よかったら、いっしょに帰らない?」
 思いがけない室戸の提案に戸惑う細田。
 細田は女の子にそんなことを言われたことがなかったのだ。
 「細田君は、私と一緒に帰るのは嫌かな?」
 「嫌なわけあるもんですか」
 「本当?じゃあ一緒に帰りましょ」
 女の子と一緒に帰るなんて初めての細田は、緊張して何を話したか、あまり覚えていなかった。
 そして、ある角に差し掛かった時、室戸が小さく声を上げた。
 室戸が声を上げた方を見ると、鳴神学園の制服を着た一組のカップルが楽しそうに、道を歩いていた。
 室戸の顔色が一気に曇ったのがわかった。
 室戸は走り出すと、すぐ近くの路地に引っ込んでしまったので、細田は室戸を追いかけた。
 察しの悪い細田でも、もしかしたらさっきのカップルの男は、室戸の彼氏だった人じゃないかと気づいた。
 「こめんね、いきなり隠れたりして。さっき、前を歩いていた男の子、私の彼氏だったの。新しい彼女と歩いているのを見たら、何だかその場にいられなくて・・・私、このままじゃ学校にも行きたくないな」
 細田は悲痛な面持ちで訴える室戸を見て、何とかしてあげたいと思った。
 「何か自分に、協力できることはないかな?」
 「ありがとう、細田君」
 そして、室戸は細田にあることを頼んだ。


 坂上君、彼女は僕に何を頼んだと思う?


 「あの人の彼女を、呼び出してほしいの。私じゃあの人を呼び出すことはできないから、お願い、細田君」
 細田は室戸の頼みを聞くことにして、室戸の彼氏と今の彼女のことについていろいろと調査した。
 室戸の彼氏だった人は、サッカー部で注目される2年生で次期キャプテン候補の西澤仁志だった。
 西澤は、スポーツ特待生で、鳴神学園でも話題の有名人だった。
 西澤は、とにかく女性にモテモテでいつも女の子が周りに集まっているのに、特定の彼女はいないみたいだった。要するに、本命の彼女である室戸のことは、みんなには内緒にしているみたいだった。
 そして、今の西澤の彼女は1年生の姫乃愛良だったが、姫乃のことを同じクラスの人に聞いても、なんか答えをはぐらかされてしまい、今一つわからず、結局、名前以外、写真を見る限りとても美しいということだけしかわからなかった。
 普通に姫乃を呼び出すのことが細田には無理そうだったので、姫乃の持ち物を拝借して、それを餌に呼び出すことにした。
 女子が体育の時間を見計らい、細田は姫乃の机から高価そうな万年筆を拝借し、代わりに手紙を忍ばせた。
 「あなたの落とし物を拾いました。返したいので、放課後、屋上まで来てください」


 「放課後、この万年筆を取りに屋上に姫乃さんが来るから、そこで話をすればいいよ」
 細田が万年筆を渡しながら室戸にそう言うと、室戸はにっこり笑って「ありがとう、細田君」と言ってくれた。


 次の日、学校は大騒ぎになっていた。
 駐車場には何台もパトカーがとまっているし、テレビ局の中継車もいた。どうやら誰かが屋上から飛び降りて死んだ、と騒ぎになっていた。
 死んだのは姫乃だった。
 「まさか室戸さんが?」と思った細田は室戸を問いただすことにした。
 休み時間、室戸の教室に向かうと、細田に気づいた室戸は近づいてきた。
 「ここじゃなくて、どこか人気のないところで話しましょ」
 細田は、室戸に誘われるまま校舎裏にやってきた。
 「あの、姫乃さんのことなんだけど」
 口を開いた途端、室戸は細田の胸元に飛び込んできた。
 瞳に涙を溜めながら嗚咽混じりに、室戸はあの時の事の顛末を語り始めた。


 室戸が姫乃を呼び出したのは、西澤と別れてほしいと切り出すつもりだった。
 ところが姫乃は、室戸の話を聞こうともせず、万年筆を返せと迫ってきた。
 起こった姫乃から、髪の毛を引っ張られたり引っ掛かれたり暴力を受けて、もみ合っているうちに万年筆が屋上から落ちそうになり、それを取ろうと身を乗り出した姫乃は、そのまま落下した。


 「細田君、どうしよう・・・私のせいだわ」
 「いや、室戸さんのせいじゃないよ。僕が万年筆を持って行ったりしなければ」
 「いいえ、細田君は悪くない。元はといえば渡した細田君に頼んだことよ」
 「室戸さん、僕は絶対誰にも言わないよ。約束する。これは二人だけの秘密だよ」
 細田の言葉を聞いた室戸は、安心したようにやさしい笑みを浮かべてくれた。
 「二人だけの秘密、ありがとう、細田君」


 姫乃の事件は、しばらくの間、学校を賑わせていたが、1か月もするば何事もなかったかのように、いつもの学園生活が戻ってきた。
 なぜならば、あれは自殺として片づけられたわけなので。
 姫乃は家庭に複雑な事情を抱えていたそうで、だから自殺したんだろうって。
 でも、西澤だけは、話題が沈静化して行くに従って、だんだん塞ぎこむようになった。
 そんな西澤を励ましていたのは室戸だった。
 室戸が西澤といい雰囲気になっていくにつれ、ある噂が目立つようになっていった。
 それは、死んだ姫乃を見た、という噂だった。
 なんでも見た生徒の話だと、部活で遅くなった帰りに姫乃が飛び降りて死んだ場所で、彼女が佇んでいるのを目撃したとい言うのだ。しかも、彼女の表情はとてつもない怒りに満ちていたそうだ。
 細田も見たし、目撃例は日に日に増えていき、校内は再び姫乃の話題でもちきりになった。


 そんなある日、担任の先生に掃除当番を命じられた細田は、焼却炉にゴミを捨てるため校舎裏に向かった。
 そこで、誰かの泣き声が聞こえてきたので、細田がのぞいてみると、それは室戸だった。
 「室戸さん、どうしたの?具合でも悪いのかい?」
 「西澤さんが、やっぱり、姫乃さんのことが気になるって・・・私とは付き合えないって・・・」
 そう言って、室戸はわっと泣き出した。
 姫乃の一件以来、室戸は親身になって西澤に尽くした。
 西澤もそんな献身的な室戸の態度に、だんだんと室戸に接する態度が、かつて付き合っていたいたときのように戻っていった。
 そして室戸は思い切って「私たち、やり直さない?」と西澤に言ったが、彼は首を横に振った。
 「死んだ姫乃さんに申し訳ない、だからお前とは付き合えない」と。
 「西澤さんの中には、まだあの女の影がいるのよ!」
 そう言った室戸の顔を見たとき、室戸の瞳は爛々と輝き、はっきりと憎悪の炎が見てとれた。
 細田は、そんな彼女の表情をとてもキレイだと思った。そう細田は室戸に恋をした。


 坂上君、君ならどうしますか?


 細田は結局告白できなかった。
 「ごめんよ、力になれなくて」
 「ううん、そんなことないわ。細田君は、十分いい人だと思うわ」
 細田は、室戸に言われたセリフを噛みしめながら、帰宅した。恋人にはなれなくても、友達ではいられるはずだ。それに秘密の約束がある。


 室戸とのやり取りから数日後、細田は室戸を元気づけるために遊園地のチケットを用意した。
 でも、その日の学校ではなぜか室戸の姿が見えず、結局チケットを渡せないまま下校となった。
 彼女はどこに行ってしまったんだろう、と細田がそんなことを思いながら公園に差し掛かった時、見慣れた人影を見つけた。
 何やら室戸と西澤が激しく言い争いをしているようだった。
 細田は好奇心から、二人に気づかれないようそっと近づき、公園の茂みに隠れた。
 どうやら、室戸は西澤に、また付き合ってほしい、とお願いしているようだった。
 「何度言われても、もう俺は、お前の気持ちには答えられないんだ」
 「姫乃さんは、もう死んだんだから。いつまでも過去の人影を引きずっていたらダメよ!」
 「怖いんだよ。愛良が夢に出て切るんだ。あなたを一生離さないって、俺の耳元でささやくんだ。お前と一緒にいると特にそれがひどいんだ。きっと、あいつ、まだ成仏してないんだと思う。お前に俺も一緒にいると、愛良の霊に何をされるかわからないぞ」
 「私は大丈夫。私が一番辛いのは、あなたに嫌われることだから。あなたに嫌われたら、私生きていけないもの。だから姫乃さんの霊なんて、怖くない。私があなたを守るわ」
 「葵、お前、なんでそんなに俺にこだわるんだよ。俺以外にも、他に男はいっぱいいるんじゃないか。お前ならかわいいし、他にいくらだって」
 「西澤さんじゃなきゃダメなの!それがわからないの?他の人でもよかったら、こんなに苦しい思いなんかしないよ」
 その言葉に打たれたのか、西澤は室戸に向き直ると泣いている室戸の肩に優しく手を置いた。
 「泣くなよ」とその手で、室戸の瞳の涙をぬぐった。
 そのまま、二人は顔を寄せ合い、キスをした。
 二人のキスを目撃して、動揺した細田は物音を立ててしまい、、室戸に気づかれてしまった。
 「誰?」
 「あの、その、ごめんさない」
 「細田君」
 細田はどうしていいかわからず、そのまま走り出してしまった。
 「おい、あいつ、葵の知り合いじゃないのか?追わなくていいのか?」
 「あんなデブ、どうでもいいわ」


 背中越しに刺さった言葉の重みで、細田は少し走ったところで、膝をついてしまった。
 いい人いいっていうのは、良いとは違う、どうでもいい人って意味だったのだ。
 そんなとき、細田の脳裏にあることが思い出された。それは秘密の約束だった。
 姫乃の一件は、室戸が嘘をついているかもしれないということだ。
 細田は、その足でそのまま警察に行き、あの日の出来事のすべてを話した。


 次の日、細田は警察の事情聴取で呼び出された。
 細田は、何か罪に問われるのではないかと心配したが、何も罰せられなかった。
 ただ室戸に関しては詳しくいろいろ聞かれたことと、、姫乃の遺体には自殺にしては不可解な点がいくつもあったことから、警察は殺人事件として追っていた、ということを教えてもらった。


 運命の日がやってきのは翌日の放課後だった。
 「来ないで!」
 顔を上げてみると、屋上の柵から身を乗り出した室戸の声だった。
 その近くには、刑事らしい中年の男性が2人、焦った様子で室戸を必死に説得していた。
 おそらく昨日の話を聞いた警察が、今日になって室戸に事情聴取をしに来たのだろう。
 「なんで皆、私と西澤さんの邪魔をするの!」
 大勢の野次馬が周りに集まってくる。
 「葵、お前何やっているんだ!」
 気づくと、細田の隣で西澤が焦った表情で、室戸に声を掛けていた。
 「西澤さん、きゃあ!」
 「葵!!」
 突然、室戸が足を踏み外して地面に落ちかけた。かろうじて腕1本で床を持ち、体を支えている状態だ。
 屋上に待機していた刑事たちは、急いで室戸の元に駆け寄り、引き上げるために柵を乗り越えようとしていた。
 その時、細田は見てしまった。
 屋上の柵を越えたわずかな縁の部分から、凄まじい形相で室戸をにらんでいる姫乃の姿を・・・
 「いやあ!」
 悲鳴を上げた室戸の表情から察するに、彼女にも姫乃の霊が見えていたのだろう。
 「愛良・・・」
 西澤からもそんなつぶやきが聞こえてきた。少なくとも、室戸、西澤、細田には、姫乃の姿がはっきりと見えていた。
 「来ないで!悪いのはあんたよ。あんたが全部悪いんでしょうが!」
 室戸は姫乃から逃げようと必死になっていたが、姫乃の霊は彼女が支えている腕に嚙みついた。
 室戸の悲鳴が聞こえ、ゆっくりと彼女の体は宙に舞うと、次の瞬間地面に叩きつけられた鈍い音がした。そして、地面には室戸を中心に血だまりが広がっていった。


 室戸が死んだことによって、事件の真相は永遠に闇に包まれていしまった。
 でも、細田には何となく、室戸が姫乃を突き落とし、命を奪われた姫乃が彼女に復讐したということが、わかった。
 姫乃と室戸、付き合っていた2人を亡くした西澤はひどく憔悴していた。
 事件の成り行きをいった彼の周りの外野たちは、彼女たちの気持ちを弄んで2人と付き合った西澤を攻めた。


 あの事件から1週間ほど経ったある日、細田は西澤から声を掛けられた。
「聞きたいことがあるだけだ。ちょっと、こっちに来い」
 細田は校舎裏に連れていかれた。
 「お前、あの事件のこと、何か知っているんだろう?全部話してくれよ」
 西澤は事件について何も知らないようでした。ただ短期間の間で、彼女だった2人が屋上から飛び降りて死んだのだ。
 「僕は何も知りません。室戸さんとは知り合いなだけで、今回の事件にかんしては僕は何もしらないんです」
 西澤はその場でうなだれた。
 「夢で2人が出てくるんだ。俺の枕元に立って何か言いたそうな顔で、俺のことをずっと見てるんだよ。それが毎晩続くんだ。俺はもう気が狂いそうだ。あいつら、俺に一体、何をしてほしいんだ」
 「西澤さん、現場に行ってみたらどうです?彼女たちが死んだ現場に行って、彼女たちの霊に直接聞いてみたらいいと思います」
 「あの場所に愛良と葵はまだいるのか?お前には、それが見えるのか?」
 「ええ、僕には霊感があるんですよ。彼女たちは、飛び降りた地面に根を張るように、ずっと佇んているです。そして、一日でも早く成仏できるのを待っているんですよ。多分、彼女たちを成仏させられのは西澤さんしかいないと思います」
 「そうか、俺はどうしたらいいんだ?」
 本当を言うと、細田には2人の霊は見えなかったが、妙な予感がした。きっと彼が行けば2人は出てきてくれるんじゃないかって。


 その日の夜、細田と西澤は校門で待ち合わせをして、あの場所へと向かった。
 「何もおきないじゃないか」
 「一度呼んだくらじゃ何も起きませんよ。でも西澤さんが心を込めて呼びかければ、きっと出てきてくれると思います」
 「あ、愛良、葵・・・」
 すると、西澤の言葉に呼応するように、姫乃と室戸の姿で青白いシルエットが浮かび上がった。
 「教えてくれ、お前たちは俺にどうしてほしいんだよ?」
 「私たちのどちらか一人を選んで。どっちがあなたの彼女か。そして口づけしてほしいの。そうしたら、成仏できる」
 西澤はおびえながらも、彼女たちに近づき、2人の顔を交互に見た。
 西澤は、覚悟を決めたのか、室戸の方に歩み寄った。
 その時、姫乃がいきなり目を見開いて、ものすごい形相で西澤をにらんだ。
 西澤が思い直したのか、姫乃へ顔を近づけた。
 でも、今度は、室戸がものすごい形相で西澤のことを見つめた。
 どちらかにキスしようとすると、また一方か呪い殺さんばかりの表情で、西澤のことをにらんできりがない。
 業を煮やしたのか、姫乃と室戸の霊は、それぞれ反対方向から西澤の腕をぐいぐいと引っ張った。
 「助け・・・」
 西澤は苦痛に顔をゆがめながら、細田に助けを求めたが、どうすることもできない。
 彼女たちは、西澤の腕を力任せにぐんぐんと引っ張る。
 ボキっと鈍く嫌な音が聞こえてきた。
 引っ張りすぎて腕の関節が外れたのだ。
 「痛いよ、やめてくれ!」
 いつしか腕から血が吹き出し、みしみしと肉がちぎれる音が聞こえます。
 まるで、戦国時代の拷問の牛裂きの形のようだ。両手両足を荒縄で牛に括り付け、それぞれ別の方向に思いっきり後ろ走らせるという。
 「あがぎゃあああ!!!」
 彼の悲痛な叫びとともに、両腕は夥しい血を噴き出しながらもげてしまった。両腕をもがれた西澤は血に塗れ、体をぴくぴくと痙攣させていた。
 室戸と姫乃の霊は、そんな西澤を見ながら悲しそうな顔をして、ふっと消えてしまった。
 校庭には腕をもがれて西澤と、ちぎれた両腕だけが残った。
 西澤は死んでおらず、苦しそうに涙とよだれを垂らしながら、のたうちまわっていた。
 「助けを呼んできてくれ、細田」
 細田は、その場にしゃがんで、じーっと西澤を見ていた。
 女の子にモテても、決して幸せじゃないんだ。だから、やっぱり一人でいるのが正しいんだ。そうやって細田は自分に言い聞かせた。
 みじめにのたうちまわる西澤を見ることで、細田は初めて優位に立てた気がした。
 「どうして?早く助けてくれよ」
 「きゃー、怖い、助けて」
 これだけ観察すればもう十分だと納得した細田は、大声で叫んで逃げ出した。
 逃げながら細田は、こぼれ出る笑いを隠せなかった。


 西澤さんが、あの後一人で立ち上がって助けを呼びに行き、助かった。
 何とか一命は取り留めたが、話は支離滅裂。自殺した女の子に両腕を奪われた。自分のことを取り合いになって、腕を引っ張ったらそのままちぎれてしまった。でも彼女たちは成仏できた。
 ねえ、誰も信じる?そんな面白い話。
 これで僕の話は終わりだよ。



 「ありがとうございました」
 坂上は姫乃と室戸の霊はその後どうなったんだろう、と考えながらふと視線をドアに向けたとき、ドアの隙間、ほんの数センチ開いた隙間から、青白い顔をした女の顔がこちらをじっと見つけていた。そして、目が合うと、その顔はしゅっとドアの奥に引っ込んでしまった。
 「見たんだね」
 細田がにやけた顔を坂上を見る。
 「あれはね、室戸さんの霊だよ。あの事件の後から気づくと、いつもどこでもどんな場所でも、ありとあらゆる隙間から彼女が僕のことを見ているんだ。もしかしたら、僕が秘密をしゃべったことを怒っているのかもしれない。そして、西澤さんがあんな目に遭うように仕向けたこと。でも、僕は幸せなんだ。だって西澤さんじゃなくて、ずっと僕だけのことを見てくれているんだものね。僕さ、モテないからさ。この際、相手が生きていようが死んでいようが関係ないの。たとえ悪霊だっていいじゃない?うふ、うふふ」


 エンディング№270:トイレの恋
 エンディングリスト28/656 達成度4%
 キャラクター数37/112 達成度33%
 イラスト数 18/272 達成度6%


拍手[0回]


 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
 1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る
 2人目の岩下のシナリオ:窓枠の中で→エンディング№310~313を見る
 3人目は風間のシナリオ:下半身ババア→エンディング№168・169を見る
 4人目は荒井のシナリオ:いみぐい村→エンディング№74・75


 5人目は細田を選択!


 僕ね、今日のこの会をとっても楽しみにしてたんですよ。坂上君も楽しみにしてましたか?
  • 楽しみにしていた
  • 特に気にしていない
  • あまり乗り気ではなかった


 坂上君は立場的にみんなを盛り上げるべきだと思うけどなあ。そこまではっきり言われると、なんだかちょっと引いちゃうかも。
 それにしても、7人目はどうしちゃたんでしょうかねえ。
 迷惑するのは、坂上君なんですもんねえ。かわいそうに。
 あ、申し遅れました。僕は細田友春っていいます。2年C組です。
 あのう、坂上君って、友達とかいます?
  • 多いほう
  • あまりいない
  • 早く話を進めてください


 細田は、自分がデブだという自覚があるが、ダイエットをしてもどうしても食べたり、汗っかきですぐに喉が渇いてしまい、お茶よりもおいしいジュースを飲んでしまうため、どうしても痩せられないとのことで、小学生の頃から太っており、細田なのにデブと言われ続けていた。


 風間と岩下の話を聞いていれば、シナリオ:トイレの恋開始!


 細田が1年生の頃、友達がいなかった。
 原因は、太っていたからで、クラスの皆は、外見で人のことを判断するような人ばかりだった。
 細田が話しかけても、ニヤニヤと見下したような笑顔しか返してくれなかったで、細田はいつも一人でいた。
 そんな細田のお気に入りの場所はトイレの個室だった。
 学校はマンモス校で人が多いが、トイレだけは一人になれる場所だった。
 細田は授業中でも平気で抜け出して、トイレに入ってボーっとしていた。


 その日の放課後も、細田はトイレの中でボーっとしていた。
 突然、短い女性の悲鳴が聞こえてきて、それに続いてドンっという何か大きなものが落ちる音が聞こえた。
 声は隣の女子トイレの方から聞こえてきたようだった。
  • 女子トイレに入ってみた
  • 知らんふりをした


 細田は薄情な人間ではなかったので、女子トイレの様子を伺ってみることにした。
 女子トイレの中に入ると、トイレの個室の開いたドアから女の子の足が見え、同時に女の子のすすり泣く声が聞こえた。
 どうやら女の子は、地べたに座り込んで泣いているようだ。
 「大丈夫?」と細田が女の子に声を掛けると、ビクっと体を震わせて、目をまん丸くさせて細田のことを見ていた。
 「あの、いきなり入ってきてごめんなさい。隣の男子トイレにいたら、悲鳴と鳴き声が聞こえてきたから心配になって」
 地べたに座り込んでいた女の子のすぐ近くには、ちぎれたロープがあり、脱ぎ捨てられた上履きの横には白い封筒が落ちていた。
 もしかしてこの子、自殺しようとしていたんじゃないか・・・
 「私、死のうと思ったの」
 突然、女の子がそんなことをしゃべった。
 「どうして自殺しようと思ったの?」
 細田の言葉を聞いた女の子は、泣くのをやめてぽつりぽつりと、その理由をしゃべり始めた。
 要約すると、彼氏に振られたからというのがおおまかな理由でした。付き合っていた彼氏に好きな人ができて、別れを切り出されてしまったそうだ。
 それで、生きることに絶望した女の子は死ぬことに決め、トイレのドア枠で首を吊ろうとしたが、ロープが切れ、結局未遂に終わってしまった。
 細田は必死に女の子を慰めた。
 「ありがとう、慰めてくれて、私は1年F組の室戸葵。あなたは?」
 「僕は1年C組の細田友春って言います」
 「そっか、結構近いクラスなんだね」
 そう言って室戸はふっと笑った。
 とりあえず、室戸は自殺を思いとどまってくれたようだ。
 「細田君は命の恩人だね」
 細田は女の子と話したことがほとんどなかったので、その時は相当ニヤケた間抜けな顔をしていただろう。
 それ以来、細田は室戸と友達になり、廊下ですれ違う時に、声をかけてもらったり、あいさつをするようになった。


 室戸とあって1週間が過ぎようとした頃、放課後、いつものように一人で帰ろうとしている細田に、室戸が声を掛けた。
 「よかったら、いっしょに帰らない?」
 思いがけない室戸の提案に戸惑う細田。
 細田は女の子にそんなことを言われたことがなかったのだ。
 「細田君は、私と一緒に帰るのは嫌かな?」
 「嫌なわけあるもんですか」
 「本当?じゃあ一緒に帰りましょ」
 女の子と一緒に帰るなんて初めての細田は、緊張して何を話したか、あまり覚えていなかった。
 そして、ある角に差し掛かった時、室戸が小さく声を上げた。
 室戸が声を上げた方を見ると、鳴神学園の制服を着た一組のカップルが楽しそうに、道を歩いていた。
 室戸の顔色が一気に曇ったのがわかった。
 室戸は走り出すと、すぐ近くの路地に引っ込んでしまったので、細田は室戸を追いかけた。
 察しの悪い細田でも、もしかしたらさっきのカップルの男は、室戸の彼氏だった人じゃないかと気づいた。
 「こめんね、いきなり隠れたりして。さっき、前を歩いていた男の子、私の彼氏だったの。新しい彼女と歩いているのを見たら、何だかその場にいられなくて・・・私、このままじゃ学校にも行きたくないな」
 細田は悲痛な面持ちで訴える室戸を見て、何とかしてあげたいと思った。
 「何か自分に、協力できることはないかな?」
 「ありがとう、細田君」
 そして、室戸は細田にあることを頼んだ。


 坂上君、彼女は僕に何を頼んだと思う?
  • 彼氏を呼び出してほしい
  • 彼女を呼び出してほしい
  • わからない


 違います。彼氏と顔を合わすのもつらいんですよ。


 「あの人の彼女を、呼び出してほしいの。私じゃあの人を呼び出すことはできないから、お願い、細田君」
 細田は室戸の頼みを聞くことにして、室戸の彼氏と今の彼女のことについていろいろと調査した。
 室戸の彼氏だった人は、サッカー部で注目される2年生で次期キャプテン候補の西澤仁志だった。
 西澤は、スポーツ特待生で、鳴神学園でも話題の有名人だった。
 西澤は、とにかく女性にモテモテでいつも女の子が周りに集まっているのに、特定の彼女はいないみたいだった。要するに、本命の彼女である室戸のことは、みんなには内緒にしているみたいだった。
 そして、今の西澤の彼女は1年生の姫乃愛良だったが、姫乃のことを同じクラスの人に聞いても、なんか答えをはぐらかされてしまい、今一つわからず、結局、名前以外、写真を見る限りとても美しいということだけしかわからなかった。
 普通に姫乃を呼び出すのことが細田には無理そうだったので、姫乃の持ち物を拝借して、それを餌に呼び出すことにした。
 女子が体育の時間を見計らい、細田は姫乃の机から高価そうな万年筆を拝借し、代わりに手紙を忍ばせた。
 「あなたの落とし物を拾いました。返したいので、放課後、屋上まで来てください」


 「放課後、この万年筆を取りに屋上に姫乃さんが来るから、そこで話をすればいいよ」
 細田が万年筆を渡しながら室戸にそう言うと、室戸はにっこり笑って「ありがとう、細田君」と言ってくれた。


 次の日、学校は大騒ぎになっていた。
 駐車場には何台もパトカーがとまっているし、テレビ局の中継車もいた。どうやら誰かが屋上から飛び降りて死んだ、と騒ぎになっていた。
 死んだのは姫乃だった。
 「まさか室戸さんが?」と思った細田は室戸を問いただすことにした。
 休み時間、室戸の教室に向かうと、細田に気づいた室戸は近づいてきた。
 「ここじゃなくて、どこか人気のないところで話しましょ」
 細田は、室戸に誘われるまま校舎裏にやってきた。
 「あの、姫乃さんのことなんだけど」
 口を開いた途端、室戸は細田の胸元に飛び込んできた。
 瞳に涙を溜めながら嗚咽混じりに、室戸はあの時の事の顛末を語り始めた。


 室戸が姫乃を呼び出したのは、西澤と別れてほしいと切り出すつもりだった。
 ところが姫乃は、室戸の話を聞こうともせず、万年筆を返せと迫ってきた。
 起こった姫乃から、髪の毛を引っ張られたり引っ掛かれたり暴力を受けて、もみ合っているうちに万年筆が屋上から落ちそうになり、それを取ろうと身を乗り出した姫乃は、そのまま落下した。


 「細田君、どうしよう・・・私のせいだわ」
 「いや、室戸さんのせいじゃないよ。僕が万年筆を持って行ったりしなければ」
 「いいえ、細田君は悪くない。元はといえば渡した細田君に頼んだことよ」
 「室戸さん、僕は絶対誰にも言わないよ。約束する。これは二人だけの秘密だよ」
 細田の言葉を聞いた室戸は、安心したようにやさしい笑みを浮かべてくれた。
 「二人だけの秘密、ありがとう、細田君」


 姫乃の事件は、しばらくの間、学校を賑わせていたが、1か月もするば何事もなかったかのように、いつもの学園生活が戻ってきた。
 なぜならば、あれは自殺として片づけられたわけなので。
 姫乃は家庭に複雑な事情を抱えていたそうで、だから自殺したんだろうって。
 でも、西澤だけは、話題が沈静化して行くに従って、だんだん塞ぎこむようになった。
 そんな西澤を励ましていたのは室戸だった。
 室戸が西澤といい雰囲気になっていくにつれ、ある噂が目立つようになっていった。
 それは、死んだ姫乃を見た、という噂だった。
 なんでも見た生徒の話だと、部活で遅くなった帰りに姫乃が飛び降りて死んだ場所で、彼女が佇んでいるのを目撃したとい言うのだ。しかも、彼女の表情はとてつもない怒りに満ちていたそうだ。
 細田も見たし、目撃例は日に日に増えていき、校内は再び姫乃の話題でもちきりになった。


 そんなある日、担任の先生に掃除当番を命じられた細田は、焼却炉にゴミを捨てるため校舎裏に向かった。
 そこで、誰かの泣き声が聞こえてきたので、細田がのぞいてみると、それは室戸だった。
 「室戸さん、どうしたの?具合でも悪いのかい?」
 「西澤さんが、やっぱり、姫乃さんのことが気になるって・・・私とは付き合えないって・・・」
 そう言って、室戸はわっと泣き出した。
 姫乃の一件以来、室戸は親身になって西澤に尽くした。
 西澤もそんな献身的な室戸の態度に、だんだんと室戸に接する態度が、かつて付き合っていたいたときのように戻っていった。
 そして室戸は思い切って「私たち、やり直さない?」と西澤に言ったが、彼は首を横に振った。
 「死んだ姫乃さんに申し訳ない、だからお前とは付き合えない」と。
 「西澤さんの中には、まだあの女の影がいるのよ!」
 そう言った室戸の顔を見たとき、室戸の瞳は爛々と輝き、はっきりと憎悪の炎が見てとれた。
 細田は、そんな彼女の表情をとてもキレイだと思った。そう細田は室戸に恋をした。


 坂上君、君ならどうしますか?
  • 告白する
  • 告白しない


 告白するなら今しかないと、細田は一大決心で、室戸に言った。
 「僕じゃだめかな?」
 「ごめんさない、でも、私、細田君は、いい人だと思うわ」
 細田は、室戸に言われたセリフを噛みしめながら、帰宅した。恋人にはなれなくても、友達ではいられるはずだ。それに秘密の約束がある。


 室戸とのやり取りから数日後、細田は室戸を元気づけるために遊園地のチケットを用意した。
 でも、その日の学校ではなぜか室戸の姿が見えず、結局チケットを渡せないまま下校となった。
 彼女はどこに行ってしまったんだろう、と細田がそんなことを思いながら公園に差し掛かった時、見慣れた人影を見つけた。
 何やら室戸と西澤が激しく言い争いをしているようだった。
 細田は好奇心から、二人に気づかれないようそっと近づき、公園の茂みに隠れた。
 どうやら、室戸は西澤に、また付き合ってほしい、とお願いしているようだった。
 「何度言われても、もう俺は、お前の気持ちには答えられないんだ」
 「姫乃さんは、もう死んだんだから。いつまでも過去の人影を引きずっていたらダメよ!」
 「怖いんだよ。愛良が夢に出て切るんだ。あなたを一生離さないって、俺の耳元でささやくんだ。お前と一緒にいると特にそれがひどいんだ。きっと、あいつ、まだ成仏してないんだと思う。お前に俺も一緒にいると、愛良の霊に何をされるかわからないぞ」
 「私は大丈夫。私が一番辛いのは、あなたに嫌われることだから。あなたに嫌われたら、私生きていけないもの。だから姫乃さんの霊なんて、怖くない。私があなたを守るわ」
 「葵、お前、なんでそんなに俺にこだわるんだよ。俺以外にも、他に男はいっぱいいるんじゃないか。お前ならかわいいし、他にいくらだって」
 「西澤さんじゃなきゃダメなの!それがわからないの?他の人でもよかったら、こんなに苦しい思いなんかしないよ」
 その言葉に打たれたのか、西澤は室戸に向き直ると泣いている室戸の肩に優しく手を置いた。
 「泣くなよ」とその手で、室戸の瞳の涙をぬぐった。
 そのまま、二人は顔を寄せ合い、キスをした。
 二人のキスを目撃して、動揺した細田は物音を立ててしまい、、室戸に気づかれてしまった。
 「誰?」
 「あの、その、ごめんさない」
 「細田君」
 細田はどうしていいかわからず、そのまま走り出してしまった。
 「おい、あいつ、葵の知り合いじゃないのか?追わなくていいのか?」
 「あんなデブ、どうでもいいわ」


 背中越しに刺さった言葉の重みで、細田は少し走ったところで、膝をついてしまった。
 いい人いいっていうのは、良いとは違う、どうでもいい人って意味だったのだ。
 そんなとき、細田の脳裏にあることが思い出された。それは秘密の約束だった。
 姫乃の一件は、室戸が嘘をついているかもしれないということだ。
 細田は、その足でそのまま警察に行き、あの日の出来事のすべてを話した。


 次の日、細田は警察の事情聴取で呼び出された。
 細田は、何か罪に問われるのではないかと心配したが、何も罰せられなかった。
 ただ室戸に関しては詳しくいろいろ聞かれたことと、、姫乃の遺体には自殺にしては不可解な点がいくつもあったことから、警察は殺人事件として追っていた、ということを教えてもらった。


 運命の日がやってきのは翌日の放課後だった。
 「来ないで!」
 顔を上げてみると、屋上の柵から身を乗り出した室戸の声だった。
 その近くには、刑事らしい中年の男性が2人、焦った様子で室戸を必死に説得していた。
 おそらく昨日の話を聞いた警察が、今日になって室戸に事情聴取をしに来たのだろう。
 「なんで皆、私と西澤さんの邪魔をするの!」
 大勢の野次馬が周りに集まってくる。
 「葵、お前何やっているんだ!」
 気づくと、細田の隣で西澤が焦った表情で、室戸に声を掛けていた。
 「西澤さん、きゃあ!」
 「葵!!」
 突然、室戸が足を踏み外して地面に落ちかけた。かろうじて腕1本で床を持ち、体を支えている状態だ。
 屋上に待機していた刑事たちは、急いで室戸の元に駆け寄り、引き上げるために柵を乗り越えようとしていた。
 その時、細田は見てしまった。
 屋上の柵を越えたわずかな縁の部分から、凄まじい形相で室戸をにらんでいる姫乃の姿を・・・
 「いやあ!」
 悲鳴を上げた室戸の表情から察するに、彼女にも姫乃の霊が見えていたのだろう。
 「愛良・・・」
 西澤からもそんなつぶやきが聞こえてきた。少なくとも、室戸、西澤、細田には、姫乃の姿がはっきりと見えていた。
 「来ないで!悪いのはあんたよ。あんたが全部悪いんでしょうが!」
 室戸は姫乃から逃げようと必死になっていたが、姫乃の霊は彼女が支えている腕に嚙みついた。
 室戸の悲鳴が聞こえ、ゆっくりと彼女の体は宙に舞うと、次の瞬間地面に叩きつけられた鈍い音がした。そして、地面には室戸を中心に血だまりが広がっていった。


 室戸が死んだことによって、事件の真相は永遠に闇に包まれていしまった。
 でも、細田には何となく、室戸が姫乃を突き落とし、命を奪われた姫乃が彼女に復讐したということが、わかった。
 姫乃と室戸、付き合っていた2人を亡くした西澤はひどく憔悴していた。
 事件の成り行きをいった彼の周りの外野たちは、彼女たちの気持ちを弄んで2人と付き合った西澤を攻めた。


 あの事件から1週間ほど経ったある日、細田は西澤から声を掛けられた。
「聞きたいことがあるだけだ。ちょっと、こっちに来い」
 細田は校舎裏に連れていかれた。
 「お前、あの事件のこと、何か知っているんだろう?全部話してくれよ」
 西澤は事件について何も知らないようでした。ただ短期間の間で、彼女だった2人が屋上から飛び降りて死んだのだ。
 「僕は何も知りません。室戸さんとは知り合いなだけで、今回の事件にかんしては僕は何もしらないんです」
 西澤はその場でうなだれた。
 「夢で2人が出てくるんだ。俺の枕元に立って何か言いたそうな顔で、俺のことをずっと見てるんだよ。それが毎晩続くんだ。俺はもう気が狂いそうだ。あいつら、俺に一体、何をしてほしいんだ」
 「西澤さん、現場に行ってみたらどうです?彼女たちが死んだ現場に行って、彼女たちの霊に直接聞いてみたらいいと思います」
 「あの場所に愛良と葵はまだいるのか?お前には、それが見えるのか?」
 「ええ、僕には霊感があるんですよ。彼女たちは、飛び降りた地面に根を張るように、ずっと佇んているです。そして、一日でも早く成仏できるのを待っているんですよ。多分、彼女たちを成仏させられのは西澤さんしかいないと思います」
 「そうか、俺はどうしたらいいんだ?」
 本当を言うと、細田には2人の霊は見えなかったが、妙な予感がした。きっと彼が行けば2人は出てきてくれるんじゃないかって。


 その日の夜、細田と西澤は校門で待ち合わせをして、あの場所へと向かった。
 「何もおきないじゃないか」
 「一度呼んだくらじゃ何も起きませんよ。でも西澤さんが心を込めて呼びかければ、きっと出てきてくれると思います」
 「あ、愛良、葵・・・」
 すると、西澤の言葉に呼応するように、姫乃と室戸の姿で青白いシルエットが浮かび上がった。
 「教えてくれ、お前たちは俺にどうしてほしいんだよ?」
 「私たちのどちらか一人を選んで。どっちがあなたの彼女か。そして口づけしてほしいの。そうしたら、成仏できる」
 西澤はおびえながらも、彼女たちに近づき、2人の顔を交互に見た。
 西澤は、覚悟を決めたのか、室戸の方に歩み寄った。
 その時、姫乃がいきなり目を見開いて、ものすごい形相で西澤をにらんだ。
 西澤が思い直したのか、姫乃へ顔を近づけた。
 でも、今度は、室戸がものすごい形相で西澤のことを見つめた。
 どちらかにキスしようとすると、また一方か呪い殺さんばかりの表情で、西澤のことをにらんできりがない。
 業を煮やしたのか、姫乃と室戸の霊は、それぞれ反対方向から西澤の腕をぐいぐいと引っ張った。
 「助け・・・」
 西澤は苦痛に顔をゆがめながら、細田に助けを求めたが、どうすることもできない。
 彼女たちは、西澤の腕を力任せにぐんぐんと引っ張る。
 ボキっと鈍く嫌な音が聞こえてきた。
 引っ張りすぎて腕の関節が外れたのだ。
 「痛いよ、やめてくれ!」
 いつしか腕から血が吹き出し、みしみしと肉がちぎれる音が聞こえます。
 まるで、戦国時代の拷問の牛裂きの形のようだ。両手両足を荒縄で牛に括り付け、それぞれ別の方向に思いっきり後ろ走らせるという。
 「あがぎゃあああ!!!」
 彼の悲痛な叫びとともに、両腕は夥しい血を噴き出しながらもげてしまった。両腕をもがれた西澤は血に塗れ、体をぴくぴくと痙攣させていた。
 室戸と姫乃の霊は、そんな西澤を見ながら悲しそうな顔をして、ふっと消えてしまった。
 校庭には腕をもがれて西澤と、ちぎれた両腕だけが残った。
 西澤は死んでおらず、苦しそうに涙とよだれを垂らしながら、のたうちまわっていた。
 「助けを呼んできてくれ、細田」
 細田は、その場にしゃがんで、じーっと西澤を見ていた。
 女の子にモテても、決して幸せじゃないんだ。だから、やっぱり一人でいるのが正しいんだ。そうやって細田は自分に言い聞かせた。
 みじめにのたうちまわる西澤を見ることで、細田は初めて優位に立てた気がした。
 「どうして?早く助けてくれよ」
 「きゃー、怖い、助けて」
 これだけ観察すればもう十分だと納得した細田は、大声で叫んで逃げ出した。
 逃げながら細田は、こぼれ出る笑いを隠せなかった。


 西澤さんが、あの後一人で立ち上がって助けを呼びに行き、助かった。
 何とか一命は取り留めたが、話は支離滅裂。自殺した女の子に両腕を奪われた。自分のことを取り合いになって、腕を引っ張ったらそのままちぎれてしまった。でも彼女たちは成仏できた。
 ねえ、誰も信じる?そんな面白い話。
 これで僕の話は終わりだよ。



 「ありがとうございました」
 坂上は姫乃と室戸の霊はその後どうなったんだろう、と考えながらふと視線をドアに向けたとき、ドアの隙間、ほんの数センチ開いた隙間から、青白い顔をした女の顔がこちらをじっと見つけていた。そして、目が合うと、その顔はしゅっとドアの奥に引っ込んでしまった。
 「見たんだね」
 細田がにやけた顔を坂上を見る。
 「あれはね、室戸さんの霊だよ。あの事件の後から気づくと、いつもどこでもどんな場所でも、ありとあらゆる隙間から彼女が僕のことを見ているんだ。もしかしたら、僕が秘密をしゃべったことを怒っているのかもしれない。そして、西澤さんがあんな目に遭うように仕向けたこと。でも、僕は幸せなんだ。だって西澤さんじゃなくて、ずっと僕だけのことを見てくれているんだものね。僕さ、モテないからさ。この際、相手が生きていようが死んでいようが関係ないの。たとえ悪霊だっていいじゃない?うふ、うふふ」


 エンディング№270:トイレの恋
 エンディングリスト28/656 達成度4%
 キャラクター数37/112 達成度33%
 イラスト数 18/272 達成度6%


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 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
 1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る
 2人目の岩下のシナリオ:窓枠の中で→エンディング№310~313を見る
 3人目は風間のシナリオ:下半身ババア→エンディング№168・169を見る


 4人目は荒井を選択!


 荒井昭二は2年B組の生徒。


 「よくある七不思議の話をしても面白くないでしょう?そうは思いませんか?」


  • よくある七不思議で結構です
  • そうですね
  • 友達の話はどうですか?


 「そうだ、人間の探求心について話をするというのはいかがですか。僕はね、享年の夏休みに面白い体験をしたのですよ。
 普通の日常を過ごしているだけでは、なかなか体験できない経験なのですが、あなたは、そういう体験は貴重だと思いますか」




 「その通りです。何事も体験してみなければわからないものです。
 しかし、やってみなければわからないからこそ、貴重な体験というのはあるのですよ。
 突然ですが、あなた、アルバイトをしたことはありますか?うちの学校で禁止されているのは重々承知ですよ。
 でもね、そんな規則を破ってまでしたいことってあるでしょう?
 例えばアルバイトを禁止されていても、何故するのでしょう?
 小遣いが少なくて自分の欲しいものが買えないからではなく、家計を助けるためにやむなくする場合もあるでしょう。
 知人が病気や事故に遭い、その手伝いをしなければならなくなった、そんな理由もあるでしょう。
 罰せられるとわかっていて、校則を破る行為をあなたは愚かだと思いますか?
 僕は愚かな人間ですから、勝てないんですよ、興味という欲望にね。
 思えば、恥の多い生涯を送ってきました。ところでね、坂上君なら、校則を破ってもいいと思いますか?」




 「そう言ってもらえると僕も話しがいがありますよ。
 それでは、ほんの小さな欲望をさえ抑えることができなかった愚かな僕が体験した話を聞いてください」


 去年、新井が1年生だった夏休みに、当時のクラスメイトだった中村晃久から悩み事を相談された。
 「僕は今とても困っているんだ。実はね、親戚が青森で牧場を経営しているんだけど、人手が足りないから手伝いにこないかと誘われているんだ。でも、学校はアルバイトが禁止されているだろ?だから困っているんだよ」
 「アルバイトは禁止されていますが、手伝いは禁止されていないでしょう?それに親戚ならなおさらでしょう?親戚の家に遊びに行って、家業の手伝いをしたらお小遣いを貰えたということはよくあるんじゃないですか?」
 「確かに荒井君のいう通りだよね。普通なら、そう簡単に考えれば何も悩む必要はないよね」
 「何か行きたくない理由でもあるのですか?」
 「ちょっと一人では行きにくいっていうか、場所が場所だけに特殊な環境だからさ。そうだ、荒井君、一緒に行こうよ。1日5千円は出すって言ってたよ。宿泊費や食費は掛からないんだ。三食ついて1か月間のアルバイトだから、かなり稼げると思うよ。みんなに聞こえちゃったかな。まあ、考えといてよ。返事は今度でいいから、じゃあ」


 「坂上君なら、このアルバイトをしたいと思いますか?」


  • やりたい
  • やりたくない
  • 他のバイトを探す


 「なるほど、あなたは僕と同じ選択をするのですね。僕も他のバイトを探すことにしたんですよ」→シナリオ:いみぐい村開始!


 荒井は夏休みのほとんどまるまるをアルバイトに費やすのは、あまりにも分の悪い賭けだと感じたので、後日、中村の申し出を断った。
 中村の申し出を断ったものの、荒井の中ではアルバイトを体験してみたいという気持ちが強く残っていた。
 校則で禁止されている行為を通じて、何か非日常的で好奇心で満たされる体験をしてみたいと、思ったからだ。
 手始めに、アルバイトの求人雑誌を見てみることにしたが、ページをめくれどありきたりな仕事なかりで、まったくそそられるものがない。
 バイト募集のチラシは掲示板にも目を通すうようにしたが、やはりこれといって興味の惹かれる奇特なものはなかった。
 よくよく考えてみれば、非日常を得られる変わった仕事が、すぐに目につくような場所で募集しているわけがなかった。
 中村の誘いを無碍にしたことを少し後悔し始めていた時、クラスメイトの袖山勝が休み時間に話しかけてきた。
 袖山は、当時荒井と同じサッカー部で仲良くしていた。


 「荒井君、アルバイト探しているの?」
 「どこで聞いたの?」
 「中村君がクラス中に牧場でもアルバイトを誘いまわっていてね。そのとき荒井君が彼の申し出を断ったことを聞いたんだ。『荒井君はもっと割のいいバイトがいいに違いない』って中村君は言ってたよ。もしかしたら彼の言う通り、良い働き口を探しているのかと思ってね」
 「別にお金の所為で中村君の話を断ったわけじゃないよ。ただ僕はもっと自分がやりたいことをしたいだけなんだ」
 「うん、荒井君はそういう人だと思っていたよ。だから君が気に入りそうなとっておきの話を持ってきたんだ。
 今度、僕の遠い親戚の住むいみぐい村というところでお祭りがあるんだ。その手伝いを募集しているらしいだけど、興味ないかな。祭り自体は2日間で、準備を入れて3日間手伝ってほしいんだって」
 祭りと聞いた荒井は、よくある縁日のイメージが浮かんだが、『とっておき』というほどのものではないように感じた。
 荒井の顔から落胆を読み取った袖山は、「祭りと言っても夏祭りにような露店が出るにぎやかなものじゃないよ。どちらかというと、民族的はものさ。昔ながらの儀式をして神様を祀る、厳かな祭りだって」と続けた。
 「なんでも50年前に途絶えていたものを村おこしのために復活させるらしい。村には人も少ないし、その次はいつ祭りを開催できるかわからないんだってさ」
 「つまりその祭りを見るのは、今年が最後のチャンスからもしれないってことかい?」
 「そうなるね。どんな手伝いをするか、詳しいことは行ってみないとわからないんだけど、もちろん報酬も出るらしいよ」
 半世紀も途絶えていた祭りをこの目で無ることができるなんて、非常に価値のあることだと荒井は感じた。
 この機会を逃すと、もう一生こんな体験をできないかもしれない。アルバイトは校則で禁止されていることは、どうでもよくなっていた。
 仮に校則を破って咎められようとも、祭りを見るついでに少し手伝いを頼まれただけ、と主張すればいいだけだ。
 「どうだい?」
 「もちろんぜひとも行きたいけれど、僕のような部外者が手伝っても大丈夫なの?」
 「問題ないよ。さっきも言った通り、村おこしのための祭りだからね。いろんな人に知ってほしいし、人手も少ないから友達を呼んでくれないかと親戚から言われたんだ」
 荒井は、袖山から詳しい日時と村の場所を聞きながら、何十年も前に繰り広げられていたのであろう素朴で厳格な祭礼の儀を頭に思い浮かべていた。


 夏休みに入り、約束の日になった。両親には友人と旅行に行くと伝えて、二泊三日分の荷物をバッグに詰め、荒井は袖山と駅で待ち合わせをして電車に乗り込んだ。
 袖山から聞いたいみぐい村という名前と村の場所から、事前に祭りのことを調べようと、何度も図書館に足を運んだが、荒井が欲しい情報はまったく出てこなかった。


 「一緒に来てくれてありがとう。実は親戚といってもほとんど会ったことのない人だから、一人で行くのは心細かったんだ」
 荒井と袖山は、他愛のない話をしながら目的地へ向かっていた。
 数時間電車に乗ったあと、荒井たちはひっそりと佇む無人駅に降りた。その駅で降車したのは荒井たちしかしなかった。
 荒井たちは、駅の近くから出る小さなバスに急いで乗った。目的の場所まで向かうバスは日に2本しかないので、これを逃すと大変なことになる。
 バスには乗客は乗っていませんでした。
 バスの運転手が物珍し気に見て、少し微笑んだ。「
 「お客さんたち、どこまで行くの?」
 「いみぐい村まで。祭りの手伝いに行くんです」
 「あそこはいいとこだよ、けどお祭りなんであったかなあ」
 久しく執り行われていなかった祭りですから、知られていなくても不思議ではない。
 バスが進む間、人はおろか他の車とも一切すれ違いません。
 目的のバス停まで30分ほどバスは山道を進み、いよいよいみぐい村にたどり着いたときは、日は西側に傾きかけていた。


 バス停では、袖山君の親戚夫婦が出迎えてくれていた。
 袖山「お久しぶりです。わざわざ迎えに来ていただいてありがとうございます」
 おじ「遠いところからよく来たね」
 おば「久しぶりねえ、勝君。前にあったときはうんと小さかったものね。あなたはお友達の荒井君かしら?」
 荒井「初めまして、荒井昭二と申します。3日間よろしくお願いいたします」
 年齢は初老に入りかけた頃だろうか。二人とも柔和で優しそうな人でした。
 バス停の周りには一面の畑が広がっており、まるで毛並みの良い緑の絨毯が敷き詰められているように立派な野菜が育っていた。
 背の高い建物なんて一つもなく、見上げた先にあるのは遠くまでつらなく山々と高い青空だけで、とても美しいものだった。


 バス停からしばらく歩いた先、トマトが多く実る畑に囲まれた二人の家があった。
 昔ながらの木造建築で、鍵を使わずそのまま玄関の扉か開いていたので、荒井たちは驚いた。
 この村には家に鍵をかける習慣がないようだった。盗られるものは何もないし、盗みを働くような悪人は村にいないからという理由だそうだ。
 2階に客用の部屋があるから自由に使ってね、と夫妻は行ってくれたので、荒井たちは荷物を置いて、夫妻の待つ1階へ降りた。
 「来てもらってすぐで悪いんだが、さっそく祭りの手伝いをしてもらってもいいかな?」と、色の濃いお茶を出しながらおじさんは申し訳なさそうに言いました。
 村で採れる葉を煮出して作ったものらしく、一口飲むとすっきりとした味わいが広がった。


 この近くにある村の寄り合い場で準備は行われいるとのことで、親戚夫婦は村の紹介がてらに連れて行ってくれた。
 寄り合い場はいみぐい村自治会館と書かれた札が掛けられた場所で、他の家より少し大きいくらいの民家だった。
 玄関の靴箱はすでにいっぱいになっており、荒井たちはそこへ靴をそろえて入れた。
 中に入ると、大きな広間になっており、何やら作業をしている20人ほどの老人たちが、一斉に振り返って荒井たちを見たが、若者は一人はいなかった。
 「おやあ、君らが手伝いに来てくれた子たちか?ありがとうねえ」と一人のおじいさんが微笑みながらそう言った。
 彼らは口々に労いの言葉を言い、笑いかけてくれた。
 曰く、都会から離れたこの村では過疎化が進み、若い人のほとんどは村から出て行ってしまっているようです。
 手伝いの内容は、銅で作られた小さな鈴に、編み込まれた紐を通りて吊り下げるというものです。
 鈴は親指大の小さなものでしたが、祭りで使うものだと聞くと、なんとなしに神秘的なものであるかのように見えた。
 鈴に通す紐の編み込み方は、周りの老人方に教えてもらった。数世紀前から村に伝わる独特な編み方だそうだが、近年になるにつれだんだんと簡略化されて、荒井たちでもできるものだった。
 その鈴を何百個ほどこしらえていくのです。量を思うと気の遠くなる作業だった。
 よく見ると、広間には鈴を作る班とは別に、何やらお面を作る班もいるようだった。
 お面班の方を盗み見ると、老人たちは木彫りの四角い面に絵の具と筆で青い化粧を施しているところだった。
 「すみません、この鈴とあのお面は、いったい祭りにどうやって使うのですか?」と荒井は近くで作業しているおばあさんに尋ねた。
 「これかい?これはね、神様をお呼びするための鈴なのよ。お面は、神様を安心させてあげるためのものだね」
 「それは、この村の神様ということでしょうか?」
 「そうそう、この村の名前の由来にもなったいみぐい様を呼ぶためのものでねえ。久しぶりのお祭りだから、失礼のないようにしなくちゃね」
 それを聞いた荒井は、木彫りのお面を被りながら鈴を一心不乱に鳴らす村人たちの姿を想像した。


 あなたはどう感じますか?
 都会と比べて不便なところはありますが、住民がみな家族同然のように仲が良くて、温かみがある村を。
 閉塞的と言えるかもしれませんが、裏を返せば一つ一つの繋がりが密ということなのです。
 坂上君は、今までの話を聞いてこの村をどう思いましたか?




 おや、そうですか。坂上君は、あまりそそられないのですね。
 ですが、僕はあそこで貴重な体験ができましたから、やはり行って良かったと思っていますよ。


 荒井はさっきのおばあさんに再び質問をした。
 「いみぐい様とはどんな神様なのですか?どんな姿をしているのでしょうか」
 「そりゃあもう、口では表せないほどの美しさだよ。
 あんたらもいみぐい様のお姿を見たらそう思うに違いないよ。私も最後に見たのは50年前だからねえ、楽しみで楽しみで仕方ないよ」
 周りの老人たちも彼女に続いて頷き始めました。
 「一度見たら忘れられない美しさじゃ」
 「もう一度お姿を拝見できるなら、もう死んでも後悔はない」
 「ありがたや、ありがたや」と、ついに泣き出す老人もいるほどだった。
 荒井たちが困惑していると、次第にぎり、ぎりぎり・・・という何かを擦るような音が聞こえてきた。
 それは歯ぎしりの音だった。周りにいる老人たちがみな、歯を食いしばり、すり合わせているのだった。
 その時、広間の壁にかけられた古時計がぽーん、ぽーんと17時を告げた。
 その音に、村人たちは我に返ったようで、ハッと顔を上げ、「もうこんな時間かぁ」と誰かが言い、元の通り、穏やかな空気があたりを包んだ。


 その後、荒井たちは作り上げた鈴とお面を祭り会場までもっていくことになった。
 寄り合い場からでたときはすでに夕暮れ時になっていた。
 みんなで袖山のおじが運転するトラックの荷台に、鈴とお面を入れた段ボールを詰め込んだ。
 すべての段ボールを運び終わり、トラックが出発するときには、もう夕日が沈みそうな頃合いだった。
 荒井、袖山、おじの3人一緒にトラックに乗り込み、祭り会場へと向かった。
 おばは夕食の支度があるので家に戻った。

 祭り会場は、寄り合い場から車で10分ほどの距離にあった。
 そこでままた数十人ほどの老人たちが、テントや小さな舞台の設営など、明日に向けて準備を行っている最中だった。
 「村長、こっちの道具の準備は終わりました。設営は順調ですか?」
 「おう、会場の方はなんとかなるだろう、ただいくらこっちの首尾がうまくいっても『あちら』がな」
 おじに促されて、村長と呼ばれた老人に挨拶すると、村長は豪快に笑った。
 「おお、わざわざ来てくれた子たちか、ありがとうな。
 どうだ、この村は?都会と比べるとなんもないところだが、ゆっくりしていってくれ。なんならずっといてくれると嬉しいな」
 荒井は、「先ほど言っていた『あちら』とはなんのことでしょうか」と尋ねた。
 「実はな、祭りの2日目、つまり明後日だが、いみぐい様を模したものを使った催しをしようと思っていてなあ。なかなかいみぐい様の美しさが再現できないもんで、四苦八苦しとるんだ」
 袖山も会話に加わり、「寄り合い場にいた人たちも言っていたんですが、いみぐい様はとても美しいそうですね」と言った。
 「そうだ、あの美しさを前にしては誰も何も言えなくなる」
 「それは是非とも見てみたいです、ねえ荒井君」
 「そうだね」と荒井は答えた。
 今日はもう暗くなるからと準備は中断し、鈴とお面を詰めた大量のダンボールは会場の簡易テントの下に運び込むことにしたが、荒井たちはへとへとだった。
 一方老人たちはきびきびと動いている。
 荒井は、「元気の秘訣はなんですか?」と近くで一息ついているおじいさんに尋ねた。
 おじいさんは「そうだなあ、やっぱりいみぐい様をいつも拝んでいるおかげだろうな」と答えた。
 それを聞いた荒井は、いみぐい様の姿見たくてたまらなくなっていた。


 その後、残りの準備は明日の互選中にしようということになり、荒井たりはおじの家に帰った。
 晩御飯は、おばが作ったカレーで大変おいしいものだったが、一つだけおかしなところがあった。
 おじ夫婦はスプーンでカレーを口に運ぶ際、二人とも口をできるだけ動かさずに食べるのです。
 もちろんまったく口を開けずに食べることができないので、ほんの少し唇を開き、その隙間から吸うようにして食べており、ずず、ずず、と吸う音が荒井たちの耳の届いていた。
 一頬ばりカレーを口に含んだ後、また口をできるだけ動かさず、歯ですりつぶすようにして咀嚼し、時折、歯が必要以上に擦れ合う不快な音も聞こえてきた。
 ひどく食べにくそうにしており、食事時間はとても長いもので食べ終わる頃には、料理は冷めきってしまったいた。
 荒井たちはお風呂に入り、もやもやとした気持ちのまま寝入ってしまった。


 翌日の午前中、荒井たちが会場に着いたこるには、もうほとんどの村人たちが集まっていた。
 休憩をはさみつつ、午後からいよいよ待ちに待った祭りが始まった。
 祭りの開催について村長の簡単な挨拶が終わったあと、舞台の上に神輿が運ばれてきた。
 その神輿の中に、一人一人が昨日用意した鈴をいみぐい様の感謝の気持ちをともに入れていく、というのが儀式の概要だった。
 神輿の屋根の部分が取り外しのできる蓋になっており、そこから中へ順番に鈴を入れ行く。
 荒井の番になり、鈴を入れるため神輿を覗き込むと、多くの鈴が詰め込まれていた。
 鈴を投げ込んでから、目をつむり手を合わせる。
 その時、ふと、いみぐい様はよそ者である自分たちのことをどう思っているのだろう?と疑問がわき、目を開けると、神輿の中に虫の卵がびっしりと詰まっていた。
 思わず後ずさりした荒井に、大丈夫と袖山が声を掛けてきた。
 我に返った荒井は、もう一度神輿の中を見ると、鈴が敷き詰められているだけだった。
 荒井の次に袖山が神輿に向かっているときに、隣にいた老人が「なんか見たんか?」と荒井に話しかけてきた。
 「いいえ、何も」と荒井が答えたが、老人は「何が見えた?」と荒井が何か見てしまったことを前提にした質問をしてくる。
 荒井は内心腹立たしい気持ちになりながら、「いいえ、何も」と答えた。
 袖山は特に何事もなく戻ってきた。


 やがて鈴でいっぱいになった神輿は、村人たちが担ぎ、村中をゆっくりと回っていった。
 先頭にたった村長が、いみぐい様への祝詞のようなものを歌い上げ、荒井たちは神輿のあとを歩いた。
 村人たちは神輿を担ぐ役を交代していき、荒井も担がせてもらった。
 ところで神輿とは本来、普段は神社灘のおわす神様が、祭りの際一時的にその身を移すとされるものだ。ですから、今このときにいみぐい様は神輿の中にいらっしゃるということなのだ。


 時折休憩を織り交ぜつつ、村を一周するころには、夕方近くになっていた。
 会場に戻り、今日はここで解散ということになった。
 二日目への英気を養うという名目のもと、今日は広場で軽い宴会が開かれるとのことだった。
 休憩をしていると、村長から「すまんが、ちょっといいか?明日の準備で少し見てほしいもんじょがあってな。悪いが、うちの蔵まで来てくれないか?」と声を掛けられた。


 村長の家は。この村の中央付近にある、小高い丘の上にあった。
 大きな蔵の扉には、重厚な閂がかかっていた。
 玄関には鍵をかける風習がないとのことから、よほど重要なものが保管されているのだろうと察せられた、
 閂を開くと、中から果物を存分に腐らせたかのような甘みのある悪臭が漂ってきて、袖山は「なんだかいい香りがするね」と言って、ふらふらと進もうとしていた。
 村長に言われるがまま、荒井たちは奥へ奥へと進んでいった。
 やがて蔵には似つかわしくない鉄格子が嵌め込まれているのが見えてきた。その向こうには人が一人寝泊りできるスペースがあろ、まるで座敷牢のようだった。
 そこで何かが蠢いていました。姿は人ですが、腕と足は針金のように黒みががってやせ細り、腹部だけが異様な丸みを帯びていた。唇は糸で固く縫われており、ほとんど開けないようにされていた。
 最も異様なのは目で、頭部に大きく膨らんだ複眼を3つ持っていた。
 それもただの複眼ではなく、人間の眼球が何十個も集まっており、その一つ一つがあらゆく方向に忙しく動いていた。
 そいつは、細長い手をすり合わせ、落ち着きなく体を震わせて、無理やり閉じられた口からあぎりぎりとい不快な歯ぎしりの音が漏れ出ていた。


 「美しいだろ。これがいみぐい様だ」と村長が後ろで言った。
 荒井が振り返ると、村長は昨日鈴と一緒に作ったお面を被っていた。
 「いみぐい様を作り出すのは本当に難しい。以前から50年もかかってしまったが、なんとか完成したよ。
 多くの個体がここまで大きくなる前に死んでしまうんでな。
 とにかく、これでこの村はまだしばらく安泰だ。どうだ?このお姿は。いままで見たこともない美しさだろう。
 そうだ、このお面を被ってくれ。
 これがないといみぐい様は我々のことを怖がってしまう」
 村長は自分のつけているものと同じお面を手渡してきてが、荒井は従う気にはなれない。
 「明日の祭でお披露目するつもりだったんだが、君達には早くみせてあげたくてな。わざわざ遠くから来てくれたお礼だよ」
 荒井は醜悪なフォルムに辟易としていたが、袖山はそうではないようで、「なんて綺麗なんだろう」と言って。お面をつけて食い入るようにいみぐい様を見つめていた。
 「荒井君も近くで見てみなよ!凄すぎて言葉が見当たらない」
 「袖山君、本当に美しいと思っているの?」
 「何を言っているんだよ。荒井君こそどうしたんだい、いみぐい様の前でそんな顔をしてはいけないよ」
 荒井にはどうしても虫の化け物にしか見えないのに、他の人には別の姿が見えているのだろうか?
 村長は、「遅くならんようにな」と言って蔵を出て行ってしまった。
 「袖山君、もう行こう。それにこの村からも早くでしょう。ここはちょっとおかしいよ」
 「どうしてそんなことを言うんだよ。お祭りは明日もあるんだよ」
 「だって、それはどう見ても化け物・・・」
 「いみぐい様に対して失礼なことを言うなよ!」
 「わかった、僕だけでも帰るよ。袖山君も、何かあったらすぐ帰った方がいい」
 「そうしなよ。みんなには僕が謝っておくからさ」
 悪臭にも耐えかねて、荒井はその場にお面を置いて蔵を出た。
 この臭いはいみぐい様から放たれる一種のフェロモンのようなものだろう。それに袖山は囚われてしまったようだった。


 荒井は荷物を取りにおじの家に戻った。
 そして、バスの最終便の時間が迫っているので、足早に家を出た。
 村はずれの停留所にやってきたバスに乗り込むと、来た時と同じ人が運転手を務めており、こちらを覚えていたらしく、「おや、お友達はどうしたんだい?」と驚いたように聞いてきた。
 「もう少し、この村にいるようです。ずいぶん居心地がいいそうで」
 「そうかぁ、ここはいい村だからねえ」
 「・・・そうですね」
 そうして、荒井は一人でいみぐい村を離れた。


 「袖山君ですが?残念ながら、彼はまだ帰ってきてません。よっぽどあの村が気に入ったのでしょうね。
 後日、袖山君の両親のもとに『夏休み中ずっと滞在することになったから、心配しないで』と電話がかかってきたらしいですよ
 奇妙なことに、電話の向こうから袖山君の声に混じって、まるで歯ぎしりのような音が聞こえてきていたらしいです。
 それから、夏休みが明けても袖山君が帰ってくることはありませんでした。心配した彼の両親がいみぐい村に向かうと、それにはもう誰もいなかったようですよ。
 いくらくまなく探し回っても、村にある家や畑はそのままに、人間だけが忽然と消えてしまったみたいだったと
 もちろん警察に相談し、捜索隊も組まれましたが、結局何一つわからずじまいで、今も未解決事件として捜査されています。
 去年ニュースでも取り上げられた話題ですから、あなたたちも見たことがあるのではないですか?
 そうそう、村人は消えてしまいましたが、広場に放置された神輿の中から、謎の卵が大量に見つかったそうです。そのどれもが孵化した状態でね
 辺りには腐った果物のような臭いが漂っていたそうです。僕はいみぐい様の復讐だと思っています。
 あの生き物のことなんて何もわからないのですが、僕が見た時のあれの目は、自分を閉じ込めている村人への怨念が込められたものに見えましたから
 坂上君、おかしいのは袖山君だったのでしょうか、それとも僕だったのでしょうか?
 あの村の人たちは奇妙なところはありましたが、僕らに対しては悪い人ではありませんでした。
 どちらかというと、途中で手伝いを放り出して逃げ帰った僕こそ礼儀の欠けた悪い奴でしよう。
 実は、僕はまたあの村に行きたいと思っているんですよ。その時にいみぐい様が僕の目にどう映るのか。
 あれは美しいと思えたとき、はじめて袖山君と仲直りでいる気がするんです。もうあの村に行っても誰もいないんですけどね。
 これで僕が体験した不可思議な夏の話は終わりです。興味があれば、今度いみぐい村までご案内します」


 エンディング№75:忌身喰様
 エンディング数27/656 達成度4%
 イラスト数17/272 達成度6%


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 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
 1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る
 2人目の岩下のシナリオ:窓枠の中で→エンディング№310~313を見る
 3人目は風間のシナリオ:下半身ババア→エンディング№168・169を見る


 4人目は荒井を選択!


 荒井昭二は2年B組の生徒。


 「よくある七不思議の話をしても面白くないでしょう?そうは思いませんか?」


  • よくある七不思議で結構です
  • そうですね
  • 友達の話はどうですか?


 「そうだ、人間の探求心について話をするというのはいかがですか。僕はね、享年の夏休みに面白い体験をしたのですよ。
 普通の日常を過ごしているだけでは、なかなか体験できない経験なのですが、あなたは、そういう体験は貴重だと思いますか」


  • どんな体験かにもよります
  • 何でも体験するべきですよね
  • 貴重といえば海外旅行ですか?


 「ずいぶんと慎重なのですね、あなたは。しかし、慎重な性格は新たな刺激を得られないということの証でもあるのですよ。
 勇気をもって一歩踏み出す、好奇心が何ものにも勝る、だからこそ手に入る報酬は至高の勲章なのですよ。
 突然ですが、あなた、アルバイトをしたことはありますか?うちの学校で禁止されているのは重々承知ですよ。
 でもね、そんな規則を破ってまでしたいことってあるでしょう?
 例えばアルバイトを禁止されていても、何故するのでしょう?
 小遣いが少なくて自分の欲しいものが買えないからではなく、家計を助けるためにやむなくする場合もあるでしょう。
 知人が病気や事故に遭い、その手伝いをしなければならなくなった、そんな理由もあるでしょう。
 罰せられるとわかっていて、校則を破る行為をあなたは愚かだと思いますか?
 僕は愚かな人間ですから、勝てないんですよ、興味という欲望にね。
 思えば、恥の多い生涯を送ってきました。ところでね、坂上君なら、校則を破ってもいいと思いますか?」


  • 絶対に駄目
  • 破るのも人生です
  • 恥の多い生涯と送るって、もしかして、それは?


 「ええ、あなたならそう答えると思いましたよ。見るからに真面目そうな方ですから。
 僕ですか?さあ、どうでしょう。それは話を続きを聞けば、わかるかもしれません」


 去年、新井が1年生だった夏休みに、当時のクラスメイトだった中村晃久から悩み事を相談された。
 「僕は今とても困っているんだ。実はね、親戚が青森で牧場を経営しているんだけど、人手が足りないから手伝いにこないかと誘われているんだ。でも、学校はアルバイトが禁止されているだろ?だから困っているんだよ」
 「アルバイトは禁止されていますが、手伝いは禁止されていないでしょう?それに親戚ならなおさらでしょう?親戚の家に遊びに行って、家業の手伝いをしたらお小遣いを貰えたということはよくあるんじゃないですか?」
 「確かに荒井君のいう通りだよね。普通なら、そう簡単に考えれば何も悩む必要はないよね」
 「何か行きたくない理由でもあるのですか?」
 「ちょっと一人では行きにくいっていうか、場所が場所だけに特殊な環境だからさ。そうだ、荒井君、一緒に行こうよ。1日5千円は出すって言ってたよ。宿泊費や食費は掛からないんだ。三食ついて1か月間のアルバイトだから、かなり稼げると思うよ。みんなに聞こえちゃったかな。まあ、考えといてよ。返事は今度でいいから、じゃあ」


 「坂上君なら、このアルバイトをしたいと思いますか?」


  • やりたい
  • やりたくない
  • 他のバイトを探す


 「なるほど、あなたは僕と同じ選択をするのですね。僕も他のバイトを探すことにしたんですよ」→シナリオ:いみぐい村開始!


 荒井は夏休みのほとんどまるまるをアルバイトに費やすのは、あまりにも分の悪い賭けだと感じたので、後日、中村の申し出を断った。
 中村の申し出を断ったものの、荒井の中ではアルバイトを体験してみたいという気持ちが強く残っていた。
 校則で禁止されている行為を通じて、何か非日常的で好奇心で満たされる体験をしてみたいと、思ったからだ。
 手始めに、アルバイトの求人雑誌を見てみることにしたが、ページをめくれどありきたりな仕事なかりで、まったくそそられるものがない。
 バイト募集のチラシは掲示板にも目を通すうようにしたが、やはりこれといって興味の惹かれる奇特なものはなかった。
 よくよく考えてみれば、非日常を得られる変わった仕事が、すぐに目につくような場所で募集しているわけがなかった。
 中村の誘いを無碍にしたことを少し後悔し始めていた時、クラスメイトの袖山勝が休み時間に話しかけてきた。
 袖山は、当時荒井と同じサッカー部で仲良くしていた。


 「荒井君、アルバイト探しているの?」
 「どこで聞いたの?」
 「中村君がクラス中に牧場でもアルバイトを誘いまわっていてね。そのとき荒井君が彼の申し出を断ったことを聞いたんだ。『荒井君はもっと割のいいバイトがいいに違いない』って中村君は言ってたよ。もしかしたら彼の言う通り、良い働き口を探しているのかと思ってね」
 「別にお金の所為で中村君の話を断ったわけじゃないよ。ただ僕はもっと自分がやりたいことをしたいだけなんだ」
 「うん、荒井君はそういう人だと思っていたよ。だから君が気に入りそうなとっておきの話を持ってきたんだ。
 今度、僕の遠い親戚の住むいみぐい村というところでお祭りがあるんだ。その手伝いを募集しているらしいだけど、興味ないかな。祭り自体は2日間で、準備を入れて3日間手伝ってほしいんだって」
 祭りと聞いた荒井は、よくある縁日のイメージが浮かんだが、『とっておき』というほどのものではないように感じた。
 荒井の顔から落胆を読み取った袖山は、「祭りと言っても夏祭りにような露店が出るにぎやかなものじゃないよ。どちらかというと、民族的はものさ。昔ながらの儀式をして神様を祀る、厳かな祭りだって」と続けた。
 「なんでも50年前に途絶えていたものを村おこしのために復活させるらしい。村には人も少ないし、その次はいつ祭りを開催できるかわからないんだってさ」
 「つまりその祭りを見るのは、今年が最後のチャンスからもしれないってことかい?」
 「そうなるね。どんな手伝いをするか、詳しいことは行ってみないとわからないんだけど、もちろん報酬も出るらしいよ」
 半世紀も途絶えていた祭りをこの目で無ることができるなんて、非常に価値のあることだと荒井は感じた。
 この機会を逃すと、もう一生こんな体験をできないかもしれない。アルバイトは校則で禁止されていることは、どうでもよくなっていた。
 仮に校則を破って咎められようとも、祭りを見るついでに少し手伝いを頼まれただけ、と主張すればいいだけだ。
 「どうだい?」
 「もちろんぜひとも行きたいけれど、僕のような部外者が手伝っても大丈夫なの?」
 「問題ないよ。さっきも言った通り、村おこしのための祭りだからね。いろんな人に知ってほしいし、人手も少ないから友達を呼んでくれないかと親戚から言われたんだ」
 荒井は、袖山から詳しい日時と村の場所を聞きながら、何十年も前に繰り広げられていたのであろう素朴で厳格な祭礼の儀を頭に思い浮かべていた。


 夏休みに入り、約束の日になった。両親には友人と旅行に行くと伝えて、二泊三日分の荷物をバッグに詰め、荒井は袖山と駅で待ち合わせをして電車に乗り込んだ。
 袖山から聞いたいみぐい村という名前と村の場所から、事前に祭りのことを調べようと、何度も図書館に足を運んだが、荒井が欲しい情報はまったく出てこなかった。


 「一緒に来てくれてありがとう。実は親戚といってもほとんど会ったことのない人だから、一人で行くのは心細かったんだ」
 荒井と袖山は、他愛のない話をしながら目的地へ向かっていた。
 数時間電車に乗ったあと、荒井たちはひっそりと佇む無人駅に降りた。その駅で降車したのは荒井たちしかしなかった。
 荒井たちは、駅の近くから出る小さなバスに急いで乗った。目的の場所まで向かうバスは日に2本しかないので、これを逃すと大変なことになる。
 バスには乗客は乗っていませんでした。
 バスの運転手が物珍し気に見て、少し微笑んだ。「
 「お客さんたち、どこまで行くの?」
 「いみぐい村まで。祭りの手伝いに行くんです」
 「あそこはいいとこだよ、けどお祭りなんであったかなあ」
 久しく執り行われていなかった祭りですから、知られていなくても不思議ではない。
 バスが進む間、人はおろか他の車とも一切すれ違いません。
 目的のバス停まで30分ほどバスは山道を進み、いよいよいみぐい村にたどり着いたときは、日は西側に傾きかけていた。


 バス停では、袖山君の親戚夫婦が出迎えてくれていた。
 袖山「お久しぶりです。わざわざ迎えに来ていただいてありがとうございます」
 おじ「遠いところからよく来たね」
 おば「久しぶりねえ、勝君。前にあったときはうんと小さかったものね。あなたはお友達の荒井君かしら?」
 荒井「初めまして、荒井昭二と申します。3日間よろしくお願いいたします」
 年齢は初老に入りかけた頃だろうか。二人とも柔和で優しそうな人でした。
 バス停の周りには一面の畑が広がっており、まるで毛並みの良い緑の絨毯が敷き詰められているように立派な野菜が育っていた。
 背の高い建物なんて一つもなく、見上げた先にあるのは遠くまでつらなく山々と高い青空だけで、とても美しいものだった。


 バス停からしばらく歩いた先、トマトが多く実る畑に囲まれた二人の家があった。
 昔ながらの木造建築で、鍵を使わずそのまま玄関の扉か開いていたので、荒井たちは驚いた。
 この村には家に鍵をかける習慣がないようだった。盗られるものは何もないし、盗みを働くような悪人は村にいないからという理由だそうだ。
 2階に客用の部屋があるから自由に使ってね、と夫妻は行ってくれたので、荒井たちは荷物を置いて、夫妻の待つ1階へ降りた。
 「来てもらってすぐで悪いんだが、さっそく祭りの手伝いをしてもらってもいいかな?」と、色の濃いお茶を出しながらおじさんは申し訳なさそうに言いました。
 村で採れる葉を煮出して作ったものらしく、一口飲むとすっきりとした味わいが広がった。


 この近くにある村の寄り合い場で準備は行われいるとのことで、親戚夫婦は村の紹介がてらに連れて行ってくれた。
 寄り合い場はいみぐい村自治会館と書かれた札が掛けられた場所で、他の家より少し大きいくらいの民家だった。
 玄関の靴箱はすでにいっぱいになっており、荒井たちはそこへ靴をそろえて入れた。
 中に入ると、大きな広間になっており、何やら作業をしている20人ほどの老人たちが、一斉に振り返って荒井たちを見たが、若者は一人はいなかった。
 「おやあ、君らが手伝いに来てくれた子たちか?ありがとうねえ」と一人のおじいさんが微笑みながらそう言った。
 彼らは口々に労いの言葉を言い、笑いかけてくれた。
 曰く、都会から離れたこの村では過疎化が進み、若い人のほとんどは村から出て行ってしまっているようです。
 手伝いの内容は、銅で作られた小さな鈴に、編み込まれた紐を通りて吊り下げるというものです。
 鈴は親指大の小さなものでしたが、祭りで使うものだと聞くと、なんとなしに神秘的なものであるかのように見えた。
 鈴に通す紐の編み込み方は、周りの老人方に教えてもらった。数世紀前から村に伝わる独特な編み方だそうだが、近年になるにつれだんだんと簡略化されて、荒井たちでもできるものだった。
 その鈴を何百個ほどこしらえていくのです。量を思うと気の遠くなる作業だった。
 よく見ると、広間には鈴を作る班とは別に、何やらお面を作る班もいるようだった。
 お面班の方を盗み見ると、老人たちは木彫りの四角い面に絵の具と筆で青い化粧を施しているところだった。
 「すみません、この鈴とあのお面は、いったい祭りにどうやって使うのですか?」と荒井は近くで作業しているおばあさんに尋ねた。
 「これかい?これはね、神様をお呼びするための鈴なのよ。お面は、神様を安心させてあげるためのものだね」
 「それは、この村の神様ということでしょうか?」
 「そうそう、この村の名前の由来にもなったいみぐい様を呼ぶためのものでねえ。久しぶりのお祭りだから、失礼のないようにしなくちゃね」
 それを聞いた荒井は、木彫りのお面を被りながら鈴を一心不乱に鳴らす村人たちの姿を想像した。


 あなたはどう感じますか?
 都会と比べて不便なところはありますが、住民がみな家族同然のように仲が良くて、温かみがある村を。
 閉塞的と言えるかもしれませんが、裏を返せば一つ一つの繋がりが密ということなのです。
 坂上君は、今までの話を聞いてこの村をどう思いましたか?


  • 良い村だと思う
  • あまり行きたいとは思わない


 僕も確かに、その時までは素晴らしいところだと思っていましたよ。


 荒井はさっきのおばあさんに再び質問をした。
 「いみぐい様とは、どんな神様なんでしょうか?いみぐい様にまつわる話を教えてくれませんか」
 「いみぐい様はねえ、この村がまだなめをない集落だったころ、大飢饉の襲われたとき救いの手を差し伸べてくださった神様さ。
 海から川へ上ってやってきて、飢えた村人たちにご自身の身を一部切り取って与えてくれたそうな。
 いみぐい様の身を食べた村人たちはたちまち元気になって、以降健康に過ごしていたといわれとる。
 村が活力を取り戻したのを見届けて、いみぐい様はまた川を上って帰っていったらしい」
 「なるほど、この村が今もあるのは、いみぐい様のおかげというわけですね」
 「そうさ、感謝の心を忘れずにいないとねえ」
 「その恩義を形にするのが明日からの祭ということですね。いみぐい様がやってきた大昔というと、何年ごろの話になるのでしょうか?」
 「ええっと、確か・・・1500年ごろだとか・・・」
 おばあさんがそう口ごもったときのことです。周りにいる老人たちの目つきがさっと変わった。
 「何をあいまいなことをいうとる?1522年に決まっとるわい」
 「そうじゃ、ばあさん、ボケが来たか?」
 「いみぐい様がおいでなさった年を忘れるとは」
 「どうなっても文句を言えん」
 「まったくありえない」
 こんなことを老人たちは口々に言った。
 気が付けば、広間にいる老人全員が作業を止めて、おばあさんは睨んでいた。
 おばあさんはすっかり委縮して黙り込み、先ほどの和気あいあいとした雰囲気とは打って変わって、なんとも重苦しい空気が寄り合い場を支配していた。
 「あの、教えてくださってありがとうございます。いみぐい様についてもっと知りたいのですが、どなたに聞けばいいでしょうか」と居心地の悪い空気をどうにか打破したくて、荒井はそう言った。
 「いみぐい様のことなら、みーんなよく知っとるよ。しかし、一番っつったら、やっぱり村長だな。ちょうど祭り会場におると思うから、あとで聞いてみい」と初めに話しかけてくれたおじいさんが柔らかく言った。
 張りつめていた空気が嘘だったように、朗らかにおじいさんは笑っています。
 他の老人たちももう元の優しい顔に戻っていましたが、詰め寄られたおばあさんだけは、何か本当にとんでもない罪を犯してしまったように、相変わらずうつむいたままった。


 その後、荒井たちは作り上げた鈴とお面を祭り会場までもっていくことになった。
 寄り合い場からでたときはすでに夕暮れ時になっていた。
 みんなで袖山のおじが運転するトラックの荷台に、鈴とお面を入れた段ボールを詰め込んだ。
 すべての段ボールを運び終わり、トラックが出発するときには、もう夕日が沈みそうな頃合いだった。
 荒井、袖山、おじの3人一緒にトラックに乗り込み、祭り会場へと向かった。
 おばは夕食の支度があるので家に戻った。


 「あの責められていたおばあさん、いつの間にかいなくなってたね」
 「ちょっと気まずくなってしまったから、先に帰ったんじゃないかな」
 トラックの後部座席で、荒井と袖山はそんな会話をした。


 祭り会場は、寄り合い場から車で10分ほどの距離にあった。
 そこでままた数十人ほどの老人たちが、テントや小さな舞台の設営など、明日に向けて準備を行っている最中だった。
 「お疲れ様です、準備はどうですか」
 「おう、何とか終わりそうだ」
 「それは良かったです、村長さん。小道具の方も間に合いました。手伝いに来てくれた子たちのおかげです」
 「おお、わざわざ来てくれた子たちか、ありがとうな。
 今はみんなで明日からの舞台作りをしていたんだが、もうそろそろ終わりそうだ。
小道具はテントの下に置いといてくれるか。もう暗くなるし、明日の午前中にやろう。あんまり気張りすぎても、いみぐい様が心配するしな」


 おじと村長との会話を聞いていた荒井は、「いみぐい様は今もこの村を見守ってくださっているのですね」と声を掛けた。
 「おお、いみぐい様の話に興味があるなら、ちょうどいいものがある」と言って、村長は、荒井と袖山を近くにある祠に案内してくれた。とてもこじんまりした古そうな祠だった。
 「ここは昔、いみぐい様がやってきた場所と言われておる。感謝の心を忘れないために建てられた祠でな」と言うと、村長は錆びついた鍵を取り出し、苔むした祠の扉にある錠前に差し込んだ。
 この村では家の玄関は施錠しないのだから、よほど大切なものが入っているのでしょう。
 扉を開くと、村長は中から古びた本を取り出し、丁寧にめくると、あるページに描かれている絵を見せてくれた。
 「これがいみぐい様だ」
 そこには尾びれと人間の手足を持つ、魚のような生き物が描かれていました。皮膚が青みがかっており、目玉はすべて白く塗りつぶされています。
 荒井は見た瞬間に半魚人という言葉が浮かび上がった。
 「なぜ今まで祭りは途絶えていたのですか?村の方々は、みなさんいみぐい様のことを大切におもっているようですが」と袖山が質問した。
 「情けない話だが、村の人口が減って人手が足りんくなった。せめて昔のように活気づくようにと、なんとか今年も無理をして祭りを起こすことにした」
 いみぐい様の姿描かれている古びた本には、村の歴史が事細かに書かれているとのことでしたが、古い言葉で書かれていますし、ちらりと傍目から見た程度では、ほとんど内容はわからなかった。
 「それ、見せていただいてもかまいませんか?その本の内容にとても興味があるんです」と荒井が言ったが、村長は、この村のとっての宝というべき貴重な存在だから、村の外から来た者には触らせることはできない、と断ってきた。


 祭り会場に戻ると、村長は「今日はここまでにしよう。残りの細かいことは明日の朝だ。カズ、お前も今日は帰るんだぞ」と、会場の舞台に向かって言った。
 「わかりました。じゃあ村長、また明日」と言ったのは、二十歳を少し過ぎたばかりに見える青年で、談笑する老人たちには目もくれず、さっさと背を向けて行ってしまった。


 その後、おじ夫婦の家に戻って夕食もお風呂もいただいてから、床に入った荒井は、すぐに寝入ってしまった。


 翌朝、朝食をとったあと、今日はおばも一緒に祭り会場へと赴き、荒井たちも準備に加わった。
 周りを見れば、カズをはすでに来ており、相変わらずの仏頂面で村人に話しかけられてもにこりともしていなかったが、仕事は真面目にやっていた。村人たちが気さくに接しているところをみると、無愛想ならがも好かれているようだった。
 細かい準備は昼前に終わった。祭りは午後から始まるようです。
 いったん、昼食をとりに帰り、お昼過ぎに会場へ戻ってきた荒井たち。
 会場にはすでに村人たち全員が集まっているようで、カズもその中にいた。
 それに祭りの話を聞きつけ、新聞記者が取材に来ていた。


 村長が舞台の上へとやってきた。手には昨日手伝って作った鈴とお面があった。
 「いみぐい様のための祭を、ここに始めるとする」と村長が宣言すると、舞台上のお面を被った老人が3人上がってきた。
 彼らは舞台に膝をつき、鈴を振って鳴らし始めた。
 しばらくすると、真っ青に塗りつぶされたお念を被った村人が一人、舞台上に現れた。
 きっとこれはかつていみぐい様がこの村に現れたときを再現したものだろう。
 鈴を持った3人の老人は、深々ろ頭を下げた。
 その舞台が終わったあと、いよいよ荒井たちも見るだけでなく、実際に参加できる儀式が始まろうとしていた。
 村人たちは舞台が終わった瞬間、一様に背を向けて祭り会場を出て行った。
 「あの、もう帰るのですか?」と荒井が尋ねると、おじは「ああ、そうだよ。僕たちは戻っているから、あとでまた会おう。君たちは村長を手伝ってくれ」と答えた。
 いつの間にかお面をつけた村長が、「年老いたわい一人ではどうにはできんからな。さあ、お前たちも早くお面をつけなさい」と言った。
 舞台に上がった荒井と袖山は、お面をつけたが、見た通りに視界が悪く制限されている。
 戸惑っていると「これから村の家を全部回っていくから、君たちの分、持って」と後ろから声を掛けられた。
 そこにはお面をつけた人がおり、背格好とつっけんどんな口調からカズだとわかった。
 カズの手には紐で束ねられた大量の鈴とお面があった。
 「これおを持って、村中を歩くんですか?」
 「そう、神様を探す旅だよ」


 一行は一人数キロはある鈴とお面を引きずりながら、村の家々を回り始めた。
 村長から教わった昔から伝わる祝詞のようなものを挙げながら、村の家を一ずつ回り、「いみぐい様はここにいらっしゃるのか?」と聞いていった。
 聞かれた家人は「いいえ、来ていません。私もお探しいたします」と答え、いみぐい様を探す一行に加わり、お面とつけてもらう。
 村のありことで鈴とお面を置き、「いみぐい様を探していますよ」という痕跡を残していきます。お面はかつていみぐい様が始めて姿を見せた時代の人々を表しているそうだ。
 家を回るたびに人が加わり、しばらくするといみぐい様を探す100人ほどの団体が出来上がっていた。もちろんおじ夫妻もいる。


 「あれ、あそこには声を掛けないんですか?」
 一軒だけ、何も声を掛けないまま通り過ぎようとした家があった。
 袖山が疑問の声を上げると、カズが、「あそこは回らない」と小さな声で囁いた。
 「いいんですか?もしかしたら、いみぐい様がいるかもしれないのに」と荒井が言うと、カズはは、「いない、いるわけない」とにべもなく答えた。
 その家を通り過ぎる際に、窓のカーテンの隙間からちらりと中が見えた。
 そこには、昨日村人たちから必要以上に責められたあのおばあさんが薄暗い中じっと俯いている姿が見えた。


 やがて一行は祭り会場の広場まで戻ってきた。
 道中で鈴とお面を目印代わりに残してきたので、手持ちのものはほとんど残っていません。
 一行はいみぐい様の祠の前までたどり着いた。
 「見よ、いみぐい様はここにいらっしゃった」と村長が嬉しそうに叫んで、地に膝をついて拝み始めた。
 祠には一枚の青く塗りつぶされたお面が飾られていました。祠がこの旅のゴールだということは元々から決められていたようだ。
 「今日の行事は、これで終わり。明日はいみぐい様が現れてくれたことを祝う」とカズがこっそり耳打ちしてくれた。
 「あれは何だろう?そこの、川のあたりになにかある」と袖山が言うので、荒井が見てみると、確かに近くに流れる川辺に何かが引っ掛かっていた。
 神山は、導かれるようにそちらに走っていき、「いみぐい様だ!」と叫んだので、祠に向かって拝んでいた人たちが一斉に袖山の方へ振り向いた。
 「いみぐい様がいるんだ」と袖山が言うので、荒井は急いで袖山のもとに駆け寄った。
 川辺にうずくまっている袖山の足元をよく見ると、いみぐい様がいた!
 真っ青な体と、大きな尾びれ、白く丸い目。大きさは5歳児と同じくらい。
 あの祠に保管してある古本に描かれたものと同じ姿をした生き物がいたが、死んでいた。息もしておらず、ぴくりとも動かない。
 ただ皮膚だけは水分をたっぷり含んだように艶めいていたが、全身がしわくちゃだった。
 それに不気味なことに死んでいるのに、濁った大きな白目をむき出しにしてして、歯を見せてにたにたと笑っていた。
 袖山を追ってきた村人たちは、いみぐい様の死体を見た瞬間、一斉に体を強張らせて、互いに目配せをしあい、明らかに動揺していた。
 「誰がやった?」と口を開いたのは、村長だった。
 しかし、誰も答えない。
 いみぐい様を見る限り、明らかな外傷はない。
 村人たちはついに誰も口を開かず、結局そのままそこで解散ということになってしまった。
 いみぐい様の死体は、村長が責任をもって預かるころになり、村人たちはお面をとり、家へと帰っていった。


 家に戻り布団に入ってから、袖山は、「あれはなんだったんだろう」と口にした。
 「わからないな。本に描かれていたいみぐい様にそっくりだったけど」
 「なんどか村の人たちを悪い空気にさせてしまったようだし、見つけなかった方が良かったのかな」
 「遅かれ早かれ誰かが気づいていてたと思うよ」
 ぽつぽつと話をしていると、窓の方からこつんと小石か何かが当たる音がした。
 窓の下を見ると、外にいたのはカズで、降りてこいと手招きしている。


 荒井と袖山は、夫妻を起こさないようこっそりと外へと出た。
 「突然ごめん、寝てた?家の人たちは起こしていないよね」
 「僕たちなかなか眠れなかったので、大丈夫です。おじさんたちは寝ています」
 「なら良かった。君たちにいみぐい様のことを話しておこうと思って。今日、いみぐい様の死体を見ただろう」
 「はい、まさか本当にあんな生き物がいるとは思いませんでした。てっきりいみぐい様は、昔の人の作った創作なのかと」
 「確かに死体はあったけどね。君の言う通り、いみぐい様なんていないよ。そんなこと、ありえるはずない。いみぐい様は、村長が中心になって作った嘘の昔話だ。僕を信じろとは言わない。ただ知っておいてほしいだけ」
 「じゃあ、今日見たあの死体は、なんなんですか?」
 「わからない、なんだかおかしな雰囲気になっているんだ。とにかく明日、何かが起きるかもしれない。村の人が何を考えているのか、君たち、気を付けておいたほうがいいよ。
 驚かせるようなことを言ってごめん。どちらにせよ、明日で祭りは終わりだから、今日はきちんと休んで」とカズはそう言うと、「おやすみ」と残し行ってしまった。


 そのまま布団に戻って、翌日起きたのは昼前だった。
 昼過ぎに荒井たちは、祭り会場の広場へと向かった。
 広場にはなんだか腐臭のような臭いがするこに荒井は気づいた。
 いぶかしんでいるうちに、なんだか嬉しそうな村長が舞台に上がってきた。
 舞台の上、村長の後ろには、いみぐい様の死体がテーブルの上にある大きな皿の上に乗せられていた。腐臭の出どころはこれだった。
 「これより祭りの最終儀式を執り行う」と、村長は目を丸く見開いて、歯を見せてにたにたと笑っていた。
 「ありがたいことに、いみぐい様は我々の前に現れ、その身を差し出してくれた。それもすべての肉をだ!なんとありがたいことだろう」
 村長の声に合わせ、村人たちも歓喜の声は上げた。
 「ああ、いみぐい様。ありがとうございます、ありがとうございます」と言って、いみぐい様の方へ向き、手を合わせた。
 そして、そのかかいみぐい様の背中にかぶりついた。
 「おお、この世のものとは思えない味だ!」と村長が、口から青い液体を滴らせながら、振り向いて叫んだ。
 それを合図にするように、村人たちが一斉に舞台に上がり、我先にといみぐい様を食いちぎろうちして、押し合いへし合いの大混乱になった。
 恍惚とした表情でいみぐい様の肉を味わっていた村長は、ふらふらと覚束ない足取りで歩き、そのまま舞台から落ちてしまった。
 村人たちは、村長が落ちたことに気づかず、奪い合いながらいみぐい様を貪り食っていた。
 慌てて荒井と袖山が村長のもとに駆け寄ると、村長はぴくりとも動かない。
 「大丈夫ですか」と村長の顔を覗き込んだ袖山は、村長の口から吐き出された青い液体が顔にかかった。
 村長は濁った白目を剝き出しにして死んでいた。だというのに、笑ったままの口からはごぼごぼと青い血があふれ出てくる。
 そのうち、村人たちも苦しげな声を上げて倒れ、口から青い血を吐きながら、うめき声をあげて地面をのたうち回っていた。
 呆然としている荒井と袖山の手を引いたのはカズで、そのまま停めてあったトラックの後部座席に押し込んだ。
 カズは間髪入れずに車を発進させ、「荷物、取りに行って、帰れないでしょ」と声を掛けた。
 袖山がぼうっとして動かないので、荒井は鍵のかかっていないおじ夫妻の家に入り、二人分の荷物を取ってきた。


 「僕が何年か前にこの村に越してきたとき、ここはすでに過疎化が進んでいてね。村おこしの秒案はないとか村長たちにすがるように聞かれたんだ。
 よそ者の僕に良くしてくれる老人たちが気の毒で、何か祭りでもやればいいんじゃないか、と答えたんだ。
 それが引き金だった。
 そもそもこの村には特別なものなんて何もなかった。奇特な逸話もなければ、不思議な土着神もいない。
 けれど、村おこしの祭となると、ただ普通の祭じゃ印象不足であろう。そこで村長は村人を集めて、この村に伝わる神様を作ることにした。それがいみぐい様。」
 「あのいみぐい様が描かれていた古い本も、祠も作ったということですか?」
 「そうだよ。もちろん、祭りの一連の儀式も作られたものだ」
 最初はそれこそお遊びみたいに考え始めたものだったよ。老人たちが寄り集まって、みんなで楽しく考えるゲームみたいなものだったんだよ。
 祀る神様はこんな姿が良いんじゃないか、こんな伝説があれば良いんじゃないか、名前は村からとろう、ってね。だけど、だんだん熱が入っていってしまった。
 何しろ小さい村だからさ、伝染病みたいに話は広まっていって、次第にいみぐい様の話をするのが当たり前のようになっていったんだ。
 そして次第に細かすぎる歴史を作っていった。よその人たちに嘘だと見抜かれないようにさ。
 いつしか村人たちは、自分たちで作りだした神様の妄想が、真実だと錯覚するほどのめり込んでいった。
 いつしかいみぐい様は村人たちの生活に大きく浸食しだした。すこしでもいみぐい様について間違ったことを言ったり、存在を否定したりする人が現れると、その瞬間に村八分にされたんだ。
 それから、村人たちは互いに互いを監視するようになった。何か間違いをすれば、その罪人をすぐに追放できるようにね。
 ただでさえ少ない若者たちは愛想が尽きて村を出て行った。祭りをやると声を掛けたのに誰も帰ってこなかったのはそのためだ。」
 「すべてが嘘だったら、あのいみぐい様の死体はなんだったんでしょうか」
 「さあ、もしかしたらたまたま村人たちの妄想と似た生物がいたのかもしれない。もしくは村八分になった人たちの怨みかも」


 最寄りの無人駅に着くと、カズは黙ってトラックから降りました。
 荒井は、「袖山君、帰ろう。大丈夫?立てるかい?」と声を掛けた。
 「うん、大丈夫だよ」と答えた袖山の顔について液体をタオルで拭ってやった荒井は、袖山の手を引いて車から降りた。
 「あと5分もすれば帰りの電車が来る、気を付けて帰るんだよ」
 「カズさんはこれからどうするのですか?」
 「村に帰る。事の発端は僕だし、それに、あそこはいい村だからね。もう二度とこの村に来てはいけないよ」と言ったカズにお礼と別れを告げ、荒井たちは電車に乗った。


 電車がホームを離れ、景色がゆっくりと動き出したとき、袖山が窓の外を指さして、「あれは何かな」と言った。
 遠目からでしたが、はっきりと首吊り死体が見えた。それも村八分にあったあのおばあさんの。


 「そのあと、祭りがどうなったのか、カズさんがどうしたのかはわかりません。
 僕は別れの間際、カズさんに『あたなの所為ではありません』と伝え損ねてしまいました。
 僕が体験した不思議な夏の話はこれで終わりです。
 袖山君?ええ、今もこの学校に通っていますよ。もちろん元気です。
 あのあと村はどうなったのでしょうか?新聞を探しても当時の記事は見つかりません。もしかしたら、僕たちの知らない間にまたあの奇祭が開かれているのかしれませんね。
 ああ、袖山君のことなのですが、確かに元気ではいるのですが、祭りから帰ってきたあろ、少し変わったことがありまして。
 笑い方ですよ。以前は静かに控えめな笑顔を見せる彼でしたが、今は違います。目と口を大きく開き、歯を見せながらにたにた笑うのです。白目を剥き出しにするその顔は、あのとき見た生き物に瓜二つですよ。気になるなら。今度会いに行ってはいかがですか?
 「『荒井君、あの村はまだあるのかな』と袖山君はにたにた笑いながら言うので、いつか黙って一人であの村に行ってしまうのではないかと、気が気じゃないんですよ」


 エンディング№74:異味喰様
 エンディング数26/656 達成度3%
 キャラクダー図鑑36/112 達成度32%
 イラスト数15/27 達成度5%


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 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
 1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る
 2人目の岩下のシナリオ:窓枠の中で→エンディング№310~313を見る


 3人目は風間望を選択!


 風間は3年生で、通称は鳴神学園の貴公子、ノゾムンとのこと。


 キムは男子だけれど特別にノゾムンと呼ばせてやっていいぜ
  • 呼びたいです
  • 別にどっちでも
  • お断りします
  • なんでノゾムンなんですか?
 風間に主体性のない人間だと言われてしまう坂上。
 そして、風間は、ライスカレーとカレーライスの違いを熱く語りだす。


 さあ、ボクの話はこれで終わりだ。勉強になったね
  • あのう、怖い話をしていませんが?
  • これって、七不思議の集会ですよね?
  • ありがとうございました
  • 本当にこれで終わりなんですか?
 風間は、さらにわかりやすくライスカレーとカレーライスの違いを説明し始める。


 今日はずいぶんと賢くなったんじゃないか、坂上君。
  • だから、怖い話をしていませんが?
  • これって、七不思議の集会ですよね?
  • ありがとうございました
  • あのう、ちょっといいですか?
 今度は、牛丼と牛皿の話を始める風間。


 知ってるか~い
  • だから、怖い話をしていませんが?
  • これって、七不思議の集会ですよね?
  • ありがとうございました
  • あのう、ちょっといいですか?
 今度は、牛丼を英語でどう言うかを語りだす風間。


 あのねえ、これ以上ボクの話を聞きたいのであればそれ相応の報酬というものを頂かないとね、あはぁ~ん?
  • 報酬はグーパンでいいっすか?
  • 報酬はタイキックでいいっすか?
 シナリオ:下半身ババア開始!


 風間が学校から帰る途中、正面を誰かが歩いているのに気付いた。
 目の前を歩いているのは、たぶん老婆だろうが、妙なことに下半身しかない。
 ゆっくりと進む老婆だが、恐ろしいことに腰から下しか存在しなかった。
 風間は思い切って、下半身ババア(風間がネーミングした)の正体を確かめようと歩くスピード上げた。
 いよいよ風間が下半身ババアを追い越したとき、眼前の老婆は90度に腰を曲げて歩いていた!


 「は?それってただ単純に腰の曲がったおばあさんが、歩いていただけなんじゃないでしょうか・・・」
 「ん、そうだよ?ボクの身長と婆さんの腰の角度が丁度良い具合に重ならなければ、発生しない出来事だった」
 「はぁ・・・」
 「そこはもっと感謝と感激を込めて、驚くべきところだろう?」
 「あの、風間さん。もっとマシな、じゃなくて、他のお話はないんでしょうか?」
 「キミは一体何を言っているだ。これよりも重要な話なんて、そうそうあるわけないだろう?」
 (どうしよう。こんな話、とてもじゃないけど新聞に載せられないよ。こうなったら他の語り部たちに助けを求めるしかない)
  • 岩下さんに助けを求める
  • 福沢さんに助けを求める
 坂上が福沢に助けを求めると、福沢は「きゃはは、私は面白いと思ったけど、でもまあ、坂上君がそういうなら仕方ないかぁ」といった感じで笑い、風間に話しかける。


 「ねえねぇ風間さん、私はさっきみたいな面白いお話をもっと聞きたいなぁ」
 「あはぁん、キミみたいな可愛らしいレディに言われると、ボクはやずさかではない気持ちになってきたよ。仕切り直して、別の話をしようじゃないか。せっかくだからキミに次の話を選んでもらおう」
 とある夏の連休、風間は家族と一緒に旅行に出かけた。行った場所は高級なリゾート地だった。
 心身ともにリフレッシュし、自宅に帰り家の鉄扉を開けると寒々しい冷気が突然風間の肩をなでた。
 まるで氷の世界にでもいるような寒々しい空気だった。
 風間は驚き、おそるおそる家のリビングに入った。


 「まさかクーラーがつけっぱなしだったなんてオチじゃないですよね?」
 「な、なんで、キミがそれを知っているんだ!キミはエスパーか?恐ろしいのはそれだけじゃない。」
 「あの、世にも恐ろしい出来事って、連休中ずっとクーラーをつけっぱなしで出て行ってしまって、電気代が物凄く高かったなんてことは、ないですよね?」
 「くぅ、なんでそこまで知っているんだ!さてはキミはボクのストーカーだ!」
 「大変すばらしいお話、ありがとうございました」(これはどう考えても記事にならないだろう。あとで部長に謝っておこう)


 エンディング№169:学校であったくだらない話
 エンディング数25/656 達成度3%


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 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
 1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る
 2人目の岩下のシナリオ:窓枠の中で→エンディング№310~313を見る


 3人目は風間望を選択!


 風間は3年生で、通称は鳴神学園の貴公子、ノゾムンとのこと。


 キムは男子だけれど特別にノゾムンと呼ばせてやっていいぜ
  • 呼びたいです
  • 別にどっちでも
  • お断りします
  • なんでノゾムンなんですか?
 風間に主体性のない人間だと言われてしまう坂上。
 そして、風間は、ライスカレーとカレーライスの違いを熱く語りだす。


 さあ、ボクの話はこれで終わりだ。勉強になったね
  • あのう、怖い話をしていませんが?
  • これって、七不思議の集会ですよね?
  • ありがとうございました
  • 本当にこれで終わりなんですか?
 「あれ?キミはボクの話がまだ理解できないの?」
 風間は、ラーメンライスはあるけど、ライスラーメンはないことを説明しだす。


 「今日はずいぶんと賢くなったんじゃないか、坂上君」
  • だから、怖い話をしていませんが?
  • これって、七不思議の集会ですよね?
  • ありがとうございました
  • あのう、ちょっといいですか?
 今度は、牛丼と牛皿の話を始める風間。


 知ってるか~い
  • だから、怖い話をしていませんが?
  • これって、七不思議の集会ですよね?
  • ありがとうございました
  • あのう、ちょっといいですか?
 今度は、牛丼を英語でどうしうかを語りだす風間。


 あのねえ、これ以上ボクの話を聞きたいのであればそれ相応の報酬というものを頂かないとね、あはぁ~ん?
  • 報酬はグーパンでいいっすか?
  • 報酬はタイキックでいいっすか?
 シナリオ:下半身ババア開始!


 風間が学校から帰る途中、正面を誰かが歩いているのに気付いた。
 目の前を歩いているのは、たぶん老婆だろうが、妙なことに下半身しかない。
 ゆっくりと進む老婆だが、恐ろしいことに腰から下しか存在しなかった。
 風間は思い切って、下半身ババア(風間がネーミングした)の正体を確かめようと歩くスピード上げた。
 いよいよ風間が下半身ババアを追い越したとき、眼前の老婆は90度に腰を曲げて歩いていた!


 「は?それってただ単純に腰の曲がったおばあさんが、歩いていただけなんじゃないでしょうか・・・」
 「ん、そうだよ?ボクの身長と婆さんの腰の角度が丁度良い具合に重ならなければ、発生しない出来事だった」
 「はぁ・・・」
 「そこはもっと感謝と感激を込めて、驚くべきところだろう?」
 「あの、風間さん。もっとマシな、じゃなくて、他のお話はないんでしょうか?」
 「キミは一体何を言っているだ。これよりも重要な話なんて、そうそうあるわけないだろう?」
 (どうしよう。こんな話、とてもじゃないけど新聞に載せられないよ。こうなったら他の語り部たちに助けを求めるしかない)
  • 岩下さんに助けを求める
  • 福沢さんに助けを求める
 坂上が岩下に助けを求めると、岩下は「頼りない子ね」といった感じで溜息をついた。


 「ねえ風間君、そんなくだらない話をしてないで、彼にもっとマシな怪談を提供してあげたらどうかしら」
 「おや、岩下さんはボクの素晴らしい話が不満だったのかい?」
 「ええ、もちろん。それに彼は学校の七不思議を記事にするためにここにいるのよ。それが腰の曲がったおばあさんの話を記事にして、七不思議になると思っているのかしら?」
 「はぁ、わかったよ。仕切り直して、別の話をしようじゃないか。せっかくだからキミに次の話を選んでもらおう。そうだね。さっきの話の続きと、まったく違う別の話、どっちが聞きたいかい?」
  • さっきの話の続きを聞く
  • まったく違う話を聞く
 風間がさっきのおばあさんを追い越した時、「おまえ、今ワシを抜き去ったね」と地の底から響くような低い声を後ろから聞こえてきた。
 90度より腰の曲がったおばあさんが、蛇のように風間を睨みつけていた。
 「ワシを抜く奴は、誰であっても、許さないよぉ!」
 そしておばあさんが叫ぶと、枯れ木みたいだった足腰がまるでボディビルダーのように大きくなった。やせ細った上半身に比べて、酷いアンバランスだった。
 「あひゃひゃひゃ、ワシを抜けるもんなら抜いてみなぁ!」
 おばあさんは風のように走り出した。
 「あひゃひゃひゃ」
 奇声を上げながら、レーシングカーのように爆走していた。
 隣の道路を走る乗用車も抜き去って、おばあさんは数秒で消え去ってしまった。あれは時速60キロぐらいは出てたんじゃないかな。


 「凄いだろ。あのおばあさんはきっと元オリンピック代表選手か何かだったんだろうな」
 「いきなり足が太くなって、車より速く走りだすなんて、どう見ても人間じゃないですよ!」
 「きっとアレはボクに追い越されて、少し昔の血がだぎってしまったんだよ。なかなかハッスルなおばあさんじゃないか」


 坂上は、時間のムダなのでこれ以上追及することは止めた。


 エンディング№168:下半身ババア
 エンディング数 24/656 達成度3%


 イラスト数 13/272 達成度4%


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 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
 1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る


 2人目は岩下明美を選択!


 岩下は3年A組とのこと。


 「あなた、私のことどう思う?」
  • 優しそうな人
  • 厳しそうな人
  • 初対面なのでわかりません
  • 愛に生きる人(2人目に選択した時のみ)
 シナリオ:窓枠の中で


 岩下は、愛に生きる人と表現したくれた想いに応えて愛の話をしてくれる。


 「あなた、話したこともない相手に恋をしたことはある?テレビのタレントや、あまり話したことのない同級生、電車の中で見かける人、近所のコンビニのスタッフとか。毎日見掛けるうちに、ついさっきまで意識さえしなかった存在が、ある日突然、特別な存在として胸の内に浮かび上がってくるこだってあるでしょうね。その人が、いつものようにさりげなく視界に登場するだけで、退屈な日々が燃え上がる恋の物語へと置き換わっていく。そういった経験はないかしら?」
  • ある
  • ない
 「じゃあ、あなたが好きになった相手って、どんな人かしら?私に教えてくれる?」
  • 教える→「ねぇ、不知火さんはどんな形で彼に想いを伝えたと思う?」
  1. 近づいて話しかけた→エンディング№311:燃えるほどの恋
  2. 窓を開けて好きだと叫んだ→エンディング№310:彼を呼ぶ声
  3. わからない→エンディングNa312:現実と妄想の狭間で
  • 教えない
 「あら、残念だわ。教えることができない理由があるとか?だとしたら、興味深いわね。どんな理由なのかしら。
 世間一般的に好きになってはならない人だとか?
 例えば、妹とかお姉さんとか?だとしたら、とてもじゃないけどこんな場所では言えないわよね。
 私の後輩も、とても人には言えない相手に恋をしてしまったのよ」


 不知火美鶴の席は教室の窓際で、彼女はこの席がお気に入りだった。
 とても見晴らしがよくて、グラウンドから校門まで見渡せた。
 不知火は合唱部に所属する2年生で、岩下が部長をしている演劇部と一緒にミュージカルを企画するイベントがあり、二人は仲良くなったとのこと。
 引っ込み思案の不知火は、活発に校庭を駆け回る男子生徒たちの動きを、よく羨望の眼差しで見つめていた。
 やがて、不知火は、ある特定の男子生徒に恋をした。
 名も知らないその相手は、子供っぽくて、いつもテンションが高くて、がむしゃらで、無駄な動きが多い、どこにでもいるような愛すべき男の子だった。
 どんな撞木でも彼が活躍した時のむじゃくな喜びようや、へとへとに疲れながらも最後までひたむきに全力を尽くす様子が心に引っかかっているうちに、いつの間にか意識するようになってしまった。
 ある日、不知火はこの気持ちが恋なのではないかと気が付いた。
 自覚すれば、もうその想いを無視することはできず、不知火の彼に対する思慕はどんどん加速していった。
 彼の仕草の一つ一つにときめいて、遠くから眺めているだけで、全身に幸福感が押し寄せてきて、退屈な授業が愛しい彼との逢瀬のひとときに変わった。
 彼を見ることができるのは、彼が体育の時間の時だけだったけれど、不知火にはそれで十分だった。
 彼がなんという名前で、どのクラスに在籍していた、どんな部に入っていて、どこに住んでいて、どんな女の子が好きで、決まった相手はいるのか。その気になれば簡単に調べることもできたのに、不知火はそれをしようとしなかった。
 不知火は一度だけ廊下で、その彼とすれ違ったことがあったが、不知火は顔を伏せて、足早に歩き去ってしまった。
 不知火は、目に映る風景の中に走り回る彼を愛したのであって、そこに自分が介入することなんて考えもしなかった。
 まるで教室の窓枠が大きな額縁で、彼はその絵の登場人物であるかのように。
 不知火は、彼の正体をしって幻滅したり、失恋したときの衝撃で自分の心が傷つくのが怖くて嫌だった。
 不知火は、自分の描いた世界の中だけで、彼と恋をしたかった。
 そんな不知火と彼との一方的な逢瀬の時は、ある日あっけなく終わりを迎えた。
 席替えのくじで廊下側の席を引き当ててしまった不知火は、彼の登場する風景を愛でる機会を、一瞬にして失ってしまった。


 そんなある日のこと、いつもの彼の映像を思い浮かべようと目をつぶったら、不知火の頭いっぱいに浮かんだのは見知らぬ男性の顔だった。
 でも、その顔は一瞬で消えた。
 「今のは何なのだろう?あの男は誰なのだろう?一瞬で消えたからよく覚えていないけどい、胸がドキドキしたわ」


 それからだった。彼女が彼の妄想を思い浮かべようとすると、決まってあの男の顔が現れる。
 見たこともない顔。しかも、特に理想の男性というわけでもない、ごく平凡な男の顔。気にしたこともないのに、なぜか頭の中に浮かんでしまう。
 そんなことが何度も続くうち、気味が悪いのを通り越して逆に気になり始めた。
 これは誰だろう?どんな人だろうって。
 鳴神学園の制服をきているのだから、うちの学生には違いない。でも、もう卒業してるかもしれない。
 もし在校生なら、うれしい。できれば会ってみたい。そして、どうして自分の妄想の中に現れるのか聞いてみたい。


 正体がわからないからこそ、知りたくなる。
 我慢できなくなって、得体のしれない彼をこっそり調べることにした。
 不知火は、根気よく卒業生のアルバムを片っ端から調べて、20年分のアルバムを調べつくしたろことで、在校生に目を向けた。
 卒業して20年以上たっていれば、もう立派なおじさんだ。もし見つかったとしても、果たして現実に会いたいと思えるかどうか。
 だから、彼女は祈り気持ちで各学年の男子生徒を調べた。
 本当に偶然だった。廊下ですれ違う彼を見かけた不知火は、慌てて彼を追いかけたが、彼に気付かれて逃げられてしまった。


 不知火の妄想に彼が現れ、彼女の意志に反して話しかけてきた。
 「さっきはごめんね。僕の名前は、朝日奈慎也っていうんだ。僕は極度の恥ずかしがり屋でね、うまく人と話すことができないんだよ。だから、いつも自分が作り出した妄想の世界の中で楽しんでいるんだよ。そんな僕のところに一人の女性が現れたんだ。現実にじゃない。妄想の世界でだ。彼女の話を聞くうちに、僕は理解した。現実の世界と妄想の世界は何も違わないってことをね。
 君は、こんな一説をきいたことがある?この世界は誰かの頭の中で描かれた妄想の世界だって話。僕たちは自分の意志で勝手に動いている気になっているだけで、本当はどこかの誰かが作り出した妄想世界の住人で、その創造主に操られているだけだっていうんだ。僕たちが暮らしている現実世界も誰かの妄想世界と認めることで、現実世界と妄想世界の境界線がなくなるんだ。それがとういうことかというと、他人の作った妄想世界に入っていくことができるんだよ。でもね、誰も妄想世界にも自由に入っていけるわけじゃない。より完成された優れた妄想世界じゃないと、他人が入ることはできない。だから僕は待っていたんだよ、君の妄想世界が完成された世界になる時をね。
 君が見ている僕は僕の描いた妄想の産物だけれど、僕の意志で動いている。だから、僕と話をしよう」
 不知火は驚いたけど、彼の話を聞くうちに次第に彼の言っていることを信じられるようになった。


 不知火は彼の話が本当かどうか確かめるために現実の彼を探した。
 すると彼はすぐに見つかった。彼の教室で自分の席にぼんやりと天井を見つけている彼がいた。
 「朝日奈さん」
 呼ばれた彼はすぐに気が付いたんだけど、とてもおどおどして震えていた。
 彼女の妄想世界に現れた朝日奈はとても自身に満ちていて明るかったのに、現実の彼は挙動不審でおどおどしているだけで全くの正反対だった。
 (妄想世界を楽しむってことは、こういうことなのね)
 彼女は、彼女なりに理解した。そしてすぐに自分の作り出した妄想世界を、頭の中に作り出した消しゴムで綺麗に消していった。


 「それからの彼女はとても明るくなった。もちろん、想像する楽しみは忘れていないし、空想して夢見ることもあるでしょう。でも、自分が作り出した妄想世界に閉じこもることは止めたのよ。その世界から抜け出せなくなることを恐れてね。ただ、私にはどちらが正しいはわからないわ。本人が楽しくて他人に迷惑をかけないのであれば、それが最も良い生き方だと思うのよ。うふふふ」


 エンディング№313:選択は本人の自由
 エンディング数23/656 達成度3%


 イラスト数12/272 達成度4%


拍手[0回]


 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
 1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る


 2人目は岩下明美を選択!


 岩下は3年A組とのこと。


 「あなた、私のことどう思う?」
  • 優しそうな人
  • 厳しそうな人
  • 初対面なのでわかりません
  • 愛に生きる人(2人目に選択した時のみ)
 シナリオ:窓枠の中で


 岩下は、愛に生きる人と表現したくれた想いに応えて愛の話をしてくれる。


 「あなた、話したこともない相手に恋をしたことはある?テレビのタレントや、あまり話したことのない同級生、電車の中で見かける人、近所のコンビニのスタッフとか。毎日見掛けるうちに、ついさっきまで意識さえしなかった存在が、ある日突然、特別な存在として胸の内に浮かび上がってくるこだってあるでしょうね。その人が、いつものようにさりげなく視界に登場するだけで、退屈な日々が燃え上がる恋の物語へと置き換わっていく。そういった経験はないかしら?」
  • ある
  • ない
 「じゃあ、あなたが好きになった相手って、どんな人かしら?私に教えてくれる?」
  • 教える
  • 教えない
 「その相手って誰かしら?」
 「何ですって、私?もしかして、私たちって以前出会ったことがあるのかしら?
 私の記憶違いでなければ、坂上君とは今日初めて会うはずだけれど。それとも、どこかで私のことを見ていたとか?
 確かに私は演劇部で舞台に立つことがあるわ。もし去年の学園祭に遊びに来て、その舞台で私を見て好きになってくれたというなら、それはとても光栄なことだわ。素直に喜びたい。
 でも、どこかで私を偶然見かけてストーカーをしていたというのなら、いただけないわね。私、そういう卑怯で姑息で厭らしい最低な男はこの世から消えた方がいいと思っているから。
 もし今日が初めてというのなら、まさか一目惚れ?
 ひょっとして会う女性皆に一目惚れしているわけじゃないでしょうね?
 ふふふっ、冗談よ。あなたはがそんな人じゃないことはわかっている。
 でも、初対面の男性に告白されるのって素敵ね。それがあなたの本心から生まれた言葉なのだとしたら、私もそれなりの誠意をもって応えてあげてもよくってよ。
 そうね、もしあなたの心が本当に私のものだというのなら、あなたの肌にカッターで私の名前を刻みつけてもいいわよね?二度と消えない永遠の愛の証に。
 あら?そんなに怖がらなくてもいいのに。それとも今の言葉は、その場限りの口からでまかせだったとでも言うの?
 だったら私、あなたを殺してもいいわよね。あなただって、それぐらいの覚悟を持って、私の名前を口にしたのでしょう?
 私は裏切られるのが嫌いだから、裏切られるうらいなら、あんたを殺してやるわ。よく覚えておくがいい。私の期待を裏切らないようにね、うふふふ。
 なんて冗談よ。私、演劇部だって言ったでしょ?さあ、笑って。
 だって、あなたが私を好きって言ってくれたのも、この集会を和ませるためのリップサービスでしょう?だから、そのお返し。
 それとも、本気で私を好きだというの?だったら、こんな場所で言うのは反則ね。
 あとで二人になったとき、そこでゆっくり話を聞いてあげるから。うふふふ
 
 よく恋は盲目と言うでしょう?絵画の中の人物や造形物に本気で恋をしてしまう人もいるわ。キリシア神話に登場する自分の作り出した彫刻を愛したピュグマリオンの話は有名よね。現代でも二次元コンプレックスといって、アニメやゲームの登場人物に惚れこんでしまう人たちがいるじゃない。まあ周りがどうあれ、自分の心の中で愛情を傾ける限り、それが実在する人物かどうかは関係ないことなのかもしれないわね。これから私が罠すのは、そんな自分の心の中の人に恋をしてしまった、ある少女のお話よ」


 不知火美鶴の席は教室の窓際で、彼女はこの席がお気に入りだった。
 とても見晴らしがよくて、グラウンドから校門まで見渡せた。
 不知火は合唱部に所属する2年生で、岩下が部長をしている演劇部と一緒にミュージカルを企画するイベントがあり、二人は仲良くなったとのこと。
 引っ込み思案の不知火は、活発に校庭を駆け回る男子生徒たちの動きを、よく羨望の眼差しで見つめていた。
 やがて、不知火は、ある特定の男子生徒に恋をした。
 名も知らないその相手は、子供っぽくて、いつもテンションが高くて、がむしゃらで、無駄な動きが多い、どこにでもいるような愛すべき男の子だった。
 どんな撞木でも彼が活躍した時のむじゃくな喜びようや、へとへとに疲れながらも最後までひたむきに全力を尽くす様子が心に引っかかっているうちに、いつの間にか意識するようになってしまった。
 ある日、不知火はこの気持ちが恋なのではないかと気が付いた。
 自覚すれば、もうその想いを無視することはできず、不知火の彼に対する思慕はどんどん加速していった。
 彼の仕草の一つ一つにときめいて、遠くから眺めているだけで、全身に幸福感が押し寄せてきて、退屈な授業が愛しい彼との逢瀬のひとときに変わった。
 彼を見ることができるのは、彼が体育の時間の時だけだったけれど、不知火にはそれで十分だった。
 彼がなんという名前で、どのクラスに在籍していた、どんな部に入っていて、どこに住んでいて、どんな女の子が好きで、決まった相手はいるのか。その気になれば簡単に調べることもできたのに、不知火はそれをしようとしなかった。
 不知火は一度だけ廊下で、その彼とすれ違ったことがあったが、不知火は顔を伏せて、足早に歩き去ってしまった。
 不知火は、目に映る風景の中に走り回る彼を愛したのであって、そこに自分が介入することなんて考えもしなかった。
 まるで教室の窓枠が大きな額縁で、彼はその絵の登場人物であるかのように。
 不知火は、彼の正体をしって幻滅したり、失恋したときの衝撃で自分の心が傷つくのが怖くて嫌だった。
 不知火は、自分の描いた世界の中だけで、彼と恋をしたかった。
 そんな不知火と彼との一方的な逢瀬の時は、ある日あっけなく終わりを迎えた。
 席替えのくじで廊下側の席を引き当ててしまった不知火は、彼の登場する風景を愛でる機会を、一瞬にして失ってしまった。


 不知火は、最初は授業中に教室で目を閉じて、脳裏に彼のいる風景を思い描いた。
 最初は思い通りの彼を描けずに困っていたが、次第に想像上の彼を自由に動かせるようになり、不知火は元の幸福感を取り戻すことができた。
 不知火は、自分でも気づかなかったみたいだが、エア充体質だった。
 才能が開花した観察力と想像力は、並大抵のものじゃなかった。
 目を閉じて意識を集中するだけで、風景の細部まではっきりと思い描くことができ、そこを舞台に動き回る彼の姿も、とても生き生きとしたものだった。
 それまで見たことのある光景を再生するだけでなく、不知火の中で新たな命を得た彼は、まるで生きているように動き回った。
 そして想像力が増していくと、ついには彼を取り巻くクラスメイトたちまで再現され、それぞれにふさわしい役割を演じていた。
 ただここまでくると、それはもう想像とは呼べず、不知火の作り出した妄想の世界。
 窓際で見つめていたころは、体育の時間だけという限りがあったから歯止めがきいていたが、彼の姿をいつまでも好きなだけ眺めていられるようになった不知火は、もう現実の世界に帰ってこられなくなった。
 授業中はもちろん休み時間まで不知火は妄想の世界に入り浸った。先生に注意されても、友達に呼ばれても、目を閉じて幸せそうに微笑んでいるだけ。
 それは家でも続き、すぐ自分の部屋にこもってしまうし、食事の手はしょっちゅう止まるし、何時間もお風呂に入ったまま出てこない。
 やがて不知火は、妄想ならリスクがないという打算かしら、それまで自分が登場していなかった世界に、ついに自分を登場させようかと考え始めた。
 そして、ついに不知火は、妄想の世界で告白してみようと決心した。


 実は、岩下は、不知火から何度も相談を受けていた。
 「すいません、岩下さん、またお呼びだけしてしまって」
 「いいのよ、気にしないで。私もあなたの話には巨にあるから。で、妄想世界の彼とはうまくいっているの?」
 「しれが、まだ本当に私が飛び込んでしまっていいものか悩んでいるんです」
 「この前は告白する決心がついたって言ってたのに、まだ出会ってもいないの?」
 「突然私なんかが彼の前に現れたら迷惑するんじゃないかと思って」
 「そんなことないわ。彼はきっとあなたのことを受け入れてくれる。それで彼の名前くらいはかわったんでしょうね?」
 「いえ、まだ聞き出せなくて」
 「呆れたわね。彼は仲の良い友達と伊一緒なんでしょ?彼らは何て呼んでいるの?」
 「・・・」
 「ニックネームもないの?」
 「はい、友ダリはいつも、ようとかお前とかそんな呼び方ばかりなので」
 「困ったものね。それだったらもう、あなたが出ていくしかないじゃない。一歩踏み出すのも大事じゃなくて?そのためにはあなたが必要よ。そして告白しちゃいなさい」
 「告白して断られたら、私、もう生きていけない。ううっ・・・」
 「泣かないで、不知火さん。私も考えるから。そうね、現実の世界に合わせればいいんじゃない?体育の授業はいつなのかはわかっているんでしょう?その授業の時に彼はグラウンドんじいるんだから、玄逸の彼とあなたの想いをシンクロさせるのよ。そして、そこであなたは彼と出会うの。今、彼が何をしているのか現実と妄想がシンクロすれば、あなた自身も妄想の世界に登場しやすいんかないかしら?」
 「現実の世界とのシンクロ。ありがとうございました、岩下さん。私、やってみます」
 「頑張って告白しなさい。必ず、あなたにとっていい返事が聞けるから」


 決心がついてから、一日千秋の思いで待ちわびていた体育の時間がやっと訪れた。
 もちろん窓から遠くなった不知火の目には見えないのだけど、彼女はいつものように目を瞑り、彼が生き生きと活躍する様を思い描いた。


 「ねぇ、不知火さんはどんな形で彼に想いを伝えたと思う?」
 「悩んでも仕方ないわ、どうせ私の想像の世界なんだし」
 不知火は妄想の世界で立ち上がって窓を開け、ありったけの勇気を振り絞って、グラウンドの彼に叫んだ。
 「好き!あなたが好きです!」
 告白した後我に返って、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして、不知火はサッと窓を閉めた。
 なんと、声に気付いた彼が、こちらに向かって手を振ってくれている。
 不知火は、もう一度窓を開けると、彼に見えるように大きく手を振り返した。
 「うれしいです!私、あなたが大好きです!」
 喜びのあまり、思わず身を乗り出した不知火は、バランスを崩して、そのまま窓の外に頭から落下してしまった。
 その時、初めて彼女は、自分が落下している世界を見つめながら、現実の世界に引き戻された。
 不知火は、妄想世界で告白したつもりでいたけれど、現実世界とシンクロしようとするあまり、実際に声を出して告白していた。
 授業中わざわざ窓際まで駆け寄って、あっけにとられるクラスメイトたちの前で、彼女はありったけの声を振り絞って告白したのだ。
 「きゃあああああ!!」
 静かだった教室に、落下していく不知火の悲鳴が響き渡った。
 2階の高さから落ちただけのに真っ逆さまに勢いよく地面に衝突したためか、首があらぬ方向に曲がった状態で、ほぼ即死だったらしい。


 「不知火さん、現実と妄想の世界が本当にシンクロしてしまったのね。これも彼女の想いが強すぎたためかしら?
 ねえ、坂上君、妄想するのもいいけどほどほどにいないとね。うふふふ」


 エンディングNa312:現実と妄想の狭間で
 エンディング数 22/656 達成度3%


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 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
 1人目の福沢のシナリオ:恋愛教→エンディング№127~139を見る


 2人目は岩下明美を選択!


 岩下は3年A組とのこと。


 「あなた、私のことどう思う?」
  • 優しそうな人
  • 厳しそうな人
  • 初対面なのでわかりません
  • 愛に生きる人(2人目に選択した時のみ)
 シナリオ:窓枠の中で


 岩下は、愛に生きる人と表現したくれた想いに応えて愛の話をしてくれる。


 「あなた、話したこともない相手に恋をしたことはある?テレビのタレントや、あまり話したことのない同級生、電車の中で見かける人、近所のコンビニのスタッフとか。毎日見掛けるうちに、ついさっきまで意識さえしなかった存在が、ある日突然、特別な存在として胸の内に浮かび上がってくるこだってあるでしょうね。その人が、いつものようにさりげなく視界に登場するだけで、退屈な日々が燃え上がる恋の物語へと置き換わっていく。そういった経験はないかしら?」
  • ある
  • ない
 「じゃあ、あなたが好きになった相手って、どんな人かしら?私に教えてくれる?」
  • 教える
  • 教えない
 「その相手って誰かしら?」
 「へえ、同じクラスの女の子だったのね。それがあなたの初恋かしら?高校生になってから?まさか幼稚園なんて言うんじゃ・・・幼稚園児がすでに婚約しているって話、聞いたことない?子の前ね、近所の男の子に今3人の女の子に結婚してくれって言われて悩んでいるって相談されたよの。じゃあ、私をお嫁さんにすればって答えたら、おばさんはイヤだですって、殺してもいいわよね、うふふふ。坂上君が好きになった人ってどんな子かしらね。あなたの心を占めた女性がいるなんて、ちょっと妬けてしまうわね。
 
 よく恋は盲目と言うでしょう?絵画の中の人物や造形物に本気で恋をしてしまう人もいるわ。キリシア神話に登場する自分の作り出した彫刻を愛したピュグマリオンの話は有名よね。現代でも二次元コンプレックスといって、アニメやゲームの登場人物に惚れこんでしまう人たちがいるじゃない。まあ周りがどうあれ、自分の心の中で愛情を傾ける限り、それが実在する人物かどうかは関係ないことなのかもしれないわね。これから私が罠すのは、そんな自分の心の中の人に恋をしてしまった、ある少女のお話よ」


 不知火美鶴の席は教室の窓際で、彼女はこの席がお気に入りだった。
 とても見晴らしがよくて、グラウンドから校門まで見渡せた。
 不知火は合唱部に所属する2年生で、岩下が部長をしている演劇部と一緒にミュージカルを企画するイベントがあり、二人は仲良くなったとのこと。
 引っ込み思案の不知火は、活発に校庭を駆け回る男子生徒たちの動きを、よく羨望の眼差しで見つめていた。
 やがて、不知火は、ある特定の男子生徒に恋をした。
 名も知らないその相手は、子供っぽくて、いつもテンションが高くて、がむしゃらで、無駄な動きが多い、どこにでもいるような愛すべき男の子だった。
 どんな撞木でも彼が活躍した時のむじゃくな喜びようや、へとへとに疲れながらも最後までひたむきに全力を尽くす様子が心に引っかかっているうちに、いつの間にか意識するようになってしまった。
 ある日、不知火はこの気持ちが恋なのではないかと気が付いた。
 自覚すれば、もうその想いを無視することはできず、不知火の彼に対する思慕はどんどん加速していった。
 彼の仕草の一つ一つにときめいて、遠くから眺めているだけで、全身に幸福感が押し寄せてきて、退屈な授業が愛しい彼との逢瀬のひとときに変わった。
 彼を見ることができるのは、彼が体育の時間の時だけだったけれど、不知火にはそれで十分だった。
 彼がなんという名前で、どのクラスに在籍していた、どんな部に入っていて、どこに住んでいて、どんな女の子が好きで、決まった相手はいるのか。その気になれば簡単に調べることもできたのに、不知火はそれをしようとしなかった。
 不知火は一度だけ廊下で、その彼とすれ違ったことがあったが、不知火は顔を伏せて、足早に歩き去ってしまった。
 不知火は、目に映る風景の中に走り回る彼を愛したのであって、そこに自分が介入することなんて考えもしなかった。
 まるで教室の窓枠が大きな額縁で、彼はその絵の登場人物であるかのように。
 不知火は、彼の正体をしって幻滅したり、失恋したときの衝撃で自分の心が傷つくのが怖くて嫌だった。
 不知火は、自分の描いた世界の中だけで、彼と恋をしたかった。
 そんな不知火と彼との一方的な逢瀬の時は、ある日あっけなく終わりを迎えた。
 席替えのくじで廊下側の席を引き当ててしまった不知火は、彼の登場する風景を愛でる機会を、一瞬にして失ってしまった。


 不知火は、最初は授業中に教室で目を閉じて、脳裏に彼のいる風景を思い描いた。
 最初は思い通りの彼を描けずに困っていたが、次第に想像上の彼を自由に動かせるようになり、不知火は元の幸福感を取り戻すことができた。
 不知火は、自分でも気づかなかったみたいだが、エア充体質だった。
 才能が開花した観察力と想像力は、並大抵のものじゃなかった。
 目を閉じて意識を集中するだけで、風景の細部まではっきりと思い描くことができ、そこを舞台に動き回る彼の姿も、とても生き生きとしたものだった。
 それまで見たことのある光景を再生するだけでなく、不知火の中で新たな命を得た彼は、まるで生きているように動き回った。
 そして想像力が増していくと、ついには彼を取り巻くクラスメイトたちまで再現され、それぞれにふさわしい役割を演じていた。
 ただここまでくると、それはもう想像とは呼べず、不知火の作り出した妄想の世界。
 窓際で見つめていたころは、体育の時間だけという限りがあったから歯止めがきいていたが、彼の姿をいつまでも好きなだけ眺めていられるようになった不知火は、もう現実の世界に帰ってこられなくなった。
 授業中はもちろん休み時間まで不知火は妄想の世界に入り浸った。先生に注意されても、友達に呼ばれても、目を閉じて幸せそうに微笑んでいるだけ。
 それは家でも続き、すぐ自分の部屋にこもってしまうし、食事の手はしょっちゅう止まるし、何時間もお風呂に入ったまま出てこない。
 やがて不知火は、妄想ならリスクがないという打算かしら、それまで自分が登場していなかった世界に、ついに自分を登場させようかと考え始めた。
 そして、ついに不知火は、妄想の世界で告白してみようと決心した。


 実は、岩下は、不知火から何度も相談を受けていた。
 「すいません、岩下さん、またお呼びだけしてしまって」
 「いいのよ、気にしないで。私もあなたの話には巨にあるから。で、妄想世界の彼とはうまくいっているの?」
 「しれが、まだ本当に私が飛び込んでしまっていいものか悩んでいるんです」
 「この前は告白する決心がついたって言ってたのに、まだ出会ってもいないの?」
 「突然私なんかが彼の前に現れたら迷惑するんじゃないかと思って」
 「そんなことないわ。彼はきっとあなたのことを受け入れてくれる。それで彼の名前くらいはかわったんでしょうね?」
 「いえ、まだ聞き出せなくて」
 「呆れたわね。彼は仲の良い友達と伊一緒なんでしょ?彼らは何て呼んでいるの?」
 「・・・」
 「ニックネームもないの?」
 「はい、友ダリはいつも、ようとかお前とかそんな呼び方ばかりなので」
 「困ったものね。それだったらもう、あなたが出ていくしかないじゃない。一歩踏み出すのも大事じゃなくて?そのためにはあなたが必要よ。そして告白しちゃいなさい」
 「告白して断られたら、私、もう生きていけない。ううっ・・・」
 「泣かないで、不知火さん。私も考えるから。そうね、現実の世界に合わせればいいんじゃない?体育の授業はいつなのかはわかっているんでしょう?その授業の時に彼はグラウンドんじいるんだから、玄逸の彼とあなたの想いをシンクロさせるのよ。そして、そこであなたは彼と出会うの。今、彼が何をしているのか現実と妄想がシンクロすれば、あなた自身も妄想の世界に登場しやすいんかないかしら?」
 「現実の世界とのシンクロ。ありがとうございました、岩下さん。私、やってみます」
 「頑張って告白しなさい。必ず、あなたにとっていい返事が聞けるから」


 決心がついてから、一日千秋の思いで待ちわびていた体育の時間がやっと訪れた。
 もちろん窓から遠くなった不知火の目には見えないのだけど、彼女はいつものように目を瞑り、彼が生き生きと活躍する様を思い描いた。


 「ねぇ、不知火さんはどんな形で彼に想いを伝えたと思う?」
 不知火はいつものように、彼を中心として情景を脳裏に思い描き続けた。
 窓枠で切り取られた風景画の中に自分が現れて、彼に想いを告げて・・・
 彼女は想像の世界でとるべき行動を、何度もシミュレートしたが、なかなか決心がつかず、大きく深呼吸までした。
 突然、グラウンド上に見知らぬ女の子が現れ、不知火を望まぬ人物の登場に驚いて声をあげそうになった。
 彼女が思い描いものしか登場してこないはずなのに、その女はさも当たり前のことのようにその世界に割り込んできた。
 まだ後ろ姿しか見てないけれど、それが自分よりもはるかにかわいい女の子に思えた。
 グラウンドに現れた少女は、まっすぐに彼のいる方向に向かって歩いて行った。
 不知火は、その映像が自分の想像であることも忘れて、狼狽した。
 不知火にとって、この光景はもはや妄想ではなく、認めたくない現実だった。
 不知火にとって、自分の作り出した妄想世界で、自分以外の誰かが彼を愛し、想いを告げること自体が許せなかった。
 不知火自身は、自分さえ踏み出せばいくらでもチャンスがあったのに、自分から彼に声をかけることもできなかった、
 自分にはない勇気をもった人、「好きです」って告げる勇気。
 そして何より、傷つくことを恐れない勇気を持っている人が、妬ましくて仕方なかった。
 そして、悪い方、悪い方へと考えが走ってしまう。その子が自分よりほんの少しだけ早く行動を起こしたがたに、自分がつかむべき幸せを奪ってしまうように思えてならなかった。
 それは不知火が生まれて初めて身を焦がした、醜い嫉妬の炎。
 不知火は想像が作り上げた窓の中から彼女の背中を睨みながら、ありったけの呪いを込めて念じた。
 燃えてしまえ!消えてしまえ!
 不知火の嫉妬は黒い炎となり、視線に乗って恋敵の背に食い込んだ。
 あの少女は、彼女の望み通りに燃え上がった。
 いい気味だ、私の愛する亜kレを奪おうとした罰よ、燃えろ、もっと燃えろ!
 そう不知火が願いを込めると、少女を包む炎はさらに勢いを増した。そして、少女は炎の包まれながら、その火を払おうと必死で両手をばたつかせた。
 それがまるで踊っているように見えておかしくて、思わず不知火は、クスリと笑ってしまったが、その笑顔は一瞬にして凍り付いた。
 燃え盛る炎の中で踊る少女はこちらを向いた。炎に焼けただれる彼女の顔、それは不知火だった。
 「ぎゃああああ」
 想像の中ではなく、現実の世界で。グラウンドではなく、教室の中で。不知火自身の背中から、突然、激しい炎が噴き上がった。
 そしてその炎は、見る見るうちに彼女の全身を包むこみ燃え上がった。
 見たこともない自分の背中を想像上で作り上げてしまったのだから、不知火の想像力は優れていたのだろう。


 不知火はなんとか一命を取り留め、奇跡的に意識を取り戻したけど、結局学校には戻ってこなかった。
 全身に酷い火傷を負って、美しかった顔も面影がなくなり、髪も毛根ごと失ってしまった。
 人前に姿を見せられないという事情もあったが、もっと深刻なのは不知火の精神の方だった。
 彼女は病院のベッドの上で、常に満面の笑みを浮べている。妄想世界の住人になったのだ。
 妄想世界で燃え盛る彼女を救い出したのは、彼だったらしい。
 彼ったら、自分が火の粉を被るのも恐れずに彼女を助け、全身に火傷を負って息も絶え絶えの彼女に彼は自ら告白したそうだ。
 美鶴さん、一生大事にする。だから僕と結婚しよう、って。
 だから、病院にいる彼女はこぼれそうなほどの市合わせていっぱいなのだ。


 「彼女が作り出した妄想世界で、知らない女性が現れるなんて、あり得ないでしょうに。もし、もう少しだけ彼女に冷静さがあったなら、その少女が不知火さん自身であり、二人の恋はうまくいくって思えたでしょうにね。まさか自分を呪ってしまうなんて。
 坂上君、こんな言葉知っている?『人を呪わば、穴二つ』。もっとの不知火さんは自分を呪って穴一つ、とでも言うのかしらね。うふふふ」


 エンディング№311:燃えるほどの恋
 エンディング数 21/656 達成度3%


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 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る
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 2人目は岩下明美を選択!


 岩下は3年A組とのこと。


 「あなた、私のことどう思う?」
  • 優しそうな人
  • 厳しそうな人
  • 初対面なのでわかりません
  • 愛に生きる人(2人目に選択した時のみ)
 シナリオ:窓枠の中で


 岩下は、愛に生きる人と表現したくれた想いに応えて愛の話をしてくれる。


 「あなた、話したこともない相手に恋をしたことはある?テレビのタレントや、あまり話したことのない同級生、電車の中で見かける人、近所のコンビニのスタッフとか。毎日見掛けるうちに、ついさっきまで意識さえしなかった存在が、ある日突然、特別な存在として胸の内に浮かび上がってくるこだってあるでしょうね。その人が、いつものようにさりげなく視界に登場するだけで、退屈な日々が燃え上がる恋の物語へと置き換わっていく。そういった経験はないかしら?」
  • ある
  • ない
 「じゃあ、あなたが好きになった相手って、どんな人かしら?私に教えてくれる?」
  • 教える
  • 教えない
 「その相手って誰かしら?」
  • テレビのタレント
  • 同級生
  • 岩下さんです
 「ふうん、子供の頃に見たアイドル歌手ですって?いいじゃないの、可愛らしくて。ところで坂上君は、アイドルという言葉の語源を知ってるかしら?それはね、偶像という意味なの。人の手によって祀り上げられた偽りの紙の姿。そんなものに熱を上げる方も愚かだけど、祀り上げられた方も楽ではないのよ。プライバシーを奪われ、他人の期待に応え続けるストレスに常に晒されているのよ。その重圧に耐えきれず、人知れず悪事に走ったり、死に追い込まれる人も少なくないのよ。特に最近はSNSによって誹謗中傷が当たり前の時代だから、火のないところに立った煙のせいで覚えのない攻撃にあったりして、精神を病んだり命を絶ったりしてしまう。そんなy話を知った後でも、まだ純粋な気持ちでアイドルに憧れていられるかしら?うふふふ。
 よく恋は盲目と言うでしょう?絵画の中の人物や造形物に本気で恋をしてしまう人もいるわ。キリシア神話に登場する自分の作り出した彫刻を愛したピュグマリオンの話は有名よね。現代でも二次元コンプレックスといって、アニメやゲームの登場人物に惚れこんでしまう人たちがいるじゃない。まあ周りがどうあれ、自分の心の中で愛情を傾ける限り、それが実在する人物かどうかは関係ないことなのかもしれないわね。これから私が罠すのは、そんな自分の心の中の人に恋をしてしまった、ある少女のお話よ」


 不知火美鶴の席は教室の窓際で、彼女はこの席がお気に入りだった。
 とても見晴らしがよくて、グラウンドから校門まで見渡せた。
 不知火は合唱部に所属する2年生で、岩下が部長をしている演劇部と一緒にミュージカルを企画するイベントがあり、二人は仲良くなったとのこと。
 引っ込み思案の不知火は、活発に校庭を駆け回る男子生徒たちの動きを、よく羨望の眼差しで見つめていた。
 やがて、不知火は、ある特定の男子生徒に恋をした。
 名も知らないその相手は、子供っぽくて、いつもテンションが高くて、がむしゃらで、無駄な動きが多い、どこにでもいるような愛すべき男の子だった。
 どんな撞木でも彼が活躍した時のむじゃくな喜びようや、へとへとに疲れながらも最後までひたむきに全力を尽くす様子が心に引っかかっているうちに、いつの間にか意識するようになってしまった。
 ある日、不知火はこの気持ちが恋なのではないかと気が付いた。
 自覚すれば、もうその想いを無視することはできず、不知火の彼に対する思慕はどんどん加速していった。
 彼の仕草の一つ一つにときめいて、遠くから眺めているだけで、全身に幸福感が押し寄せてきて、退屈な授業が愛しい彼との逢瀬のひとときに変わった。
 彼を見ることができるのは、彼が体育の時間の時だけだったけれど、不知火にはそれで十分だった。
 彼がなんという名前で、どのクラスに在籍していた、どんな部に入っていて、どこに住んでいて、どんな女の子が好きで、決まった相手はいるのか。その気になれば簡単に調べることもできたのに、不知火はそれをしようとしなかった。
 不知火は一度だけ廊下で、その彼とすれ違ったことがあったが、不知火は顔を伏せて、足早に歩き去ってしまった。
 不知火は、目に映る風景の中に走り回る彼を愛したのであって、そこに自分が介入することなんて考えもしなかった。
 まるで教室の窓枠が大きな額縁で、彼はその絵の登場人物であるかのように。
 不知火は、彼の正体をしって幻滅したり、失恋したときの衝撃で自分の心が傷つくのが怖くて嫌だった。
 不知火は、自分の描いた世界の中だけで、彼と恋をしたかった。
 そんな不知火と彼との一方的な逢瀬の時は、ある日あっけなく終わりを迎えた。
 席替えのくじで廊下側の席を引き当ててしまった不知火は、彼の登場する風景を愛でる機会を、一瞬にして失ってしまった。


 不知火は、最初は授業中に教室で目を閉じて、脳裏に彼のいる風景を思い描いた。
 最初は思い通りの彼を描けずに困っていたが、次第に想像上の彼を自由に動かせるようになり、不知火は元の幸福感を取り戻すことができた。
 不知火は、自分でも気づかなかったみたいだが、エア充体質だった。
 才能が開花した観察力と想像力は、並大抵のものじゃなかった。
 目を閉じて意識を集中するだけで、風景の細部まではっきりと思い描くことができ、そこを舞台に動き回る彼の姿も、とても生き生きとしたものだった。
 それまで見たことのある光景を再生するだけでなく、不知火の中で新たな命を得た彼は、まるで生きているように動き回った。
 そして想像力が増していくと、ついには彼を取り巻くクラスメイトたちまで再現され、それぞれにふさわしい役割を演じていた。
 ただここまでくると、それはもう想像とは呼べず、不知火の作り出した妄想の世界。
 窓際で見つめていたころは、体育の時間だけという限りがあったから歯止めがきいていたが、彼の姿をいつまでも好きなだけ眺めていられるようになった不知火は、もう現実の世界に帰ってこられなくなった。
 授業中はもちろん休み時間まで不知火は妄想の世界に入り浸った。先生に注意されても、友達に呼ばれても、目を閉じて幸せそうに微笑んでいるだけ。
 それは家でも続き、すぐ自分の部屋にこもってしまうし、食事の手はしょっちゅう止まるし、何時間もお風呂に入ったまま出てこない。
 やがて不知火は、妄想ならリスクがないという打算かしら、それまで自分が登場していなかった世界に、ついに自分を登場させようかと考え始めた。
 そして、ついに不知火は、妄想の世界で告白してみようと決心した。


 実は、岩下は、不知火から何度も相談を受けていた。
 「すいません、岩下さん、またお呼びだけしてしまって」
 「いいのよ、気にしないで。私もあなたの話には巨にあるから。で、妄想世界の彼とはうまくいっているの?」
 「しれが、まだ本当に私が飛び込んでしまっていいものか悩んでいるんです」
 「この前は告白する決心がついたって言ってたのに、まだ出会ってもいないの?」
 「突然私なんかが彼の前に現れたら迷惑するんじゃないかと思って」
 「そんなことないわ。彼はきっとあなたのことを受け入れてくれる。それで彼の名前くらいはかわったんでしょうね?」
 「いえ、まだ聞き出せなくて」
 「呆れたわね。彼は仲の良い友達と伊一緒なんでしょ?彼らは何て呼んでいるの?」
 「・・・」
 「ニックネームもないの?」
 「はい、友ダリはいつも、ようとかお前とかそんな呼び方ばかりなので」
 「困ったものね。それだったらもう、あなたが出ていくしかないじゃない。一歩踏み出すのも大事じゃなくて?そのためにはあなたが必要よ。そして告白しちゃいなさい」
 「告白して断られたら、私、もう生きていけない。ううっ・・・」
 「泣かないで、不知火さん。私も考えるから。そうね、現実の世界に合わせればいいんじゃない?体育の授業はいつなのかはわかっているんでしょう?その授業の時に彼はグラウンドんじいるんだから、玄逸の彼とあなたの想いをシンクロさせるのよ。そして、そこであなたは彼と出会うの。今、彼が何をしているのか現実と妄想がシンクロすれば、あなた自身も妄想の世界に登場しやすいんかないかしら?」
 「現実の世界とのシンクロ。ありがとうございました、岩下さん。私、やってみます」
 「頑張って告白しなさい。必ず、あなたにとっていい返事が聞けるから」


 決心がついてから、一日千秋の思いで待ちわびていた体育の時間がやっと訪れた。
 もちろん窓から遠くなった不知火の目には見えないのだけど、彼女はいつものように目を瞑り、彼が生き生きと活躍する様を思い描いた。


 「ねぇ、不知火さんはどんな形で彼に想いを伝えたと思う?」
  • 近づいて話しかけた
  • 窓を開けて好きだと叫んだ
  • わからない
 「悩んでも仕方ないわ、どうせ私の想像の世界なんだし」
 不知火は妄想の世界で立ち上がって窓を開け、ありったけの勇気を振り絞って、グラウンドの彼に叫んだ。
 「好き!あなたが好きです!」
 告白した後我に返って、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして、不知火はサッと窓を閉めた。
 妄想世界の彼は、突然響き渡った大声の告白に反応して、不思議そうに辺りを見回した。
 でも彼はその時、取り逃したボールが校門の外に転がり出て、それを取りに行ったところだった。
 すると窓の外から、耳をつんざくような車のブレーキと、それに続いて派手な衝突音が響いてきた。窓ガラス越しに、グラウンドの生徒たちのざわめきと、悲鳴が聞こえてきた。
 不知火はちょうど想像の世界から、現実に戻ろうとしていたところだったから、その音が現実と空想のどちらから聞こえてきたのか瞬時にはわからなかった。
 でも、教室内の喧騒に気付いて顔をあげると、窓際の生徒が悲鳴をあげながら立ち上がり、あとずさっているのが目に映った。
 植野先生が、「見るんじゃない!」と青い顔で叫んでいた。
 でも、不知火は、先生の制止を振り切って猛然と窓に飛びついて、予想通りの不吉な光景を目の当たりにした。
 ボールを取るために校門を出て、大型トラックに轢かれてしまった彼の姿を・・・
 それは現実世界の出来事だった。
 彼の級友は、警察の取り調べに対してこう語っていたそうだ。
 「アイツ、いきなり車道で止まってキョロキョロと辺りを見回してたんですよ。何かを探しているというよりは、誰かに呼ばれたみたいに・・・」
 「でも、誰も呼んでなんていなかったんですよ。僕たちは、そんな声は聞こえませんでしたから」


 「体育の時間中、ボールに気を取られて交通事故に遭った程度では、うちの学校じゃ記憶にも残らないわね。一人の男子生徒の死は、すぐにみんなの記憶からも消えてしまった。それにしても、我を忘れて立ち止まってしまうほど、不知火さんの声は大きく響き渡ったのかしら。でも不思議なことに、彼女の声は誰も聞いていないのよ。おそらくは、死んだ涸れにだけ聞こえたんでしょうね。でもね、それほど強い想いがあったのなら、現実の世界で打ち明ければよかったのよ。そうすれば、彼も死なずに済んだでしょうにね。どことで、不知火さんなんだけど、私、相談を持ち掛けられているの。今、また気になる人が現れたんですって。今度は、今年鳴神学園に入学した1年生だっていうのよ。おとなしくて真面目そうなところが、死んだ彼とは真逆で一目惚れしてしまったんですって。相談されても、今度は殺してしまう前に告白しなさいって忠告するつもりよ。だから安心して、ふふふふ」


 エンディング№310:彼を呼ぶ声


 エンディング数 20/656 達成度3%


 キャラクター図鑑 34/112 30%
 中村晃久
 赤川哲也
 袖山勝
 植野祐樹
 不知火美鶴
 
 

拍手[0回]


 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る


 七不思議を聞く当日、日野先輩は、忙しいらしく来られなくなってしまい、坂上一人で仕切ることになってしまった。
 集められた7人が誰なのか知らない坂上。この鳴神学園は1学年が500名いるマンモス校のため、入学しから卒業するまで一度も顔を合わせたことがない生徒がいるくらいだ。
 緊張感と今朝からの気だるさとどんより曇った天気で、気分が悪い坂上は、空気を吸おうと窓から身を乗り出す。


 新聞部の部室の扉を開けると、すでに6人が待っていたが、坂上が知っている顔はひとつもない。
 坂上は会釈すると空いている席に座るが、7人目が来ていないことに気付く。
 「あなたが7人目ですか」と隣に座った男から声を掛けられる。
 思わず立ち上がった坂上は「あ、違います。僕は新聞部の坂上修一といいます。本日は、皆さんお忙しい中お集まりいただき本当にありがごうざいました」とあいさつをし、一礼して座り直した。
 メンバーは男性4名、女性2名で、それぞれが初対面なのか会話がない。
 「いつまでこうしてればいいんだ?」と、坂上の正面に座っている、ポケットに手を突っ込んだ不良っぽい男子生徒が、坂上をにらみつける。
 「こうしていつまで顔を突き合わせていてもしょうがありませんし、あと一人もいつ来るかわからないですし、もしよければ話を始めませんか?」と、ふくよかな体格の男が人懐っこさそうな柔らかな笑顔を浮かべながら言った。
 坂上が「彼の言う通りです。皆さんさえよろしければ、そろそろ話を始めたいのですが」と切り出すと、さっきの不良っぽい男が「俺は構わないぜ」と言い、残りのみんなもうなずいた。
 「そうね、これ以上待たされるのも嫌だし、悪いのは約束の時間を守れないほうね。始めてちょうだい」
 「うんうん、私、早くしゃべりたいし、みんなの話も聞きたい」
 「レディのお二人がそう言っているんだ。気を利かしてさっさと始めたまえよ」
 「あ、はい、それでは早速始めさせて頂きます」


 1人目は福沢玲子を選択。
 福沢は1年G組の生徒だ。


 「突然だけど坂上君って、宗教は入っている?」
  • 親と一緒
  • あまり人には言いたくない
  • 無神論者
 
 シナリオ:恋愛教


 「ふ~ん、じゃあ坂上君は子供の頃から、宗教を身近に感じていたんだね。うちは無宗教だったから、そういう感じってよくわかんないけどさ。宗教に限らないけど、一言でグループ活動っていっても、ピンからキリまであるよね。その中で、私が一番怖いのは、中で何をやっているのかわからない、不気味なグループかなあ。私がこれからするのは、そんな奇妙で不気味なグループ活動の話だよ」


 1年ほど前の話だが、あるクラスに中山真美華という女子生徒がいた。
 彼女は見事なまでに平凡は女の子だった。
 中山は普通の友達に囲まれて、別に不満のない毎日を過ごしていたんだけど、一つだけこうだったらいいなって考えていたことがあった。
 それは、彼氏が欲しい、ってことだった。
 恋愛って自分ひとりでどうにかなるものでもない。相手がいて、初めて成り立つものだから、自分から行動を起こさないと。
 でも、中山は、表面上そんな素振りは少しも見せなかった。友達が恋バナをしてる時も、中山は一人いつも飄々とした態度をしていた。


 ある日の休み時間、中山はいつものように、仲のいい友人の加瀬ひなたと菊崎あきなとお喋りしながら適当に時間を過ごしていた。
 加瀬「知ってる?うちの学校って怪談の宝庫なんよ」
 菊崎「へぇ、学校の七不思議とか、そういうやつ?」
 中山「やだなあ、私、ホラーとか苦手なの」


 そういえば坂上君って、ホラー好き?
  • 好き→①中山さんが心配だった→以下に分岐
    •              ↓
  1. 契約しない→エンディング№128:恋愛教 ←契約しない
  2. 契約する→恋人がほしい→エンディング№127:二人で分け合う
  3. 契約する→中山真美華を殺してほしい→エンディング№128:恋愛教 ←契約する
        ↓
  1. 逃げた→エンディング№129:旧校舎で死んだ二人
  2. 悲鳴の聞こえた階を見に行った→エンディング№130:本田さんの呪い
  • どちらでもない
 福沢と同じクラスに元木早苗という子がいるが、本当に変なのだ。
 例えば、調理実習のとき包丁を持たせると、ニタニタ笑いながら、「これで目を突き刺したら怖いよね」なんてつぶやく。
 さらに、包丁の先を自分の方に向けて、少しずつ自分の顔に包丁の先を近づけ、、切っ先が目の前までくると、大きなため息をついて「あー、怖かった」とか言うのだ。
 そうかと思うと、包丁でちょっと指を切ると、「痛ぁい、痛ぁい」とわんわん大声で泣き出す。
 あと、お弁当を食べるとき、いつも食べる前に10分以上小さな声でブツブツとお祈りをして、何度も何度もお弁当箱にお辞儀して、ようやく食べ始める。
 食べるのもものすごく遅くて、お昼休みめいっぱいつかって、ご飯を食べる。
 そして、食べ終わるとまたお弁当にお辞儀して、ブツブツお祈りを始める。
 でも、頭が悪いってわけじゃない。いつも試験とかで上位に食い込んでいる。
 それに結構かわいい。誰にでも好かれる顔だ。
 元木は変だけど、おもしろい。
 この前、いきなり教室の中で天井を見ながら、くるくる回りだしてた。
 「くらくらして目が回るの。だから反対のほうに回ってるの。そうすれば治るんだよ」


 この前、体育のあった日、元木は気分が悪いと言って、保健室に行った。
 福沢は授業のボレーボールで突き指をしたので、保健室へ行った。
 保健室には先生はおらず、元木が一人で寝ていたが、頭まで毛布をかぶってガタガタと震えていた。
 声をかけちゃいけない雰囲気だった。
  • 声を掛けてみる→→逃げる→エンディング№132:瞳の中の訪問者参照
  • このままそっとしておく
  • 先生を呼びに行く→駆け寄る→以下に分岐
             ↓
  1. 信じる→エンディング№133:早苗ちゃんと付き合いたい
  2. 信じない→エンディング№134:早苗ちゃんの占い
  3. 何とも言えない→エンディング№135:早苗ちゃんがやって来る
 福沢がしばらく元木の様子をうかがっていると、元木は震えているのではなく、毛布の中で何かモゾモゾやっている感じだった。
 福沢は、何か見てはいけないものを見たような気がして、隠れた。
 すると元木は、ムクっと起きて、青い顔をしながら保健室から出て行った。
 福沢は元木がベッドで何をしていたのかが気になり、ベッドを調べた。
 枕カバーの中から小さな紙切れが出てきた。元木は、これを入れるためにモゾモゾしていたのだった。
 その紙切れには、一言「ケツ」と書かれていた。
  • 「決める」って言葉を隠すなんて
  • 「お尻」のことでしょ
  • そんな名前のアイドルいた? 
 確かそんな名前のアイドルがいたような、と思いながら福沢は痛む突き指を冷やそうと手洗い場へ向かった。
 途中の廊下で、化学室から何やら怪しい音が聞こえてきた。
 その時間、化学室では授業はしていなかったのに、カツン、コツンという音がする。
 福沢は、元木が化学室の激矢を持っていこうと薬品棚を見ているのかも、と思い、そっと覗いてみた。
 化学室には元木がおり、なんだかわからない粉末の入ったビンを棚から出して、ビンに中指を入れ、指についた粉を舐め、フラフラと化学室を出てどこかへ行ってしまった。
 福沢は、元木が舐めた薬品を探すと、それらしきものはすぐに見つかった。
 ビンの中には、茶色の粉末が入っていたが、ラベルは貼っていなかった。
  • ビンの中身を舐める
  • ビンを先生の所に持っていく
 何の薬が分からないので、保健の先生に話をしに行った。
 保健室に戻ると、先生はまだおらず、元木がベッドで寝ていた。
 元木は福沢に気付くと、寝転がったまま嬉しそうに「玲子ちゃん」と声を掛けてきた。
 「玲子ちゃん、何でそのビンを持ってるの?」
 「早苗ちゃん、化学室に忘れ物したでしょ?」
 「あはは、見つかっちゃったか。それ、ココアなんだけど。今度玲子ちゃんも飲んでいいよ。また化学室に隠しといてね」
 元木は具合が悪くて疲れたから、甘い物が欲しくなり、化学室に隠してあるココアに粉末を舐めに行っていたのだ。
 安心した福沢が元木に近寄ると、ベッドがぎしぎしと動き、まるでベッドに返事されみたいだった。
 元木がいきなり飛び起きて、同時にベッドがギイギイ激しく軋んだ。
 福沢が悲鳴を上げると、「玲子ちゃん、落ち着いて、この子は悪い子じゃないのよ」と元木が言った。
 混乱した福沢は、ギシギシ軋むベッドに、手あたり次第ノートとかプリント紙を投げつけた。
 「玲子ちゃん、乱暴はやめてよ。このベッドは生きてるの。私が血の儀式をして、魂を吹き込んであげたんだから」
 「何言ってるの?」
 「あのね、今日具合が悪くてここで寝てたらね。ベッドが話しかけてきたの」
 「あなたどうかしてる。ベッドは話しかけてこないわ」
 「違うの、えっとね、話しかけてきたっていうか、感じたの。ベッドが生きて動きたがっているなって。それで私、どうしたらベッドに命を吹き込むかなって考えたら、わかったのよ。『ケツ』って書いた紙をベッドに入れておくの。『ケツ』って『血』って意味だよ。何でそうすればいいって思ったのかわからないけど、きっと私の中に棲んでいるご先祖様が教えてくれたの。玲子ちゃん、このベッドはね、具合の悪い人を快適に眠らせるために、命が欲しいって思ったんだって。冬は暖かく包み込んであげて、夏には布団の位置をずらしたりして、ひんやりと涼しくしてあげたいって。だから、協力してあげたの」
 何でベッドが人間に尽くしたいなんて思うわけ?と福沢が思っていると、突き指したところが痛み出した。
 福沢が黙り込むと、元木はまたベッドで横になった。するとベッドは嬉しそうにぎしぎし軋んだ。
 あなただったら、こんな時どうする?
  • 早苗ちゃんを起こす→以下に分岐
    •            ↓
  1. はく→エンディング№136:スカートをひるがえして
  2. はかない→エンディング№137:学校であったエロい話

 「早苗ちゃんがおかしいって重々承知で理解しているよ。でもな、ベッドが生きてるって話のどこをどう信じろっていうの?」
 元木は寂しそうな顔で、「この子は本当にいい子なんだよ。一緒に寝てみない」と言った。
 「えっ?」
 「だって玲子ちゃん、信じてくれないんだもん。今日はさ、結構暑いでしょ。こういう時、このベッドはとっても涼しくなるんだよ。さあ、おいで、おいで」
 元木の体温で温まったベッドに福沢が入ると、嘘みたいに冷たい。
 「この子はね、こうやって寝る人の気持ちや周りの環境を考えて、温かくしたり涼しくしたりしてくれてるの。いい子でしょ、このベッド。そうだ、名前をつけてあげなくちゃ」
 ベッドも名前を付けてもらえるのが嬉しいのか、一層激しく揺れ動いた。


 「葛城先生が戻ってきて、私たちがベッドで楽しそうにしているのを見られちゃったの。しかも、ものすごく激しくベッドが揺れる中で。先生、顔を真っ赤にして恥ずかしがっていたけど、私たちが服を着ているのに少し安心したみたいで。やっぱり勘違いされちゃったよね


 エンディング数 19/656 2%
 エンディング№139:二人でイチャイチャ


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 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る


 七不思議を聞く当日、日野先輩は、忙しいらしく来られなくなってしまい、坂上一人で仕切ることになってしまった。
 集められた7人が誰なのか知らない坂上。この鳴神学園は1学年が500名いるマンモス校のため、入学しから卒業するまで一度も顔を合わせたことがない生徒がいるくらいだ。
 緊張感と今朝からの気だるさとどんより曇った天気で、気分が悪い坂上は、空気を吸おうと窓から身を乗り出す。


 新聞部の部室の扉を開けると、すでに6人が待っていたが、坂上が知っている顔はひとつもない。
 坂上は会釈すると空いている席に座るが、7人目が来ていないことに気付く。
 「あなたが7人目ですか」と隣に座った男から声を掛けられる。
 思わず立ち上がった坂上は「あ、違います。僕は新聞部の坂上修一といいます。本日は、皆さんお忙しい中お集まりいただき本当にありがごうざいました」とあいさつをし、一礼して座り直した。
 メンバーは男性4名、女性2名で、それぞれが初対面なのか会話がない。
 「いつまでこうしてればいいんだ?」と、坂上の正面に座っている、ポケットに手を突っ込んだ不良っぽい男子生徒が、坂上をにらみつける。
 「こうしていつまで顔を突き合わせていてもしょうがありませんし、あと一人もいつ来るかわからないですし、もしよければ話を始めませんか?」と、ふくよかな体格の男が人懐っこさそうな柔らかな笑顔を浮かべながら言った。
 坂上が「彼の言う通りです。皆さんさえよろしければ、そろそろ話を始めたいのですが」と切り出すと、さっきの不良っぽい男が「俺は構わないぜ」と言い、残りのみんなもうなずいた。
 「そうね、これ以上待たされるのも嫌だし、悪いのは約束の時間を守れないほうね。始めてちょうだい」
 「うんうん、私、早くしゃべりたいし、みんなの話も聞きたい」
 「レディのお二人がそう言っているんだ。気を利かしてさっさと始めたまえよ」
 「あ、はい、それでは早速始めさせて頂きます」


 1人目は福沢玲子を選択。
 福沢は1年G組の生徒だ。


 「突然だけど坂上君って、宗教は入っている?」
  • 親と一緒
  • あまり人には言いたくない
  • 無神論者
 
 シナリオ:恋愛教


 「ふ~ん、じゃあ坂上君は子供の頃から、宗教を身近に感じていたんだね。うちは無宗教だったから、そういう感じってよくわかんないけどさ。宗教に限らないけど、一言でグループ活動っていっても、ピンからキリまであるよね。その中で、私が一番怖いのは、中で何をやっているのかわからない、不気味なグループかなあ。私がこれからするのは、そんな奇妙で不気味なグループ活動の話だよ」


 1年ほど前の話だが、あるクラスに中山真美華という女子生徒がいた。
 彼女は見事なまでに平凡は女の子だった。
 中山は普通の友達に囲まれて、別に不満のない毎日を過ごしていたんだけど、一つだけこうだったらいいなって考えていたことがあった。
 それは、彼氏が欲しい、ってことだった。
 恋愛って自分ひとりでどうにかなるものでもない。相手がいて、初めて成り立つものだから、自分から行動を起こさないと。
 でも、中山は、表面上そんな素振りは少しも見せなかった。友達が恋バナをしてる時も、中山は一人いつも飄々とした態度をしていた。


 ある日の休み時間、中山はいつものように、仲のいい友人の加瀬ひなたと菊崎あきなとお喋りしながら適当に時間を過ごしていた。
 加瀬「知ってる?うちの学校って怪談の宝庫なんよ」
 菊崎「へぇ、学校の七不思議とか、そういうやつ?」
 中山「やだなあ、私、ホラーとか苦手なの」


 そういえば坂上君って、ホラー好き?
  • 好き→①中山さんが心配だった→以下に分岐
    •              ↓
  1. 契約しない→エンディング№128:恋愛教 ←契約しない
  2. 契約する→恋人がほしい→エンディング№127:二人で分け合う
  3. 契約する→中山真美華を殺してほしい→エンディング№128:恋愛教 ←契約する
        ↓
  1. 逃げた→エンディング№129:旧校舎で死んだ二人
  2. 悲鳴の聞こえた階を見に行った→エンディング№130:本田さんの呪い
  • どちらでもない
 福沢と同じクラスに元木早苗という子がいるが、本当に変なのだ。
 例えば、調理実習のとき包丁を持たせると、ニタニタ笑いながら、「これで目を突き刺したら怖いよね」なんてつぶやく。
 さらに、包丁の先を自分の方に向けて、少しずつ自分の顔に包丁の先を近づけ、、切っ先が目の前までくると、大きなため息をついて「あー、怖かった」とか言うのだ。
 そうかと思うと、包丁でちょっと指を切ると、「痛ぁい、痛ぁい」とわんわん大声で泣き出す。
 あと、お弁当を食べるとき、いつも食べる前に10分以上小さな声でブツブツとお祈りをして、何度も何度もお弁当箱にお辞儀して、ようやく食べ始める。
 食べるのもものすごく遅くて、お昼休みめいっぱいつかって、ご飯を食べる。
 そして、食べ終わるとまたお弁当にお辞儀して、ブツブツお祈りを始める。
 でも、頭が悪いってわけじゃない。いつも試験とかで上位に食い込んでいる。
 それに結構かわいい。誰にでも好かれる顔だ。
 元木は変だけど、おもしろい。
 この前、いきなり教室の中で天井を見ながら、くるくる回りだしてた。
 「くらくらして目が回るの。だから反対のほうに回ってるの。そうすれば治るんだよ」


 この前、体育のあった日、元木は気分が悪いと言って、保健室に行った。
 福沢は授業のボレーボールで突き指をしたので、保健室へ行った。
 保健室には先生はおらず、元木が一人で寝ていたが、頭まで毛布をかぶってガタガタと震えていた。
 声をかけちゃいけない雰囲気だった。
  • 声を掛けてみる→→逃げる→エンディング№132:瞳の中の訪問者参照
  • このままそっとしておく
  • 先生を呼びに行く→駆け寄る→以下に分岐
             ↓
  1. 信じる→エンディング№133:早苗ちゃんと付き合いたい
  2. 信じない→エンディング№134:早苗ちゃんの占い
  3. 何とも言えない→エンディング№135:早苗ちゃんがやって来る
 福沢がしばらく元木の様子をうかがっていると、元木は震えているのではなく、毛布の中で何かモゾモゾやっている感じだった。
 福沢は、何か見てはいけないものを見たような気がして、隠れた。
 すると元木は、ムクっと起きて、青い顔をしながら保健室から出て行った。
 福沢は元木がベッドで何をしていたのかが気になり、ベッドを調べた。
 枕カバーの中から小さな紙切れが出てきた。元木は、これを入れるためにモゾモゾしていたのだった。
 その紙切れには、一言「ケツ」と書かれていた。
  • 「決める」って言葉を隠すなんて
  • 「お尻」のことでしょ
  • そんな名前のアイドルいた? 
 「お尻」なんて言葉を枕カバーに入れてどうすのだろう?
 でも元木がすごく青い顔をしていから、福沢は心配になって探しにいった。
 いろいろと見て回ったが、元木はいない。
 どうしようかと廊下をうろうろしていたら、化学室から何やら怪しい音が聞こえてきた。
 その時間、化学室では授業はしていなかったのに、カツン、コツンという音がする。
 福沢は、元木が化学室の激矢を持っていこうと薬品棚を見ているのかも、と思い、そっと覗いてみた。
 化学室には元木がおり、なんだかわからない粉末の入ったビンを棚から出して、ビンに中指を入れ、指についた粉を舐め、フラフラと化学室を出てどこかへ行ってしまった。
 福沢は、元木が舐めた薬品を探すと、それらしきものはすぐに見つかった。
 ビンの中には、茶色の粉末が入っていたが、ラベルは貼っていなかった。
  • ビンの中身を舐める
  • ビンを先生の所に持っていく
 福沢は、元木が舐めても倒れなかったから、舐めても死なないだろうと思い、舐めてみた。
 それはココアの粉だった。
 元木は化学室にココアを隠して、先生の目を盗んでお湯を沸かし、ビーカーか何かで飲んでいるのだろう。
 福沢は、元木は具合が悪くて疲れたから、甘いものが欲しくてココアを舐めに来たのだろうと思い、保健室に戻った。
 保健室に戻ると、元木はベッドで寝ていた。
 福沢が声を掛けると、ベッドがぎしぎしと動き、まるでベッドに返事されみたいだった。
 元木がいきなり飛び起きて、同時にベッドがギイギイ激しく軋んだ。
 福沢が悲鳴を上げると、「玲子ちゃん、落ち着いて、この子は悪い子じゃないのよ」と元木が言った。
 混乱した福沢は、ギシギシ軋むベッドに、手あたり次第ノートとかプリント紙を投げつけた。
 「玲子ちゃん、乱暴はやめてよ。このベッドは生きてるの。私が血の儀式をして、魂を吹き込んであげたんだから」
 「何言ってるの?」
 「あのね、今日具合が悪くてここで寝てたらね。ベッドが話しかけてきたの」
 「あなたどうかしてる。ベッドは話しかけてこないわ」
 「違うの、えっとね、話しかけてきたっていうか、感じたの。ベッドが生きて動きたがっているなって。それで私、どうしたらベッドに命を吹き込むかなって考えたら、わかったのよ。『ケツ』って書いた紙をベッドに入れておくの。『ケツ』って『血』って意味だよ。何でそうすればいいって思ったのかわからないけど、きっと私の中に棲んでいるご先祖様が教えてくれたの。玲子ちゃん、このベッドはね、具合の悪い人を快適に眠らせるために、命が欲しいって思ったんだって。冬は暖かく包み込んであげて、夏には布団の位置をずらしたりして、ひんやりと涼しくしてあげたいって。だから、協力してあげたの」
 何でベッドが人間に尽くしたいなんて思うわけ?と福沢が思っていると、突き指したところが痛み出した。
 福沢が黙り込むと、元木はまたベッドで横になった。するとベッドは嬉しそうにぎしぎし軋んだ。
 あなただったら、こんな時どうする?
  • 早苗ちゃんを起こす→以下に分岐
    •            ↓
  1. はく→エンディング№136:スカートをひるがえして
  2. はかない→エンディング№137:学校であったエロい話

  • 立ち去る
  • そんなの信じられない
 なんか変な気もするけど、「早苗ちゃんがいいなら、ままいいかな」と福沢は思い、突き指の手当をして、体育の授業に戻った。
 元木は、次の授業で元気な顔で戻って来た。


 「早苗ちゃんにとってのベッドはいい子かもしれないけど、ベッドにとって気に入らない人とかが来たらどうするのかな。具合の悪い時に、もしベッドの機嫌が悪くて襲われても抵抗できないよねえ」


 エンディング数 18/656 2%
 エンディング№138:よい子のベッド


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 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る


 七不思議を聞く当日、日野先輩は、忙しいらしく来られなくなってしまい、坂上一人で仕切ることになってしまった。
 集められた7人が誰なのか知らない坂上。この鳴神学園は1学年が500名いるマンモス校のため、入学しから卒業するまで一度も顔を合わせたことがない生徒がいるくらいだ。
 緊張感と今朝からの気だるさとどんより曇った天気で、気分が悪い坂上は、空気を吸おうと窓から身を乗り出す。


 新聞部の部室の扉を開けると、すでに6人が待っていたが、坂上が知っている顔はひとつもない。
 坂上は会釈すると空いている席に座るが、7人目が来ていないことに気付く。
 「あなたが7人目ですか」と隣に座った男から声を掛けられる。
 思わず立ち上がった坂上は「あ、違います。僕は新聞部の坂上修一といいます。本日は、皆さんお忙しい中お集まりいただき本当にありがごうざいました」とあいさつをし、一礼して座り直した。
 メンバーは男性4名、女性2名で、それぞれが初対面なのか会話がない。
 「いつまでこうしてればいいんだ?」と、坂上の正面に座っている、ポケットに手を突っ込んだ不良っぽい男子生徒が、坂上をにらみつける。
 「こうしていつまで顔を突き合わせていてもしょうがありませんし、あと一人もいつ来るかわからないですし、もしよければ話を始めませんか?」と、ふくよかな体格の男が人懐っこさそうな柔らかな笑顔を浮かべながら言った。
 坂上が「彼の言う通りです。皆さんさえよろしければ、そろそろ話を始めたいのですが」と切り出すと、さっきの不良っぽい男が「俺は構わないぜ」と言い、残りのみんなもうなずいた。
 「そうね、これ以上待たされるのも嫌だし、悪いのは約束の時間を守れないほうね。始めてちょうだい」
 「うんうん、私、早くしゃべりたいし、みんなの話も聞きたい」
 「レディのお二人がそう言っているんだ。気を利かしてさっさと始めたまえよ」
 「あ、はい、それでは早速始めさせて頂きます」


 1人目は福沢玲子を選択。
 福沢は1年G組の生徒だ。


 「突然だけど坂上君って、宗教は入っている?」
  • 親と一緒
  • あまり人には言いたくない
  • 無神論者
 
 シナリオ:恋愛教


 「ふ~ん、じゃあ坂上君は子供の頃から、宗教を身近に感じていたんだね。うちは無宗教だったから、そういう感じってよくわかんないけどさ。宗教に限らないけど、一言でグループ活動っていっても、ピンからキリまであるよね。その中で、私が一番怖いのは、中で何をやっているのかわからない、不気味なグループかなあ。私がこれからするのは、そんな奇妙で不気味なグループ活動の話だよ」


 1年ほど前の話だが、あるクラスに中山真美華という女子生徒がいた。
 彼女は見事なまでに平凡は女の子だった。
 中山は普通の友達に囲まれて、別に不満のない毎日を過ごしていたんだけど、一つだけこうだったらいいなって考えていたことがあった。
 それは、彼氏が欲しい、ってことだった。
 恋愛って自分ひとりでどうにかなるものでもない。相手がいて、初めて成り立つものだから、自分から行動を起こさないと。
 でも、中山は、表面上そんな素振りは少しも見せなかった。友達が恋バナをしてる時も、中山は一人いつも飄々とした態度をしていた。


 ある日の休み時間、中山はいつものように、仲のいい友人の加瀬ひなたと菊崎あきなとお喋りしながら適当に時間を過ごしていた。
 加瀬「知ってる?うちの学校って怪談の宝庫なんよ」
 菊崎「へぇ、学校の七不思議とか、そういうやつ?」
 中山「やだなあ、私、ホラーとか苦手なの」


 そういえば坂上君って、ホラー好き?
  • 好き→①中山さんが心配だった→以下に分岐
    •              ↓
  1. 契約しない→エンディング№128:恋愛教 ←契約しない
  2. 契約する→恋人がほしい→エンディング№127:二人で分け合う
  3. 契約する→中山真美華を殺してほしい→エンディング№128:恋愛教 ←契約する
        ↓
  1. 逃げた→エンディング№129:旧校舎で死んだ二人
  2. 悲鳴の聞こえた階を見に行った→エンディング№130:本田さんの呪い
  • どちらでもない
 福沢と同じクラスに元木早苗という子がいるが、本当に変なのだ。
 例えば、調理実習のとき包丁を持たせると、ニタニタ笑いながら、「これで目を突き刺したら怖いよね」なんてつぶやく。
 さらに、包丁の先を自分の方に向けて、少しずつ自分の顔に包丁の先を近づけ、、切っ先が目の前までくると、大きなため息をついて「あー、怖かった」とか言うのだ。
 そうかと思うと、包丁でちょっと指を切ると、「痛ぁい、痛ぁい」とわんわん大声で泣き出す。
 あと、お弁当を食べるとき、いつも食べる前に10分以上小さな声でブツブツとお祈りをして、何度も何度もお弁当箱にお辞儀して、ようやく食べ始める。
 食べるのもものすごく遅くて、お昼休みめいっぱいつかって、ご飯を食べる。
 そして、食べ終わるとまたお弁当にお辞儀して、ブツブツお祈りを始める。
 でも、頭が悪いってわけじゃない。いつも試験とかで上位に食い込んでいる。
 それに結構かわいい。誰にでも好かれる顔だ。
 元木は変だけど、おもしろい。
 この前、いきなり教室の中で天井を見ながら、くるくる回りだしてた。
 「くらくらして目が回るの。だから反対のほうに回ってるの。そうすれば治るんだよ」


 この前、体育のあった日、元木は気分が悪いと言って、保健室に行った。
 福沢は授業のボレーボールで突き指をしたので、保健室へ行った。
 保健室には先生はおらず、元木が一人で寝ていたが、頭まで毛布をかぶってガタガタと震えていた。
 声をかけちゃいけない雰囲気だった。
  • 声を掛けてみる→→逃げる→エンディング№132:瞳の中の訪問者参照
  • このままそっとしておく
  • 先生を呼びに行く→駆け寄る→以下に分岐
             ↓
  1. 信じる→エンディング№133:早苗ちゃんと付き合いたい
  2. 信じない→エンディング№134:早苗ちゃんの占い
  3. 何とも言えない→エンディング№135:早苗ちゃんがやって来る
 福沢がしばらく元木の様子をうかがっていると、元木は震えているのではなく、毛布の中で何かモゾモゾやっている感じだった。
 福沢は、何か見てはいけないものを見たような気がして、隠れた。
 すると元木は、ムクっと起きて、青い顔をしながら保健室から出て行った。
 福沢は元木がベッドで何をしていたのかが気になり、ベッドを調べた。
 枕カバーの中から小さな紙切れが出てきた。元木は、これを入れるためにモゾモゾしていたのだった。
 その紙切れには、一言「ケツ」と書かれていた。
  • 「決める」って言葉を隠すなんて
  • 「お尻」のことでしょ
  • そんな名前のアイドルいた? 
 「決」って意味だと思った福沢は、元木がベッドに「決める」って文字を隠すなんて何か思いつめているのではないかと思い、元木を探しに行った。
 いろいろと見て回ったが、元木はいない。
 どうしようかと廊下をうろうろしていたら、化学室から何やら怪しい音が聞こえてきた。
 その時間、化学室では授業はしていなかったのに、カツン、コツンという音がする。
 福沢は、元木が化学室の激矢を持っていこうと薬品棚を見ているのかも、と思い、そっと覗いてみた。
 化学室には元木がおり、なんだかわからない粉末の入ったビンを棚から出して、ビンに中指を入れ、指についた粉を舐め、フラフラと化学室を出てどこかへ行ってしまった。
 福沢は、元木が舐めた薬品を探すと、それらしきものはすぐに見つかった。
 ビンの中には、茶色の粉末が入っていたが、ラベルは貼っていなかった。
  • ビンの中身を舐める
  • ビンを先生の所に持っていく
 福沢は、元木が舐めても倒れなかったから、舐めても死なないだろうと思い、舐めてみた。
 それはココアの粉だった。
 元木は化学室にココアを隠して、先生の目を盗んでお湯を沸かし、ビーカーか何かで飲んでいるのだろう。
 福沢は、元木は具合が悪くて疲れたから、甘いものが欲しくてココアを舐めに来たのだろうと思い、保健室に戻った。
 保健室に戻ると、元木はベッドで寝ていた。
 福沢が声を掛けると、ベッドがぎしぎしと動き、まるでベッドに返事されみたいだった。
 元木がいきなり飛び起きて、同時にベッドがギイギイ激しく軋んだ。
 福沢が悲鳴を上げると、「玲子ちゃん、落ち着いて、この子は悪い子じゃないのよ」と元木が言った。
 混乱した福沢は、ギシギシ軋むベッドに、手あたり次第ノートとかプリント紙を投げつけた。
 「玲子ちゃん、乱暴はやめてよ。このベッドは生きてるの。私が血の儀式をして、魂を吹き込んであげたんだから」
 「何言ってるの?」
 「あのね、今日具合が悪くてここで寝てたらね。ベッドが話しかけてきたの」
 「あなたどうかしてる。ベッドは話しかけてこないわ」
 「違うの、えっとね、話しかけてきたっていうか、感じたの。ベッドが生きて動きたがっているなって。それで私、どうしたらベッドに命を吹き込むかなって考えたら、わかったのよ。『ケツ』って書いた紙をベッドに入れておくの。『ケツ』って『血』って意味だよ。何でそうすればいいって思ったのかわからないけど、きっと私の中に棲んでいるご先祖様が教えてくれたの。玲子ちゃん、このベッドはね、具合の悪い人を快適に眠らせるために、命が欲しいって思ったんだって。冬は暖かく包み込んであげて、夏には布団の位置をずらしたりして、ひんやりと涼しくしてあげたいって。だから、協力してあげたの」
 何でベッドが人間に尽くしたいなんて思うわけ?と福沢が思っていると、突き指したところが痛み出した。
 福沢が黙り込むと、元木はまたベッドで横になった。するとベッドは嬉しそうにぎしぎし軋んだ。
 あなただったら、こんな時どうする?
  • 早苗ちゃんを起こす
  • 立ち去る
  • そんなの信じられない
 このベッドは何か変だと思った福沢は、元木が起こすことにしたが、ベッドは嫌がってものすごい音を立てて揺れ始めた。
 ラップ音もなりだし、元木はさすがに怖がって泣き出した。
 「早苗ちゃん、枕の中の紙切れを取って!だまされちゃダメ!そんなことしてたら、ベッドに食べられちゃうよ」
 ベッドは怒って、床が突き抜けんばかりに音を立てて揺れ、静かになった。
 元木が血の儀式の紙切れを外したのだ。
 そのあと保健の先生がきて、福沢は突き指の手当てをしてもらった。


 「ケツ」って紙は、元木がまた使おうとしたらまずいから、福沢が持っている。本当は捨てたいのだが、呪われたりしたら怖いとのこと。
 福沢が机の入れようとしたら、机がガタガタ揺れ出す、どうやらいろんなものに命を吹き込む力があるらしい。
 だから、福沢は血の儀式の紙をいつも持ち歩いている。
 スカートのポケットに入れているのだが、このスカートまで時々もぞも動く気がしているとのこと。
 「坂上君、このスカートはいてみない?それで、ちょっと聞かせてよ、おかしいかどうか」
 「からからないでくださいよ」とスカートのことを気にしながら返事する坂上。
 「そうだよね、スカ^トなんてはきたくないよね。ま、私のきのせいだと思う。あの紙は、早苗ちゃんが使わなきゃ効果がなさそうだし。でもこの紙、ほんどうにどうしようかな」
 福沢にドキメく坂上は、「さて、それでは次の学校であったエロい話・・・あわわわ!」と言い間違えてしまう。


 エンディング数 17/656 2%
 エンディング№137:学校であったエロい話


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 今日のアパシー鳴神学園七不思議はどうかな?


 倉田のシナリオ:カエルですか?ネズミですか?→エンディング№363~368を見る


 七不思議を聞く当日、日野先輩は、忙しいらしく来られなくなってしまい、坂上一人で仕切ることになってしまった。
 集められた7人が誰なのか知らない坂上。この鳴神学園は1学年が500名いるマンモス校のため、入学しから卒業するまで一度も顔を合わせたことがない生徒がいるくらいだ。
 緊張感と今朝からの気だるさとどんより曇った天気で、気分が悪い坂上は、空気を吸おうと窓から身を乗り出す。


 新聞部の部室の扉を開けると、すでに6人が待っていたが、坂上が知っている顔はひとつもない。
 坂上は会釈すると空いている席に座るが、7人目が来ていないことに気付く。
 「あなたが7人目ですか」と隣に座った男から声を掛けられる。
 思わず立ち上がった坂上は「あ、違います。僕は新聞部の坂上修一といいます。本日は、皆さんお忙しい中お集まりいただき本当にありがごうざいました」とあいさつをし、一礼して座り直した。
 メンバーは男性4名、女性2名で、それぞれが初対面なのか会話がない。
 「いつまでこうしてればいいんだ?」と、坂上の正面に座っている、ポケットに手を突っ込んだ不良っぽい男子生徒が、坂上をにらみつける。
 「こうしていつまで顔を突き合わせていてもしょうがありませんし、あと一人もいつ来るかわからないですし、もしよければ話を始めませんか?」と、ふくよかな体格の男が人懐っこさそうな柔らかな笑顔を浮かべながら言った。
 坂上が「彼の言う通りです。皆さんさえよろしければ、そろそろ話を始めたいのですが」と切り出すと、さっきの不良っぽい男が「俺は構わないぜ」と言い、残りのみんなもうなずいた。
 「そうね、これ以上待たされるのも嫌だし、悪いのは約束の時間を守れないほうね。始めてちょうだい」
 「うんうん、私、早くしゃべりたいし、みんなの話も聞きたい」
 「レディのお二人がそう言っているんだ。気を利かしてさっさと始めたまえよ」
 「あ、はい、それでは早速始めさせて頂きます」


 1人目は福沢玲子を選択。
 福沢は1年G組の生徒だ。


 「突然だけど坂上君って、宗教は入っている?」
  • 親と一緒
  • あまり人には言いたくない
  • 無神論者
 
 シナリオ:恋愛教


 「ふ~ん、じゃあ坂上君は子供の頃から、宗教を身近に感じていたんだね。うちは無宗教だったから、そういう感じってよくわかんないけどさ。宗教に限らないけど、一言でグループ活動っていっても、ピンからキリまであるよね。その中で、私が一番怖いのは、中で何をやっているのかわからない、不気味なグループかなあ。私がこれからするのは、そんな奇妙で不気味なグループ活動の話だよ」


 1年ほど前の話だが、あるクラスに中山真美華という女子生徒がいた。
 彼女は見事なまでに平凡は女の子だった。
 中山は普通の友達に囲まれて、別に不満のない毎日を過ごしていたんだけど、一つだけこうだったらいいなって考えていたことがあった。
 それは、彼氏が欲しい、ってことだった。
 恋愛って自分ひとりでどうにかなるものでもない。相手がいて、初めて成り立つものだから、自分から行動を起こさないと。
 でも、中山は、表面上そんな素振りは少しも見せなかった。友達が恋バナをしてる時も、中山は一人いつも飄々とした態度をしていた。


 ある日の休み時間、中山はいつものように、仲のいい友人の加瀬ひなたと菊崎あきなとお喋りしながら適当に時間を過ごしていた。
 加瀬「知ってる?うちの学校って怪談の宝庫なんよ」
 菊崎「へぇ、学校の七不思議とか、そういうやつ?」
 中山「やだなあ、私、ホラーとか苦手なの」


 そういえば坂上君って、ホラー好き?
  • 好き→①中山さんが心配だった→以下に分岐
    •              ↓
  1. 契約しない→エンディング№128:恋愛教 ←契約しない
  2. 契約する→恋人がほしい→エンディング№127:二人で分け合う
  3. 契約する→中山真美華を殺してほしい→エンディング№128:恋愛教 ←契約する
        ↓
  1. 逃げた→エンディング№129:旧校舎で死んだ二人
  2. 悲鳴の聞こえた階を見に行った→エンディング№130:本田さんの呪い
  • どちらでもない
 福沢と同じクラスに元木早苗という子がいるが、本当に変なのだ。
 例えば、調理実習のとき包丁を持たせると、ニタニタ笑いながら、「これで目を突き刺したら怖いよね」なんてつぶやく。
 さらに、包丁の先を自分の方に向けて、少しずつ自分の顔に包丁の先を近づけ、、切っ先が目の前までくると、大きなため息をついて「あー、怖かった」とか言うのだ。
 そうかと思うと、包丁でちょっと指を切ると、「痛ぁい、痛ぁい」とわんわん大声で泣き出す。
 あと、お弁当を食べるとき、いつも食べる前に10分以上小さな声でブツブツとお祈りをして、何度も何度もお弁当箱にお辞儀して、ようやく食べ始める。
 食べるのもものすごく遅くて、お昼休みめいっぱいつかって、ご飯を食べる。
 そして、食べ終わるとまたお弁当にお辞儀して、ブツブツお祈りを始める。
 でも、頭が悪いってわけじゃない。いつも試験とかで上位に食い込んでいる。
 それに結構かわいい。誰にでも好かれる顔だ。
 元木は変だけど、おもしろい。
 この前、いきなり教室の中で天井を見ながら、くるくる回りだしてた。
 「くらくらして目が回るの。だから反対のほうに回ってるの。そうすれば治るんだよ」


 この前、体育のあった日、元木は気分が悪いと言って、保健室に行った。
 福沢は授業のボレーボールで突き指をしたので、保健室へ行った。
 保健室には先生はおらず、元木が一人で寝ていたが、頭まで毛布をかぶってガタガタと震えていた。
 声をかけちゃいけない雰囲気だった。
  • 声を掛けてみる→→逃げる→エンディング№132:瞳の中の訪問者参照
  • このままそっとしておく
  • 先生を呼びに行く→駆け寄る→以下に分岐
             ↓
  1. 信じる→エンディング№133:早苗ちゃんと付き合いたい
  2. 信じない→エンディング№134:早苗ちゃんの占い
  3. 何とも言えない→エンディング№135:早苗ちゃんがやって来る
 福沢がしばらく元木の様子をうかがっていると、元木は震えているのではなく、毛布の中で何かモゾモゾやっている感じだった。
 福沢は、何か見てはいけないものを見たような気がして、隠れた。
 すると元木は、ムクっと起きて、青い顔をしながら保健室から出て行った。
 福沢は元木がベッドで何をしていたのかが気になり、ベッドを調べた。
 枕カバーの中から小さな紙切れが出てきた。元木は、これを入れるためにモゾモゾしていたのだった。
 その紙切れには、一言「ケツ」と書かれていた。
  • 「決める」って言葉を隠すなんて
  • 「お尻」のことでしょ
  • そんな名前のアイドルいた? 
 「決」って意味だと思った福沢は、元木がベッドに「決める」って文字を隠すなんて何か思いつめているのではないかと思い、元木を探しに行った。
 いろいろと見て回ったが、元木はいない。
 どうしようかと廊下をうろうろしていたら、化学室から何やら怪しい音が聞こえてきた。
 その時間、化学室では授業はしていなかったのに、カツン、コツンという音がする。
 福沢は、元木が化学室の激矢を持っていこうと薬品棚を見ているのかも、と思い、そっと覗いてみた。
 化学室には元木がおり、なんだかわからない粉末の入ったビンを棚から出して、ビンに中指を入れ、指についた粉を舐め、フラフラと化学室を出てどこかへ行ってしまった。
 福沢は、元木が舐めた薬品を探すと、それらしきものはすぐに見つかった。
 ビンの中には、茶色の粉末が入っていたが、ラベルは貼っていなかった。
  • ビンの中身を舐める
  • ビンを先生の所に持っていく
 福沢は、元木が舐めても倒れなかったから、舐めても死なないだろうと思い、舐めてみた。
 それはココアの粉だった。
 元木は化学室にココアを隠して、先生の目を盗んでお湯を沸かし、ビーカーか何かで飲んでいるのだろう。
 福沢は、元木は具合が悪くて疲れたから、甘いものが欲しくてココアを舐めに来たのだろうと思い、保健室に戻った。
 保健室に戻ると、元木はベッドで寝ていた。
 福沢が声を掛けると、ベッドがぎしぎしと動き、まるでベッドに返事されみたいだった。
 元木がいきなり飛び起きて、同時にベッドがギイギイ激しく軋んだ。
 福沢が悲鳴を上げると、「玲子ちゃん、落ち着いて、この子は悪い子じゃないのよ」と元木が言った。
 混乱した福沢は、ギシギシ軋むベッドに、手あたり次第ノートとかプリント紙を投げつけた。
 「玲子ちゃん、乱暴はやめてよ。このベッドは生きてるの。私が血の儀式をして、魂を吹き込んであげたんだから」
 「何言ってるの?」
 「あのね、今日具合が悪くてここで寝てたらね。ベッドが話しかけてきたの」
 「あなたどうかしてる。ベッドは話しかけてこないわ」
 「違うの、えっとね、話しかけてきたっていうか、感じたの。ベッドが生きて動きたがっているなって。それで私、どうしたらベッドに命を吹き込むかなって考えたら、わかったのよ。『ケツ』って書いた紙をベッドに入れておくの。『ケツ』って『血』って意味だよ。何でそうすればいいって思ったのかわからないけど、きっと私の中に棲んでいるご先祖様が教えてくれたの。玲子ちゃん、このベッドはね、具合の悪い人を快適に眠らせるために、命が欲しいって思ったんだって。冬は暖かく包み込んであげて、夏には布団の位置をずらしたりして、ひんやりと涼しくしてあげたいって。だから、協力してあげたの」
 何でベッドが人間に尽くしたいなんて思うわけ?と福沢が思っていると、突き指したところが痛み出した。
 福沢が黙り込むと、元木はまたベッドで横になった。するとベッドは嬉しそうにぎしぎし軋んだ。
 あなただったら、こんな時どうする?
  • 早苗ちゃんを起こす
  • 立ち去る
  • そんなの信じられない
 このベッドは何か変だと思った福沢は、元木が起こすことにしたが、ベッドは嫌がってものすごい音を立てて揺れ始めた。
 ラップ音もなりだし、元木はさすがに怖がって泣き出した。
 「早苗ちゃん、枕の中の紙切れを取って!だまされちゃダメ!そんなことしてたら、ベッドに食べられちゃうよ」
 ベッドは怒って、床が突き抜けんばかりに音を立てて揺れ、静かになった。
 元木が血の儀式の紙切れを外したのだ。
 そのあと保健の先生がきて、福沢は突き指の手当てをしてもらった。


 「ケツ」って紙は、元木がまた使おうとしたらまずいから、福沢が持っている。本当は捨てたいのだが、呪われたりしたら怖いとのこと。
 福沢が机の入れようとしたら、机がガタガタ揺れ出す、どうやらいろんなものに命を吹き込む力があるらしい。
 だから、福沢は血の儀式の紙をいつも持ち歩いている。
 スカートのポケットに入れているのだが、このスカートまで時々もぞも動く気がしているとのこと。
 「坂上君、このスカートはいてみない?それで、ちょっと聞かせてよ、おかしいかどうか」
  • はく
  • はかない
 「ぜひ」と即答する坂上。
 その途端、みんなが一斉に軽蔑のまなざしを向けてきた。
 「あはは、冗談に決まってるでしょ」と福沢が笑い出した。
 坂上は照れ笑いで帰したが、周りを見ると誰も笑っていない。笑うどころか、怒っているようだ。
 坂上は、早く集会を進めるため、話を切り上げることにし、「福沢さんの話、ありがとうございました」と切り出すと、福沢のスカートがバサバサと揺れた。窓も閉め切っており、風はない。
 見るつもりはないのだけど、坂上の視線は福沢のスカートに行ってしまう。
 「坂上君、エッチ」
 「何も言い訳できません、目のやり場に困るので、そのスカートをどうにかしてください」と思う坂上だった。


 エンディング数 16/656 2%
 エンディング№136:スカートをひるがえして


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